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●『世界報道写真展2018』
に停泊していた大きな船がビルの屋上にあるという、どのような現代美術でも無理な眺めが東北の大震災で現実化した。その船は解体されたが写真は残っている。



●『世界報道写真展2018』_d0053294_23151657.jpgそれが現実を写したものであることは誰でも知っているが、同じ時代にネット社会が始まり、写真は簡単に合成出来るようになったことを知る後世の人は、その写真を嘘と思うか、あるいはさして驚かないかもしれない。一方では巨大地震の被害を少しでも早く忘れたいという現地の人たちの思いがあり、それでヤノベケンジの高さ6メートルの作品「サンチャイルド」の展示がけしからんという声も沸き起こる。先日そのことについて多少書いたが、同じ作品が大阪その他で展示された時は異論が出なかったのに、ついに念願の本場に据えられると、たちまち批判が殺到した。これは日本がとても広いことと、福島県だけは特別に孤立していることを示すだろう。首相が原発事故についてアンダー・コントロールと世界に向けて言ったからには、その被害はもう過去のものとして話題にしてはならないという暗黙の了解が福島の人たちにあると見える。一時期、子どもたちの甲状腺癌の増加が懸念されたが、今はそのことはほとんど聞かず、ネットで調べても問題はないという論文が出ている。となれば県外の人々はもう問題はないと思うべきなのだろうが、放射線に汚染された水を貯め込むタンクの数は今も増えていて、その置き場所に困るとたまにNHKのニュースで報じられる。原発事故の後、その影響が深刻な状態なのか、そうではないのか、なかなか判断に苦しむ。昼のワイドショー向きの事件が次々と起こって後ろめたいことをしている政治家にとっては喜ばしい状態が続いていて、またそういう日常の中で東北の大震災や福島の原発事故は少しずつ遠のき、もはやほとんどの人の意識に上らないような気がする。それは関西に住んでいればなおさらかもしれないが、東京ではどうなのだろう。さて、今年も『世界報道写真展』を見た。家内と一緒に12日に大阪に出て、地下街を通って去年と同じく会場となったハービスHALLに向かった。京都では衣笠の立命館平和ミュージアムで開催され、2年前までは毎年そこで見ていたが、同じ展示内容でもハービスHALLの方が見やすい。見る人は何倍も多いが、みな黙って熱心に見入っていて、その厳粛性がよい。だがいい気なもので、記憶に強く残るのは数点程度だ。図録を見れば記憶が蘇るが、筆者は買ったことがない。今年は日本からの出品は1点も受賞しなかったが、カメラマンの国籍を気にして見たことはない。それに報道カメラマンは世界中どこへでも行くはずで、国籍はほとんど意味がない。もっとも、今年また展覧会が開催された沢田教一のように、とびきり有名な写真を撮ると、長らくその名前は写真とともに記憶される。報道写真家は誰もがそのような夢を見ているだろう。
 先ごろの台風の折りであったか、初老の男性が運転する車が水に浸かり、外に出ようとしないのか、出られないのか、中でハンドルを握ったままでいるところ、数メートル離れたところに立っていた男性が声をかけ、車に近寄って中の男性を助け出すという映像がニュースで流れた。たまたまその現場を目撃していた人が撮影したものだろう。それがプロのカメラマンか一般人かはわからない。ネットの書き込みにあったが、人が死ぬかもしれないそういう現場に居合わせながら、助けずに撮影し続けるのは、どういう神経か。だが、これは難しい問題だ。わが子が溺れているのを目の当たりにすると、親はたいてい飛び込み、そして時には一緒に死んでしまう。これが報道で収入を得ている者であればどうか。溺れる人を助けようとはせず、冷静にその様子を撮影し続けるかもしれない。沢田教一がその点どうであったかとなれば、自分の命が常に危険にさらされている中で撮影したことはあっぱれとして、手を差し延べると助けられたかもしれない人に対してどう接したのかと、疑問を抱く人があるかもしれない。危険を顧みずに撮影するのは報道写真家としてはいわばあたりまえのことで、それは自己責任の問題だ。そういう危険が嫌であれば別の仕事をすればよい。先の水害に遭った車を撮影した人は、たまたまその車が目につき、車に乗っているのが自分の身内であれば撮影を全く考えずに助けに行ったであろうが、身内ではなく、また助けに行くにも水嵩があり過ぎて危険であったので、たまたま持っていたカメラで撮り続けたのが実情と思うが、誰しもスマホを所有してスクープ映像が撮影出来る時代となったことは、助けに行くより傍観者に徹する態度を増やしたのではないか。そう思うと、報道写真展に出品するカメラマンは、客観的はいいとして、その態度は冷酷過ぎると受け取られかねない。とはいえほとんどのカメラマンは撮影される人たちと同じ現場にいて、その人たちの身になって思いを写真で代弁しているはずで、であるからこそ世界的に注目されると信じたい。もっとも、ニュース写真となれば人目を惹く衝撃さがあるほどに名作とされるであろうし、それはたまたま現場に居合わせたという幸運が大きい。またそうでなければやらせ感が出る。今年の最初のコーナーには、デモの現場で全身火だるまになっている男性をごく間近で撮影した数枚の写真があった。これは体に火がついた男性をカメラマンが助けるのは無理な話で、おそらく10秒程度の間にその数枚は撮影されたであろう。全身の大部分をやけどしたその男性は一命を取り止めた。その説明文がなければ、映画の一場面と思われたかもしれない。つまり、報道写真はその説明文とセットになって人に訴えかけ、写真のみでは意図がわからないものもある。
 この展覧会は凄惨な現場に取材したものばかりではなく、いくつかの部門に分かれている。だが、芸術写真のように見て楽しいものはほとんどなく、問題提起が目的のものが目立つ。環境の悪化を伝えるものはその一例で、去年はプラスティックのかけらで体が傷ついたまま海の中を泳ぐ亀の写真が最高賞であった。一見パラダイスのような写真だが、人間がいかに海を汚染しているかがわかる。この1年の間に、鯨がプラスティックを大量を飲み込んで浜辺に打ち上げられるなど、まずますプラスティック製品による環境汚染が深刻になっていることがニュースになる。見ていてほっとするような写真の中にはスポーツに取材したものがある。イギリスの田舎町と思うが、ラグビーの試合で10数人が固まっているその真上に高さ10メートルほどの湯気が立ち上っていて、絵画では伝えられない外気の冷たさと熱気がよくわかる。同類の珍しい写真としては東南アジアのどこかの国で毎年開催される裸馬の競馬の組写真があった。これは裸同然の痩せた子どもたちが乗る。子どもであるので馬は速く走り、とても危険なはずだが、名誉がかかっているのだろう。社会的な問題に取材したものとして、性転換手術を受けた青年の写真があった。ベッドで起き上がって鏡で自分の股間に造られた膣を覗き込んでいるのだが、LGBTが話題になるのは世界的なことのようだ。写真は白黒もあるが、ほとんどはカラーで、またデジタル写真のため、畳半分ほどに写真を拡大しても粒子の荒れが見えないほどに鮮明だ。去年はびっしりと人が埋まった船を真上から捉えたカラー写真があった。祖国を追われたボート・ピープルで、本当に隙間なく数百人がさほど大きくないボートに乗っていて、しかも全員カメラの方を向いて顔がはっきりと識別出来た。ヘリコプターか飛行機に乗って撮影したもので、ボートで漂流する人たちとカメラマンはそれぞれ別世界に住む。もちろん写真を見る者はカメラマンと同じ世界にいる。大きなホールをぐるりと一周した後、隣りの部屋ではドローンで撮ったものだろうか、福島に取材した10分ほどの映像がリピートで上映されていた。誰も住まなくなった町の民家は、どれもほとんど風化しないままに半ば蔦や雑草に覆われ、競技場のトラックも線が消えてほとんど原野化していた。人々がそこに戻って来るのは数十年先として、雑草はどこまで町を隠してしまうだろう。この映像を自然の逞しさと見ればいいのか、放射線汚染は自然には関係がないと見るべきか、人間の手がかからなければ自然はすぐに威力を回復することは確かだ。そこを出た隣りの大きな部屋では、確か去年と同じ東北の大震災に取材した写真が展示されていた。これは毎年見るべきものと思うが、風評被害云々の反対意見もあるかもしれない。となれば報道写真の命はとても短い。
by uuuzen | 2018-08-18 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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