頭の中がどうなのかは診断してくれないが、高齢者がこうも多くなれば運転免許の更新時と同じような検査をしてもいいかもしれない。
とはいえ、たとえば認知症の検査は一度に大勢が押し寄せる市民検診では簡単には出来ないだろう。20年ほど前からだろうか、筆者は地元の小学校で毎年夏に開催される住民を対象にした市民検診を受けている。今年は7月6日が予定されていたのに、倉敷市の真備町に大被害があった例の台風の大雨による影響で延期になった。それがいつかと思っていると、回覧板で告知があった。回覧板はたいてい中身を見ずに隣家に回すが、その時は家内は1枚ずつ繰って確認したので見落とさずに済んだ。検診日は7週間遅れの3日前の24日で、家内と地元の小学校に出かけた。ただし、炎天であるので家内はひとりで自転車に乗って行き、筆者は運動のためと思って歩いて出かけたので、小学校の中で出会わなかった。これまで講堂が使用されて来たのに、受診するのは高齢者ばかりで猛暑で倒れられては困るとの考えからだろう、クーラーが使える畳の部屋と使用されていない教室が使われた。帰宅して家内から聞いたが、80代の男性が大声で「わしは医者は嫌いや!」と言っていたそうだ。受診は強制ではないから、嫌ならば来なければいいのに、文句のひとつでも言いたい対話不足の孤独な老人なのだろう。筆者も医者は好きではないが、診てもらうからにはその考えを抱いてはならない。それで、今年の血液検査では筆者の血管が浮き出ないため、女医か看護師か知らないが、何度も右腕に深く注射針を差し込みながら血が吸い込まれず、その女性は筆者に謝りながら隣りに座っていた高齢の女性に交代した。ふたたび腕を下げてぶらぶらさせると、どうにか左腕に血管の小さな膨れが浮かび、そこを目がけて注射された。血管がなかなか浮き出ないのはどこか体が悪いのかどうか知らないが、何度も針を射し込まれながら「痛いですか?」と訊かれると、子どもではあるまいし、「いいえ」と答えるしかない。だが、中には前述の老人のように怒る人もあるだろう。医者は世間では尊敬される職業かもしれないが、暗い表情の病人や変に頑固な老人を相手にする点ではうらやましい職業では決してない。前にも書いたことがあるが、筆者が小中学生の時の同じクラスに何度かなったMは、成績はクラスの45人中10数番目といったところで、決して目立たなかったが、中3の頃に筆者に向かって医者になりたいと言い始め、今は大阪の地元で開業医をしている。なかなかあっぱれだが、同じクラスにいた別の友人から聞くと、えらく横柄で二度と行かないと言っていた。同じクラスであったのにとこっちは思っていても、Mにすれば自分は医者だぞという考えかもしれない。それはともかく、普通の成績でも医者になれるということだ。
筆者は去年からそれまで支払っていた受信料の500円が無料になったが、働き盛りの人がむしろ全員健康診断されるべきで、余命がはるかに少ない高齢者はもうどうでもいいではないかと若者から抗議があるかもしれない。そんなことを想像しながら、無料の高齢者になったことをいささか済まなく思う。受診者はみな筆者より年配者のようで、またほとんど知らない顔であるのが毎年不思議だが、筆者が知っている人たちはどこで健康診断を受けているのかと思う。「風風の湯」で出会う同じ自治会に住む人は年に1,2回の人間ドックに入ると言っていたので、もっと質のよい、そして高額の健康診断を受けている人が多いのだろう。確かに集団健康診断では簡単な流れ作業のごとく30分ほどで全部の項目の検査が終わるのでほとんど気休めにしかならないかもしれない。肺のレントゲンは毎年撮影してもらうが、ごく小さなフィルムのはずで、医者はそれを診ておかしいと思う場合は病院での再検査を通告して来る。10年ほど前に筆者はそういうことがあった。そして撮ってもらった大きなレントゲン写真を目の前にして医者が言うには、集団検診の結果はひょっとすればフィルムの傷かもしれないと思ったが、再撮影の結果、どうも小さな結核が発症し、自然治癒した模様とのことであった。完全に結核菌がなくなるはずはないと思うので、またいつか別の場所に再発するかもしれず、それもあって年に一度の小学校での検診は受けておいた方がよいと思っているが、今年はレントゲン撮影の際に本当に受診しますかといったように訊かれた。つまり、選択することが出来るということで、そえはあまりレントゲン撮影はしない方がいいとの理由もあるからだろう。家内は大きな病院でこの1年以内に何度か肺のレントゲンを撮ったので、今回の検診では撮ってもらわなかった。検査結果は1か月ほど後に届くが、ここ数か月の筆者の尿は明らかに異常で、家内は筆者が小便した後、必ずそのひどい臭いに驚き、何度も水を流す。異常は今回の目の前で行われる尿検査の際の試験紙の反応色からもわかった。去年の検診では尿、血液の検査から「要医療」の項目がいくつも出て、精密検査を指摘された。にもかかわらず、半ば忙しくもあって病院には行かなかった。1年放置して改善するはずがなく、今年はさらに悪化しているだろう。簡単に言えば生活習慣病で、運動不足だ。歩けばうんと改善するに決まっていて、その理屈は自覚している。猛暑が済むと自転車ではなく、歩いて梅津のスーパーに買い物に行くことにするが、その程度で足りないとなれば、さてどうしよう。自分の体の事故は自己責任で、過ごして来た生活はそのまま反映される。それはともかく、延期された健康診査がまた台風の影響でどうなることかと思ったが、台風の威力はさほどでもなかった。