●「サン・チャイルド」騒動
陽の対比と言えばいいか、ヤノベケンジの作品「サン・チャイルド」が福島市に寄贈されたという喜ばしいニュースに対して、非難の声がネットに上がっている。



最初は大阪のどこかの大学の教授が、その作品の胸にある放射線量を計測する機器の数字がゼロであることに意義を唱えた。現実世界にはそれはあり得ないので、放射線に対する誤解を招くとの理由だ。それを言えば、「サン・チャイルド」は人間を写実的に表現したものではなく、頭が大きいいわば漫画で、つまりは空想の産物だ。個人の空想にいちゃもんをつけるのはよほど美術に関する知識がないと見える。だいたい芸大美大の先生はさておき、他の大学の教授は美術に関心はない。むしろ無益と思っている。「生産性」がないと言い換えてもよい。そういう人は子どもの頃にそれなりに頭がよかったのだろうが、美術の点数は入試には関係がないから、絵を描く時間を教科書を覚えることに回す。そのようにして大学に進み、やがて教授になると、天下を取ったような気分なのだろう。筆者にはそういう人物はさっぱり面白くない。アンドレ・マルローが書いている。人間が芸術を作り続けて来たのは、人間の意味を問うて来たからだ。もし芸術を生み出さなければ、人間は猿になっていた。人間と猿との差は芸術を作るかどうかだ。にもかかわらず、猿のような人が今はネットで大暴れしている。なまじっか、義務教育で文字を覚えたのがいけない。文盲が多かった時代は、今のネットにあふれる猿意見は世間に広まらなかった。ところが、猿が跋扈するネットでは短い文章が好まれる。短文しか読めないのだ。そしてその猿意見は、時間をかけて練った意見と同じパソコンの画面上で読めることもあって、前者の短い文章を書く猿が人間と同格であると錯覚するようになった。一方、人間は相手の猿が何千と束になって罵詈雑言の短文を放って来るから、おののいて謝るというようになって来た。相手は猿なので何を言ってもわからないと思えばいいのに、人間は歯を剥き出しにする猿が怖いものだ。それはともかく、「サン・チャイルド」を5月に梅田のグランフロントの前の広場で見たので、今日知ったニュースに釘づけとなった。ヤノベケンジの存在を筆者が初めて知ったのは、もはや彼がドイツから帰国して京都のドイツ文化センターで作品を展示した時のことだ。20年もっと前のことではないだろうか。茨木市生まれであることは今回のニュースで知った。そのためもあって「サン・チャイルド」が阪急の南茨木駅前に展示されたとのことだ。グランフロントでの展示はそれを移動させたと思っていたが、どうもそうではないことが、やはりニュースからわかった。右手に載せる太陽の象徴が少しずつ違った3体が存在し、そのうちの1体が福島市に贈呈された。輸送や設置に金がかかる経費は製作費からすればしれたものだろう。つまり、福島市はきわめて安価で手に入れることが出来たはずだ。あるいは無料かもしれない。
 ヤノベの懐には金はほとんど入っていないと思うが、ニュースの書き込みには、税金を使ってけしからんとか、ヤノベがいくら金を得たのかなどと下種な意見が目立つ。それよりもヤノベのことを初めて知る意見が多く、いかに芸術が一般人の関心から遠いことがわかる。それはそうだ。東京芸大の生協食堂に長年あった宇佐美圭司の大きな壁画がゴミとして処分されたのであるから、日本を代表する芸術家の作品といっても、千人にひとりも関心はない。現代の日本人はそれほどに猿同然の、食べて寝るだけの生活に追われているということか。「サン・チャイルド」に対する非難の声としては、まず感覚が古い、あるいは気持ち悪いといったものから、ヘルメットや放射能防護服を脱いでいるその姿は、福島の原発事故を思い出せる、つまり風評被害をもたらすというものまである。特に後者に関しては、ヤノベは配慮が足りなかったと謝罪したが、この作品は確か地震から2,3年後に制作され、南茨木駅前に展示されていることから、関西では関東や東北以上にはよく知られていた。ただ、筆者はこの作品の意味をこれまで知らなかった。南茨木駅前のものは福島を向いているという。つまり、ヤノベは遠巻きに福島の原発事故被害が早くなくなればとの思いを作品に込めたようだが、それにしてもなぜ同じ作品が福島で展示されるまでに年数を要したのだろう。関東と関西の文化の距離と言えばそれまでだが、南茨木駅前のものが原発事故に関係するとなれば、もっと早い段階でヤノベとこの作品は日本で知られていたはずではないか。そうなって来なかったのは、大阪と東京や福島の距離から来る、事故に対する関心度の差かもしれない。関西で思う以上に東京や福島では原発事故に関することはタブーになっているということだろう。早い話が、放射線ゼロの数値を示す服を脱いで空を見上げる子どの像というのは、福島人から言わせれば、「お前、おちょくってるんか」ということだ。そう責められると、作者としてもひとまず謝っておくしかないという流れになる。だが、最初からヤノベが福島原発事故に対して「サン・チャイルド」を作ったのであれば、福島市に寄贈した段階で念願を果たしたことになるし、また以前に福島の空港で展示した時には今回のように批判はされなかったようなので、いったい福島市で何があったのかと思う。筆者は福島市には行ったことはないが、原発は浜通りにあるから、置くならばJRのいわき市が理想的ではないか。あの駅に降り立ったことがあるが、見栄えがする点言い場所はいくつもある。
 ネット・ニュースの意見の中に、神戸長田の「鉄人28号」も電車の中から見えるが、はるかにそっちの方が好感が持てるというのがあった。故人の漫画のヒーローを巨大にして設置するのは、長田地区の住民の考えたことだ。それに対して「サン・チャイルド」は、それを主人公した漫画が先にあるというものでなく、「鉄人28号」など戦後の漫画人気の延長上にその特徴を持たせた新たなキャラクターを作り、それを巨大化、しかも複数生産する。これは日本の戦後の現代芸術が、漫画の後塵を拝していることを意味する。それもあって筆者は漫画をパクった「サン・チャイルド」という芸術よりも、漫画がそのまま人々を勇気づける長田の「鉄人28号」の方が、仮にそれが芸術ではなくても、押しつけがましくなくてよいように思う。「サン・チャイルド」が昭和的で古い感覚の作品という意見は当然だ。漫画風の現代彫刻を作るのであれば、後の漫画に大きな影響を与えるほどの斬新なフォルムが求められる。それに似たものとしては「ゆるキャラ」が次々の登場していて、ヤノベはそこに切り込んで現代芸術として評価されるものを目指しているのだろう。だが先に書いたように、筆者は戦後の圧倒的な漫画ありきの状態では、その漫画風の持ち味の彫刻はどれも陳腐に見えて楽しめない。だが、漫画を意識した作品を作るべからずと言っても、ヤノベの世代は難しいかもしれない。そして愛好者が千か万分の一にもならない現代美術は、漫画よりも圧倒的に価値のないもので、またもともと芸術とはそういうものでもあるので、芸術家は好きなように作ればいいが、「サン・チャイルド」のように巨大な作品で公的な場所に置くとなれば、話はまた違って来る。見たくない人の目にも触れるからだ。長田の「鉄人28号」のように民間から制作の考えが持ち上がったものではなく、芸術家個人が勝手に作ったものは独善的になりやすいし、またそう思われやすい。そして筆者は高さ5,6メートルもある現代彫刻が公的な場所に置かれることにはあまり賛成ではない。「サン・チャイルド」は高さが2、30センチの模型があるようだが、それを量産するだけにしておけばよかったのではないか。ネット検索で知ったが、名古屋のパチンコ屋か、全身が金属の光沢つまりパチンコ玉のような表面仕上げが施された「サン・チャイルド」が展示されている。ヤノベが祈りや願いを「サン・チャイルド」で込めたのであれば、それは「聖なる像」であるはずだ。その考えに同意したので福島市の市長もほしがったのだろう。同じ形で色違いの作品が娯楽施設の看板のようにもなっているのは、かなりグロテスクな光景で、日本における「聖なるもの」は結局のところ、金かというさびしい気がする。ヤノベの作品はどれも巨大で、製作費が大変と思うが、芸大の教授の肩書もある。作品の見栄えの軽さが売りなのはいいとして、もっと思想の深みがほしい。
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by uuuzen | 2018-08-12 23:59 | ●新・嵐山だより


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