●『LUMPY GRAVY PRIMORDIAL』その3
して久しぶりにステレオで二度聴いた。二度目は10年前に発売された3枚組CD『LUMPY/MONEY』のディスク1を同時にパソコンで慣らし、本作との音の内容の違いを比較した。



d0053294_00212280.jpg
最初に聴いた時にわかったが、本作のA面の最初は『LUMPY/MONEY』のディスク1の前半に収められるヴァージョン(何度も出て来るので『L/M』と略す)の最初とは違う。10年前のCDと同じ音をLPで発売すれば売れ行きが芳しくないとの判断かもしれない。あるいは、『L/M』では最初が録音を始める時の合図としての人の声で、これは省いた方がいいと考えたかだが、本作ではそうはせずに全く違う音を持って来て嵌め込んでいる。そしてその音はヴァーヴ盤のB面の中間に登場する「キング・コング」の主題で、本作には含まれない。つまり、冒頭の約30秒のみが違うキャピトル盤が2種あったことになる。それについては『L/M』には触れられない。『L/M』では本作と同じ「PRIMORDIAL」の言葉がすでに使われていて、またそのテープはモノラルで4トラックで録音されたことも書かれているが、プロデュースが異なる。『L/M』は見開きジャケット内部の右下に写真が載るニック・ベネットとされ、本作ではザッパとなっている。これはザッパが後に『L/M』のマスター・テープの冒頭を別の録音素材と交換したことを意味し、本作はザッパの思いがより反映したものと言える。また、本作全体は『L/M』に含まれないので、そこを考えて本作を発売したと見るべきだ。本作のテープが10年前にゲイルやジョー・トラヴァースが発見していなかったかどうかについてはわからないが、前述のように本作の冒頭30秒はヴァーヴ盤B面に含まれるので、全体としては初めて耳にする音はない。その点で新鮮味はないが、本作の冒頭は『L/M』より迫力があって印象深い。これはコラージュ作品の一部をより全体が効果的に見えるようにとの貼り変えで、ザッパの思いは絶えず変化していたことを表わしている。いつまで経っても未完であるとの思いによるが、それを断ち切るのはレコード会社による発売日で、その点ではザッパには口を挟むレコード会社の存在があった方がよかった面もあるのではないか。本作のコラージュ具合は冒頭30秒を変えただけでは済まず、ニューヨークで知り合った連中をスタジオに招いてピアノの蓋を開けてお互い語らせた録音をさらにブレンドすることでヴァーヴ盤を作り上げたが、それも数年後には手を入れたかったのではあるまいか。『LUMPY/MONEY』のディスク2にはヴァーヴ盤に手を加えた1984年ヴァージョンが収録される。20年近く後にさらに音を加えるのは、欠陥が気になるからだろう。若い日の作品を往年に振り返ると、粗が目立って恥ずかしいと思うことは作家としてはごく普通だ。その改変行為を咎めるザッパ・ファンがいるが、オリジナル・ヴァージョンはそのまま存在するので、誰も困らないではないか。
d0053294_00214231.jpg
 『LUMPY/MONEY』のブックレットに本作のジャケットの版下図版が紹介されている。ただし、本作では「PRIMORDIAL」の黄色の文字が小さく加えられ、タイトルは2段から3段になった。極力キャピトル盤のデザインをそのまま使うことを前提に、どうしても変える必要のある文字やロゴ・マークを新たなものに置き換えている。ジャケット表で最も目立つ変更箇所は、最上部中央の黄色の「MONO」だ。これは 『LUMPY/MONEY』のブックレットでは「STEREO」になっているので、キャピトル盤はステレオのテープも存在していることになる。それは『LUMPY/MONEY』では紹介されなかった。また、レコード会社名が「ZAPPA」になっていることは眩しい。ザッパはそうなることをどこまで予想したか。本作の録音時、ザッパにはまだ子どもがいなかった。本作の見開きジャケット左側に書かれている父子の対話の物語は、厳格な父が暴力に訴えてでも息子を家に連れて帰るという内容と読み取っていいが、息子に向かって「年配者を敬えと」教えるのは、ザッパの父やまたザッパ世代ではあたりまえであった。ザッパの子ども4人は母ゲイルの没後、簡単に言えば遺産分けが問題で仲違いをしたが、昨日の大西さんのメールによれば、長男のドゥイージルが和解した旨をツイッターで報告した。才覚のあった母亡き後、子どもたちが自社を潰さないようにしなければならない。その証がたとえば本作となり、本作に記されるレコード会社名「ZAPPA」は、4人の子どもが父を尊敬していることの証ともなっている。本作のジャケット裏表の2枚のザッパの写真はヴァーヴ盤では入れ替えられたが、そのこととは別に1点大きく異なる箇所がある。それは『LUMPY/MONEY』のブックレットでも図版が紹介されたが、「PIGS」という白抜きの目立つ文字だ。キャピトル盤は発売されなかったので、この「PIGS」が何を意味するかはファンは詮索しなかった。ヴァーヴ盤のジャケットではこの文字がない代わりに、新たに加えたピアノ内部での会話に、他の動物とともに「豚」が出て来る。ということは、キャピトル盤を録音し、それを発売しようとした段階でザッパはヴァーヴ盤に使うピアノ内部の会話の脚本を書き上げていたと考えてよい。その脚本をピアノ内部で語らせるとのは、ニューヨークに移住してからのアイデアだろう。その脚本やまたピアノ内部の会話の全貌は未紹介で、特に前者はアレックス・ウィンターが探し当てているのかどうか興味のある問題だ。録音や映像とは別にザッパが書いた楽譜や文章もたくさんあるはずで、それらもすべて紹介されれば本作はなおのこと楽しめる。それはともかく、本作を作った段階でザッパはピアノ内部の語りを素材として持っていて、本作の発売が没になったのでその素材を新たに録音して本作に加え、全体を新たなコラージュ作品とすることにした。つまり、いちゃもんがついてもそれでくじけずに、新たな素材を足して新しい作品を生み出すという前向きの考えがあった。これは簡単に言えば、一旦負けはしても、完全にそれをひっくり返して再起することであるから、ザッパは本作よりもヴァーヴ盤を自作では最も気に入っていると語ったのであろう。ただし、それは1971年の発言だ。前述のようにヴァーヴ盤は84年にさらに手が加えられたから、ザッパは最大に好きな作品でも改変せずにはいられなかった。
d0053294_00220094.jpg

[PR]
by uuuzen | 2018-05-17 22:59 | ●新・嵐山だより(特別編)


●『LUMPY GRAVY P... >> << ●『LUMPY GRAVY P...
以前の記事/カテゴリー/リンク
記事ランキング
画像一覧
ブログジャンル
ブログパーツ
最新のコメント
確かに7枚組といったボッ..
by uuuzen at 20:20
回答ありがとう御座います..
by インカの道 at 19:14
「ダミー・アップ」の歌詞..
by uuuzen at 23:28
連投ですみません、"RO..
by インカの道 at 15:41
『ロキシー&エルスウェア..
by インカの道 at 14:46
> erichさん 今..
by uuuzen at 22:51
12年前の投稿に目をつけ..
by uuuzen at 00:10
お久しぶりです。今日中に..
by uuuzen at 10:27
いくつもの切り口で展覧会..
by uuuzen at 19:07
尼崎展は下のフロアも拝見..
by uuuzen at 14:03
最新のトラックバック
http://venus..
from http://venusha..
ファン
         ブログトップ
  UUUZEN ― FLOGGING BLOGGING GO-GOING  © Copyright 2018 Kohjitsu Ohyama. All Rights Reserved.