魔術のように知らない間に街並が変わる。タイムマシンが造られると、グーグルのストリート・ヴューは20世紀以前も見られるようになるだろう。

ではストリート・ヴューは千年や二千年後も同じように存在し、画像が蓄積されて行くだろうか。現在とは想像出来ないほどに改良されて行くであろうし、千年や二千年後の人はその時のストリート・ヴューと同じ体裁で21世紀のものを見たいと思うに違いない。それはさておき、筆者は四条河原町界隈に10年前のようには頻繁に出かけなくなった。平安画廊がなくなったことが最大の理由だが、同じように足繁く通った中古レコード店に行かずとも、ネットでCDが買うようになったからだ。時代は常に変わるが、ネットは筆者に向いていた。四条河原町にほとんど出かけないので、たとえば文化博物館に行くこともめっきり減った。そこで開催される展覧会は昔見た内容のものがほとんどでもあるからだ。そうそう、もうひとつ大きな理由は、家内が四条河原町経由で勤務していたのが、5年前に定年になったことだ。よく勤務帰りの家内と四条河原町で待ち合わせをしたものだ。定年になれば通勤定期がなくなり、四条河原町に夫婦で出るにはふたり分の交通費がかかる。それはたいした出費ではなく、一番の理由はわざわざ繁華街に出ることが億劫になって来たことだ。それでも最低月1回は母の家に行くし、また調べものをするために図書館に行くことがままあり、京都市内をあちこち動き回ることは今後も続くが、四条河原町界隈をぶらりと歩くことが少なくなった。その必要を感じないからで、たまに歩くと、必ず知らない店が出来ていてびっくりする。家内はそれを浦島太郎のようだと言う。そのとおりだ。ということは、浦島太郎の物語が出来た昔でも、しばらくある場所を訪れなければ、すっかり変化していたに違いない。浦島太郎は玉手箱を開けて魔術にかかったように一気に老人になったが、人生は玉手箱を開けることであり、魔術と同じようなもの、そして一瞬だ。さて、今日は昨日の続きだ。銀閣寺から急行のバスに乗って西へ一直線、すぐに今出川河原町に着いた。バス停は交差点のあちこちにあるが、筆者が降りたのは今出川通り沿いの西南で、そこから北にわたるとすぐに東西を貫く出町商店街がある。そこに入って西へ進み、寺町通りを10分ほど北に歩くと母の家だ。出町商店街を歩こうとしたのは、最近TVで知った「出町座」という映画館を見るためだが、筆者が歩いた商店街は東西の西寄りから西で、その建物が見当たらなかった。四つ辻の南西角にあることはTV番組で知っていたが、商店街には確か2か所の四つ辻があり、河原町通りに近い方の角であることをその時、つまり先月13日に知った。少し商店街を東に行けばよいことを知っていたが、まずは母の家に向かい、その帰りにゆっくり訪れようと思った。それで今日の2枚の写真は母の家で少し話をして帰り道で撮った。出町商店街にこのような文化施設が出来たことは驚きだ。梅津や嵐山では絶対にあり得ない。

出町柳は京大に近いこともあって、若者が集まりやすい。ではこれまで若者相手の店、施設があったかというと、なかった。それはまだ京大の北方の一乗寺の方が圧倒的で、昔はそこに面白い映画館があった。京都造形大学が近くにあるので、今も学生相手の店は多い。出町商店街は行列の出来る餅屋で有名な程度で、文化的には重要な場所ではない。むしろ、少子高齢化のために商店街もさびれが目立って来ていた。それが出町座が出来て、通りの様子が大きく変化した。ただし、出来たばかりなので、これから2年、3年と年月が経ないことにはわからない。出町座は九条通りにある「京都みなみ会館」のライヴァルと言ってよい。九条と出町はかなり離れているので、出町座が出来たのは映画好きには便利だ。みなみ会館は歴史が長く、出町座も数十年後も安泰であってほしいが、映画館で映画を見る人の数が今後どうなるかにかかっている。みなみ会館のように、通好みの映画を専門に上映すると思うが、それにはやはり京大に近い場所が求められるし、商店街の中というのは理想的だ。ところで、昨日の投稿と同じく、筆者は出町座をTVで知っただけで、中には入っていない。どういう空間であるかはTVで見たし、また客が若者ばかりで気が引けた。その様子は今日の写真からもわかるだろう。出町座は以前どんな店であったのだろう。毎月母の家を訪れてはいるが、前述のように商店街の中ほどから西へ進むことが多く、出町座の前身の店が思い出せない。しばらく歩かないと必ず新しい建物が出来ているのは四条河原町界隈に限らない。人の多い場所とも限らない。わが家の近くでも古い家がどんどん取り壊され、更地になっている。そして2週間もすれば新しい家が建っている。その様子を見れば誰でも浦島太郎を実感する。若者でなければなおさらだ。出町座の隣りであったと思うが、古本屋が出来ていた。扉が全開であったので、そこには入った。若い女性が店番をしていた。黒い板張りの床で、出町座と同じようにレトロ感を演出している。これは必要最小限で改装したからだが、昭和の雰囲気が若者に人気があるからだ。昨日の「私設圖書館」と同じだ。古本屋には興味があるが、美術書コーナーをざっと見て、買いたい本がなかったので外に出た。その向かい側はスーパーだと思うが、店先で格安DVDをたくさん並べていた。その背をすべて確認したが、ぜひほしいものはなかった。出町座の中にはカフェがあり、本の販売もしているが、筆者が注目したのは、ファスビンダーのDVDで解説を担当している渋谷哲也が、シリーズで新しいドイツ映画の解説をする講義が開くことだ。そういうことはドイツ文化センターの領域だが、そこでは昔に比べて映画の上映はとても少なくなり、筆者はもう何年も足を運んでいない。今度行けば浦島太郎を実感するだろう。実際そのような高齢の人間になりつつある。そう言えば、気になっているファスビンダーの映画は、次に見るべきDVDを目立つところに置いているのに、なかなか見る時間がない。