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●島根県立美術館
足立美術館で2時間滞在しするともう4時過ぎになっていた。これからもうひとつ島根県立美術館の鑑賞が待っているが、美術館は大抵5時で閉まるので、30分ほども見られるかどうかと心配していると、美術館に到着したのがちょうど5時で、6時までの1時間鑑賞するとガイドが言う。



早速受付で美術館の案内パンフレットを見つけて一部取ると、閉館は6時半とある。そうならば閉館までいたいが、筆者だけがわがままを言うわけには行かない。ホテル側も食事の用意があるし、見終わればただちに向かう必要がある。だが、後で調べてわかったが、ホテルは宍道湖の畔を東に少し行き、橋を北へとわたって、西に少し行ったところにある。美術館からは目の前に見えていて、歩いても30分とかからないところだった。それならよけいに閉館まで見たかったが、それが許されたとして、日がすっかり沈んだ宍道湖畔を雪降る中、とぼとぼとホテルまで歩いて行くのは辛かったであろう。あるいは今思うのは、それもまたよい経験であったかもしれない。たった1時間の鑑賞では物足りなさ過ぎるが、パック旅行では仕方がない。館内に入ってすぐ添乗員からひとりずつ常設展のチケットを手わたされた。団体割引きで予め買っていたのであろう。そして添乗員は、「もし企画展を見たい人は御自分でチケットを買ってください。このチケットを手わたすと、660円で見ることが出来ます」と言うので、筆者はすぐに企画展を見るつもりになった。それで受付のずっと奥の、美術館内突き当たりの企画展が開催されている入口まで行って常設券を見せた。そこで買えると思ったのだ。すると、受付で精算してくださいとのこと。また元の場所に戻って660円を払い、企画展のチケットと交換してもらった。家内は常設展のみでいいと言うので、自分の分だけ買った。企画展は1000で、常設展が団体割引きで240円だが、企画展と常設展のセット当日券は1150円だ。そのため本当は910円支払う必要があるように思うが、もらったチケットには「前売券/一般」と下に小さく印刷されている。前売券ならば両方見て900円であるので、その計算にしてくれたわけだ。わずかでもこれはありがたい。美術館は空いていた。団体客がこうしてたまにどっと入って来ることでどうにか体裁を保っているようにも思える。玄関前はロータリーのようになっていて、バスは玄関のすぐ前で横づけされた。ロータリー中央には清水九兵衛の作品のような、銀色の太い筒を束ねた金属の彫刻が立っていた。館内の右手全面は、ゆるやかなカーヴを描いて床から天井までがガラス張りで宍道湖に面し、眺めがとてもよい。夕方5時で、まだ多少明るいので、大きな横長のソファに座って湖の景色をひとまず眺めるのもよかったが、何しろ時間が少ないことに焦り、すぐに受付の左手背後にある階段から2階にあがった。まず常設展を見るためだ。大体30分を常設展に当て、残りを企画展に回すことにした。階段を上がると、すぐに美術館のシンボル・マークの八雲をそのまま拡張した、さまざまな形と色の霞状の雲型ソファが点々と数個並んでいた。それに座ると、1階ホールの宍道湖に面するガラス張りが見下ろせる。このソファはとてもデザインがよくて洒落ていたが、通りすがりに手で触れただけで座っていない。ソファの奥には2階展示室前のホールが見わたせて、その中央に置かれたロダンの大きなブロンズ彫刻がまともに眺められる。それにしても日本の美術館はよほどロダンが好きで、どこへ行っても置いてある。
 ロダンの彫刻の向こう側に展示室がある。いくつも部屋があって、とても30分では足りなかった。この常設展の鑑賞だけでも2時間は必要だ。当初、部屋はふたつ程度と思ってゆっくりと見ていたが、次々と時計回りに見て行くと、いくらでも部屋が続くので、後半は流し見する羽目になった。そして、2階全部の常設展を見終わると、この美術館の売り物である夕日が眺められるテラスに出る通路が最後の部屋を越えた左手にあった。企画展を早く見たい気持ちを押さえて小走りでそこに進み入り、すぐ右側にある扉を開けて外に出た。雪は降っていなかったが、30分の間にすっかり日が暮れて、人の顔が判別し難いほどの夕闇であった。下は板張りで、20歩ほど歩んで階段を数段のぼると、テラスの先端の、宍道湖を臨む手すりに到達する。そこで景色を眺めると、宍道湖の周囲にビルや店の光が見えた。さびれた雰囲気と言えば正しくないが、大都会の夜の光景を見慣れた目からすれば、いかにも鄙びている。そして遠くまで光の灯りがあるのではなく、宍道湖畔のみであるため、光の数は少ない。また、日の沈む西側はさらに暗く、まだ開発が行き届いていないことを思わせた。カメラを持ってバスを下りたが、この暗さでは何も写らないと諦めた。筆者と同時にテラスに出たカップルはデジカメで盛んに撮影していたが、この時ばかりは羨ましかった。筆者もデジカメを所有するが、電池がすぐに切れて、もっぱらコンセントをつないで室内専用にしている。新しく入手したいと思いつつも、パソコンが古いため、画像取り込みの問題もあって躊躇している。テラスにいたのは2分ほどだ。その間のことはっきりと思い出せるが、板張りの床を踏み始めた瞬間、これは夢ではないかと思った。一気に暗くて寒いところに出たからでもある。夕日を拝めない曇天であったため、せっかく期待したことも当てが外れた格好だが、確かにこのテラスからの眺めはいい。これだけを見るためにここを訪れても損はない。またいつか天気のよい日に来たいと思った。寒くもあったので、通路に戻り、すぐに下に通ずる階段から下りて企画展示室の前に立った。さきほどの係の女性がいた。チケットを手わたし、半券を返してもらい、暖房用にと垂らしてある透明ビニールの大きなカーテンを押し分けて中に入った。時計を持って行かなかったので時間がわからないが、企画室に向かう直前に家内に訊ねると、5時半ちょうどであった。
 さて、島根にどんな常設コレクションがあるか、前知識は一切なかった。期待はしていなかった。田舎の美術館であるので馬鹿にしているというわけでもないが、受付で最初に取ったパンフレットを開くと、3月から5月までは『ギュスターヴ・モロー展』、6、7月は『若冲と琳派』、9月から11月は『ミュシャ展』で、いずれも京阪神で開催されたものがかなり遅れて巡回する。これでは面白くない。ここだけでしか見られないものを見たい。そんなことを考えながら、2階へと駆け上がったのだが、一旦展示室に入ると鑑賞に没頭した。まず曽我二直庵の屏風があった。これはいきなり珍しい。江戸時代の作品もそこそこ所蔵しているのは当然だとしてもだ。次に龍と虎をそれぞれ描いた4曲1双の屏風があった。幕末に近い堀江友声という知らない画家で、京都の絵師の海北家の養子になったことがあり、四条派に学んだというが、やはり島根から出て絵を学ぶには京都であったことが今さらにわかるし、それは現在もそう言えるかもしれない。次にやはり地元出身で京都に学んだ明治期の日本画家の作品が続いた。雪の降る様がよく描けていて、さすが雪国出身を思わせた。地方美術館がこうした地元出身の画家に光を当てるのはよい。第1室のぐるりと回った最後は、ちょっとした橋本明治コーナーで、よく知っている大きな作品がかかっていた。橋本も島根出身であることを知ったが、普段はこうしたことはあまり意識せずに見ることが多いから、ここで改めて橋本の絵に出会えたのはいい経験になった。次に壁がない状態で、日本の洋画の展示部屋が続いた。「日本近代洋画のあゆみ、2」とある。所蔵する作品を適当に入れ換えて小企画展として見せているようだ。部屋に入ってすぐの中央仕切り壁面は青木繁の小品のみがあった。明治43年に描かれた「犬」だ。全体にどことなくうっすらと紫がかった色合いで、夕暮れであろう。グレイハウンド犬だろうか、大きなが画面左上を見つめている。そこには飼い主がいるような気配があった。犬は暮れなずむ中で飼い主を心さびしく待っているのかもしれない。その様子がよく描けていて、さすがの青木と感心した。高橋由一の「下総国之手村内裏塚真景図」は明治16年の絵で、ここで由一が見られるとは思わなかったのでしばし佇んだ。海老原喜之助の昭和2年の「海」は、海老原お得意のブルーと白の調和が鮮烈で、しかも風で孕んだ帆を、生き物のようにデフォルメして描いた不思議な感覚に見惚れた。海老原の作品は京阪神ではめったに見る機会がないだけに特に印象に残った。里見勝蔵の昭和3年の「赤と緑の静物」は、荒々しいヴラマンク調の画風になる前のもので好感が持てた。牛島憲之の「灯台(旧御前先)」は昭和39年の作だ。牛島の特徴がみな出ていたが、あまり見る機会のない画家だけに、間近でマチエールを確認出来たのはよかった。森芳雄の「母・子」、山口薫の「馬」も忘れ難い。最後の壁には斉藤義重の板で構成した黒い作品があって、一応抽象絵画まで網羅しようという意気込みが伝わる。斉藤とセットになるような形で、山口長男の錆びた赤色の面が大半を占める絵もあった。
 さらに時計回りに進むと、今度は「19世紀後半フランス絵画」のコーナーだ。ここも珍しい作品があった。まず中村不折や安井曾太郎の師ジャン=ポール・ローランス(1838-1921)の作品、同じく日本の洋画家に強い影響を与えたラファエル・コラン(1850-1916)の3点があった。コランの「裸婦」は驚くべき官能性を描写した小品だが、一緒のツアー客の70歳近いおばさんは、「わーっ、これは何とも色っぽいなー」と感嘆していた。両手を交差して胸を隠すようにして肩に置いた裸女の上半身を森の中に置いて描いている。この絵は2001年から2年にかけて開催された『女性美の500年』という展覧会で出品された時には個人蔵となっている。その後この美術館が購入したのだろう。いい絵を買ったと思う。リュック=オリヴィエ・メルソン(1846-1920)は、ローマ賞を獲得してイタリアでラファエロを研究した経歴を持つが、「エジプトへの逃避途上の休息」は横長の油彩で、ベルギー象徴派のたとえばクノップフを連想させる夜のイメージに満ちていた。シャヴァンヌ(1824-1898)の同じく横長の「聖ジュヌヴィエーヴの幼少期」は、あまり大きなサイズではないが、たくさんの人物を描き込み、イタリア・ルネサンスの絵画をよく学んだことがわかる。聖書をテーマにした緻密な銅版画で有名なドレ(1832-1883)の「スコットランド風景」も珍しい絵で、こうした玄人好みの渋い絵ばかりでは島根県人も不満を言うかもしれないから、ちゃんとシスレー、モネ、ゴーギャンの油彩画も最後に用意されていた。数は決して多くないが、なかなか楽しめる展示であった。実はこれらの展示だけで常設展はてっきり終わりと思っていたが、部屋を出ると壁で隔てられて次の展示室が待っていて驚いた。まず平塚運一の木版画の展示「古都を巡る-風景版画」があった。平塚の作品は昔から画集などで知っているのみで、実物をこれだけまとめて見るのは初めてのことだ。かなり興奮した。平塚が島根生まれであることを思い出したが、近畿では今まで展覧会は開催されたことはないと思う。奈良や京都を初め、松江や臼杵などに取材した昭和時代制作の34点の展示で、図録が用意されていないのが惜しい。平塚は1997年に102歳で亡くなったが、晩年の30年以上をアメリカで制作し、どことなく謎めいたところがある。画面を白黒に明白に分けた彫りと刷りは、独特の力強さと風格がある。代表作を網羅した全貌展が開催されることを期待したい。今までに東京では比較的大きな展覧会が開催されているが、図録は古本でも珍しく、以前ネット・オークションに出た時は高値になって断念したことがある。
 次も小展示室だが、「出雲焼の変遷-楽山焼・布志名焼」で、江戸中期から明治、昭和、平成と、新旧取り混ぜて34点の茶碗や花瓶、皿などが並んでいた。こういう焼き物が出雲にあるとは知らなかったが、松江藩の不昧公が茶を嗜んだところを思えば、独自の焼き物があってしかるべきだ。どこか薩摩焼に似た印象があって、ベージュ色の肌に五彩色と金襴で微細な文様を表現していた。大名が愛好するにふさわしいような工芸品で、島根に多いはずの民芸品の趣は全くない。そうした雑器もあるのかもしれないが、展示はされていなかった。次に「石見の作家たち」というコーナーがあって、具象から抽象まで絵画が並んでいた。ざっと見たのみで、名前を記す余裕がなかった。これで終わりかと思っていると、最後にまた大きな部屋があって、写真がたくさん展示されていた。パリが大改造される前の記録写真や、オリエンタリズムの機運に乗じて撮影された中東やアフリカの風景や街並みの写真、そしてその奥にはマイブリッジの有名な裸の男女を連続撮影した写真もあったが、ほとんど駆け足で見たので記憶にはうすい。そんな中でしばし立ち止まって眺めたのは、皺くちゃになったわら版紙のような印画紙に焼きつけた、どこか中東あたりの街の鳥瞰写真だ。上部は空だが、何も写っておらず、紙の皺のみ見える。下3分の1に街並みが細かく、そしてうすく写っているのだが、はかない幻に見えた。あえてそんな紙にそういう効果を狙って焼きつけをしたのか、あるいは100年ほど経って色が飛び、そんな写真と化したのか、どちらにしても面白い効果をかもしていて、こんな写真の作り方もあるのかと見入った。筆者は写真にはほとんど関心はないが、もし撮影するなら、ピンホール写真をと考えている。そういう時代遅れに近いような、それでいてそれでしか得られないような独特の写真が、そのわら版紙に焼いた写真にはあった。だが、ピントはしっかり合っていて、細かい家並みは何十倍に拡大してもぼけないほどの鮮明さがあった。それでいて全体が夢幻的で面白い。この写真展示室だけでも充分ひとつの展覧会として価値があるから、常設展は見応え充分と絶賛したい。この美術館が誰の設計でいつ建ったのかは知らないが、宍道湖の畔に平べったく這うような形にあるのは景観的にも最大の配慮を払っており、とても好感が持てた。もっと時間があれば外観をつぶさに観察もしたが、とにかく1時間きっかりではどうしようもない。明日は続けて見た企画展『スイス・スピリッツ』について書く。
●島根県立美術館_d0053294_14510721.jpg
(5日に撮影。車と信号の向こうは全部美術館で、全体が勾玉形をしている。)
by uuuzen | 2006-01-12 23:57 | ●展覧会SOON評SO ON
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