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●You go …….
顔を絶やさない隣りの自治会のYさんが先日の金曜日にサウナ室で改まった口調で筆者に話した。「Aさんが先日死んだんや。3月下旬に喫茶店で自治会の会合を開いたときには元気に見えたんやけどな。



肺癌が脳まで達していて、気づいた時にはもう1か月の寿命やったそうや」。AさんとはYさんと同じように、筆者が自治会長を担当していた時、自治連合会の会議で隣り同士で1年過ごした。会って話をしたのは15回程度に過ぎなかったが、大阪出身だというので、何となく馬が合った。Aさんはこんなことを言ってくれたことがある。「阿部野のユーゴー書店、知ってるか?」「知ってますよ、もちろん」「たまにな、あそこへ行くんや」「えっ! 何でですか」「若い頃は大阪で過ごしたからな。今でもたまに梅田から天王寺まで歩いて行くんや」「ええーっ! それはすごいですね。梅田から難波まではぼくも歩いたもんですけど、天王寺までとなると、道もややこしいし、それに遠いですしね。歩こうとはこれまで一度も思ったことはないです」「遠いことはあらへん。簡単や」。この話のしばらく後、筆者は天王寺に出た時に、懐かしいユーゴー書店の前を歩いた。2010年か11年のことだ。今調べると、2012年にユーゴー書店は閉店している。ということは、Aさんはユーゴー書店を覗けなくなって5年目に亡くなった。Yさんによると、Aさんとよく愛宕山に登ったそうで、それは3,4年前のことだが、去年はAさんはひとりで西国八十八か所の霊場巡りをしたそうだ。さすが健脚のAさんと思わせられるが、たまに大阪に出て梅田から天王寺まで歩くことのほかに山登りを趣味としていたことは知らなかった。しかも去年霊場巡りを済ませていたところ、寿命を悟っていたのかもしれない。Yさんの年齢は金曜日に知ったが、71で、Aさんは2歳年長であったらしい。73と言えばまだまだ元気なはずだが、タバコを吸っていたらしく、肺癌になる確率は高かったのだろう。Aさんがどのようにして京都に住むようになったかは知らないが、奥さんを残してさっさと死んでしまったと言ってよく、1年ほどのつき合いに過ぎなかった筆者でもいろいろと感じることがある。登山仲間であったYさんにすればもっとそうのはずで、桜が満開になればその下で登山仲間と酒を飲みながら花見をするということの意味がわかる。
 ところで、ユーゴー書店の名前の由来は何であろう。筆者は中学生の頃からその書店を知っているが、フランスの小説家ヴィクトル・ユーゴーから採ったと思って来た。だが、Yさんの話を聞いて思ったのは「YOU GO」だ。大阪ならばそんな語呂から採用してもおかしくない。「みんなが行く」との意味を込めての「ユーゴー」であれば、長年Aさんが同書店に吸い寄せられたことは納得が行く。そしてそのAさんはユーゴー書店がなくなるという時代の変化を見て天国に行った。そう言えば「てんしば」を見たであろうか。天王寺、阿部野のあまりの変わりぶりに、筆者と話をして以降はあまり大阪には出なかったのではあるまいか。そして登山や霊場巡りに精を出した。それはそれで楽しい日々であったろう。筆者は今でも大阪に吸い寄せられるようにたまに家内と出かけ、登山や霊場巡りは考えもしないが、Aさんが亡くなった年齢まで8年で、本当にそれは短い気がしている。そして、Yさんが筆者に、「一緒に山に登りたかったら、いつでも声をかけてや」と言うことは、いなくなったAさんの代わりとまでは言わないが、気安く話せる筆者と好きな登山という時間を共有してもいいとの誘いで、それにわずかでも同調することが縁というものかとの気もしている。というのは、Yさんは2年でAさんが亡くなった年齢に達し、また毎年体力は衰えて行く。話は変わるが、風風の湯の受付から温泉に通じる廊下の曲がり角に、1月下旬頃からか、数枚のキャビネ・サイズの写真が飾られている。2枚は雪降る夜の風風の湯の概観で、残りは雪が積もる嵐山や渡月橋だ。その写真を撮ったのがYさんであることを金曜日にYさんから聞いた。そしてYさんは、桜の写真がないかとせがまれているらしい。数年前に撮ったいい写真があるそうだが、そのファイルに保存しているかわからず、要望に応えられないと言う。Yさんは先に帰宅したが、筆者は帰り際に受付の女性にその写真の話をした。すると彼女は、「あのおじいさんですね」と言ったので、少し驚いた。Yさんは長身で、登山を数年続けているので贅肉がない。年齢より若く見えるが、71は40代の女性から見ればやはり老人だ。それを言えば65の筆者もそうで、老人は自分の年齢を自覚せずに、若いと思っている。だが、それは悪いことだろうか。年齢を意識せずに元気でいることは、本人も気持ちがよいものだ。
 今日は筆者の親類の食事会が京都のホテルであって参加して来た。筆者の前には母の弟が座った。四捨五入すれば90だが、毎朝5時に起きて4キロの散歩と運動、昼間は趣味の畑仕事をし、車の運転はしっかりしていて、全く認知症の気配はない。2,3年前に手術をした後、数キロ痩せて体重は51キロになり、そのことを本人は、全身が皮に血管が浮き出て、小学校の理科の実験室に置いてある人体模型のような体と言う。そして、10年ほど前はスーパー銭湯で尻の肉がげっそりと落ち、後ろ姿のとても醜い老人を見て、「ああはなりたくない」と思っていたのに、退院直後はそれに近い姿になってしまい、もう銭湯には行きたくないと思ったそうだ。そのまま自宅の風呂に入り、銭湯仲間と会わない生活を選ぶことも出来たが、醜い尻を拒否したい思いから、以前にも増して散歩や運動を続けた、腕や太股に多少筋肉がつき、後ろ姿を鏡に映しても自分がいやだと思う醜い姿にはなっていないと言う。そして、もう諦めたような無様な体をした老人が多いが、そのような姿にはなりたくないとの強い思いがあるので大事だと思っているそうだ。それはYさんも同じだろう。風風の湯で筆者は叔父が言うような尻の肉が削げ落ちた老人をよく見かけるが、確かにその姿に自分を重ねると、長生きはしたくないと思う。だが、叔父は90近い年齢だ。そのことを周囲の人は化け物と思っているようで、どうすればそんなに若くいられるかと訊く。叔父に言わせれば、何でも心がけ次第だ。周囲から老人と絶対視される年齢でも、肉体にはそれなりに差があり、その差は遺伝的な部分と意思による部分とが左右する。前者は仕方ないと諦めるが、後者は本人次第だ。同じ老人であっても醜さは減らしたい。その気を抜けば、とめどがない。
by uuuzen | 2017-04-16 20:06 | ●新・嵐山だより
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