曲がりなりともザッパ・ファンと自認する人は日本でもたくさんいるはずだが、アレックス・ウィンターが始めたキックスターターに賛同してその資金援助をした人はどれほどいるのだろうか。
ザッパが遺した録音テープやフィルムの修復とデジタル化、そしてそれに伴うドキュメンタリー作品の製作に関して支援金だが、それをザッパ本人の仕事とは無関係だとして、注目していない人もまた大勢いると思う。だが、時代が変わって今年6月のドイツでのザッパナーレには、ドゥイージルのバンドも参加する。ゲイルが生きていた頃とは事情が大きく変わったのだ。別の言い方をすれば、ザッパの作品はザッパや家族のものだけではなく、公のもので、作品そのもので生きて行く時代に入った。それはともかく、アレックスの企画に支援したくとも申し込みの方法がわからなかったと言う人もあるはずで、筆者のように支援した人の数の10倍くらいはアレックスの行動に関心を持っているのではないだろうか。その企画の支援者に向けてのグッズの発送がまもなく始まるようで、今月7日には「ザッパ・ムーヴィ・チーム」から住所確認の最終メールが届いた。そして今日はアレックスから57回目のメールがあった。今日はその内容をまとめる。まず、なぜグッズの発送がなぜ遅れているかの説明だ。これは支援者がざっと1万人にのぼり、グッズの量は文字どおりトラック満載となったが、発送のための人たちをアルバイトで雇うとなると、せっかくの支援金が目減りし、本来の意図が実現しにくくなるからだ。次に、ザッパが録音した磁気テープは修復が不可能なほど劣化したものが多少あったが、大部分はそうではなく、いくつかの修復専門会社に委ねられた。そのことによってアレックスの手間がかからずに済んだ。録音テープに関してはこれ以上の説明はないが、アレックスはジョー・トラヴァースとは懇意で、ジョーはゲイルが生きていた頃から録音テープを管理し、その内容に関してはほとんど知っていたのか、あるいはそうではなかったのかはわからない。だが、めぼしいものはかなり早い段階からジョーは知っていたはずで、それらを元にこれまでアルバムが作られて来た。ジョーはウィスキー・ア・ゴーゴーでのライヴ録音があると説明したこともあって、かなり先のアルバム発売まで予定は立てられていると思うが、それにはテープを聴いて内容を知る必要があるから、全部聴いていないとすれば、これまでのようにアルバムを発売して来たことは半ば無茶ではないかとの疑問が湧く。だが、これはそうとも言えず、手当たり次第に聴いて、いい演奏に出会えばそれをアルバム化して問題はない。アレックスは多少考えが違。映像は全部見てから、またそれにサウンドを同調させてから、ドキュメンタリー作品を編集したいようで、何が出て来るのかわからない状態では、みんなから集めた資金で映像作品をまとめることは出来ないとの考えだ。そこで、ジョーの作業とアレックスのそれは分けて考えるべきで、アレックスはジョーが今後ザッパの新譜として企画することについては言及しないし、そこには踏み込まない。だが、アレックスの企画に資金を提供した人は、テープ収蔵庫の磁器テープや映像フィルムの劣化が心配で、それをデジタル変換して安全なようにすることに理解を示したためであって、映像寄りのアレックスとは別に、録音テープ専門のような形のジョーの動向が気になる。そして、録音テープは劣化が時間との勝負という事情もあって、いくつかの会社に委ねられたが、すべてデジタル化が完了すると、今後のジョーによるアルバム企画はこれまで以上に加速化し、今後の発売の見通しも立つ。たとえば、1000時間の録音があるとすれば、そこから何をどう選別して優先的にアルバム化するか、また選別せずにすべてCD化するとして、年に何枚出すか、あるいはダウンロード・オンリーにするかなど、ザッパが遺した録音の全貌がわかる日は近い。
一方、アレックスは映像により関心があるようで、今回もいくつかの短い映像を紹介しているが、音が入っていないものがある。DVD『ロキシー』を編集した人物がその解説に書いていたように、映像とその音とのシンクロは簡単な問題ではなく、また大きな経費を必要とする。アレックスも同じことに遭遇し、巨大な量がある映像を鑑賞出来る状態にすることに多大な時間と労力を要している。これは録音テープをCD化することとは比べものにならない。今回のメールで紹介されている映像に音がないのは、シンクロがまだうまく行っていないからだ。また、これらの映像は演奏中のものではなく、ステージでの準備作業や写真スタジオや録音スタジオでの行動など、ザッパの曲目とは直接の関係はないものが目立つ。むしろ私的なものと言ってよいかもしれない。そういうものを含めてアレックスはザッパ像に迫る必要を思っている。映像の最初はガリック・シアターでのザッパのギター・ソロの場面で、ザッパは例のPIPCOの文字のあるシャツを着ている。ギターの音は聞こえないが、完全なヴァージョンが仕上がれば、最も古いザッパのギター・ソロの映像となる。また、アルバム『アンクル・ミート』の同名映画を準備していた時の映像の断片も紹介されている。それは後年の『ベイビー・スネイクス』の際、ブルース・ビックフォードと一緒に粘土人形を少しずつ動かしながら映像を駒撮りするザッパの姿を思い出させ、ザッパの映像への関心は60年代から強かったことを再確認させる。アレックスは映画『ベイビー・スネイクス』に使われなかった映像も見出したが、そういうものは当然存在は予想された。アレックスがどのようにそれらを活用してドキュメンタリー作品を作るかだが、2時間くらいの作品であれば、膨大なフィルムから特に興味深い部分だけであってもすべては盛り切れないのではないか。そこが気になるが、音源と同じようにいつでもアクセスして見られるような仕組みを作るかもしれない。つまりダウンロードによる販売だ。今回紹介された別の映像には、1982年、イタリアのピストイアでのサウンドチェックもある。遠くに見えるスタジアムやそこを埋める観客の少なさ、それにザッパのこれまでにない「普通の」髪型が目につく。演奏のリハーサルや本番も撮影されているのかどうか、映像が膨大にあるとすればその可能性が大きい。写真家のノーマン・シーフのスタジオではザッパは子どもが乗る三輪車で動き回る場面があるが、短い髪型は1978年頃ではないか。ビックフォードが描き下ろした鉛筆によるイラストが今回2点紹介されているが、これらはアレックスの企画への高額資金提供者用のものだろう。まもなく発送されるグッズは、前に書いたように筆者はあまり期待していない。それにポスターが送料が気になって発送の必要なしと回答した。最も気になるのはアレックスが作るドキュメンタリー映像のDVDと、それに記される資金提供者の名前のリストだ。そこに筆者が含まれるが、その映像作品の完成はまだまだ先の話だ。そのため、グッズ発送後もアレックスからは定期的にメールが届く。そして、新たな寄付を求めて来るだろう。