Uターンして来た。先週の土曜日に阪急の四条河原町駅で紛失した紙袋だ。1週間後に大阪と神戸に行くつもりであったので、梅田で電車を降りた後、落とし物コーナーに行くつもりであった。
そして、何となくそこに届けられているように思った。今日はいつもとは違って最も梅田駅の最北の階段から下りると、改札を出る前に昔と同じ場所にそのコーナーがあった。ガラス扉なので内部が見えるが、50代の労務者風の男性がカウンターの係委員に話しかけていた。昨夜着衣を電車の中で忘れたと言う。昨夜ならまだここには届いていないので、今晩でも来てほしいと言われていた。そして筆者らの番になったが、それと同時に2組の女性が入って来た。それほど忘れ物が多いということだろう。彼女たちを待たせては悪いので、家内はてきぱきと要件を話した。先週の土曜日、人身事故で阪急電車が停まったこと、そしてどこでどのようなものを失くしたか言うと、黙って聞いていた60歳ほどの小柄な男性はうなずいて右手の奥に消え、10秒も経たない間に黒い手提げ袋を持って来た。荷札が針金で結わえられていて、それをほどくに時間がかかったが、中身はそのままのようだ。金目のものは一切入っておらず、拾った人も届け出る必要をさほど思わなかったであろうが、手袋やポリエステル製の馴染みの買い物袋も入っていて、家内にすれば失くすには惜しい。それに筆者は図書館でコピーした資料が1枚あり、それを調べるためにまた同じ図書館に再度行く必要があったから、ともかく出て来てほっとした。家内はこれまで何度か同じ落とし物コーナーに行ったことがあるが、今回のように出て来たのは初めてと言った。確かにそうで、換金出来ないようなものや、喜んで使用出来ないようなものほど、届けられているのだろう。あるいはそう考えるのはかなり下衆なことで、実際は大金の落とし物やまたかなり高価な物が警察に届けられている。そうした品物は阪神百貨店がよく催し会場で安価で売る。落とした人はもう出て来ないと諦めたか、あるいは届け出たのに証拠がないと思われたか、とにかく落とせば半分は戻って来ないと思っていていい。それにしても届けてくれた人に感謝せねばならない。筆者や家内でもそうしたが、誰でも同じとは限らない。家内が勤めている頃、買って間もない半年有効の定期券を、改札を出た瞬間に落とした。それが出て来ず、また新たに買った。家内が以前から定期を買い続けていることは調べればわかるはずだが、阪急からすれば落としたとの申告は嘘かもしれないとの考えだ。つまり、性悪説を採っている。誰かが拾った定期券を使えば、今では監視カメラが至るところにある時代で、買った本人の使用ではないことがたちどころにわかると思うが、仮にそういう仕組みになっていても、阪急はまた新たに買わせた方が得で、そんなことは積極的に調査しないだろう。半年ほど前、筆者は四条烏丸駅の無人改札を出る時、切符が手にないことに気づいた。それで改札近くの係員につながる端末のボタンを押すと、出た相手は即座に「では、料金をもう一度支払ってください」と言った。切符がなければ改札から入れないことはわかっているから、筆者が切符を買ったことは確実なはずなのに、紛失した場合は改めて買うのが筋との考えだ。つまり、やはり性悪説を採っている。アホらしいので、「もう一度探します」と答えて、プラットフォームに戻り、しばし探してまた改札に向かうと、改札の10メートルほど手前に切符は落ちていた。それで改札を出たが、見つからなくて料金を支払う人が毎日多いことは、よく切符がプラットフォームに落ちているのを見かけることから充分想像出来る。そういう切符を筆者は改札口に届けたことがない。面倒というより、届けてもそれを駅員は紛失した人のものとは思わないだろう。まさか指紋を調べるわけにも行かず、本人が落としたものであるという証拠がないからだ。「切符を落とした? これが1枚届けられているけど、あんたのものだという証拠はないしね。また料金を支払ってもらいます」。こんな対応をしている性悪説本意の性悪な人柄を駅員の姿を想像する。黒い紙袋を届けていただいた方がこれを読む可能性はかなり低いが、ここに感謝を表明しておきます。