集合は変化し続ける。成長するかと言えば、案外そうでもない。ザッパ・ファンは新たな世代が生まれ続けているが、最近の大西さんのザッパ・ニュース・メールでは、ドイツのザッパ・ファンのサイトで、「イリノイの浣腸強盗」で歌われる事件が本当にあったのかどうかと質問しているファンがあった。
ザッパ・ファンならあたりまえにみんな知っていることで、またそうでなければ同曲が最初に収録されたアルバム『ザッパ・イン・ニューヨーク』のジャケット内部にその事件を報じる新聞記事の切り抜きが載っているのに、それをまともに見ないファンもいる。ファンはさまざまで、その程度のファンもいることはわかるが、ザッパの音楽を聴こうとする者にそんなことも調べない、あるいはわからない人がいることに愕然とする。作品はどのように鑑賞され、理解されても仕方がないが、その作品に関心を抱き、好きになることは、その作者の心を理解することでもある。それが誤解や理解の足らなさでは、作者が憐れというものだが、そういう見方をしない人はいつの時代にもいる。だが、遅かれ早かれ、そういう理解度の低いファンはファンであることをやめる。そういうことをザッパは知っていたが、そういう人でもレコードを買ってくれるし、またその売り上げによってザッパは新作を作ることが出来たので、世の中は頭の悪いファンが大勢いることも必要だ。で、若いザッパ・ファが生まれ続けることを筆者は別段嬉しいとも何とも思わない。ファンが多かろうが少なかろうが、筆者は40年以上もザッパを聴き続けて来たし、今後もそうだ。そこに理解度の浅いファンに対してどうこうい言う思いもその暇もない。ファンの数だけザッパ論があるはずだが、ザッパが何についてどう発言したかを、一度は自分の語学力で翻訳してよく噛みしめないことには、ザッパ研究もへったくれもない。その当然のことを理解しない自称熱烈ファンが多いのものまた事実だが、英語を話す国のファンでさえも、前述のようにザッパの曲についての基本的知識が欠けていることがあり、日本ではほとんど絶望的と言ってよい。何も無理して理解に苦しむ英語の歌詞をお読み解こうとしなくても、今では毎年顔が変わるかわいい10代のアイドル女子の大群が桃色の声で目の前で歌ってくれる。そしてそうしたアイドルは海外の若者にもファンを作る時代で、6,70年代の髭と毛まみれに薄汚れたおっさんのロックを聴くというのは、かなり格好が悪いことであるだろう。そう思うので、なぜ若いザッパ・ファンが絶えずザッパ・ファンという集合の中に生まれて来るのかよくわからないが、恐い物見たさという意識はいつ時代にもあり、際物に触れてみたいと思うのであろう。
昨日はバレンタイン・デーを記念してアレックスからメールが届いた。アレックスの企画に賛同して資金を提供した人だけに送られるもので、YOUTUBEにアップされていない特別の映像も添付されていた。それは3月に発送するという、資金提供者に向けてのグッズの段ボール箱の山だ。アレックスはその中から適当にいろんな物を取り上げて紹介する。どうせいずれ届けられるもので、珍しい映像ではないが、アレックスにすれば着々と約束を果たす準備をしていることを伝える義務があると思っているのだろう。そして、肝心のアレックスが進めている映像発掘作業だが、今回は1分少々のものが3編紹介された。これらのロング・ヴァージョンはいずれファンに届けられる。3編のうち2編は『ザ・イエロー・シャーク』公演のもので、実際はこの録画は昔海賊ビデオで出回り、もう珍しいものはない。リハーサルは別だが、それもドイツのドキュメンタリー作家がまとめたことがある。アレックスは『ザ・イエロー・シャーク』がかなりお気に入りで、それはザッパ・ファンとしてはなかなか渋く、また非常に珍しいことだが、筆者からすれば、それほどに92年の同公演がもうかなり昔のこととなったという実感を覚える。アレックスの今回のメールからリンクするサイトでは、書き込みが出来るが、そこに散見出来る意見は若者が多いようで、筆者のようなザッパ存命時代からのファンでは考えられないコメントが混じる。つまり、ザッパのあらゆるものが新鮮で、そのことに驚いているコメントなのだ。だが、正直な話、筆者は古い写真アルバムを見ているようで、未知の情報に驚くことはほとんどない。そして、そういうファンは少数派になる一方で、やがてファンの集合からは消えて行くが、そうなった時にはまた何も知らない若いファンが増えていて、ファンの集合は進化や深化をすることはないように思う。3編のうち1編は、最晩年のザッパがアンサンブル・モデルンを使ってヴァレーズの曲を指揮、録音した時のリハーサル映像で、これは初めて見た。ゲイルが書いていたように、その録音は録音者が権利を主張してテープを持ち去り、レコード化される可能性はほとんどないらしい。なぜそういうことになったのかをゲイルは明らかにしなかったが、どうせ金の問題に決まっている。それなりにかかった費用を誰がどのように分担するかでもめたのであろう。また、その録音をアルバム化しても、その売れ行きがどうであったか、また今でもどうなるかはほとんど目に見えている気がする。ヴァレーズの全曲ならまだしも、そうではなく、売り文句に乏しい。アンサンブル・モデルンにすれば、別の指揮者でも演奏は出来るが、ザッパでもなかなか売れないアルバムであれば、他の指揮者ではなおさらで、結局演奏はいつでも出来るのに、アルバムがない。もったいない話だ。この演奏のレコードが無理なら、映像作品として世に出る可能性があるかないかだが、リハーサルを撮影していたならば、本番も撮っていたであろう。それが商品化されることを期待したい。そう言えば『ザ・イエロー・シャーク』の映像もまだ正式に発売されておらず、これがとても不思議だ。さて、アレックスは今月11日がブルース・ビックフォードの誕生日であることも伝え、また彼に面会した写真も紹介した。それを今日は載せる。ビックフォードが恐ろしく老人になっていることにびっくりするが、眼光はさすがに鋭い。近作のイラスト1点も紹介され、腕もまだまだ達者だ。ギター・ケースを持つザッパらしき姿がファンには嬉しい。それでも若いファンはビックフォードの作品について詳しく知らないだろう。ザッパを深く知るにはかなりの年月を費やす必要がある。どんなことでも長年没頭しなければ本当の味はわかりにくい。