●『高松メディアアート祭2015―メディアアート紀元前―』その2
スターがあったとしても地味なので本展はよほど関心のある人以外には注目されなかったのではないか。地味というのは昨日のチケットの写真からわかるだろう。



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砂時計がシンボルマークでこれが何を意味するのかわからないが、筆者は夜に食べたパン屋で砂時計を用い、先月の27日は砂時計から始まって砂時計に終わったと言ってよい。そのパン屋でのことは本展を取り上げる最終日にでも書くかもしれない。会場内かどうか忘れたが、本展のチラシを1枚もらって来た。それを今ようやく広げた。昨日は出品者の名前など、印刷したものがないと書いたが、このチラシはその役割を果たす。それでもわかりやすいとは言えない。それで記憶を辿りながらチラシを参考に今日から書いて行くが、まずは昨日の写真の説明をしておこう。最初の部屋に飾ってあった作品で、2名分だ。そのひとりは、3枚目の写真で、右腕の彫刻が3本、庭に向かって差し出された形で展示されている。すぐに気づくが、どの腕にも耳がくっついている。何でもありの現代美術であるので、それくらいのことでは誰も驚かない。そこで、この芸術家を紹介する映像が同じ部屋で映し出されていた。腕を切り開いて何かを差し込む手術をしているものと、素っ裸の初老の男が皮膚を鉤で突き通され、何本ものワイヤーで吊り下げられている。後者の映像で筆者はピンと来た。多少現代美術に関心のある人なら誰でもそうだろう。その痛々しいパフォーマンスは昔『美術手帖』などで紹介された。70年代後半から80年代前半であったと思う。ついにこういうことをする表現者まで出現したかと驚かされたものだが、その男の作品が本展の最初の部屋で展示されている。また本展に合わせて来日もしたらしい。オーストラリアのステラーク(STELARC)という芸術家で、鉤で吊り下げられるパフォーマンス以降、最新作が本展で紹介され、それが腕に耳を生やす行為だ。そのカラー写真がチラシに載っている。左腕を上げて、そこについている耳にステラーク自身が語りかけているような写真で、知識なしにそれを見る人は、てっきり合成と思う。今では合成写真はプリクラでも簡単に出来るので、奇妙な写真は現実感がなく、遊びと受け取られる。だが、この写真は本当に彼の腕に耳が移植されたものであるようで、そうと知ればたいていの人は気味悪がるだろう。そして、そういうステラークを最初に紹介する本展が、グロテスクという言葉で形容出来ることを予感もさせるが、実際そのとおりだ。
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 現代美術の特に映像を扱う作品はどれもグロテスクな傾向がある。これは現代がそうであるからか。一昨日取り上げたアニメ映画の『星の王子さまと私』は、子ども向きに作られ、また多くの人が鑑賞しないことには費やした経費を回収出来ないこともあって、グロテスクさは排除されているだろう。あってもそれは笑いの文脈での使用だ。その笑いガステラークの作品にないかとなれば、見る人によって違うが、漫画なら笑われる行為が本当の人間が人体実験のようなことをするのであるから、真っ先に痛々しさを感じさせる。グロテスクという言葉を使わないのであれば、サディズムやマゾヒズムでもよい。そういった概念がなぜ現代美術の映像作品に目立つかと言えば、いつでもどこでも誰でも目撃者兼撮影者となれる時代となって、暴力的な映像がニュース映像として茶の間に頻繁に流されるからでもあるだろう。今世紀に入ってテロ行為による実際の悲惨な事件映像に人々は一種慣れて来ていて、映像を芸術作品として見せるには、そういう事件映像の衝撃性を前提とせねばならないと、作家は思っているのではないか。そう思わなくても、無意識のうちにそういった映像に感化されるだろう。その一方、ステラークの作品行為は、誰しもすぐに思い当たるように、ピアスや刺青、あるいは美容整形など、人体を改造することがごく普通に、また大昔から行なわれて来ていることの延長上で捉えることも出来る。タイの少数民族に、若い女性が首に輪を嵌め込み、その数をだんだんと増やして首を長くする風習がある。首が長いほど美女と信じられているからだが、他の民族から見ればグロテスクの極地に思える。ステラークは人体を退化したものとみなし、自己改造を進めようとしているが、前述の左腕に生えた耳は、どうやら金属製の耳の形をした骨を埋め込み、月日が経った頃にその形状に沿って皮膚や肉が盛り上がって来たもののようだが、それは暫定的な処置で、医学的に耳の形を自分の細胞から培養出来れば、それを移植したいのだろう。その行為をグロテスクと言うのは簡単だが、顎の骨を削ってほっそりとした顎に見せようとする整形手術も同じような行為で、自分の体を改造する点で変わりがない。ステラークの行為を、単なる目立ちたがりと思う人も多いだろうが、全身に刺青を施す人が一方にはたくさんいて、目立ちたがるというのは人間の本能であると言える。その方法がステラークのように誰もやらないものであれば、それは強い個性であり、またその方法は芸術とみなされる。ステラーク自身は厳密な理論を持っておらず、あれこれ言うのは評論家だけかもしれないが、行為の後に理論はついて来るもので、ステラークの直感にしたがっているであろう行為は、見るものを戦慄させ、黙らせる。
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 さて、昨日の最後の2枚の写真もかなりグロテスクで、とても印象強かった。作者はベルギーの若い女性で、アレックス・フェアへスト(Alex Verheast)の3Dプリンターで作った融ける首3点と、映像作品だ。前者はさほど衝撃的ではないが、後者はしばし釘づけにされた。写真はTV画面を撮ったもので、家族の集合写真のようだが、合成された感じが強い。この写真に登場する各個人をひとりずつ捉えた別のTVモニターも同じ部屋にあって、よく見るとみんなごくわずかに動いている。実際の人物を撮影したものか、CGで作ったものかわからない不気味さがあるが、たぶん実在の人物ではなく、作者がCGで作ったものだろう。実際の人物ならもう少し血が通った雰囲気がある。だが、この映像の人物たちは誰もが死者に見える。9人全員が別の方向を見て、視線を合わさず、また全員が他人同士のように冷ややかだ。写真からでもその様子がわかると思うが、これが薄暗い和室に置かれた実際の画面で見ると、悪夢を見ているような気分になる。本展で最も衝撃的であったと言ってよいほどで、この作家の力量と言うか、あまりに特異な才能に驚嘆する。だが、その感動は恐いものを見たという禍々しさで、素晴らしいものを見たというものでは全くない。いい意味でもわるい意味でも、現代美術の映像作品の典型がここにあると言ってよい。だが、彼女の作品はフランドル絵画の古典から連なったもので、歴史性がある。この映像作品の題名は「Temps Mort」で、これは「タン・モール」で「死の時」の意味だが、フランス語の「静物画」すなわち「Nature Morte」の「死んだ自然」に引っかけていることはすぐにわかる。アレックスは、フランドル絵画の静物画やまた人物画に注目し、その現代版を映像作品で見せようとしている。そして、静物画が「Morte」(死)と呼ばれることに着目した。それで9人の人物は誰もが死者のように不気味だが、この映像作品はほかに静物画そのものの場面を含み、またそれは蟻や蝿が群がって腐敗している様子を捉える。それは、フランドル時代の静物画がもはや完全に腐ってしまったという時代の違いへの思いを表現したいためかもしれない。一方、日本ではフランドル絵画とそっくりに見える写実的絵画が人気で、そこに描かれる世界は、エロはあってもグロはない。日本ではエロはえろう歓迎されるが、グロは駄目だ。ただし、映像作品は別かもしれない。ともかく、アレックスはフランドル絵画の延長上に、それを引用しつつ批判し、新たな映像世界を生もうとしている。その大きな特徴と成功例が、本展の「Temps Mort」で、画面に向かってケータ電話でなにがしかの番号を送ると、画面内の右端の男の手元に映っているテーブル上のケータイが即座に鳴り、男がそれを取って電話に出るという仕掛けが凝らされている。他にもそのようなことがあるのかもしれないが、インタラクティヴという方法を採り込んでいるところが斬新であり、またこの作品の本質をより強く示してもいる。というのは、画面内の人物は、前述のように実在すると言うより、あの世にいるという感じが拭えない。そしてそういう人物が鑑賞者がかけた電話に出るということは、悪夢でなくて何であろう。アレックスはかなり意地悪なグロテスクな趣味を持ち合わせていると言ってよいが、だがそれは現代人なら誰もがそうなのだ。さて、今日はブルース・ビックフォードの話にならなかったが、明日は書く。
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by uuuzen | 2016-01-07 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON | Comments(0)


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