●『リトルプリンス 星の王子さまと私展』その2
紅という印象があるが、会場の入り口で飾られたトンネル状垣根の紙製の薔薇の色は朱色であった。チラシやチケットの中央に印刷される星の王子が砂漠に寝そべっている横に咲く1本の薔薇の花はそうではなく、深紅と言ってよい。



d0053294_1344999.jpgやはり本展の紙製の薔薇は日本で作られたものと思える。それはさておき、今日載せる最初の3枚の写真は、映画の撮影のために制作されたキャラクターの実物で、顔の部分がいくつものヴァリエーションがある。服装は紙製で、前述の砂漠など、セットもみな紙で作られた。原作の小説が紙であるからで、その挿絵を3次元の立体で表現するにも紙がよいと判断された。これはCGで制作される「今」の物語と視覚的に大きく区別をつけるためにもよい。簡単に言えば手作り感覚だ。とはいえ、拙さが目立っては駄目で、それで登場人物たちの顔をアニメで表現するのに多くの表情ごとの実物が必要となった。このたくさんの種類の顔をいちいち嵌め込み直して駒撮り撮影したのだが、それはCG部分とは違って、独立系の制作会社に依頼したようだ。今日の4枚目の写真にあるように、そのストップ・モーション・アニメは1、2秒作るのに1日要し、全体で16分のアニメを50人で1年かかって作ったという。人件費で言えば「今」の物語部分とどちらが高くついたのだろう。昨日の最後の写真にある85分がCGアニメ部分だとすれば、合計で101分の作品となって、これは子ども向きの作品としては少し長いように思うので、85分はストップ・モーション・アニメを含むのではないか。ともかく、「今」の物語部分が圧倒的に多く、『星の王子さま』の小説のアニメ化を期待する人は、16分のみ楽しめると思っていい。また、原作のイラストに強い愛着を持っている人は、3次元ではなく、サン=テグジュペリのイラストをそのまま動かした線描きのアニメを期待するだろう。だが、それは難しいし、また原作のイメージを壊す恐れが大きい。プロのイラストレーターならば、簡単にサン=テグジュペリの挿絵をアニメに出来るだろうが、拙さをどこかに持たせながら原作の絵を解釈することは、誰がどうやっても文句を言う人がある。そう考えたことも、ライン・アニメでなく、チラシにあるように「パペット人形」を作り、それを少しずつ動かして駒撮りすることを監督は決めた理由ではないか。また紙で作ったのは、原作の物語のはかなさを表現するのによい。線描きではそれは難しい。そこには音楽がどうであるかの疑問が湧く。会場の展示からはこのアニメの音楽については何の紹介もなく、ここでどうこう書くことは出来ないが、ひとつ言えるのは音楽は映像と同じほど重要ということだ。そこを監督はどう考え、また処理したのだろう。重要というのは、「今」の物語部分ではなく、『星の王子さま』の原作を描く部分だ。サン=テグジュペリに、またこの小説にどのような音楽がふさわしいか。ヒントらしきものがないだけに自由に考えることが許されるが、それは困難さをも意味している。
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 「今」の物語部分は、老パイロットと少女が主役となっている。少女は教育ママから勉強を強いられているという設定で、これは日本を意識しているように思った。そのことは少女の顔からも言える。ディズニーの最新作のCDアニメ映画でも女性は東洋人っぽい。それは作品を世界に売るためには欠かせない設定なのだろう。それと、日本の漫画やアニメのアメリカへの影響も言える。本展では背景画やキャラクターなど、「今」の物語部分の原画がたくさん展示された。筆者は日本の漫画やアニメは詳しくないが、それでも日本的な表現の強い影響があると感じた。それほどに日本のアニメはもはや無視出来ない力を持っている。日本を無視して作り得ないアニメは、純粋にアメリカ性というよりも、一種の国籍不明性をまとうことになるが、それは制作者側にはどうでもいいことだろう。問題はいかにして世界中に売れるかだ。それに日本でとても人気のある『星の王子さま』であるので、日本的な要素は欠かせないとも言える。つまり、いろんな面から日本がちらついて見えるアニメのようで、それがまた今的な作品として筆者には興味深い。教育ママから勉強が強いられる女の子が老いたパイロットと心を通わせるという物語は、日本では、あるいは世界でもまずあり得ない話で、そこにいかにも現実的な教育ママとその子が登場するのは、「今」の物語の中に「今」ではない非現実性が露わになっていて、この映画は二重構造ではなく、もっと複雑と言ってよい。そしてアメリカ以上に日本を見定めた物語で、学校の勉強ばかりして成績がよくなることを目標にしている母子に対する批判もうかがえる。映画を見ないことにはわからないが、そういう一種の親からの虐待を受けている子どもが、老パイロットとの出会いで、心を取り戻して行くといった「今」の物語なのであろう。老パイロットは、飛行機に乗ったまま行方不明になって死んだサン=テグジュペリになぞらえたものと言ってよいが、ただしこの映画のストップ・モーション・アニメに登場するパイロットもCGアニメに出て来る老パイロットも細面で全くサン=テグジュペリには似ていない。ストップ・モーション・アニメのパイロットの頬かむり姿は「アラビアのロレンス」を思わせるが、『星の王子さま』の重要な舞台が砂漠であることからの発想だろう。この老パイロットが女の子に『星の王子さま』の本を教える設定だと想像するが、ストップ・モーション・アニメのパイロットが老いてCGアニメに出て来るパイロットになるのかどうかはわからない。また原作ではストップ・モーション・アニメのパイロットは挿絵では描かれないので、原作の小説のアニメ化の難しさがわかる。つまり、原作の挿絵はあまりに情報量が少ない。
d0053294_1352145.jpg 原作には教育ママもその子どもも登場しないが、星の王子さまに対して現実の同世代らしき女の子を登場させないことには映画として釣合いが取れない。また、原作に登場する大酒飲みや仕事中毒者に対して現在の女性モンスターとなれば教育ママという発想になったのであろうが、映画の結末ではその親子はどのような関係に至るのか興味のあるところだ。教育ママが改心するとすればうすっぺらい、また非現実的な物語になるし、女の子が一時の夢を見ただけの経験をしたというのでは、全く夢も希望もない話となるから、『星の王子さま』という原作から何を教育ママとその子が学ぶかを描くことは簡単でないどころか、安易に原作を結論づけることになってしまう。この難しい問題を最初からよくわかりながら、それでもアニメ映画を作りたかったのは、結局原作の素晴らしさをわずかでも伝えることが出来ればとの思いからだろう。それに対して映画の大部分を成すCGアニメによる「今」の物語はいくらでも代替作が可能で、またそういうものを見るために映画館に足を運ぶのは御免と考える『星の王子さま』ファンは少なくないはずで、それなりに話題になるだろうが、今が過ぎればどうか。そういう時に映像的に価値があるとすれば、紙で作ったキャラクターを動かしてアニメを作った部分と、最先端のCG技術で作ったアニメ部分との対比が面白いというアイデアだろう。後者は今ではいくらでも精緻に見せることが出来て、かえって非現実感を醸し出してしまうので、多少は作り物であることを示すわざとらしさの技術によるわざとらしさでない工夫が必要だが、そのことはパペット人形を使ったストップ・モーション・アニメの面白さを再認識させるだろう。ということはこの映画は、CGアニメ部分はどうでもよく、手作り感覚に満ちるわずか16分の映像ということになる。今の教育ママは子どもがアニメの世界に進むとして、個人あるいは数人で経営する独立的な会社ではなく、ワーナーのような大資本の会社に入ることを願うだろう。そう考えると、この映画はワーナーの自己批判にもなっているかもしれない。
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by uuuzen | 2016-01-05 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON | Comments(0)


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