久しぶりというのはどれくらいの年月を指すのか、ともかく本当に久しぶりに大阪の地下鉄の都島駅に下車した。たぶん25年は経っている。なぜ都島に行く気になったかは。理由はふたつある。
ひとつは蕪村の生誕地の毛馬を訪れることで、これは十数年前から気になっていた。だが、毛馬のみ訪れるのは億劫であった。何かもうひとつふたつの目的がほしい。それがついに訪れた。その話を今日はする。9月10日に家内と岡山に行った帰り、大阪の天神橋筋商店街に出た。午後7時前であったのでいつも利用している紅茶とパンの喫茶店で食べることにした。前に何度かこの店について書いたことがある。午後7時からはパンが食べ放題、紅茶は飲み放題だ。筆者らが店の前に着いた時、5,6人の中年女性がすでに待っていた。その中のひとりと早速立ち話が始まり、彼女らは自転車で来店したことがわかった。話をした女性は小学5年生であったか、おとなしい女の子を連れていた。となると年齢は30代後半かと思うが、40歳過ぎではなかったか。いかにも大阪の下町の女性だ。身なりや言葉からそれはすぐにわかる。なれなれしいというのではなく、いい意味での大阪の女性らしさを持っている。それは簡単に言えば優しさだ。彼女は筆者をどう値踏みしたのか知らないが、7時になるまでの5分ほどの間、とにかく早口で会話が弾み、筆者らとは親しく話すことが出来ると思ったようだ。彼女は都島に住んでいて、自転車で20分で来られると言った。そして食べ放題のこの店には何度か来ているとも言ったが、同じように安価な店として都島本通り沿いにラーメン屋があると言った。とにかく信じられないほど安く、よく行くと言った。店の名前を覚えたので、帰宅して調べるとすぐにわかった。安いから食べに行きたいというのではなく、どうせ都島に行くなら食べに行こうとの考えだ。それで結果を言えば9月22日に大阪に出て、都島ではそのラーメン店と神社巡りと、そして毛馬の閘門を訪れた。さらに午後は大阪歴史博物館で展覧会を見、その後は大阪城公園にも行ったので、有意義な一日であった。

都島に住んでいるというその女性の名前を訊くことは出来ないし、もう二度と会えないだろうが、とても気安い女性で気持ちがよかった。細身で背は160センチほど、美人とは言えないが、印象的な顔で、また出会えばすぐに彼女だとわかるだろう。子どもの身なりを見ても生活のレベルが想像出来るが、それを恥じている風はない。店内に入ると、筆者らが後から来たというのに、先にレジをするように前へと譲ってくれた。その店は先に会計を済まし、それからトレイに好きなパンを盛りに行く。食べ放題とはいえ、午後7時になるともうかなりパンは売れているから、種類は豊富とは言えない。日によっては数も少ない場合がある。そういうことを知っているはずなのに、その女性は筆者と家内の背後に回った。そして座席は隣り同士にはならなかったが、紅茶のお代わりをするコーナーで筆者と隣り合った時、彼女は筆者の事を「とても繊細ですね」と言った。どういう仕草を見てのことか知らないが、そのように感じたのだろう。その言葉は初対面の相手に向かって言うには失礼ではないが、意味の取り方によっては、特に男の場合は気分を害する者があるだろう。だが筆者はそのあまりに的確な言葉に驚き、今でもその時のことを鮮明に思い出す。筆者は自分がどういう仕事をしているかを言わなかったが、相手は直感で筆者の性質を理解した。またその言葉の裏には多少は「もっとしっかりしいや」といったニュアンスが込められていたように思うが、それほどにその女性は逞しく生きているということだ。それは傍若無人ということではない。経済的にゆとりの乏しい生活であっても正しく生きると言えばいいか、あるいは野生的でありながら規律を重んじていると言うべきか、そのような人はどこにでもいくらでもいるが、大阪の下町では特に多いと思う。もちろんその反対のどうしようもないワルといった連中もいるが、それは少数だ。大多数は彼女のようにおおらかで人に優しく、またあけすけな性格ですぐに誰とでも仲よく話すことが出来る。彼女のことをブログにこうして書き留めておきたいのは、彼女と交わした言葉、そして彼女と出会ったことで四半世紀ぶりに都島に行く気になり、蕪村の生家跡を眺めることも出来たからだ。さて、前述のようにせっかく都島に行くからには神社を回ることにし、ヤフーで地図を印刷した。そしてラーメン屋で食事した後、最初に訪れたのが都島神社だ。