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●『陽のあたる場所』
審員裁判で判決が出た後、控訴すればよいのに思わせられたが、主人公の男性は殺意があったのは事実であったので、牧師に話をしてそのことを諭され、それで死刑を受け入れる。



●『陽のあたる場所』_d0053294_1352355.jpg日本では死刑判決が出ても何年も執行されないが、今日取り上げるアメリカ映画ではそれがとても速かった。それは被告が判決を受け入れたからとも言えるが、何年も生かせておく必要はない、それは被告のためにもよくないという考えがアメリカにはあるのかもしれない。日本も陪審員制度を採り入れたが、アメリカの事情が参考になるのかならないのか、国の違いで陪審員裁判の方法も多少異なるように想像する。それはともかく、本作は単純な物語で、主要な人物は男ひとりに女ふたりで、三角関係の果てに、男は最初に好きになった貧しい身寄りのない女性を殺害しようと計画し、それを実行する直前に予想外のことが生じて女は溺死してしまう。そのことが他者に信じられるかどうかだが、目撃者がいないことが男に逆に悪い影響を与える。つまり、誰も男の言い分を信じないからだ。誰も見ていない場所で殺害しようと思っていたのに、目撃者がないことが陪審員への印象を悪くした。いくら事実を法廷で述べても、邪魔者の女性を消したと誰もが思う。そして前述のように、最初は殺そうと思ったので、それは殺していなくても殺したことと同じと思うが、諦めが早いと言えばいいか、きわめて悪いことをすれば罰せられるべきという正直な思いに達したのは、男が母とのふたり家族で貧しく育ち、そして子どもの頃から母と一緒に街角に立って恵まれない人たちのために募金を集めるなどした経験があるためで、本作はキリスト教を主軸に置いた教訓的な映画と言える。その点は韓国ドラマととてもよく似ていて、もちろん韓国ドラマは本作のような戦後の名作をあらゆる角度から参考にしているからだが、本作の貧しい者と富める者を登場させる点は特にそう言える。いつの時代も貧富の差はあって、貧しい人は金持ちになりたいと考えるが、1950年頃のアメリカと現在の韓国がちょうどよく似ていて、韓国はアメリカに経済的に半世紀遅れている。韓国ドラマが日本でどことなく懐かしく感じられるのは、日本も昔は韓国のように貧しい人が多かったからでもあるだろう。今は今でまた貧しい人は多いが、国として一度貧しさから成金国に這い上がったので、今の貧しさは戦後すぐのそれとは同じように考えることは出来ない。それはともかく、本作は先週右京中央図書館で借りたが、その気になったのは多少理由がある。3週間ほど前か、NHKのTV番組で、ハリウッドで生きて来た映画学者のような男性が、若者に名作の場面を示しながら、それがなぜ名作とされているかの分析をするものがあって、数回続いたようだが、たまたま筆者はそれを5分ほど見た。ちょうどその時に説明されていたのが、本作の場面で、主演女優のエリザベス・テイラーと主演男優モンゴメリー・クリフトが顔をくっつけ、鼻と鼻をジグソーパズルのように上下に接し合わせていた。画面いっぱいにふたりの顔のみが映り、これは監督が、ふたりが相思相愛であることを暗示するために考えた構成で、名作とはそのようにどの場面も意味があって撮られているというのであった。あたりまえと言えばそうだが、そのようなことを考えずに撮る三流の監督も多いだろう。これは写真や文章でも同じで、秀でる人は必ず美的なこだわりを持って作る。映画は音楽や俳優の演技など、多くの事柄が合わさって出来るもので、それぞれの担当がこだわりを持っていなければ名作など生まれるはずがない。その点本作が名作とされるのは、熟考がなされ、無駄がないからだが、俳優の演技に負う部分ももちろん大きい。
 本作は戦前に『アメリカの悲劇』という小説を基にして一度映画化されている。ジョージ・スティーヴンス監督はそれをリメイクしたがったが、映画会社の上層部は首を立てにふらなかった。二番煎じがヒットするはずがないとの思い込みだ。スティーヴンスがこだわったのは、戦争を経て時代が変わり、それでも『アメリカの悲劇』の物語は古びていないとの確信があったからで、原作を戦後アメリカの世相に置き直しながら、新たな俳優を抜擢して撮ることに挑み続け、会社を訴えてまでも上層部の考えを翻そうとした。そこまで自信があったのは、戦時中に従軍撮影隊としてヨーロッパ各地でドキュメンタリーをたくさん撮ったからで、時代の変化を肌で感じていた。また、最初に影響を受けたのはレニ・リーフェンシュタールの『意志の勝利』で、映像の芸術性にはこだわりがあった。本作は1949年に撮影されたが、当時モンゴメリーは29歳、エリザベスは17歳で、12歳の年齢差があったが、本作からはあまりそうは思えない。彼女は大学生との設定で、3,4歳は老けて見えるが、ま、それでも若いことには変わりがない。モンゴメリーは映画が始まってすぐ、カンザスシティーの故郷からヒッチハイクで伯父のいる都会に出るが、車はなかなか停まってくれず、ふと背後を見ると、そこに水着を来た若い女性が横たわった大きな看板があって、それが大写しになり、次にモンゴメリーの顔が同じように画面いっぱいに映るが、その時に目尻などに小皺が目立ち、29歳を納得させる。この最初の場面は観客を引き込むのにとても効果的だ。それは、ひとつはその看板はイーストマン社のもので、モンゴメリー演じるジョージもイーストマン姓であり、彼はその看板を立てた会社を目指すことを示すとともに、看板に描かれる魅力的な美女にも出会いたい、また出会うことをも暗示しているからだ。そして、また路傍に立って自分を乗せてくれる車を待つが、その時、キャデラックだろうか、そのような豪華な流線型の屋根のない車が彼を見向きもせずに走り去る。運転手は大写しにはならないが、エリザベスだろう。そしてその場面もいかにも暗示的で、彼女は結局ジョージとは一緒になれずに、自分の人生を進んで行く。そのことが最初の場面にすでに描かれている。彼女の車が去った後、ジョージはようやく乗せてくれる車を見つけるが、それはとてもオンボロで、貧しい初老の男が運転している。その車に乗ってジョージは叔父の会社にやって来る。では叔父はそれまでジョージのことに関心がなかったかどうかだが、そうだったのだろう。親類のさまざまな事情はいつの時代にもある。簡単に言えば金儲けのうまい人もあればそうでない人もあり、韓国では後者は前者を頼り切りになるのが相場で、血縁の結びつきは日本では想像出来ないほど強靭と言える。またそれがあるために、一族から大統領が出ると、誰もがそれに群がって甘い汁を吸おうとすることは、歴代の大統領を見ればよくわかる。アメリカではどうかと言えば、本作から多少はわかるかもしれない。ジョージは母と貧しく暮らし、学校も13歳までしか行かなかった。金のためには何でもしたと彼が語る場面があるが、そのことをジョージは恥じていない。それは、母の信心深さにそれなりに理解を示し、悪いことはしないという生活を送って来たからだ。ところが、30近い年齢になっても学歴のない田舎暮らしでは収入は知れている。それで親類を頼ってどうにか現況から脱出したいと考える。それは無理もないことで、それくらいの野心は男は持ってよい。だが、伯父にすれば長年彼を見なかったのだろう、そのためにどの程度の働きぶり、才能があるかわからない。それでまずは会社で下働きをさせる。それも当然で、またジョージも素直にそれにしたがう。おそらくそれまでの田舎での暮らしよりはるかにましであったからだ。そこに戦後の時代が急速に変わって行くアメリカの姿がある。金持ちの伯父にしても、女性用水着の販売でいわば成り上がったのであって、それくらいの運はジョージでもつかめる時代であった。ここでまた韓国ドラマを持ち出すと、韓国ではもはやそのような一代での成功は掴みにくい時代になっている。大学を出るにも金がかかるから、本作のジョージのような男が陽のあたる場所に出るには、金持ちの娘と結婚するくらいのことしかない。ただし、それも不可能だろう。財閥の娘が取り柄のない貧しい男にぞっこんになる可能性はゼロで、また仮に1万人にひとりくらい物好きがいても、その親が絶対に許さない。同じくらいの金持ちないし何代も続く旧家の出でもない限りは無理だ。それは本作当時のアメリカでも同じであったはずだが、幸運なことにジョージは伯父が金持ちで、社交界に出入り出来る身分であった。その血筋を引くということで、金持ちの娘は恋愛の対象として見るだろうし、また好きになっしまえば、女の両親もかわいい娘の言うことをそう無碍に退けることはない。
 ジョージはスーツを買って伯父の家を訪問する。そこにたまたまエリザベスが演じるアンジェラ・ヴィッカーズが現われる。だが彼女はジョージに見向きもしない。一方のジョージは目が釘づけになり、このような美女が出入りしているのかといった思いに浸る。さて、ジョージに与えられた仕事は、ベルト・コンベアで運ばれて来る水着が入った箱を積み重ねるような単純作業だ。それは女の仕事と言ってよいが、文句を言わずに数か月働く。ある日伯父が仕事場にやって来て、ジョージがまだそのような単純労働をしていることに驚き、すぐに昇進を命じる。それは働きぶりがよかったからでもあろう。人柄と実力を判断するのに数か月は必要で、血縁であっても他の社員の手前、そう贔屓にすることは出来ない。ただし、同僚の女性たちは、同じイーストマンであるので、いずれ上司になると思っている。またイーストマン社が女が多い職場で、社内恋愛は厳禁されている。そのことが壁に標語として書かれているほどで、ジョージもそれを守り、すぐ隣りにいる若い女性に色目を使うことなどをしない。ところが、ある日、ジョージはひとりで映画を見に行くと、座席をひとつ空けた隣りに仕事場ですぐ隣りに陣取っている女性が座っていることに気づく。ふたりは急速に接近し、そしてジョージは彼女のアパートに泊まる間柄になって行く。交際が発覚すればふたりとも会社を辞めねばならないから、人目を憚ってのことだ。ついに彼女アリスは妊娠してしまう。よくあることだろう。アリスは身寄りのないひとり暮らし、ジョージも孤独となると、磁石のようにくっつく。だが、妊娠はふたりにとって問題だ。社内恋愛禁止を犯すことになるからだ。それでアリスは結婚してくれとせがむ。これも当然で、ジョージはそうしてもよかったはずなのに、昇進してからは伯父の家に出入りし、そこでまたアンジェラに出会い、ふたりは急速に親しくなる。アンジェラはどこか影のある、だが真面目なジョージに魅せられたのだ。ジョージはアンジェラは雲の上にいるような存在だが、結婚出来れば一気に薔薇色の生活が待っている。地味なアリスと結婚すれば、その夢は捨てなければならない。アリスは慎ましやか生活でいいので結婚したいと言うが、その慎ましさをジョージはもはや受け入れることが出来ないようになっていた。これは遡れば伯父が成功者であったからだ。そのような身内がいなければアンジェラと出会うこともなかった。アンジェラが寡黙なジョージになぜ急速にぞっこんになったかは本作ではあまり描かれない。だが、17歳の女性が若い男を好きになるのに理由や時間は必要がない。一瞬で燃え上がるのが若さで、それはまたすぐ忘れてしまうことの残酷さを秘めているが、本作ではアンジェラは死刑になる寸前のジョージに面会し、いつまでも忘れないと言う。それはかなり月並みは表現だが、そのくらいの優しさがジョージに与えられなければ、彼は呪詛しながら刑に臨むだろう。本作のその後のアンジェラを考えると、数年後には別の男と結婚して幸福になるはずで、本作は高望みをした貧しい者は結局無残な死に方をするという現実を提示していて希望がない。だが、人を殺めることを一度でも考えて実行しかけた者は、神に罰せられると描くのが、当時の、そして今なお常識で、ジョージはもっと別な生き方をすべきであったということだ。そうはいえ、日陰に長く生きて来た者が、目の前にいわば葱を背負った鴨のような若い美女が抱いてほしいと飛び込んで来れば、それを拒否することはあり得るか。独身の若い男なら、どうにかしてそれを物にしようと考えるであろうし、そのためには障害を取り除こうとする。ただし、それが殺人であればどうか。ジョージはアリスを人のいない湖にボートで連れて行って、そこで彼女を溺死させようと計画するが、アンジェラがそういう事件があったことを何気なにしジョージに言ったことがきっかけとなった。そこに無垢ではあるが、それゆえのアンジェラの残酷さが描かれている。ジョージも無垢で、それだけに暴走しやすかった。アリスを殺そうとしながら、踏み留まったジョージは、その時何を考えたか。おそらくアリスという恋人がいて、おまけに妊娠していることを正直にアンジェラに言うつもりであった。ところが、ボートの上で立ったアリスはバランスを失い、ジョージとともに湖に落ちてしまう。それは湖の陽のあたらない場所での夕暮れの出来事で、神だけが見ていた。アリスを死なせ、アンジェラを絶望させたジョージは、母をひとり残して先に死ぬことになるが、信心深い母は気丈だ。ジョージもそうであるだろう。それがせめての救いで、犯した罪の大きさにしたがって人は償わねばならない。日陰者が陽のあたる場所に這い出ようとするには、最低限守るべきことがあるとの教訓が見える。とはいえ、現実は信心深い真面目な者ほど日陰で暮らすのではないか。その矛盾を描いていると言ってもよい。
by uuuzen | 2015-07-07 23:59 | ●その他の映画など
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