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●『ラース・ミュラー 本 アナログリアリティ』
抗感と言えばおおげさだが、日本では馴染みのない印象を持った。本の見た目の容量に対する重さのことで、ほとんどの本は筆者には重かった。その抵抗感が本の主張、すなわち本を作った編集者たちの思いだ。



●『ラース・ミュラー 本 アナログリアリティ』_d0053294_13553494.jpgそこに文化の違いを感じることが出来る。欧米の書物は洋書と日本ではひとくくりにされ、学者でもなければ一般には馴染みがあまりない。そして洋書は日本の江戸時代の本とは違ってもっと分厚くて重厚で、それには長い歴史がある。明治になってからは日本の本もそうした洋書に倣った製本が始められ、今はほとんどそれだけになっているが、和綴じの本の歴史をすっかり忘れたのではなく、欧米の本とはどこか違う日本の持ち味というものがあるだろう。今はあまり言わないかもしれないが、菊版とか菊倍版といった言葉があって、本のその大きさに慣れて来た。洋書はやや縦長で、またもっと多様だが、それは国によっても違いがあるだろう。本はその国のさまざまな事情を反映し、ただ書かれている中身だけに価値を認めるべきではない。一方、スマホが全世界に浸透し、本のいわゆる中身だけが求められるようになって来ているが、その中身をスマホの画面上にどのような字体で見せるか、また写真をどう配するかなど、デザイン性は永遠につきまとうから、本の中身だけが重要であるとの考えは意味としては正しくない。本の中身は文字のデザインなどに負っていて、中身と外見は切り放すことが出来ない。筆者はこのブログを始めた時、表示についてこだわった。画面いっぱいに文字を表示しているホームページでは1行当たりの字数がとても多く、また行間が狭いので、行の最後まで読み、次の行に移る時、同じ行を読むことがしばしばある。本でも新聞でも1行当たりの文字数が100ほどということはない。本や新聞を読み慣れている目からすれば、パソコン画面幅いっぱいの文字表記はとても読みにくい。そこでこのブログでは30数文字がちょうどいいと判断したが、背景の原稿用紙の枡目を大きくすると文字が小さく感じるし、逆に小さくすると文字との釣合いが取れずにやはり不自然であるから、桝目内に文字をうまく嵌めることは不可能としても、桝目と文字の大きさに違和感がないようにデザインした。そのため、筆者のブログを読むのに、改行で同じ行を読むことはまずないだろう。こうした配慮は本のデザインの初歩だ。いかに読みやすく、そしてきれいに見えるかに腐心する。筆者はスマホでこのブログを見たことがないので、そういった文字の大きさや行間などがどのように表示されているのかわからないが、もともとスマホは小な画面であるから、せっかくの筆者の画面の見栄えに対する考えは最初から通用せず、無様に見えているかもしれない。スマホの画面は指の操作で拡大出来るが、元の画面の大きさは決まっているから、拡大するほどに部分しか見えない。それではもどかしい。拡大するならスマホ自体が大きくなるべきだ。数十年経たない間にそのような技術が生まれると思うが、そうなるとスマホは多少本に近づく。だが、肝心のと言うべきか、本が持っている重さや質感という「現実感」は再現されない。それは本の内容とは無関係と言う人は、芸術など世の中になくてもいいと思っている人で、筆者は話をしても面白くない。ということは、筆者のような人間がいる限り、本はなくならない。本はレコードやCDと同じように思われがちだが、前者は比較にならないほどの長い歴史がある。それは人間が文字を使う動物であることに根ざしていて、文字の記録は音のそれとは本質的に違う。音の記録は再生が目的で、それ以外にない。記された文字を他者が読むこともそうと言えるが、それだけではない。文字は書かれながら、また読まれながら、頭の中で絶えず思いが動き回って新たな言葉を生み続ける。字面はじっとしているが、実際は蠢いている。記録である一方、読むたびに違う何かが浮かび上がる。
 さて、太秦の大日本印刷株式会社のビル1階に去年10月に出来た京都DDDギャラリーで今月30日まで開催されている無料の展示会について書くが、銀座のGGGギャラリーでは第202回目の企画展だ。チラシや目録、それにB6サイズで糸綴じの図録が無料で、印刷会社であるからさほど経費はかかっていないにしても、サービスがよい。スイスのチューリヒで出版社を経営するラース・ミュラーという1955年ノルウェー生まれの男性が作った本100冊の実物を手に取って見ることの出来る展示会で、本好きにはとてもいい機会だ。受付嬢によると、ラースが出版した本のおよそ半数が出品されている。スイスの本をこれほど多く一度に見る機会はめったにない。他のヨーロッパ諸国とどのようにデザインなどが違うのかと思うが、洋書に馴染みがあまりない筆者にはわからない。ましてやノルウェー生まれでスイスで出版であるから、国の特色があっても重層化していて、なおのこと特徴はわかりにくい。7,8年前か、ドイツ文化センターでドイツが毎年出版するすべての本から「美しい」と評価を受けた本を100冊ほど並べる機会が毎年あった。それが奈良県立図書館で開催されるようになってからは、同図書館が奈良でも不便な場所にあることも手伝って、すっかり接しなくなった。そのため、本展は久しぶりにヨーロッパの本をまとめて手に取る機会となった。本展「美しい」と評価を受けた本を選んで並べるものではなく、ラースの個性を知るためのものだ。白い壁にラースのインタヴュー映像が投影されていて、彼の顔はランディ・ニューマンっぽいと言えばいいか、眼鏡をかけたがっちりタイプで、おおらかな表情だ。ヨーロッパ各地の大学で教えていて、熱心な教育者と知られるそうだが、もちろんデザインの分野だ。出版する本は建築、デザイン、タイポグラフィー、アート、写真がもっぱらで、本展に並んだ本はどれもそれらのジャンルに属する。バックミンスター・フラーを尊敬しているとのことで、その点はロック世代すなわち筆者と同世代であることを感じさせる。本の大きさはさまざまで、表紙に石の板を使ったものもあるなど、装丁へのこだわりが強い。比較的薄くて手帳サイズの小さなものは別として、大半はアート紙を使って見た目よりずしりと重く、テーブル上で広げて目を通すのはいいが、手に取ったまま読むことは疲れる。第一印象はまずそうであった。それは筆者が重い本を所有していないからではない。筆者はもっと重い本をたくさん持っているが、それらは見た目も大きいので、覚悟が出来るし、また見た目と重さが一致して違和感がない。ラースの本は見た目は容量が小さいのに、かなり重い。そのように作るのが好みなのだろう。手に取って重いと感じると、それだけで立ったままでは長く見続けることが億劫になる。そういうことを思って、本展では30冊ほどだろうか、1冊ずつがテーブルの広い場所を取って置かれ、椅子に座って読むことになっている。そのため、30冊を全部見るには30回席を移動せねばならない。すぐ隣りに移動すればいいというのではなく、立って数歩は歩き、座る角度も変える必要がある。そのことを億劫と思う人は本好きではない。本展はそのような人を対象にしていないだろう。わざわざ会場にやって来て、しかもわざわざ1冊ずつ場所をすっかり変えて触れることを厭わなければ、予想外の何かを感得出来るとの主催者の考えだ。スマホの画面で指先ひとつで表示させることとは正反対で、本当の現実性とは何かを教える。その第一歩は、本の重さだ。筆者は30冊全部を手に取ってぱらぱらと見たが、その後棚に並べられる残り70冊を全部確認する気力を失った。とはいえ、筆者はそうしたが、座って見た本より印象が薄い。100冊すべてを記憶に留めるには数時間は必要だろう。筆者は30分ほどしか費やしていない。それでは概観であって、感想を書く資格はないが、その第一の感想は最初に書いた本の意外な重さだ。それだけでも伝えたい。そして、本が重いということは、けなしているのではない。本が重いことは意味があり、重くあるべきだ。スマホ時代ではなおさらだ。その重さを味わってこそ、本の内容をより強く記憶に留め得る。筆者が連想したことは、老いた母を背負う啄木の歌だ。そこには誰にも想像し得る現実感がある。重さの記憶は持続する。それも本の本質のひとつだ。今「本質」と書いたが、「本当」という言葉にも「本」が使われるし、「日本」にも含まれるが、それほど「本」は日本では普遍的なものだ。ところが、生徒や学生は教科書を死ぬまで大事に保管することはまずなく、本とは無縁の生活をする人も少なくない。スマホ代が嵩んで本どころではないとの声も聞く。そういう人はまず重い本を手に取って、老いた母を背負うのと同じように何かを感じることだ。
●『ラース・ミュラー 本 アナログリアリティ』_d0053294_13555378.jpg

 100冊も見たのであるから、ここで書きたいことは多岐にわたる。最も驚いた本は、ZAHA HADIDの建築を紹介した「HEYDAR ALIYEV CENTER」だ。アゼルバイジャンのバクーに建てられた貝殻のような曲線ばかりの真っ白な建物だ。それを模倣したように本は真っ白で、その美術館と同じ表面の曲線模様がエンボス加工されている。今調べると、この本はアマゾンで買える。ザハの顔と名前は東京オリンピックの国立競技場のデザイン・コンペで優勝して日本でも一気に知られるようになったが、彼女の作品の中でもこのバクーの建物はとても美しい。面白いのは、この建物の周囲に見えるいかにも東欧のイメージがある団地群だ。ソ連そのものといった雰囲気の場所に突如異様なこの建物が出現した。まるで宇宙船のようだが、台地から生え出た印象もある。よくぞこのような建物を建てたと思うが、この本では少しずつ形を現わして行く建築途上の写真がたくさん収められる。日本では建物と言えばまず直方体で、美を感じさせるものはほぼ皆無だが、土地の広いところではこのような自由なデザインも許されるかという感じを抱く。日本の国立競技場は予算の関係で、原案どおりには実現される見込みはなさそうで、その点ザハがどのように妥協するのだろう。ザハの案が優勝したのは、人気の建築家ということも理由だろう。だが、国立競技場のデザインは筆者はあまり好きではない。もっとザハらしくてよかったのではないか。日本では話題を呼ぶ建物はどれも塔のようにほとんど高さを競うだけで、それはいかにもペニスに似て男性が考えそうなものだ。ザハのように女性を主張するようなデザインの建物がもっと生まれないことにはバランスが取れないが、日本はまだまだ男尊女卑国であるから、今後も塔作りに邁進するだろう。ザハの建築はさておき、本展で次に目を引いたのが、スイスのFELICE VARINIの作品を紹介した「POINTS OF VIEW」だ。これは本の表紙だけではなく、天地や小口まで印刷して、包装紙でくるんだ箱のように見える。題名にあるように、フェリスはある特定の点から見るべき作品を建物内部や外部に表現する。ある場所に立って目の前を見ると、そこにオレンジ色の正確な同心円が現われるという作品を作り続けていて、このアイデアは誰でも思い浮かべるが、実行するのは大変なことだ。狭い室内であればいいが、ある街角でそれをするには、視界に入る建物や道路などに赤い帯を描くか貼りつける必要がある。そのためには測量機器が必要で、また製作時間もかなり要するだろう。それらの帯は場所を少し変えて眺めると、同心円ではなくなって意味不明となる。透視図法を発明した西洋的な発想で、ある一点に立ってのみ同心円が確認出来、またただそれだけのことだが、その壮大な遊びは室内の場合は別として、ほとんどは写真で残すしか方法がない。「POINTS OF VIEW」はそうした作品の写真を集めたもので、本の装丁も同じ思想が貫かれ、本を手に取ってページを繰る右下角から眺めると、同心円が出現する。この本はアマゾンで中古が2万円で売られている。また赤ではなく、青の同心円でデザインされたものも出版されているが、在庫切れだ。同じように文を読まずとも意味がわかる本、しかも遊べる本が受付カウンターに数種売られていた。1冊3000円程度で、来客を楽しませるのに常備しておけばいい。これは目の錯覚を利用する本で、1枚の透明なプラスティックが道具として付属していて、そこには縞模様が印刷されている。その透明な板をどのページにも重ね、そしてほんの少し板をずらすと、ページごとに印刷された模様が予想外に動く。似た遊びは誰しも子どもの頃に経験したことがあるが、これはコンピュータを使ってもっと精度を高めたもので、また精緻な印刷が可能であるから実現したものだ。こういう遊びの本をラースが好むところ、出版する本が学術的な固いものばかりではなく、むしろ手に取って楽しいことを目指していることがわかる。タイポグラフィへの関心が強いのは当然だが、100年ほど前のタイポグラフィ関連の本を復刻するなど、先達の名誉を掘り起こすことも忘れていない。本展で知ったが、有名はHELVETICAはスイス人が考案した。そう言えば先日見た韓国ドラマでは、部屋に飾られていたポスターが、HELVETICAの書体を宣伝するもので、韓国でもこのタイポグラフィに関心のあるデザイナーは多いと見える。筆者は10代で英文字のタイポグラフィに関心を抱いた。HELVETICAは生まれて半世紀経つ。この書体を作っただけで作者の名前は永遠に記憶される。
by uuuzen | 2015-05-06 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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