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●『日本の色、四季の彩 染色家 吉岡幸雄展』
は止血に効くそうで、赤い血に赤い染液が抽出出来る植物の相性がいいのは偶然だろうか。昨日の最後は深紅の紙のことを少し書いた。今日はそれで本展について書くのではないが、先ほどトイレに入って座ると、鼻血がかなり出た。



●『日本の色、四季の彩 染色家 吉岡幸雄展』_d0053294_1211088.jpgそれで偶然にもつながりが出来、鼻血はそのために出たのかと改めて驚く。ここ2,30年は鼻血は出たことがない。空気が乾燥していて鼻腔の粘膜が破れたのだろう。あるいは昨日に続いて今日もかなり根を詰めたからかもしれない。一歩も外出せず、終日パソコンの前で作業した。もちろん周囲は本の山で、穴倉に嵌ったような状態だ。疲れから鼻血が出たのかもしれない。血の色は昨日書いた筆者が好きな深紅とは違う。血よりもっと濃く、そして青みがかっているが、茜色とは系統が違うかもしれない。植物染料では赤を出すのに茜のほかに蘇芳があって、筆者はそれは使ったことがある。またサボテンにつく虫のコチニールは鮮やかな臙脂色を発色するが、それもまだ使用しない一瓶を所有している。植物染料を普段使わないとそうなる。本展では多くの植物染料の見本とそれから得られる色見本が並べられ、染色でも草木染めに関心のある人は楽しいものであった。筆者は化学染料ばかり使うが、植物染料の美しさには憧れがある。それは模様を染めなくても、無地のままの方がかえって美しい。色の面積が広くなって、その植物特有の色が目の前に現われていることを実感するからだ。そして、本展でも展示されたように、日本は古来、無地染めした布を重ね着して、その複数の色の対比を楽しんだ。つまり、友禅染めのように1枚の布に華麗な色模様を染め出さずとも、色の隣り合う効果を最大限に思考し、季節に応じた色目を作った。簡単に言えば、3色団子だ。桃色と草色と白の3個が1本の串に連なっていて、その素朴な色目は、それだけで充分美しい。その3色の草色を深紅に代えれば一気に若い女性のようになって華やぐが、ある色は別の色と突き合わせられることで、性質が変わる。本展はそういうことを実物の布で示してくれるものと言ってよい。模様染めもあったが、それについては後述する。さて、本展は今年最初に見た展覧会だ。展覧会のチラシを山積みしているが、相変わらずいろんな展覧会が各地で開かれているように見えながら、京阪神ではさほど多くない気がする。それにぜひとも見たいと思わせるものが少ない。今年に入ってからはさらにそうだ。まだ寒い時期であるからかもしれないが、もうネタ切れしているようにも思える。何度も書くように、毎年美術に関心を持つ若い人は湧いて来るから、5年や10年単位で同じような内容の展覧会を開催しても客は入る。だが、筆者のように長年見続けて来た者は、初めて紹介されるものでないと、半ば惰性で見る。10年前と全く同じ内容の展覧会を見ても、こっちが10年老けているので、10年前とは違った何かを感じるだろうが、そういう新しい気分になることは老いるほどに難しい。「ああ、昔見たものだ」という思いが先に立ち、「どうせなら初めて見るものに接したい」と考えがちだ。ところが展覧会も商売のひとつで、客が少ないとわかれば、企画者は冒険しない。損してまで開催する必要がどこにあるのかと思うのは無理もない。公的美術館であれば、啓蒙を主張して、一般にあまり馴染みのない内容の展示が出来るが、それでも税金の無駄使いではないかと抗議する美術ファンはあるだろう。それはさておき、筆者の興味がある美術と、こうして感想を書く展覧会とはあまり一致しておらず、このカテゴリーは筆者の内面にある美術の世界とはかなり違う。そのため、このカテゴリーへの投稿は惰性で見て来たものを惰性で書いているというところがなきにしもあらずだが、後年振り返った時、どういう展覧会が開催されていたかの参考にはなる。
 本展のチラシ裏面に吉岡幸雄のプロフィールが載っている。1946年生まれで、江戸時代から続く染物屋の五代目だ。代々植物染料のみを手がけて来たのかどうかは知らないが、先代の常雄は貝紫を使って模様を手描きする作家で、もう何年になるだろうか、昔大いに話題になり、展覧会も開催された。1980年代であったと思う。どこでの展覧会か忘れたが、家内と一緒に出かけたことがある。その時、会場にはほとんど人がおらず、奥さんがひとりいた。彼女はいかにも品のよい、また天真爛漫な女性で、年齢を感じさせなかった。こういう女性が世の中にいるのかと思うほどで、70代であったと思うが、20歳は若く見えた。よく喋る人で、筆者らを常雄氏の教え子だと思ったようで、会場を一巡した後、お土産として、小銭入れなどを数個まとめて手わたしてくれた。小紋の型染めで、茶色のものと藍色の2種があった。筆者は財布を持たず、小銭入ればかりでこの年齢まで生きて来たが、その時にいただいた小銭入れはとても重宝した。全部使い切るのはもったいないと考え、まだ新品のがふたつほどある。丈夫に出来ていて、5,6年は持つ。その小銭入れは商品で、会場で販売していたものだ。人はちょっとした親切を長らく覚えているもので、その時の奥さんの雰囲気は家内も今もよく覚えていて、染色の吉岡と聞くと、その時の奥さんの服装や話し方、笑顔などを思い出す。生涯に一期一会の出会いは多いが、その時の記憶は思い出すたびに気分がよい。そういう奥さんであるから、4代目の常雄氏がどういう人柄であったかは想像がつく。眼鏡をかけた痩せ型で、息子さんの幸雄氏とはかなり違うが、そう言えば幸雄氏は母親似でもない気がする。だが、人柄のよい雰囲気は同じで、皮肉を言うようには全く見えない。筆者は相手に向かって皮肉を言うほど気が強くはないが、このブログからわかるように、毎日皮肉を書いている。それはさておき、4代目が貝紫で一世を風靡している頃、5代目はまだ若く、目立った仕事をしていなかったのだろう。筆者より5歳年長で、80年代は「紫紅社」という出版社の仕事で忙しかったのではないだろうか。同社は若冲ブームが始まる何年も前の1993年に若冲の分厚い画集を出版しているが、京都らしい、日本らしい出版物という方針で、かつての京都書院を思えばいいかもしれない。ただし、京都書院は京都のプロの染織業に買ってもらうことを目的として専門的な豪華画集が多かったが、そういう時代ではなくなってから倒産した京都書院の轍を踏まないように紫紅社は考えているだろう。この「紫紅」という名前は、父が紫色で、息子が紅色を専門にするというところから考えられたように思うが、それは本展を見てのことだ。もっとも、父が紫専門ではなかったのと同じように、幸雄氏が赤専門というのではない。赤は需要が多いはずで、本展でも赤を使った作品が目立った。映像が流れていて、全部は見ていないが、東大寺二月堂の修二会で毎年使われる紙で作る椿の花の、その色のついた紙を、幸雄氏が染めていることがわかった。それは大量のベニバナを水に浸して絞り、染液を抽出した後、それで布を染めるのだが、あまった染液はやがて色素が沈殿する。それを固めたものは口紅のようになるが、幸雄氏の造り出す赤をシャネルだったか、フランスの化粧品会社が目をつけ、3種の赤を選んで商品化していることを紹介されていた。ベニバナは日本だけのものではないが、幸雄氏は媒染剤となる烏梅も自分で調達し、それで目指す色を生み出すから、赤とは一口に言っても、微妙な色合いの差は無限にある。それでフランスから見れば、幸雄氏の赤は日本独自のものだと思えるのだろう。また植物であるから、化学的に作り出す顔料とは違って体によい。茜など植物染料は漢方医薬を兼ねていたから、ベニバナで作り出す口紅は毒にならないどころか、薬になるという宣伝も出来る。それはともかく、ベニバナの染液をボウルに取って、それを和紙に刷毛で何度も重ね塗りして行くことで、修二会に使う椿の花の赤紙が出来る。黄色の紙を別に造り、白のままと合わせて200枚だったか、その程度の量を毎年東大寺に納入し、それを使って僧侶が花を造る。その花の実物が今回展示されていた。会場が全体に薄暗かったからでもあろうが、赤の紙は血のような色で、昨日書いた筆者好みの深紅とは違っていた。つまり、ベニバナでは出ない色なのだろう。
●『日本の色、四季の彩 染色家 吉岡幸雄展』_d0053294_121885.jpg 東大寺とのつながりがどうして出来たのか知らないが、本展の展示物の最も見物は東大寺や薬師寺に納めた伎楽用の衣装や、正倉院宝物の板締めの技法で染めた鳥模様の幡だ。会場では復元された伎楽の衣装をまとって踊る様子の映像を見ることが出来たが、伎楽面はどこが復元したのだろう。それも幸雄氏であったかもしれない。正倉院の染織品の復元は、織物は龍村が有名だが、染めは織屋では出来ない。植物染料を扱い慣れているうえに、布に文様を復元する、つまり染め抜く技術が必要で、それは織とは違う技術と作業が必要だ。紫紅社を立ち上げたほどであり、また4代目は絵もそれなりに巧みであったから、5代目が染織文様に造詣が深いのはあたりまえで、いわば奈良時代の染色品を復元するのはうってつけだ。文様は現物が伝わっているから、復元は絵の部分についてはあまり苦労がない。問題はどのようにして染めるかという技術だ。奈良時代の染色はほかにローケツと絞りがあるが、最も厄介なのは板締めだ。この技術は奈良時代以降、どんどん廃れ、江戸時代では赤一色で染めるだけになり、正倉院に伝わるような多色で染め分けることはしなくなった。出来なくなったと言ってよい。代わってもっと微細で繊細は友禅染めが登場したからでもあるが、奈良時代の板締めのおおらかさはやはり板締めに頼らねば再現出来ないもので、幸雄氏は昔からその技法の再現に挑んで来た。板締めとは、布の両面を板で強く挟み、文様として色づけしたい箇所に板に開けた穴から染料を注ぎ込んで染める。染料は浸透しやすい液体であるから、よほど強く布を板で締めておかなければ、文様はくっきりと浮かび上がらない。物理的に染料の侵入を防ぐというのは、きわめて原始的な方法のようなだが、ローケツにしても絞りにしても、また友禅にしてもそれは同じことだ。水を侵入させない何かで文様を表わすというのが染色だ。板締めは布の両側から挟む板が、きっちりと文様として鏡合わせになるように窪みとして彫る必要があり、半分は木版画の版下を作るような手間だ。また、木を彫る手間がかなり要するので、板締めは生地を折り重ねて左右対称の文様を染め出す場合が多く、正倉院の裂もそのようになっている。その左右対称性は手抜きでもあるが、文様として厳格な美しさを呈しやすく、正倉院に伝わる板締め作品は、どれも天平の香りを感じさせる。チラシに印刷される「花樹双鳥文様夾纈」の復元の部分図の写真を上に載せるが、「夾纈(きょうけち)」とは板で挟んで染めるとの意味で、「﨟纈」(ローケツ染め)、「纐纈」(絞り染め)の3つでよく説明される。友禅や小紋は糊を使うので、「糊纈」とまとめて言うのだろうが、時代がもっと下がっての染め方で、古めかしい言葉は適用されない。また、友禅以前の「辻が花」は複数の染め方を用いたもので、時代が下がるにつれて、どのような分野でも技法が複雑になって行くことがわかる。
 幸雄氏の纐纈復元はわずかに板で締めた、本来は白地として仕上げるべき部分に色が浸透していて、正倉院裂に100パーセント匹敵する出来栄えとは言えないが、現在で望み得る限りの域には達している。また、そうして染められたものは、染色に詳しい人なら、板締めに頼らずとも、筒描きで充分可能と思うだろうが、染まり際を見ると、糊染めのようなくっきりとした感じではなく、かなりぼけている。これは板によほど圧力を加えて生地を挟んでも、染液がごくわずかに染み入るからで、技法が違えば必ず仕上がりは異なるという染色がよくわかる。その差は専門家が見なければわからないと言ってよいが、世の中はそういう考えの素人がいつの時代でも大多数を占めるので、伝統工芸は廃れて行く。あるいは廃れなければ技術が変わる。それでよいと考える人ばかりでないことは、前述の修二会で使う色紙だ。手間暇かけて植物染料で染めなくても、今では印刷すればはるかに安価で大量に作り得る。だが、それでは伝統が途絶え、修二会にもふさわしくない。こういうことを書けば、幸雄氏の仕事は、古い伝統を細々と守ることだけと思われそうだが、前述したように、世界が日本独自の色に注目し、それを商品に使う時代だ。本展の最後のコーナーは、成田空港であろうか、日本の玄関口に日本の伝統工芸を壁面にパネルで紹介する通路があり、その写真が展示されていた。漆や紙、瓦など、どの分野にも先進的かつ伝統的な仕事をする作家はいる。だが、そのパネルの中には友禅はなかった。友禅はキモノと決まっているも同然で、漆や和紙、あるいは幸雄氏の植物染料による染色のようには、多様な展開が出来ない。そのため、日本を訪れる外国人にも伝えにくい。大きな布を丸ごと1色で染めるといった染色の方が、かえって型に囚われない作品が出来る。植物染料は誰でも買えるし、また誰が染めてもある程度同じ色は出るが、金も場所も時間もかかることであり、また普通の人では無地染めした大きな布の使い道がない。和紙に染めたところで、東大寺から声がかかるはずはなしで、幸雄氏の真似事をしても主婦の趣味程度にしかならない。そして友禅はと言えば、主婦の趣味では無理だが、かといってプロでも血の滲む思いをしながら仕事しても、安い時間給で飼い殺しされるようなものだ。
by uuuzen | 2015-02-15 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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