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●『がんばれ、ミスターキム!』
平か太平、あるいは大平という漢字だと思うが、今日取り上げる韓国ドラマの主役の男性はテピョンという名前だ。ハングルの発音から漢字を想像するのが時に楽しい。



中国由来の漢語は日本と発音がほとんど同じで、また日本の植民地であった時代に持ち込まれた日本語をそのまま使っている場合も多いことに気づく。前者はたとえば「準備」だ。後者はパンや靴、鞄、うどんなどで、若い韓国人はそれらの言葉を日本から持ち込まれたとは知らないし、そう言われても信じないかもしれない。話を戻して、「テピョン」という名前であることは、このドラマの色合いを予想させる。日本と同じように韓国も今は古臭い名前は好まれず、外国人と間違うようなものが多い気がするが、「テピョン」はどうなのだろう。日本で言えば片仮名の名前、たとえば「ルミ」と同じように、漢字を宛てられない名前も多くなって来ているはずで、「テピョン」は泰平か太平、あるいは大平であるかはずで、古い名前に属するだろう。また、本作は韓国ではどういう題名か知らないが、日本では内容がわかりやすい。ところが、題名は内容にそぐわず、うまく形容しているとは言い難い。「がんばれ」などと励ましの言葉がかけられないほどにテピョンには苛酷な試練が何度も降りかかる。とはいえ、それでもめげずに彼はがんばり通すが、その支えとなるのが4人の子どもたちだ。ところが4人とも彼の実子ではない。なのに、なぜ彼は結婚せずに4人も育てているか。それは孤児院で育ち、その時に世話になった男性を鑑とし、自分も同じ境遇の子どもたちを助けようと思ったからだ。テピョンは孤児院育ちであるから、学校は義務教育までしか出ていない。そういう男性がどういう職業に就けるかは、韓国では想像にあまりある。日本以上の学歴社会で、大学でも一流を出ていなければまともな職業はない。ところが、本作は孤児院育ちの男性を主役にしている。これはどういうことか。韓国ドラマではしばしば孤児院育ちが登場する。その割合は日本の比ではない。それどころか日本では絶無に近いだろう。これは韓国に比べて日本に孤児が少ないからか。おそらくそうではない。日本では孤児に目を向けることがきわめて少ないためだ。ほとんどの人が関心がない。先日NHKのTV番組は里親制度について紹介していた。ひとり引き取ると毎月5万円であったか、国から援助金が出る。だが、里親になる人は少ないらしい。孤児を育てるより、何と言っても血のつながったわが子だ。それを望むために、あらゆる手を尽くす。試験管ベイビーや他人の腹を借りる。あるいは昨日取り上げたドラマのようにどこの誰かわからない男性の精子をもらう。韓国は日本以上に跡継の男子を待望する国であるから、昨夜取り上げたようなドラマが作られる。その一方で本作のように里親を主人公にするドラマがあることは、男の跡継を求める風潮を戒め、また日本とは違ってキリスト教の博愛精神が育っているからではないか。里親で思うのはアメリカだ。有名な俳優が数人の孤児を引き取って育てている例があるように、韓国でも里親はかなり奨励されているのではないか。そういう事情を考えると、本作は日本でリメイクされ得ない。テピョンのような殊勝な若者がいるはずがないと誰しも思い、ドラマはあまりに非現実と受け止められる。だが韓国ではそうではないから、やはり韓国と日本は似ている部分もあるが、全く異なる部分も多い。そういったことが何となくわかるだけでも韓国ドラマを見る価値はある。そして日韓の差があるとして、韓国の方が間違っているとか、遅れていると思ってはならない。それぞれの国に歴史があり、事情は違う。
 事情で言えば、どの家庭にもそれがある。そして韓国ドラマはある家庭の事情を別の家庭のそれと複雑に絡ませ、そこにドラマを作り上げる。そのある家庭と別の家庭は本当は縁などあり得ないほどに経済的、社会的な地位としての開きがあるが、無理にでも縁を設けなければ摩擦が生じず、ドラマの生まれようがないから、偶然という、一種の姑息な手法を使ってでも縁を作り上げる。そういう縁が現実では本当に稀かどうかだが、そういう研究をしている人はまずいないので、個人の思いによってそうとうな差があるだろう。『冬のソナタ』が日本で人気を得始めた頃、そのドラマに描かれる縁があまりにも強引で非現実な様子を嘲笑する意見が日本では多かった。だが、ドラマは現実ではない。その縮図で、現実にあり得ることを凝縮した作品だ。そう思ってドラマを楽しめばいいのに、どうやら日本ではドラマが現実そのものであるかのような状態にあることを完成度が高いと評し、歓迎する。昨日も書いたように、現在のNHKの朝の連続ドラマがそのいい例で、小道具と大道具は実際に明治や大正時代にタイムマシンで遡って撮影したかと思わせられるほどに細部まで完璧だ。だが、その一方で誰もがそれらは作り物であることを知っている。いわば白けた思いを隠し持ちながら、道具係の技術の高さに感心する。そういうドラマの楽しみ方もあるが、どうせドラマは作り物であるから、道具や俳優の演技など、どこもかしこも作り物が最初から見え透いていても、次回を楽しく待つという気を起こさせる作品が成功作なのではないか。その次回を心待ちさせる韓国ドラマの最大の要素は、強引な縁をいくつもつなげる脚本よりも、俳優の演技だろう。みんな一生懸命で、その頑張りがどの作品からも伝わる。それは当然悪役も含めてで、いつも書くように、悪役が憎たらしく見えるドラマほど見応えがある。本作はその例に漏れない。しかも見ていて気分が悪くなる人物が4人ほど出て来る。彼らは全員テピョンを侮辱し、また攻撃する。テピョンは親も学歴も金もなく、それでも4人の子を育てているが、そんな彼の優しさは心ある女性に伝わらないはずがない。そこでテピョンはふたりの若い女性から結婚を待望されるが、結論を言えば、ふたりともテピョンから去る。その点はやはりテピョンは世間的にはあまりにも何も持たない男で、結婚の資格がないのだという現実を視聴者は見せつけられるようで辛い。テピョンほどではないが、現在の韓国では彼のような男性はかなり多いはずだ。ところがそういう男性はドラマの主人公にならない。主人公はみんなが憧れる立場にあらねばならない。テピョンはいわば最下層の人間で、前途多難どころか、夢を持つことすら許されない。どんな親でも娘がテピョンを好きになり、結婚したいと言うと、反対する。他人の子を4人も育てているのに、どうして結婚してまた自分の子を持つことが出来るだろう。生活には金が必要だが、テピョンにはまずそれがない。それを多く得られる可能性もない。何しろ無学だ。
 テピョンの職業は家政夫だ。日本で言えば便利屋のような仕事で、家事手伝いをやる。普通は女性の仕事だ。それを若い男がやっているから、だいたいの金持ちであれば誰しも見下げる。そんな現実をテピョンは痛いほど知りながら、そういう仕事しかないのであるから、とにかく頑張る。アルバイトと同じで、収入は少ないから、アパートの狭い一室で暮らすしかない。だが、4人目の子を抱えた時、部屋が3つは必要となり、かつて自分が孤児院にいた時に親切にしてくれた年配の男性宅の2階を借りることが出来る。ところが、1階に住むその家族のうち、テピョンに優しいのは父だけで、息子は嫌う。娘は学校で保健士をしているが、いつしかテピョンに恋心を抱き、接近する。テピョンもその気になるが、ふたりの関係を知った兄は激怒、また父も快く思わず、テピョンと娘は関係を解消する。テピョンのことを理解していたはずの娘の父でさえも、テピョンはあまりにも娘とは釣り合わないと思ったのだ。現実の厳しさをそのように見せつけるドラマで、前述したように、テピョンが笑顔で頑張っているというより、悲しみに沈んでいる場面が続く。そのため、筆者は正直なところ、後半は見る気がしなかった。貧しい者がこれほど打たれ続けるのかという現実をこれでもかと見せつけられるからだ。だが、テピョンが頑張るのは4人の子のためで、4人は誰ひとり彼に反抗せず、実の父のように慕い、また攻撃者からかばい続ける。そのため、このドラマの本質は、血のつながっていない親子であっても、結束を強くすることが出来るということで、血縁を何よりも大切にする韓国ドラマの中にあってかなり異質だ。その異質さはテピョンの母親が後半になって明らかにされるに及んでさらに明白になる。韓国ドラマでは貧しい主人公には実は大金持ちの親がいたというお伽話のような筋立てを大いに好むが、その子どもだましのような設定は残念ながら本作にも登場する。ただし、本作では苦味がそうとう効いていて、貧困の中でもがき苦しんで育って来たテピョンは、母親が大金持ちでしかも自分を援助してくれると言っても顔色を変えず、また生活も相変わらず元のままだ。それは母親がかつて幼い自分を捨てたからで、また大人になって自分の存在に気づきながら、すぐには母親であることを明かさなかったからだ。つまり、母親は冷たい人間で、金のためには子どもを捨てても平気であった。そういう現実を知ると、かえってテピョンは母親が目の前に現われたことが苦痛になる。ところが母親は心から懺悔し、テピョンを経済的に援助したいと願う。これが現実であれば、金に困っているからには棚から牡丹餅と思ってすぐにでも母親から援助を受けるだろう。ところがテピョンは卑屈になることは嫌いであるし、今までどうにかひとりで頑張って来たのであるから、これからも同じことをするだけと考える。そこで母親が提案したのは、テピョンが育てている4人の子のうち、テピョンの死んだ兄の娘ヒレがまともに進学出来るだけの経済的援助をしたいと申し出て、テピョンもそれならと受け入れる。それはテピョンがハウスクリーニングの小さな店を持つ資金の援助で、母親にすれば雀の涙の金だ。母親はそれだけを与え、夫とともにアメリカに行ってしまう。テピョンにしても生まれてすぐに捨てられたのであるから、今さら母親が現われても実感がない。テピョンの母が彼を捨てたのはやむにやまれない事情があったのは確かだろう。まとまった金をそこそこ得ればテピョンを迎えに来るつもりであった。ところが金を儲け始めるとそのことは二の次になる。わが子を捨ててでも金は無限にほしくなる。ところがわずかに母性愛が残っていたから、苦労のどん底にいるテピョンを見て、経済的な援助をしたくなった。憐れなのはテピョンだ。親に捨てられた子がどのような人生を歩むかの見本が本作だ。
 だが、親から見捨てられればたいていはぐれるだろう。テピョンの兄がそうであった。彼は若くしてバイク事故で知ってしまうが、前述のように赤ん坊のヒレという娘を残した。彼女を育て始めたのは当然テピョンの兄の妻だが、この女性がまたどうしようもない適当な人間で、ヒレをテピョンに押しつけてどこかへ去ってしまう。そこには若い女性が赤ん坊を抱えて暮らすことの困難な現実がある。ところがテピョンにしてもそれは同じだろう。だが、彼はヒレのほかに出会った3人の孤児を次々に引き取る。孤児にはかばってくれる親のような存在が必要であることを身に染みて知っているからだ。この4人の子の演技はそれぞれ見物で、また韓国の孤児の実情をある程度反映している。脱北者、ヒレと同じように母親から捨てられた、そして病気持ちの小さな女の子、プロ・ゴルファーの父が詐欺を働き、刑務所に入ったために孤児になった男子で、4人はぎくしゃくしながらも人の優しさや、テピョンの太平洋のような大きな心を知って行く。さて、悪役と言っていいかもしれないが、テピョンと対立する最大の人物はゴヌクという若い男性だ。彼はテピョンの母の息子だが、それは戸籍上のことだ。またテピョンの母の夫とは再婚で、夫は前妻との間にゴヌクを生んだと言っているが、実際は愛人との間に得た。そういう複雑な出自のゴヌクで、継母であるテピョンの母を信じておらず、また本当の愛情も受けたことがない。金持ちではあっても、親子3人の間は常に冷たい風が吹いている。そして3人とも最初はテピョンがどういう人物であるかを知らない。この3人とテピョンが出会うのは、テピョンが新たに暮らし始めた間借りしている家の2階の階下に住む女性、すなわちテピョンと結婚する寸前までに行った女性からテピョンが仕事を紹介されたことによる。その家もまた大金持ちだが、事情を抱えている。それはテピョンより少し年齢が上の男性が車椅子生活をし、家に閉じこもって全く外出しないことだ。その事情が次第に明らかにされる。そして驚くべきことに、そういう姿になった原因は、テピョンの兄のせいであることがわかる。その車椅子の男性には妹がいて、学校の先生をしている。彼女は最初はゴヌクといい関係であったが、家を掃除しにやって来るテピョンを何度も見、またテピョンの子の担任でもあって、次第にテピョンに魅せられて行く。ところが、ドラマの後半になって、愛する兄が車椅子生活になった原因がテピョンの兄にあることを知り、たちまちテピョンから距離を取り、相思相愛は崩れ去る。それは最初から困難な道でもあった。というのは、その女性の父はテピョンを最初見た時から、男が仕事とはいえ、家事をするとは何事かという考えの持ち主で、テピョンのような何も持たない男がわが娘と交際することは絶対に許せない。こうなってはテピョンは万事休すで、もう働き場所もない。そこで先に書いたように、テピョンの母が正体をテピョンに明かし、経済的援助を申し出て、どうにかテピョンはそれなりに安定した生活を得る。となれば、やはり大事なものは金であるということになって、テピョンの生みの母が大金持ちになっていなければ、テピョンはもっと苦労の日々を送らねばならないことになる。現実はそういうテピョンのような境遇の施設育ちの若者が多いはずだが、それでは悲しいだけのドラマになってしまう。そこで、男版のシンデレラ・ストーリーにする必要があった。本作は大人はゴヌクのような醜い態度に出る大人が目立つが、子どもたちは全員純真だ。そこが見ていて心が温まる。血がつながっていなくても、子どもが親を慕う生活であれば、それだけで親は心が泰平で、仕事に頑張ることが出来るという物語だ。
by uuuzen | 2014-11-09 23:59 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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