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●水戸の偕楽園、その1
は偕楽園でしか見かけない漢字だが、「ともに」の意味らしい。日本三名園のひとつで、筆者は80年代終わり頃に友人を訪ねた折り、茨城県立美術館で展覧会を見、その後水戸駅前まで送ってもらう際に遠目に偕楽園を見た。



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梅の季節が終わっていた頃であったと思う。その時、せっかく偕楽園の前まで来ているのに、東京へ出る電車の時間のつごうもあって中を見られないことが残念であった。それから四半世紀後に見ることになった。江名行きを決め、JRの時刻表を調べた時、偕楽園を見る時間を割けないことがわかった。水戸で小1時間は途中下車出来そうだが、それでは往復は無理だろうと思った。それなのに、水戸芸術館の場所や開館時間を調べたりするなど、可能性を考え始めると人間は欲が出る。結局水戸で下車しないことにし、その代わりにいわき市立美術館を見ることにした。それが思ってもみなかったことに遭遇し、偕楽園に行くことが出来た。そのことは以前書いたがまた繰り返しておくと、予約した夜行バスが中央ルートを通り、朝5時に八王子に着いたからだ。そこで20分ほど休憩することは知らなかった。狭い座席でほとんど眠れなかったが、さすが深夜1時頃からは眠った。それで八王子に着いてバスが停車している間に目覚めた。筆者は前から二番目の左手に座り、運転手とはカーテンで仕切られていた。スーツ姿の若い男性が遅刻してはならないといった慌てた様子で、ドカドカした音を立てながら脇の通路を走り抜け、降りて行った。半分寝ぼけ眼の筆者は、たまたま運転手がわずかに開けた仕切りカーテンの向こうの景色を見た。まだ真夜中の世界だが、縦縞模様の特徴あるJRの駅ビルが真正面に聳えているのがわかった。筆者が降りたのはその5分後くらいか。降りたのがよかった。それで上野発の常磐線は時刻表で予定していた電車より早いものに乗れた。八王子で降りる判断をしたのがよかった。それはもしぐっすり眠っていて、八王子に着いたことがわからなければ、またバスが駅ビルに対峙せず、反対を向くか横丁にでも停車すればそのまま東京まで乗って行った。それに筆者はバスを予約する際、同じ料金ながら別会社で予約するつもりでいた。それは東海道ルートを走り、東京には20分ほど早く着く。行くと決めた1週間前にはいくらでも席は空いていた。ところが予約しようとした日、席はふたつだけで、数時間後にはひとつになり、ぐずぐずしている間に全部売り切れた。それで仕方なしにブルーライナーで予約したが、それも残り数席であった。最初に予定した東海道ルートのバスを予約しなかったことが偕楽園を見る時間の余裕をもたらした。たまには優柔不断もいいことがある。
●水戸の偕楽園、その1_d0053294_1524171.jpg 上野発であるから、座席は充分あった。ところがどっちに向かって電車が進むかわからず、進行方向とは逆向きに座った。そうしたことにあまりこだわりがない方だが、出来るならば体が前向きの方がよい。通勤電車であるから、人はどんどん入って来て、またどんどん出て行く。柏を越えたあたりか、客は少なくなって行き、筆者の斜め前に70代の小柄な男性が座った。すぐにリュックサックから小型のビデオカメラを取り出し、車窓の景色をあれこれ撮影し始めた。牛久を過ぎてからであったと思う。駅名を忘れたが、プラットフォームの背後に高さ2メートルほどのタイル絵がずらりと埋め尽くしている駅があった。昔話か伝説を題材にした10数枚の絵物語で、原画は郷土の画家が描いたのだろう。男性はそれを初めて見るのか、窓の外をずっと見ていたから気づいていたはずなのに、電車が動き出してからカメラをかまえて撮り始めた。絵が終わってからは振り返って撮るほどで、よほど気に入ったものか。筆者の隣り、その男性の隣りの座席も埋まっていたこともあって、筆者はその男性に声をかけなかった。定年退職した後、あまった時間で好きな場所にちょっとした日帰り旅をしているという雰囲気だ。同じような人はたくさんいるだろう。その男性と長らく一緒であったが、水戸で下車することに決めた筆者は立ちあがった瞬間すっかりその男性のことを忘れた。水戸では1時間半ほど時間を潰すことにした。それならば偕楽園を大急ぎで楽しむことは出来る。時刻表を見ると、水戸のひとつ東京寄りに偕楽園という駅がある。そこで下車するとすぐだが、残念ながら停車するのは3月は10日が最後であることが時刻表に記してあった。偕楽園駅で降りることが出来れば1時間の滞在でも充分だろう。偕楽園は水戸駅からさほど遠くないが、徒歩なら30分はかかるかもしれない。充分時間があれば街を散策するつもりで歩いて行く。1時間半ならばバスかタクシーを使わねばならない。知らない街でバスに乗るのは難儀だ。前もってネットで調べてもいなかった。駅の改札を出るとすぐにバス乗り場が下にあることがわかった。通勤客と一緒に偕楽園行きに並ぶと、前に書いたと思うが、筆者と同世代らしく眼鏡をかけた男性が笑顔で話しかけて来た。10数人ほど人がいるのに筆者に声をかけたのは、通勤人とは見えなかったのだろう。格好からしてもそうだ。愛想のいい人で、「偕楽園に行かれますか」と声をかけて来た。そうだと答えると、「こちらに来てください」と言われ、並ぶ人の列から外された。「あれ、ここで並ぶんでしょう?」「ええ、でも別のバスがすぐに来ますからそっちに乗ってください。それで、これは1日乗り放題の券ですけれど、偕楽園を往復するだけで元が取れます。ただし、○○バスしか乗れませんので注意してください。また、バス会社が違えば停留所も違いますから。」
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 バス会社の人なのだろう。偕楽園に向かう客に声をかけ、1日乗車券を売っている。だが、この男性が立っていたおかげで迷わずに済んだ。水戸駅前から異なる会社のバスがどれほど出ているのかわからず、きっとおろおろしたことだろう。偕楽園から水戸駅前に向かうバスの時間と停留所の位置を訊くと、時刻表を1枚手わたしてくれながら、停留所は降りたところでよいと言われた。ただし、園には別の出入り口がいくつかあって、そこから出るとバスの時間もルートも違う。バスは20分に1本で、それに合わせて駅に戻らねばならない。説明を受けている時、同じ電車に乗っていたのだろう、中年夫婦が筆者の背後に並んだ。偕楽園に行くなら1日乗車券を買えばいいのにと思っていると、券の販売人は声をかけない。やって来たバスにその夫婦も乗ったが、偕楽園の手前で降りて行った。地元の人のようで、そのことを券を売る男性は悟ったのだろうか。女性は小太りで、ラテン系のような個性的な顔をしていたが、筆者と目が合うと、険しい表情をした。バスを待ったのは7,8分間だ。券の販売員に今年の梅の開花状況を訊くと、ほとんど終わっているが、まだどうにか咲いているとのことで、これなら四半世紀ぶりの夢をかなえることが出来る。よくぞちょうどいい季節に江名行きを決めたものだ。水戸で1時間半滞在出来るならば、水戸芸術館よりもやはり偕楽園を優先すべきだろう。梅が咲いているならばなおさらだ。券の販売人に芸術館に行くにはどこで降りればいいかも訊いた。たぶん立ち寄る時間はないが、遠目にでも見られるかと思った。時刻表で確認すると、水戸駅に着いたのは8時30分、バスに乗ったのは同43分だ。わずか数分の会話であったが、知っておくべきことはみな訊ねた。バスの運転手は若い男性で、京都の市バスではめったに見かけないおとなしい雰囲気であった。筆者はバスによく乗り、また必ず運転手に注目する。命を預けているのであるし、荒い運転では困る。あまりに横着であると、バス会社に告げてやろうと思っているが、今までそんなことをした試しはない。バスの運転手は名札を乗客に見えるところに掲示することになっているようで、それは手荒な運転を戒める心理的効果がある。ところがたまに態度のよくない運転手がいる。偕楽園まで20分はかからなかったと思う。タクシーに乗るほどの距離でもなく、街中を走って途中で左に折れ、それからすぐであった。
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 下車したのは3,4人か。みんな思い思いの方向に散り、すぐ右手の大きな鳥居の前でまた一緒になるという感じであった。鳥居の奥に偕楽園の出入り口がある。鳥居のすぐ近くで、見覚えのある男性から声をかけられた。先ほどまで電車の中で筆者の斜め向かいに座っていたビデオカメラの老人だ。「桜が満開で、これは梅と一緒に楽しめそうですね」と笑顔で語りかけられた。男性は撮影するものがふんだんにあることに高揚しているようで、言葉をかけた後は速足で奥へと去った。今日の最初と2枚目の写真にそのリュック姿の男性の後ろ姿を写し込んだ。最初の写真の右手に写る後ろ姿の女性は観光客ではなく、売店に勤務しているのだろう。不思議に思ったのは、その男性が筆者よりほんの一足早く、どのような方法で偕楽園に来たかだ。バスの乗客は数名で、男性は乗っていなかった。別の会社のバスかタクシーということになるが、偕楽園には以前にも来たことがあるのだろう。鳥居の奥には屋台の店がいくつかあって、覆いを取り外すなど、準備を始めていた。朝9時前では客もまばらなのだろう。屋台の食べ物と言えば正午過ぎからが本番だ。視界が開けて見事な梅林が見えた。人影は園内にほとんどない。右手に「ようこそ偕楽園へ」と大書した看板を掲げた入場券売り場らしき建物を見つけた。中にいた若い女性に、「大人ひとりいくらですか」と訊ねると、「偕楽園は無料です。ただし、この地図にあります弘道館に入るにはお金が必要です」と言われた。無料にはびっくりした。このご時世にそんなことがあり得るのか。何とも茨城県人は鷹揚ではないか。これほどの広大で見事な梅林やそのほかの樹木を維持するのに、どのようにして経費を賄っているのだろう。500円はすると思っていたので、狐につままれたような気分になった。先ほどネットで調べると、県の経営になっている。水戸の誇りであるから、有料といったけちなことはしたくないのかもしれない。「偕楽」は「みんなが楽しむ」の意味であるから、なおさら無料にこだわったと思える。このブログで以前取り上げた岡山の後楽園金沢の兼六園は有料だ。日本の三名園でここだけが無料で、これは市民がいつでも憩えるから、水戸に住む人は幸せではないか。電車の窓から偕楽園駅やそれを過ぎた直後の風景を見たが、山の斜面といった場所も偕楽園の敷地で、そこにもたくさんの梅が見えた。よほど広い園で、とても全部は回り切れないことを早々に悟り、先ほどの女性からもらった園内の地図を頼りに、代表的なコースを素早くたどることにした。狭い道が放射状に伸びていて、どこから梅林に踏み込めばいいのか、胸が躍った。そして撮ったのが上のパノラマ写真で、梅林そして奇妙な形で折れ曲がる幹や枝を見ながら、ゴッホが浮世絵を参考にして描いた絵を思い出した。また京都北野天満宮とは全然違う梅林の佇まいに感心した。どの木も比較的背丈が低く、また整然かつ樹勢豊かな表情で、次々に写生したくなる形が現われる。今にも雨が降りそうな鈍い色の空だが、絵のような光景だ。また絵にすることが可能とは思えないほどの透視遠近法的かる微細な枝や花の集合だ。わずか1時間半の滞在しか許されないのが悔しいが、そもそも偕楽園に立てたのは予定になかった。それに、筆者が歩む方向に誰ひとりいないという独占状態での観梅は、数万円支払うほどの価値はある。
●水戸の偕楽園、その1_d0053294_23412459.jpg

by uuuzen | 2013-04-23 23:59 | ●新・嵐山だより
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