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●いわき市立美術館
合遠くにカモメが飛んで行くのは江名あたりではいつのことか。Mさんは入梅までストーヴを使う。江名は夏が凌ぎやすい。となればカモメは北方へ戻らなくてもいいようだが、より涼しいのがいいに決まっている。



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広い海を越えて渡り鳥が飛んで行く姿を想像すると、人間が遠方へ旅行したくなるのも動物の本能か。筆者は江名より以北へ行ったことがない。そのことをMさんに話すと、「これからいくらでも行く機会があって楽しみですね」と言われた。用がなければ行くつもりが起こらないが、日本三景の松島を見るために仙台にいつか行くのはいいかと思う。その美しい景観が津波で破壊されたので、元通りの姿になるのは何年先だろう。仙台には知り合いらしい知り合いがおらず、松島だけなら行く費用と時間がもったいない気がする。そこでもうほかに目的を探すとなると、即座に思い浮かぶのが美術館や博物館だ。だが京都にいると、東北のそうした施設に関しての情報は得にくい。仙台にはどういう美術館があって、どういう珍しい作品を所蔵しているのか、またどういう有名な郷土の画家が生まれたのか、にわかには思い出せない。それでやはり東北は遠く、縁もうすいと感じる。その東北に今アメリカのジョー・プライス・コレクションが展覧されている。仙台は3月から5月まで開催中で、そのキャッチ・コピーに「若冲が来てくれました」とあって、ほかの東北の美術館にも巡回するのだろうか。そうなればプライス・コレクションは日本中で展示されたことになる。それを逆から見れば、確かに震災復興記念のために特別にプライス・コレクションを東北で展示しようという被災者への励まし行為なのだが、では震災がなければ展示しなかったのかという、東北に対する一種の差別的な思いが震災以前にあったのかということになるし、震災に便乗してプライス・コレクションのさらなる宣伝をしているようにも見える。それに、若冲の絵画が被災者たちを本当に勇気づけるのかどうかだが、これはポスターやチラシに大きく印刷された「若冲が来てくれました」が、「東北の田舎もんよ、ありがたがれよ」という主催者側の上から目線を感じさせ、筆者は疑問に思う。だが主催者は、まず生活の立て直しが大変な時期であることは百も承知で、そんな大変な時期であるからこそ、何か大きな話題になるものがほしく、震災がなければまず巡回してもらえなかったプライス・コレクションが見られることに手放しで喜んでいるのだろう。東北の熱心な美術ファンは仙台で若冲を見るより前に東京や千葉で見ているはずで、今回の展覧会はさほど知らなかった人たちを若冲ファンにしようという思いが大きいだろう。それはそれでよいことだ。
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 「若冲が来てくれました」のポスターを初めていわき市立美術館で見た。チラシがほしかったがこれはなかった。すでにみんな持ち去られたのだろう。代わりに4つ折りの小さなパンフレットがあった。2部もらって1部をその夜、Mさんに差し上げた。今それを引っ張り出して来たが、巡回は3か所で仙台市博物館で3月1日から5月6日まで、岩手県立博物館で5月18日から7月15日まで、福島県立美術館で7月27日から9月23日までだ。福島県立美術館は郡山から北の福島駅に近い。福島県は縦に3つに分けられ、天気予報もその3か所が表示されることをMさん宅のTVで見た。江名は海辺の浜通り、郡山市は中央の中通りにある。常磐線のいわき駅から郡山にはJRが走っている。全長は100キロ近いのではないだろうか。本数も少ないだろう。これは浜通りと中通りが縦割りになっていて、あまり交流がないことを想像させる。また中通りは東北新幹線が通っていて福島の中央のイメージがあるし、また中通りの西の会津地域は歴史を感じさせ、浜通りは福島でもあまり重視されない地域に思える。それもあって原発が建設されたのかと思いたくもなる。で、「若冲が来てくれました」も浜通りには巡回しない。浜通りの美術館はいわき駅からほど近いいわき市立美術館だ。これは日本でも最も広い面積のひとつであるいわき市の美術館であって、福島県立美術館より遅れて出来たことは誰にもわかる。箱物行政が批判される前か、ともかく日本が好景気であった時期に日本各地にどんどん美術館が建った。館を建てた後、展示をどうするか、また長期の運営はどうかなどあまり考えず、とにかく市の文化度を日本中に誇示するために美術館は利用された。それは決して悪いことではなかった。ただし、景気が悪化すると、真っ先に色褪せるのがそうした文化施設で、新しく美術品を購入することは不可能となり、さりとて今まで購入した美術品だけではリピート客は見込めない。また運営費が潤沢にあればどこかの美術館と協力して企画展を巡回させることが出来るが、それは入場者数が多く見込めての話で、たいていの地方の美術館は今までの入場者数によって、どんな企画展を開いてもどれほどの収入になるかが見えている。そこでますます諦めムードが大きくなり、悪循環に陥る。だが、市民のための大きなギャラリーと思えばよい。東京や京都で開催され、大人気を博する展覧会を巡回させようと思わず、地方は地方なりの少ない予算の中で特色を出せばよい。ただし、そうするにしても学芸員の数が少なく、また予算もないというのが実情なのかもしれない。
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 いわき市立美術館は昔から知っていた。たぶん出来た頃からだ。80年代半ばのはずで、開館から3,4年は意欲的な展覧会を開催していた。たとえばフンデルトヴァッサーやアンソニー・グリーン展だ。前者に関してはどこかと共催の巡回展ではなかったように思う。後者は京都でも展覧された。現存の画家をそのように紹介するのはこの美術館が出来て間もないことを示している。つまり、現代美術に標準を合わせた展示内容だ。これとかなり似たことをしたのが滋賀県立近代美術館だ。外国の現代絵画はバブル期には高価であったと思うが、まだ確実に評価が定まっていないということで、大画面であるにもかかわらず割安でもあったろう。この大画面が当時新しく出来た美術館には喜ばれた。何しろどこも壁ののべ面積が大きな美術館を建てたから、小さくて高価な絵よりも大きく安価、しかも目立つものが喜ばれた。その点で言えばフンデルトヴァッサーは版画主体であるし、アンソニー・グリーンはさほど大きな絵を描かないから、当時の学芸員は館の独自性を発揮するためにそれなりに画家を選んでいたと言えるか。ところがバブルの収束とその後の不況により、今では京都の公立の美術館や博物館でも、なるべく所蔵品を中心に見せる企画展に傾斜し、どれもこれも日本で初公開の美術品を見せるということはほぼなくなっている。となれば地方の美術館の状態は推して知るべしで、たとえば前述の「若冲が来てくれました」が東北を代表する大きな美術館や博物館で話題になる。また、それはいわき市立美術館には同展は巡回はしないことを意味し、地方美術館の格差が明確に存在することを知らせる。プライス氏にすれば同展をいわき市立美術館で開催することにやぶさかではないにしても、開催しても少ない来場者数が予測出来て経費が捻出出来ないのだろう。アベノミクスによってまた日本が好景気に沸くとしても、地方の美術館が賑わうことはずっと先のことで、それが訪れる前にまた不景気になる。いつまで経っても光が見えないとなれば、考えを改めるしかない。その可能性はある。たとえば以前このカテゴリーで紹介したフィレンツェのウフィツィ美術館の名品を大型画面で見せるデジタル美術館だ。それにもそれなりの経費がかかるが、有名な画家の作品を購入するよりは安いだろう。また、そういうことを考えずに地域のひとたちに美術の存在意義を啓蒙すべきで、そういう動きの中心に美術館が機能してほしい。これは今思ったことだが、浜通りにある美術館であるので、たとえばMさん宅で見た昔の大漁旗を地域全体から集め、それに関係した染色作品を見せるといった企画も考えられる。せっかくいわきに行ったのであるから、筆者は滋賀県立近代美術館で所蔵されるアメリカの現代絵画と同じような作品を見たくはない。泥臭くてもいいので、もっと地域に根差した、地域性に因んだ工夫した展示が見たい。そうした企画力に賛否はあるし、また予算も必要かもしれないが、美術館が元気になることで街を活性化させるほどの気概がほしい。
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 さて、先月27日、常磐線を水戸で途中下車し、いわきに着いたのは12時15分であった。小雨が降っていた。YOUTUBEで駅前から煉瓦通りと呼ばれる繁華な地域を歩いて撮影した映像を2年前に見ていたので、下車した時に全く慌てることはなかった。予想したのと同じ駅前の光景で、違っていたのは人の少なさだ。全体に垢抜けた街並みになってはいるが、いわき市の最も繁華な駅前でも人影は筆者にすればとても少なかった。美術館の方向はよくわかっていた。表通りではなく、2本裏手に入った煉瓦が敷き詰められた煉瓦通りと呼ばれる道を南下した。美術館の前の交差点をわたる時、若い男性の数人のグループと隣り合わせになった。足元を見ると、「とまれ」の文字札が崩れている。このほか、盲人用の黄色い貼りゴムが剥がれるなど、修繕が行き届かないものが何かと目立ち、街の疲弊さを感じさせた。男性グループと一緒に通りの東側を歩き、美術館が近づいた時、彼らと別れて美術館のある西側へと走った。そして美術館を目前にして信号をわたる時、今度は背後から走って来た中学生の女子とその母親が一緒になった。母親と目が合った。母親は笑顔で美術館の方向を見ながら、てんぷらがどうのこうと娘に行った。信号が青になると、傘を差していなかったこともあるが、筆者より先に駆けだし、美術館の横手に向かい、中に消えた。後でわかったが、美術館内のレストランで食事するためであった。そこはチケットを買わずに入れる。美術館がそういう使われ方をするのもよい。とにかく人により知られるべきで、人が立ち寄りたくなる場所になることが先決だ。この美術館の近くには市役所などがあるようで、市の顔と言うべき地域だ。その意味で理想的な場所に建てられた。駅から徒歩で10分ほどというのが何より便利だ。帰りがけにわかったが、途中で比較的大きなイタリア料理のレストランが新しくオープンしていた。震災によってどれほど不景気になったのか知らないが、これから街がより繁華になって行く予感がある。館の前に来て知った。玄関前にはヘンリー・ムーアの彫刻が横たわっていた。これはよい。早速写真を2,3枚撮ったが、記念に先ほど別れたばかりの男性グループを遠くに写し込んだ。
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 ムーアの作品には思い出がある。それをこの美術館で出会えたことが嬉しい。館内に入ると眼鏡をかけた若い女性が愛想なく対応した。常設展示のみの展覧で300円だったと思う。デザインは玄関前のムーア像だ。館は3階建てで、筆者が見たのは1階の常設展のみだ。企画展は開催されていなかった。これが残念だ。常設展示は館の南半分で2室に分かれていた。北半分はレストランと休憩所で、休憩所の壁面に他館のポスターが何枚は貼られていた。またチラシ類は多かった。当館のニュース冊子が無料で置いてあったので一部もらった。それを見て驚いた。それはたくさんあったので最新号と思うが、発行は2008年だ。その後発行されていないとすれば、よほど経費に乏しいのだ。常設展は前述のように滋賀県立近代美術館の現代アメリカ絵画や日本の「具体」の作家などが占め、またメモを取らなかったが、知らない日本の現代画家の作品がそこそこまとまっていて、それが印象に残った。小雨でもあったせいか、筆者が見ている間、ほかに来場者はなかった。2室のみの展示であるから、すぐに見終わってしまう。過去に開催した企画展の図録が並んでいて、その数がとても少ないことが運営の難しさを物語っているように思えた。2室を見張る男性警備員がひとりいて、それはチケット売り場の要員とともに欠かせない。そうした人件費はいわば必要最小限の経費に属するが、それでも来場者が少なければ赤字になる。新しく収蔵品を買うなど夢の話だろう。館が出来た当初はそれなりのコレクションを充実させる長期計画があったはずだが、前述したように、他館が所有するのと同じような作品を並べることはない。フランク・ステラの大画面は、滋賀にも大阪にも京都にも神戸にも和歌山にもある。これはステラを扱った画商がバブル期に各地に売りまくったとしか思えない。ステラは悪くはない。だが、地方の美術館が大都市に並ぼうと背伸びをする必要はない。東北らしさ。それを東北の人たちがもっと気づき、そのことを魅力として発信する術を身につけてほしい。バスの時間を気にしながら、駅前に戻ろうとすると、雨はよりひどくなっていた。雨に濡れない場所からムーアの彫刻を見ると、穴の向こうに白いキリストが見えた。そのように写るように写真を1枚撮った。美術館の前がキリスト教の教会であることは珍しい。いわき市は信者が多いのかもしれない。それで以前書いたように「考えて下さい 死後の行方」といった文句を書いた看板が江名にあるのかもしれない。
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by uuuzen | 2013-04-22 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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