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●『BEEFHEART BAT CHAIN PULLER』その2
塵機(『DUST SUCKER』)と題する海賊盤風のビーフハートのCDが2002年に発売された。ジャケット下に小さく「The Captain’s own tapes of the legendary ‘Bat Chain Puller’ studio sessions plus rare bonus tracks」とある。今でもアマゾンで買えるが、日本では確か限定発売された。



ビーフハート所有の「BAT CHAIN PULLER」のテープを使ったと謳っているので、ビーフハートと交渉して発売権を得たのだろう。だが、ビーフハートがこの件について語ったことがあるだろうか。ブックレットにそういう経緯は何も書かれていないことが、なおさら海賊盤っぽい。CDタイトルの「DUST SUCKER」は、60年代のレトロな電気掃除機を持つ80年代のビーフハートの写真がジャケットに使われている。これは合成で写真で、掃除機は60年代末期のアルバム『TROUT MASK REPLICA』のジャケット写真撮影に際してビーフハートが用いたものだ。だが、「ゴミを吸い取る」という行為は、蔵入り録音の発売にたとえられ、ビーフハートが発売に積極的にかかわったか、あるいはそうでなくても容認はしたことを思わせる。もしそうならば、ジャケットやブックレットにビーフハートが関係しなかったことは不思議だ。やはりこれは海賊盤に限りなく近い発売かと考えたくなる。あるいは2002年のビーフハートはもう体力も気力もなく、好き勝手にやってくれと、レコード会社に一任したのかもしれない。ともかく、この『DUST SUCKER』は、オリジナルの『BAT CHAIN PULLER』の最初の公表で、この前例があったためにゲイルが今回新たに発売することを迷ったかだが、それはなかったであろう。ライナーノーツでジョン・フレンチもデニー・ウォーレイも『DUST SUCKER』には触れておらず、やはりビーフハートが関与しないところで発売されたように思える。そこで、同作と今回の新譜との違いが問題になる。ボーナス・トラックには差があるが、本編12曲は同じ並びで演奏時間も等しい。ただし、曲間の空白は縮まり、音質ははるかに向上している。ビーフハート亡き後の発売であるから、それらのみで公式盤と言えるかどうかだが、本物が登場した感は強く、もはや『DUST SUCKER』を聴く気になれない。そう認識される自信があったのでゲイルは発売に踏み切ったのであろう。だが、ビーフハート・ファンにすれば、いくら音がよくなったとはいえ、10年前に聴いた音で、感激はうすいかもしれない。それを埋めるのが、ブックレットに書かれるビーフハートをよく知るメンバーの回想や、またデニー・ウォーレイとの共作となった8分の長さの「HOBO-ISM」(浮浪主義)がボーナス・トラックとなっていることだ。
●『BEEFHEART BAT CHAIN PULLER』その2_d0053294_13152048.jpg

 音がよくなっていることは重要だ。だが、録音を現在の技術で変に歪曲していないことがまず前提になる。『DUST SUCKER』のブックレットの最初のページには、マスター・テープの箱の裏表の写真が印刷されている。アンペックス製のテープで、裏面上部に「BAT CHAIN PULLER」、そして「VAN VLIET」とだけ手書きされ、下半分には「APES-MA」の走り書き、そしてキングコンゴのような猿の上半身が描かれる。ビーフハートは猿好きであった。今回の新譜の最後の曲「APES-MA」は、『SHINY BEAST』でも同じ位置に収録されたが、短い語りで、檻の中の老いた猿に語りかける。その孤独さはビーフハートの内面の反映だ。猿を見ながら、人間、引いては自分を凝視していた。ビーフハートの晩年の20年は、「APES-MA」に語られる老猿と同じようではなかったかと想像する。それは動物であれば誰でも辿る道であり、ビーフハートはその現実を早々と見定め、表現し切っていた。老猿は若さを失った悲しい姿と言えばそうだが、ビーフハートはただそれを見つめるだけで、そういう姿になりながらも生きていかねばならない生というものを否定も肯定もしない。話を戻して、このマスター・テープのコピーをザッパが所有し、それを今回ゲイルが発売したのか、それともザッパ所有のコピーが『DUST SUCKER』となったのだろうか。どっちの可能性もあるが、音を比べると、今回の方がノイズもなく、各段によいので、『DUST SUCKER』は複写に思える。だが、音質の差を越えて時代の空気が漂っている。それはまさに70年代半ばのもので、80年代により近くなる『SHINY BEAST』とは違う。同作は久しぶりのビーフハートのアルバムということで、出たと同時に買って繰り返し聴いたが、当時から筆者は、同作を70年代前半までのビーフハートの作品に比べて評価する気になれない。すでにビーフハートの時代は終わったというか、それを無理して70年代後半から82年頃まで活動し続けたという気が今でもしている。それはマジック・バンドが、ザッパのバンドがそうであったように、若い世代のメンバーに一新されたことと、それに伴なって演奏は手堅くソリッドな雰囲気にはなったが、60年代にあった垢のようなものがなくなり、ビーフハートらしさが減退したと思うからだ。だが、ビーフハートが真の芸術家ならば、時代がどのように進もうと、それに合わせて作品を作ることが出来たはずで、70年代半ば以降のいわば第2期のビーフハートは、それはそれで特徴を持っていると見るべきだ。そのことはわかっていながら、やはり盛りを過ぎた、つまり枯れたビーフハートと言うにふさわしく、その老いの姿に一種の悲しみを覚える。そのことが最後の曲「APES-MA」と反響する。
●『BEEFHEART BAT CHAIN PULLER』その2_d0053294_13154065.jpg

 この70年代後半以降のビーフハートの悲しみは、それはそれでまた生物が加齢とともに不可避的に増大させて行く摂理を感じさせ、前言を翻すことになりそうだが、かえって70年代半ば以降のビーフハートの方が人間的で面白いということになる。それは筆者のように還暦を過ぎた年齢になるほど思えるのではないだろうか。ビーフハートはザッパとは違って自然児で、野生を好んだ。花や鳥、小動物など、ロック・ミュージシャンがあまり歌わないものに対峙した。そこには照れも虚飾もない。ありのままのビーフハートがありのままの周囲の自然を見つめ、それに同化した。アメリカには一部の都市文明と大部分を占める古代から変わらぬ自然があるが、ビーフハートは後者により関心があった。これはザッパとビーフハートのふたりの音楽を聴くことで20世紀後半のアメリカがわかるということでもあるだろう。先日ジャクソン・ポロック展について書いたが、ビーフハートはポロックに似ているかもしれない。白人が住む以前のアメリカに関心を抱き、自然の中に生きて来た人間の長い歴史を一方で見据えながら、本能によって把握するものを即興的に表現することを好んだ。そういうビーフハートであるから、音楽もまたそうなるのが本当だが、ひとりで詩を朗読するのでなければ、マジック・バンドの演奏に乗せて歌う形を取る。そして、そうであるからには、曲は楽譜に書かれて即興の余地がなくなり、完成した形となりがちだ。そのことが先に書いたように70年代半ば以降82年までのアルバムでは中心になり過ぎた。その反対は、たとえば「MIRROR MAN」を思い出せばよい。同曲はビーフハートの即興の歌に合わせて15分も演奏される。そういう曲は第2期のマジック・バンドにはない。その意味で今回のボーナス・トラックの「HOBO-ISM」は「MIRROR MAN」的即興を聴かせて、型にはまらないビーフハートの面目がよく出ている。それはともかく、第2期は全体に『TROUT MASK REPLICA』の方法論の複製的行為に終始したように感じられるところに、ビーフハートの完成後の「老い」を見てしまう。
●『BEEFHEART BAT CHAIN PULLER』その2_d0053294_13161897.jpg

 さて、ビーフハートの「盛り」が減退に向かうちょうどその境にあるのが、今回の本作だ。再録音した『SHINY BEAST』はまさに輝くような新時代の音という感じがするのに対し、本作は70年代前半の音の空気を引きずっている。そのレトロな味わいをどう評価するかは人によって違う。第2期のマジック・バンドからリアルタイムでビーフハートの音楽を聴き始めた人ならば、『SHINY BEAST』の方がいいと思うだろう。一方、70年代初めからビーフハートを聴いた筆者のような老世代は、今回の音を好む。LPの両面に1曲ずつギター曲を置くところは、71年の『LICK MY DECALS OFF, BABY』と同じ手法で、それも本作が70年代前半を引きずっているところだが、音はより広大なアメリカの平野を思わせる。また本作は、『SHINY BEAST』から82年の最後のアルバム『ICE CREAM FOR CROW』までの計3枚に収録される曲を含んでいる。その意味でも70年代後半から82年までという、ビーフハートの音楽人生の最後の時期を総括的に予告した内容になっている。あるいは別の見方をすれば、本作をまず録音したビーフハートは、かつての作曲能力が旺盛に蘇り、『SHINY BEAST』の録音時には新しい曲がたくさん出来ていた。そのことを積極的に評価するならば、第2期マジック・バンドのビーフハートはそれ以前と同様衰えを知らなかったことになる。そう断定するならば、なぜ82年以降音楽活動をやめたのか。ともかく、本作がまともな音質で発売されたことで、ようやくビーフハートの前期と後期を結ぶ、そして後期全体の代表作と言ってよいものが現われた。これは筆者個人の思いだが、ビーフハートの音楽には、70年代後半以降の3枚がなくても、本作だけでよいように思う。続きは明日。
●『BEEFHEART BAT CHAIN PULLER』その2_d0053294_13183141.jpg

by uuuzen | 2012-03-20 13:17 | ●新・嵐山だより(特別編)
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