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●『火の鳥』
以前からいいドラマだと噂に聞いていた。『ラストダンスを私と一緒に』を観た勢いもあって、従姉から6本の録画テープを借りて来て3日ほどで全26話を一気に観た。



今にして思えば、その疲れが直接の原因となって風邪を引いてしまった。TVで毎週楽しんで観るのとは違って、手元に全話のテープが揃っていると、ついつい一気に最後まで観てしまう。予想していたのとはかなり違った内容のドロドロ恋愛劇で、ホラー風味もかなり強く効いていて、後味があまりよくはなかった。それを制作側も予めよく知っていたようで、主人公たちの恋愛劇とは別に、コメディ・タッチの恋愛劇が同時進行する設定になっていた。だが、こちらの方は忘れた頃にわずかの場面が差し挟まれるだけで、結局はまた元の深刻な内容のドラマに戻って行くので、何だか取ってつけたような場違いなインターミッションが挟まれているように思えて、成功しているとは言い難い。このコメディ部分はこのドラマのヒロインであるイ・ウンジュ演じるジウンの妹役が重要な役割を担っているが、最初この妹は姉に大いに反抗するので、その後もドラマの内容に欠かせない役割を演ずるものとばかり思っていると、急にコメディ部分にのみ回された形で新たに登場し直す。これは完全に脚本を煮詰めないまま撮影に入ったに違いない見切りスタートを思わせた。だが、全体には破綻はほとんどなく、小道具類も布石がきちんと設けられて細やかな描写を意識していた。コメディ部分を除けば、このドラマは同世代の若い男ふたりと女ふたりが絡み合う内容で、『バリでの出来事』と共通する。26話は途中で人気が高くなったので数回分延長されたためであろう。後半はやや間延びした感がなくもないが、26話はまとまっていて起伏にも富み、よく出来たドラマだ。ただし、『ラストダンス…』のように明るさに欠けるので、もう一度観たいとは思わない。筆者が評価したいのは、もう一度観たくなるドラマで、この点から言えば、及第点を与えられない。
 簡単にあら筋を書くと、ヒロインはイ・ウンジュ演ずるジウンで、赤いスポーツ・カーを乗り回すわがままし放題の大金持ちのお嬢さんだが、知り合いが経営するガソリン・スタンドに突っ込んで事故を起こし、そこにアルバイトで務める成績優秀だが孤児の苦学生セフンと出会う。やがてふたりは親の反対を押し切って一緒に暮らすも、生活苦からジウンは別れ話を切り出し、セフンはアメリカに留学してしまう。留学に向かうことを聞いたジウンは急いで空港に駆けつけるが、父が車で追いかけて来ていて、交通渋滞に捲き込まれた時、父親は娘の車にく歩もうとして車にはねられて死んでしまう。ここから話は一気に10年後、つまり現在となる。セフンは成功し、アメリカで知り合った恋愛中の金持ちの娘と帰国する。ジウンは落ちぶれて今は派遣メイドの仕事をして慎ましい暮らしをしている。セフンは韓国でひとり住まいを始め、家政婦としてジウンを雇うが、ジウンはセフンの彼女がかつて自分の友人であったミランであることを知る。ミランはジウンが親の反対を押し切って一緒になった相手がセフンだとは知らないが、それもやがてわかる。ミランはアメリカにいる時にセフンの運転する車に乗っていて事故に遇い、下半身が不自由な体になっていて、その事故の責任もあってセフンはミランと結婚しようと考えている。10年後のジウンは人が変わったように真面目な落ち着いた人柄になっているが、かつてアメリカに留学していた時にセフンと見間違えた男ジョンミンと韓国で出会い、彼からは熱烈に迫られる。ジョンミンは大金持ちのひとり息子だが、会社経営に興味がない。そんな会社に雇われ社長としてセフンが乗り込んで来たのだが、ジョンミンはセフンがかつてジウンと暮らしていて、ジウンは子どもを身籠もったのに流産したことまで知り、セフンに対して激しく競争意識を燃やし、会社の仕事にも力を入れ始める。ところがジョンミンの父親はかつてはジウンの父親とは友人同士であったにもかかわらず、会社の吸収を計画して、結局ジウンの父親を事故で殺してしまっていたのであった。この10年前の忌まわしい事実もやがてジウンの知るところとなり、ジウンとジョンミンが結ばれる可能性は消える。一方、セフンとジウンの仲を邪推するミランはあらゆる手を使ってふたりを妨害し続けるが、ついに発狂して自殺する。さらに3年経ってようやく落ち着いた日が戻り、セフンとジウンはまた思い出の場所で偶然再会する。そしてふたりで暮らす未来を確信するところでドラマは終わる。
 男女ふたりずつの愛憎劇に『バリでの出来事』や『ラストダンス』のような会社ものを加えて複雑にした内容で、韓国における2004年4月から6月の放送をうなづかせる。この1、2年の韓国ドラマの本道は、会社の合併吸収劇に恋愛を絡めたものが多いのではないだろうか。大会社の御曹司が登場するという設定は華やかな世界を描くには最適で、これもトレンディ・ドラマの作り方としてはまたかと思わせつつも仕方のないことと言える。大抵の人が現実ではかなえられないような世界をドラマで見せるというのは、大衆の欲求不満の解消にはいいし、貧乏学生が努力して成功するという話も、現実には全くなくはないことであるから、これも大衆に夢を与えるには格好の筋書き設定だろう。このドラマを見ながら、少しスタンダールの『赤と黒』のジュリアン・ソレルを思い出したが、地位も家柄もなくて、ただ頭脳明晰さと男前だけが取り柄の若い男が世の中をのし上がって行くには、それをフルに使うほかはなく、そうした条件を設定するだけで、ドラマの大半はもう仕上がると言ってよい。セフン役のイ・ソジンという俳優はジェラール・フィリップのような男前とは質が違うが、それでも物静かなガッツある苦学生を実によく演じていたし、かえってジェラール・フィリップのような顔であればこのドラマは嘘っぽくなった。また、苦学生が学校の推薦で留学出来て、10年後には雇われにしろ会社の社長として帰国するという筋書きに無理がないかどうかだが、結果的には成績優秀なセフンがすなわち金儲け上手の成功者になったという単純な図式で描かれてはいるものの、金に苦労して結局好きな女とも別れる羽目になった男が復讐のために金亡者になったという設定ではなく、セフンは本来進むべき電子工学産業への道が不況のために不可能となり、そのため仕方なく方向転換して別の企業に入ったと、登場人物の言葉からわかるようにしてあったのは、なかなか脚本の真実味へのこだわりがうかがえる。こうしたドラマを楽しむ大多数の大衆は、成績優秀で勉強熱心な者がそのまま経済的に豊かな生活を送れる身分になることを何の不思議とも思っていないかどうかだが、日本でも韓国でもそれはある程度事情は同じことで、いい大学に入っていい成績を取ることがそのままいい収入につながることを暗黙のうちに了解している。逆に言えば、いい生活をしたいのであれば、他人よりもいい成績を取っていい大学に入るなど、少しでもキャリアに差をつけることだと思っている。それはそれでいいのだが、現実はそんな単純なものでもないし、いい成績を取る者が経済的にも成功するように描かれているドラマを見ると、何だかそれだけで妙に白けてしまう。それに、このドラマではセフンは苦学生の時はジウンには好かれはするものの、やはり育ちの差が歴然としていて、生活は必然的に破綻するが、10年後のセフンが経済的にも文句のない立派な人物になって初めてかつてのお嬢様であったジウンと対等の関係で接することが出来るかのように描かれていて、結局のところ金持ちのお嬢様の相手が出来るのは、社会的、経済的に地位のある男しか無理という現実を示していて、ある意味では夢も希望もないドライな話になっている。ただし、この点に関しては前述したように、アメリカの景気が変わっていたならば、セフンは自分の本来の望む企業に入って研究家になっていたかも知れず、社長といった経済的な裕福さを強調する人物にはならなかった可能性がある。しかしそれでは大衆が喜ぶドラマが成立しにくいし、結局は理屈をつけて苦学生が10年後には社長になったと、ごく話を単純化したわけだ。
 ジョンミン役は『バリでの出来事』のジェミンを思い出させるが、遊びにしか興味のない金持ちのドラ息子をエリックはよく演じていた。このエリックは男臭い風貌で、神話という音楽グループのリーダーらしいが、音楽畑から起用するのは『美しき日々』『ラストダンス』に共通し、これは日本でも同じことで、話題狙いと視聴率アップの点からは妥当な措置なのだろう。このドラマのオリジナル・サランドトラックCDはジャケットが中央にジウン役のイ・ウンジュ、左にセフンのイ・ソジン、右にエリックという3人のみで構成されていて、もうひとりの重要な登場人物ミラン役のチョン・ヘヨンの姿がない。これはどういう理由からか知らないが、ミランは端役ではなく、このドラマからは絶対に外せないキャストであるので、もう少し扱いがていねいであってよいと思う。ミランは最初韓国に住んでいる時に、友人のジウンが貧乏学生と凄い恋愛に陥っていると聞いた時、逢引のために場所を提供するなど協力はするが、どうせ相手の男はたいしたことがないはずと高をくくっている。つまり、貧乏学生などにろくなのはいないという金持ちのお嬢さんの偏見だ。これはなかなか脚本としてはただの一言だが、ミランの10年後の性格づけをすでにしていて芸が細かい。ミランは下半身付随の体にはなったが、愛してくれる優しいセフンがいて昔より幸福だと思っている。もしこのミランの相手がセフンでなくて全然別の男であればこのドラマは成立しなかった。ミランにすればセフンがかつての妻と頻繁に会っているのを知ると激怒して妨害するのは当然で、ただそれがあまりにストーカーそのものの度が過ぎた行為の連続となって、ついにはセフンに見捨てられてしまう。ところがミランの父親はセフンの会社の株をたくさん保有していて、セフンの弱みを握っているという設定が、韓国ドラマ特有のねじれてつながった御つごう主義と、それゆえのある一定の間持続するハラハラドキドキ感の原因のひとつとなっている。この握られた弱みも何とミランは最後にはセフンに無償で譲って服毒自殺するのだが、このドラマをもしミランとセフンの物語として観た場合、ミランは純愛で悲劇のヒロイン、相手のセフンは完全に悪役になる。それがそう描かれていないのはかなり残酷で、セフンはもう少しミランをどうにかしてやれなかったのかと思うが、とにかくミランが登場するシーンはいつも不安をかき立てるようなひっそりとしたなかなか印象深い音楽が鳴りわたり、そしてミランは室内のあらゆるものを壊す。火事の場面を含め、これほどさまざまな物が破壊される場面の多いドラマは今までにはなかったであろう。ミランの狂気を示すために破壊場面が必要であったと言えばそれまでだが、そういう狂気に至るミランを眺めながらセフンがあまり悩んでいるようには見えなかったところ、恋は盲目とはよく言ったもので、セフンにはジウンしか目に入らなかったというわけだ。ミラン役のチョン・ヘヨンはイ・ウンジュとはまた違ったかなりの美人であるし、難しい役をこなしていたと思うが、サウンドトラック盤のジャケットからも抹殺されているのは本当に哀れとしか言いようがない。
 ミランが自殺した様子をジウンとセフンが別々に駆けつけて確認するシーンがあり、ジウンは号泣するが、このわずか8か月後にイ・ウンジュが25歳で自殺するとは、まさか本人も予期しなかったろう。筆者は彼女の演技を初めてこのドラマで知ったが、確かに特徴ある顔立ちと演技で、このドラマも彼女抜きではここまで話題になったかどうか怪しい。わがままし放題のお嬢様時代と、10年後の全体に沈んだ表情とはまるで別人と思わせたが、彼女がすでにこの世にいないことを知ってこのドラマを観るのは、何だかよけいにスリルがあった。ドラマで自殺したはずのミランはその後ミュージシャンと結婚したようで、全く人生はわからないものだ。「火の鳥」は韓国では「プルセ」と発音するハングル文字ふたつの表記だが、翻訳機にかけると「吹くよ」と出て来る。これは何かの間違いで、プルセは韓国の伝説に登場する鳳凰のような鳥のことかと思ったが、ハングル2文字は「火」と「鳥」を意味するそうで、日本語タイトルは直訳ということになる。ドラマではこの鳥を描いた100号ほどの大きな油彩画が登場し、ジウンとセフンは初デートの際にその絵に出会う。そして絵の前でセフンは、「火の鳥」はアラビアでは何百年も生きてやがて火の中に身を投じ、その灰の中からまた復活するといったことを説明するが、これはサラマンダーのことだろう。韓国にも同じような伝説があるのかもしれない。セフンはこの絵をジウンとの運命的な出会いのシンボルと考え、社長になって帰国してからもこの絵の複製を部屋の中にいつも掲げていた。そしてドラマの最終回でまたふたりは同じ絵が同じように展示されているところで出会うが、結局脚本的にはセフンとジウンは恋の灰の中からまた復活するようにと最初から決めてあったわけで、お金持ちのお嬢様のまま死んだミランや、またお金持ちのぼんぼんとして生まれ育ったジョンミンも恋が成就しないように設定されたのは当然のことだった。金持ちに生まれついたのは罪ではないといったセリフがドラマにはあったと思うが、その金持ちというのも汚い方法で儲けたものとして脚本で描かれる場合は、やはりそれなりに制裁を受ける結末を用意しない限り、視聴者は黙ってはいないだろう。そこがTVドラマの限界でもあるが、視聴率を稼ぐ必要があるため、それは仕方がない。このドラマの結末から見えるひとつの教訓は、貧乏から這い上がった真面目で頭脳優秀な成功者か、あるいは金持ちから一旦人生のどん底の辛酸を舐めたような悟り者でない限りは、炎のような永遠の恋愛も手に入らないのだということのようで、貧乏から這い上がれないままの人間はさてどうしたらいいのか、ふてくされて寝るだけか。だから、やっぱり永遠の恋愛とは無縁で、ドラマとしてそもそも設定されないのかも。
by uuuzen | 2005-08-06 22:54 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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