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●カフェ・ミュラーの食事は売り切れ
ろい速度で台風が北上している。昨日はひどい雨風の中を出かけたのに、今日も出かけ、そして暴風雨であった。天気予報によると明日もまだ風が強いらしい。明日は神戸に出かけるが、雨が強ければうっとうしい。



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今日は家内の仕事が休みであったので、一緒に出かけた。夏休みに旅行しなかったので、仕事場では肩身が狭いらしい。そのためでもないが、近くの展覧会であっても半ば仕方なしについて来る。今日はドイツ文化センターで映画を見た。無料だ。先月17日にメールで案内が届いてから、ずっと心待ちにした。槍が降ろうが出かけようと決めていたが、家内に言ったのは出かける30分前だ。いつもそうだ。どこへ出かけて何を見るかを伝えない。必ず行かないと言うからだ。どうせ行かないと言うのであれば、出かけるぎりぎりまで言わず、あるいは目的地に向かっている時でさえ言わない方がいい。だが、今日は不思議と従順であった。傘が吹き飛ぶほどの暴風雨であるのにどういう風の吹き回しか。明日も休みであるから、一日は出てもいいと思ったのだろう。電車で四条河原町に出て、そこからバスに乗った。歩けば30分だが、台風では全身ずぶ濡れになる。それに、早めに着いて、同センターのカフェで食事することに決めていた。同センターにはここ4,5年は行っていなかった。催し物の案内がめったに届かなくなったためだ。おそらく館長が変わって、方針も一新したのだろう。たまにメールで届く案内によって、同センターの資料を借りるためには、本やCDが確か1点数百円の有料になったことを知った。昔は5点までは無料であった。そうした蔵書やCDを5,6年前にホールに並べて安価で販売したことがあった。これに2、3回行ったことがある。最初は1回だけの予定で実施されたが、さらに整理して放出されたのだ。その機会に多くの本などを買い、また無料のものはもらって帰った。今日、係の女性としばらく立ち話をして、その5,6年前の資料販売で古いものを一掃し、リニューアルへ向けての準備を整えたことがわかった。リニューアルは4、5年かかったそうだ。案内がほとんど来なかったのはそのためであろう。また、案内は来ても、その催しは同センターで開催されるのではなく、他の場所でのものであった。それでは面白くない。筆者は同センターのホールで映像や展覧会を見たいのだ。8月17日にメールが届いた時、久々に同センターのホームページを見た。それもリニューアルされていて、また同センターの名称が、「ヴィラ鴨川」とえらく洒落たものに変わっている。すぐにぴんと来た。日仏会館が20年ほど前か、「ヴィラ九条山」を新たに東山蹴上の山手にオープンした。そこで自国の芸術家を滞在させ、日本から霊感を得てもらって作品を製作させようというのだ。もちろん、そのためだけではなく、一般人が訪れて資料を調べることも出来るが、単に図書館的な機能だけではなく、もっと積極的に芸術活動の拠点にするというのだ。ヴィラ九条山にはオープン仕立ての当時、5,6回行った。その後はさっぱりだ。そのフランスのやり方を真似て、以前と同じ鴨川のほとりで、建物を改装して「ヴィラ鴨川」としたのだ。5人の芸術家が滞在し、活動の様子を公開するようだ。日本はそういう文化のお金の使い方が苦手だ。経済的にゆとりのない芸術家に対し、外国での暮らしの最低限の援助をし、その代わりにそこで何か形になるものを製作させるというのは、芸術家本人にとっても、またそれを受け入れる国にとってもいいことだろう。
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 さて、リニューアルした同センターがいったいどのように変化しているのか、それを見るのが楽しみであった。結果を言えば、以前の図書室がすっかりカフェに変わっただけで、ホールは音響設備も椅子も壁画も、昔のままであった。以前の図書室には多くの本やCDがあったが、前述のように、ほとんどすべて投げ売りされた。新たな蔵書は、以前小展示室として使っていた8畳ほどの部屋の壁面に収められた。それは以前の図書室に比べると数分の1の量に思えるが、背表紙はみな真新しかった。以前の図書室の出入り口のすぐ前、公衆電話を置いてあった4畳ほどの小さな空間には、椅子が数客と、大型のTV、そしてその傍らにCDの棚があって、500枚ほど並んでいた。本もCDも内容をチェックしていないが、今後同センターで催しが頻繁に開催されるのであればじっくり見たい。地下に下りる階段は昔と同じで、地下にあるトイレもおそらく同じだろう。地下に行く時間があったのに、トイレに立つ必要を感じなかったので階段を下りなかった。そうそう、昔は地下のあちこちの壁面に、ドイツの絵画を散りばめた洒落たポスターがあちこち張ってあって、それらも古書一掃セールの時に出た。筆者はいつも気になっていたものを数枚もらった。ポスターは無料で持って帰ってよかったのだ。だが、もらって帰ったのはいいが、一度も家で開いたためしがない。それに張る壁がない。それはさておき、映画が始まるちょうど1時間前に同センターに着いた。係の女性に訊くと、整理券はなく、早い者順で座ることが出来ると言う。先着100人だ。ざっと見たところ、10人ほどがあちこちでたむろしていて、ホールの中にはまだ入れない。それで安心し、予定どおりにカフェで食事することにし、ホールの出入り口に最も近いテーブルに着いた。ところがメニューをもらって注文しようと思った途端に、ガラス越しに係の女性が5メートルほど向こうで笑顔で手招きをする。慌てて出ると、予定より20分ほど早くホールを開けたと言う。早速家内の手提げの紙袋を持って走り、ホールの最前列に陣取ろうとすると、そこは全部荷物で塞がっていた。それで2番目の列の左端のふたつの座席に物を置いた。中央に座りたかったが、そこもすでに荷が置かれていた。それでも比較的いい場所で見られるのであるからいい。そうしておいてカフェのテーブルに戻って、料理を注文すると、料理は全部売り切れと言う。そんな馬鹿な。だが、ないものは仕方がない。それでケーキとコーヒーをふたつずつ注文した。これがどちらもとてもおいしかった。家内は大満足だ。安いコーヒー・ショップで出がらしのようなコーヒーを飲まされると腹立たしいが、そういう店の倍ほど高くても、本当においしいと思えるものを飲んだり食べたりする方がどれだけいいかと言う。全くそのとおりだ。コーヒーは550円だが、たっぷり入っているので、飲み応えがある。それに香りや後味がとてもよい。白木を基調にした明るい室内で、植樹された庭に面している。以前の図書室はとても暗い印象があった。それをこのようなカフェにするのは、同センターの近辺にカフェがなく、またくつろげる場所もなかったので、とてもいい考えだ。ドイツ人の太った50代か60ほどのおばさんと、日本人だが、ドイツ語を話す50代らしき赤ら顔のおばさんのふたりで切り盛りしている。この家庭的な雰囲気がまたいい。
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 映画は3時から始まる。カフェにいたのは20分ほどだ。もっと座っていてもよかったが、小さなケーキを食べるのは5分もかからない。それでそそくさとホールの中に入った。昔と何から何まで同じなのが嬉しい。ホールまでリニューアルする必要を感じなかったのだろう。ホールで見た映画については後日書く。今日書いてもいいが、あまりに生々しく、考えがまとまらない。いや、映像を見ながら何をどう書く、書けるかを考えたが、ただ圧倒され、その余韻が鎮まるにはしばらくかかる。同センターのリニューアルによって、玄関のドアを開けてすぐ斜め左手に受付が置かれ、その背後の右手の壁面、これは先に書いた新たに図書室となった部屋との仕切りだが、そこに人名が数十、さまざまな書体で書かれている。その全部を知り、また作品が即座に思い浮かぶ人はかなりのドイツ文化通だ。筆者には2,3知らない名前があった。いや、名前は全部知っているが、作品を知らない作家が混じる。それらの人名で最も大きな活字であったのは、Hans Werner Henzeであった。名前が長いのでそう見えたのかもしれないが、それにしてはやはり最も目立つ位置にあった。ヘンツェのCDは数枚持っているが、この作曲家の味わいはまだ筆者にはよくわからない。それはさておき、映画を2本見て外に出ると、相変わらず暴風雨だ。傘を差していてもほとんど意味がない。だが、風は東からもっぱら吹き、雨はさほどでもない。筆者は急に尿意を感じ、荒神橋をわたってすぐ左手に公衆トイレがあったことを思い出し、そこに立とうとした。家内はさっさと先を歩いて、もう姿が見えない。トイレに入ろうとすると、タクシーの運転手が立っている。そこは便器がひとつしかないのだ。運転手が出た直後に入って用を済まして出ると、100メートル先の河原町通りの歩道に家内が傘を差して仁王立ちしている。筆者と家内はいつもこうだ。どちらかが必ず先に歩き、100メートルほど離れても平気だ。たいていは筆者が寄り道し、家内が戻って来て5分や10分ほど待つ。家内の近くまで行くと、バスがやって来るとジェスチャーする。そしてバス停がどっちかと言う。「雨がたいしたことないから歩こう。行きたいスーパーもあるし。」こう言うと、家内は筆者がどのスーパーに行くかを即座に了解した。
●カフェ・ミュラーの食事は売り切れ_d0053294_04592.jpg 1週間ほど前の夜のTV番組に京都特集があった。そこで川端丸太町に、レトロな石造りのビルが建っているが、その内部は何になっているかという問題があった。そのビルは昔は電電公社か、それに似た建物で、数年前にはレストランになった。海鮮料理が主なメニューだったと思うが、一度も入ったことがなかった。本格的な店に見えたし、少々高い気もしたから気が引けたのだ。それで、その問題の答えに用意してあった「レストラン」を大声でTV画面に向かって言うと、これがブーであった。答えは「スーパー」だ。まさか。いつの間に? だが、以前のレストランはいかにもはやっていない雰囲気であったから、スーパーになっても不思議ではない。むしろ、地元住民にはその方がよい。近くにスーパーなどないからだ。それでそのスーパーに立ち寄るつもりで歩くことにした。予想どおり、そのスーパーは京都で急速に店舗の数を増加させている店で、その品物揃えと価格はほとんど知っているので、あまり買うものもないかと思いながらも、内部の様子を見るために入った。入る直前、中年の男がふたり、缶ビール片手に一杯飲んでいる姿が窓越しに見えた。「え? スーパーとは別の店があるのかな?」そう思って家内に言ったが、それはスーパーで買ったものを食べてよいコーナーであった。これが気に入った。以前のレストランには入れなかった。その恨みと言うほどではないが、外壁も内部もほとんどそのままの空間の中で、何か食べるのはいい。ドイツ文化センターのカフェではケーキしか食べることが出来ず、空腹が頂点に達している。それで店内をぐるりと周り、最後に寿司と缶ビールを追加して買った。すでに先の中年男ふたりはおらず、店の片隅のその10人ほど座れるカウンター席は筆者らだけで占めることが出来た。窓から丸太町通りを見ると、暴風はまだ止まない。街路樹がちぎれ、葉がたくさん落ちている。家内は、「このカウンター、労務者の臭いがする」と言って、心地よくないことを露骨に言う。そう言えば、先の中年男は、魚の缶詰などを2,3買って肴にしていた。飲み屋よりはるかに安価とはいえ、筆者はそこまでしてそこで一杯飲むつもりはない。食べ終わってすぐにスーパーを出てまた四条河原町に向けて歩き始めたが、河原町通りではなく、1本東の道を歩いた。そこは、電話がかからなくなってもう5,6年になるKが昔住んでいた家があった通りだが、もうその面影は全くなく、御池通りに接近すると、高層マンションがいくつも行く手を塞いだ。それで河原町通りに出たが、風が強く、ついに傘が壊れた。それを何度も元に戻すが、骨が折れたり曲がったりで、戻らない。そのようにして暴風雨と戯れながら、ふと横を見ると画廊があって、外に出ていた若い男性店員と目が会った。画廊の小さな立て看板に、「伊藤若冲」の文字が見えたので、中に入った。先を行き過ぎた家内の姿は見えないが、筆者がいないことに気づくと、どうせ戻って来る。店内で若冲の掛軸を見せてもらい、出された麦茶を飲みながら若い店員と10分ほど話して外に出ると、家内が恐い顔で仁王立ちしていた。
by uuuzen | 2011-09-03 23:59 | ●新・嵐山だより
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