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●Now You See It-Now You Don't-Again
任というほどのことでもないが、「食べログ」に書き込んだ者として、報告しておかねばならない。6月27日の大西さんからのメールでこんな内容が届いた。



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「京都のザッパ・バーのマザーズが、今月末で閉店だそうです。古賀さんの体調不良によるそうです。今後は、静養されますが、再開の予定はないとのことです。淋しいですね。回復を願います。」これにびっくりして、その日のうちに妹の家に行って、CDを2枚コピーし、それを持参してバーのMOTHERSに向かった。夕方7時過ぎに店が入るビルの前に着いた。てっきり開いていると思っていたが、扉の前に立つと、本日は臨時休業とある。仕方がないので、扉の隙間からCD-Rを差し込んでおこうとしたが、そのような隙間がなく、持ち帰った。そして、大西さんにメールして古賀さんのアドレスを聞き、早速古賀さんにメールしたところ、その返事が6月30日にあった。「ご報告が遅くなり申し訳ございません。本日も と言いますか事実上4月から閉店状態で、本日も営業いたしておりません。誠に残念、かつ情けない思いですが、私のわがままな3年半が終わりました。大山さまの今後のご活躍を願っております。本当にありがとうございました。」東日本大震災の当日は鳥博士さんと一緒で、夕食後に一緒にMOTHERSに行ってもいいかと思ったが、そこまで歩くのが億劫であったこと、鳥博士さんが酒を飲まず、またザッパの音楽には関心がないので、行っても退屈するかと思い直した。その時に行っておけば、閉店のことも古賀さんから耳に出来たが、地震当日に開店していたかどうかわからない。ともかく、大西さんと一度だけ訪れただけに終わった。は酒が飲める口だが、身近にザッパの音楽を聴く者が皆無であること、そして開店の夜7時以降に河原町をうろつくことがほとんどなくなったので、MOTHERSに行く機会を見つけることはなかなか出来なかった。大西さんと一緒に訪れた時は、古賀さんの体調があまり思わしくないというので、いつまで経営出来るか、大西さんは不安を感じたようだ。昼夜逆転の生活は、健康面からいいはずはない。筆者も夜型だが、どんなに遅くても深夜3時か3時半には寝る。だが、バーはそういうわけには行かないのだろう。3年半の営業だったというが、店の存在を知ったのは確か甥からであった。その甥の弟が、以前少しロック・バンドをやっていたことがあって、また一時はバーの経営もしたがっていたので、MOTHERSの情報をどこかから仕入れたのだろう。甥は嫁を連れて早速行って飲んで来たが、筆者はそのうちにと思いながら、大西さんの来日時が最初になった。甥と一緒に行ってもよかったが、甥はロックをほとんど聴かず、またザッパについての知識も皆無だ。そういう者が訪れてもあまり楽しめないというのではないが、古賀さんは物足りないだろう。また甥の弟に、MOTHRERSがどういう酒や肴を用意しているかを言うと、商売の観点からはきっと大変な経営状態のはずとのことであった。その点は、バーに何度も行ったことのない者でもわかるだろう。まず、MOTHERSの看板を見て、そのロゴがザッパの最初のアルバムから取ったものであることを知らない人があまりに多い。知る人はもちろん知るが、そういうザッパ・ファンが京都にどれほどいても、バーに飲みに行く趣味のある人は半分以下であろう。ザッパをよく知る人だけをターゲットにすると、経営は行き詰まる。それどころか、バーそのものの経営が難しいことは、わが家のすぐ近所に長年木屋町で音楽好きが集まるバーを経営していた人がやはり閉店したことからもわかる。
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 大阪の谷町筋界隈を昼間歩いていたところ、地下にロックを専門に聴かせるバーのあることを知らせる張り紙があった。その文面が面白かった。バーに入ったことのない、そしてロックにさほど詳しくない世代に向けた内容で、「マスターはしゃべり好きです。あまり気にせずに来てください。」といった内容であった。張り紙のあった場所は記憶しないが、どういう人物がマスターなのか、文章には好感が持てた。だが、ロックをいろいろと聴かせるとはいえ、そのロックのいろいろはあまりにも広範囲であり、マスターがそのどのあたりの部分を好むかによって、客層が大きく異なる。息子はアメリカン・ロックの2,3流ばかりを好んで聴いているが、それはそれで熱心なファンがある。また、筆者のようにザッパを好む立場からすれば、そういう音楽は全く面白いと感じないが、そのように同じアメリカの同じ時代のロックであっても、さっぱり交流がない場合は往往にしてある。張り紙を見た瞬間にそういうことを感じたから、仮に張り紙を見た時刻にその店が開いていて、中に入ってマスターと話をしたとしても、筆者が充分楽しめたかどうかは疑問だ。あまり好みでない音楽ばかりかかっているのであれば、家で好きな音楽を聴いて飲んだ方がましであるから、結局はマスターの人柄と、どれほど広範囲のロックを奥深く知っているかが問われる。張り紙にあったように、比較的若い、そしてあまり知識のない世代に来てほしいと考えているようで、マスターよりおそらく10や20も年配に筆者のような客はあまり歓迎されない。ここが水商売の難しいところで、商売として成立させるためには、あまりマニアックなところに深入りするのは禁物だ。だが、ロックを聴く者にはみなそれなりにマニアックな部分を持ち合わせているから、マスターなりにマニアックなところを持っていると匂わせる必要がある。そのマニアックな方向と深みが問題で、それに比肩するものを持つロック・ファンはそれこそごまんといるから、ロック・バーとなると、経営面からは、マニアックな音楽を避け、万人向きの、いわゆる大ヒットした曲を中心にするのがいい。そういう中に2,3割はあまり知られていないようなものを混ぜると、客は自分のスノッブさを満足させられ、足を運ぶだろう。そのためにもマスターは広範囲の音楽知識が必要だ。だが、そういう才能はバーだけに収まっているだろうか。東京ではそういうことも多いと思うが、大阪となると、何となく底が知れている気もする。それを補うのがマスターの陽気な人柄で、先の張り紙にあったように、話し好きを自称するのは好ましい。そういう人柄であれば、マスターより知識のある人物がやって来ても、マスターは耳学問で知識を増やし、サロンのような交流の場が生まれる。商売でありながら、人的な交流の場ということでもあって、経営者も客もそれを楽しむためにやって来るだろう。その点をMOTHERSと比較すると、ザッパの音楽だけをかける姿勢は、ザッパ・ファンを増やすことになるのかどうか、またすでにザッパ・ファンである者同士をどう結びつけるのか、その積極的な姿勢が宣伝の形としては明確化していなかったように思える。もっとネット上で宣伝すべきであったように思うが、それには古賀さんの考えもあったことだろう。
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 いつまでもあると思うな親と金という言葉がある。これは何にでも言い得る。MOTHERSの3年半が長かったのか短かったのかわからないが、このように何でも変化して、今までそこにあったものがある日急になくなる。いつまでもあることに慣れてはいけない。だが、明日なくなるかもしれないとう不安を抱えて人は生活することは出来ない。先日いわきのTさんと話をして、Tさんはもう5年は生きられるかと夫婦で話し合っていると話した。ふたりは80代半ばなので、90が寿命と思っていることになるが、老夫婦が残り5年と考えて暮らす日々はどんなものかと想像する。ふたり一緒に死ぬことはないから、どちらか片方がもう片方を見取る。そして、そういう覚悟がひしひしと現実のものとして近づいて来る日々の暮らしとはどういうものか。もうすっかり死の心準備をして、達観して生活しているのかどうか、それが気になるが、筆者もそのうち同じ世代になり、自ずとそのことがわかるかもしれない。3日前に知人が来宅し、その時、筆者が65、家内が35パーセントでバランスを取って生活していると言われた。その数字はいかにも数学好きの彼らしいが、咄嗟に思い浮かんだ数字を言ったのだろうが、筆者はすかさず「やじろべい」という言葉を発して、筆者と家内が両端にいてバランスを取って生活している姿を示した。彼が言うのは、そのようにバランスを取って生きているのが夫婦で、どちらか片方が亡くなると、やじろべえはたちまち指の上から落ちてしまうというのだ。そして、そうならないためには、やじろべえの片方ずつがひとり立ち出来るように普段から生活しておかねばならないという。そう言う彼は数年前に奥さんを亡くした。今は息子夫婦と一緒に暮らし、一昨日書いたように、とても多趣味であるので、片方を失ってバランスを崩したやじろべえにならずに住んでいるが、世の中にはそうでない人も多い。何年か前、著名な評論家は奥さんを亡くして生きている意味を見失い自殺した。それは完全なやじろべえ的夫婦で、旦那はひとりになった時に独楽のようにバランスを保って回ることが出来なかった。その点、筆者はどうかとたまに自問する。孤独には慣れているが、実際にひとりになるとどうなるかわからない。ここ数年で筆者は買い物をしたり、料理することに慣れ、そのことを家内は、「もうわたしがいつ死んでも問題ないね。それにあんたはまた誰かいい女の人を見つけるよ」と言うが、この発言に対して筆者は、「あかん、もうあそこが立てへん」と笑いながら言うと、「何言うてんのん、その心配はないやん。もし立てへんようになっても、あんたは口がうまいから。」と返したりする。ところで、ポール・マッカートニーがまた結婚した話をポールと同じほどの年齢の人が筆者との話の中で話題に挙げたが、有名人で大金持ちであるポールとそこらの普通の老人を一緒にするのは何だかおかしい。だが、ポールが相変わらず若い妻をほしがるのは、男としては理解出来る。そういう色気があることが創作のエネルギーになっている。これを単に老人のいやらしさと捉えるべきではない。とはいえ、ほとんどの老人はそういう異性を求める考えを持つことさえ不潔と見られる。若い間はいいが、老人になると何でも不潔と見られがちだが、それはおかしい。若くてもゴミのような臭いを発散している女性はよくいるし、また心の美しさとなれば若いも老いも関係ない。
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 ザッパのMOTHERSというバンド名はなかなか含蓄がある。これが最初はMUTHERSで、それはMOTHERFUCKERS(母親とやる奴)を縮めた言葉と知ると、もうそれだけでザッパの音楽がどういう色合いを帯びるか、色眼鏡で物事を見ない人でも尻ごみしてしまうが、MUTHERSではレコードを出すことが出来ないというレコード会社の意向も汲んで、MOTHRESとなった。ザッパは20そこらでひとり暮らししたので、マザコンであったとは言えないが、女好きであったのは確かで、そのことが母という存在をどう見ていたかと思わせる。ザッパはPTA的な母親には嫌悪を抱いていたとしても、たくさんの子持ちで、よきパパであったから、妻によき母親の役割を担わせたはずだ。そのあたりのことに関してはごく常識的で、ザッパの音楽からは家族像は浮かび上がらない。そういうことをネタに作詞することを好まなかった。また、月並みなラヴ・ソングを嫌悪し、理想の女性観も歌詞には描かなかったので、母親という存在に聖性をどれほど見ていたかもわからないが、ザッパの機械好き、実験好みを見ると、ザッパを支配していた巨大なマドンナ性が幻のように上空にあって、それがあったからこそ、ザッパは生涯音楽で遊ぶことが出来たのではないかと思う。そのマドンナ性はMOTHRESのバンド名がいみじくも象徴しているが、ザッパがせめてもう10年生きていたならば、きっとそういう母性への言及ないし、それを匂わせる境地に至ったと思う。それはさておき、筆者にとって母性はどうか。母はTさんと同じ年齢で、同じように元気だが、筆者と妹ふたりの計3人を抱えて、20代で誰の助けも得ずに母子家庭を営む必要に迫られ、優しい母親だけの役割ではとても人生の荒海を乗り切れず、ほとんど父親的に子どもに接した。もともと親分肌の性質であるので、がむしゃらにまた堂々と子育てをして生きて来たが、筆者は母に対して母性をあまり感じない。母とはもっと違った意味での優しさを持っていると、常に母以外の女性の母性を想像する。それは先に書いたマドンナ性と言ってよい。それを持ち合わせるには、若い女性は無理なような気がする。若い女性はみなほとんど同じだが、子育てをする過程でマドンナ性を獲得し、全く別の、そして本来その人が持つものを露にすると思う。そして、男から見て万全に安心出来るマドンナ性をいつか持つことになるであろう若い女性というものに関心があるが、そういう若い女性はきわめて少ない。また、そういう女性を求める男がマザコンであると言うのは当たらない。筆者が思い描くのは、創造の神としてのマドンナ性との意味合いで、男を自由に遊ばせ、仕事に邁進させる存在だ。だが、それも誤解されやすいだろう。自由に遊ぶとはいえ、それは働かずに無駄金を使うという意味ではない。命を賭けて全力で、責任を持って何かに向かう姿を思い浮かべてもらわねばならない。そうしたマドンナ性が、現実の女性とどれほど密着したものであるかどうか、先のポール・マッカトニーの結婚がいい例かもしれない。ポールが求めているのは、生身の女性ではあるが、その一方で普遍的なマドンナ性ではないだろうか。それは、ついさきほどまであったのにもうなくなったというものではなく、不滅の存在だ。その不滅を信じて創造する男は不滅の作品を生みたく思う。
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by uuuzen | 2011-07-31 13:07 | ●新・嵐山だより
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