銅製の蒸留釜は野晒しにすると青い錆を吹くが、屋内で現在使われているものはピカピカに磨かれ、また赤茶色をしている。昨日掲げた最後の写真の中央に写るものは実際に使われていたもので、内部が展示空間になっているが、表側よりもまっさらでテカテカしていた。
この蒸留釜をポットスティルと呼ぶが、この形をした銅製の特製ウィスキーボトルがニッカで昔発売されたことがある。そのような特殊な形の容器にウィスキーを詰めて販売することは多い。
1階の展示室にサントリーが今までに発売した特殊な形をした瓶が少し展示されていて、それを見た家内が、1970年代かに発売された、岡本太郎デザインのピンク色をした陶磁製の女性ヌード型瓶がわが家にあったことを思い出し、帰宅後早速裏庭で野晒しになっているのを見つけた。栓がなくなっているのが惜しいが、きれいに洗って花瓶にすると言う。その栓は、本体と同じピンク色の陶磁製で、掛軸の軸先と同様の円柱型をしたものがコルクを覆っていたが、保存していたとしても、コルクが劣化して栓の役割を果たさないだろう。このヌード型の瓶はサントリーではなく、キリン・シーグラム製で、シャトランという名前のシールが裏側に貼ってある。サントリーは岡本太郎にデザインを依頼したことがあったのだろうか。岡本太郎展が東京で開催されていて、死後人気がより高まったから、このシャトランの瓶をほしがる人は今後出て来るかもしれない。数年前、ある酒屋の空き瓶処理場に、この瓶が10本ほど転がっているのを見かけたことがある。そのうちの2、3本には栓がついていたから、その時にもらっておけばよかった。それはいいとして、先週水曜日投稿の
「西国街道を大阪に入る」の最後に掲げた写真がらみで言えば、サントリーは70年代から野鳥の保護に取り組み、ラベルに野鳥をデザインした瓶をよく販売した。そのうちのひとつに、つくば万博会場で販売した記念商品で、瓶が小鳥の形をしたものが4種類ほどあった。筆者はそれを所有するが、中身は飲んでしまった。その小鳥型の瓶が、小鳥の形を鋳造して載せた通行禁止の柵だ。小鳥は生々しい銀色であるので、何度も塗り直しているだろうが、20年以上前のものではないだろうか。サントリーが野鳥保護を広告に掲げたのは、ウィスキーは水が大きな役割を持ち、そのきれいな水の湧くところには野鳥が多いという、環境のよさの連想からだろう。実際山崎辺りはまだ野鳥が多いはずで、去年秋に書いた
「キビタキのぬくもり」に登場したキビタキも、天王山辺りから飛来したものだろう。サントリーがその後も野鳥保護に取り組んでいるのかどうか知らないが、美術館や音楽ホールを建てるなど、文化事業には金を注いでいる。そこが大阪商人らしいところでもあると思う。
このサントリーのウィスキー工場は、ぎりぎり大阪府内にあって、地名が山崎だが、阪急の大山崎駅は京都府乙訓郡の大山崎という町の名だ。サントリーの工場がもう少し東寄りに建っていれば、サントリーが誇るウィスキー「山崎」が「大山崎」になっていたかもしれない。それはそれで貫禄があっていいが、山梨に30年ほど前に出来たもうひとつのウィスキー工場がやはり地名を取って「白州(はくしゅう)」なので、同じ二文字の統一を考えれば「山崎」がよい。ついでながら、家内の母の23回忌が先頃あって、1年ぶりかに会った家内の兄の娘婿は「山崎」を好んで飲んでいるとの話であった。このウィスキーは10、12、18、25年という4つのランクがあって、筆者は25年ものは飲んだころがないし、また他の3種にしてもどれも1本ずつ飲んだ程度だ。25年ものは特に高価で、その価格を思うと、とても飲めた身分ではない。娘婿が何年ものを飲んでいるのかは訊かなかったが、収入の差がそういうところに出て来ると納得させられた。話を戻して、阪急大山崎駅から少し足を延ばせばサントリーの工場であることは知っていたが、ネットでホームページを見ると、予約は簡単で、また優待券の画面を印刷すれば記念品がもらえる仕組みにもなっている。地図と一緒にそれを印刷したが、以前にも書いたように筆者のプリンターは3原色のうち赤しか出ない。それでもまず大丈夫だろうと思って、印刷して持参すると、受付けのサントリー嬢の方から優待券を持参したかと訊ねる。赤色のみ、しかも画面の一部が表示されない古いパソコンであることを説明すると、笑顔で「いいですよ」と言われ、記念品を用意してくれた。「山崎」のロゴが入ったウィスキー用の頑丈なグラスだ。ふたつもらえたので、1個を今度義兄の娘婿にあげようと家内と言い合った。受付けの心地よい応対で、遠足気分が高まった。サントリーは商品イメージを大切にしていることが、若い女性にこの施設を一任していることからもわかる。酒好きの荒くれ男も、若い美女にはしゅんとおとなしくなる。
さて、見学時間の11時半がやって来て、2階のカウンターに集合した。臨時に設けた回でもあって、筆者らを含めて10人に満たない。車椅子の人や親子連れもいる。また車で来た人はそのことを示す札を首からぶら下げ、酒は飲めない。案内嬢の引率でカウンターの真横の透明扉から外に出ると、その正面に2体の銅像があった。銅像の写真を撮るのは去年3月の岡山以来で、それについては
「岡山駅前の商店街と銅像」に掲載した。今日掲げる銅像は、サントリーの創業者の鳥井信治郎とその次男で跡を継いだ佐治敬三だ。造られた年代がかなり違うと思うが、立像の佐治敬三の方がリアルでよく出来ているように思えた。特に眼鏡をかけた顔の表情が真に迫っている。鋳造も難しかったのではないだろうか。鳥井の方はあまり似ていないが、佐治に比べて写真がとても少ないはずで、彫刻家は思いをまとめるのにてこずったのではないだろうか。今後歴代の会長を没後に順次並べて行くのだろうか。酒好きはウィスキーにおけるサントリーの貢献度は充分知っており、サントリーが自社の功労者を銅像にして見学者に見せることはとてもいいことだ。日本のウィスキーはサントリーだけが製造しているのではなく、筆者は20代の頃はキリン・シーグラムのロバート・ブラウンの方がサントリーのオールドよりおいしいと思って、そればかり飲んでいた。やがてロバート・ブラウンは見かけなくなったが、サントリーの宣伝力に破れたのだろう。またニッカ・ウィスキーも個性のある味で、何本か飲んだことがあるが、それもサントリーに比べて大きなシェアを占めてはおらず、店頭でもごく一部しか見かけない。ウィスキーは高価なほどマイルドで飲みやすいが、あまりにマイルド過ぎて飲んだ印象が稀薄になる場合がある。かといって、最も安い部類のものは何となく体に悪い気がして飲む気になれない。案内嬢からもらったパンフレットによれば、ウィスキーはカロリーや糖分が低く、またプリン体がない。ビールや日本酒より健康にはいいことになるが、この点はきわめて気分に支配される。筆者はどんな酒でも飲むが、みんなで飲む時はビールで始まって日本酒、そして最後に焼酎やワイン、ウィスキーかブランデーで、お腹の中はカクテルもいいところだ。このサントリーの工場、もう1日続ける。