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●「ESPANA,RAPSODIE POUR ORCHESTRE」
吏生活が長かったエマニュエル・シャブリエは、画家で言えばアンリ・ルソーを思い出させるが、今調べると、ルソーはシャブリエより3歳年下で、シャブリエが官吏を辞めて作曲に専念するようになった頃に絵を始めている。



また、ルソーは素朴派と称され、その絵は素人っぽいが、シャブリエはドビュッシーやラヴェルから尊敬され、音楽家が愛好する音楽家と言ってよい。官吏生活が長く、また作品数が少ない点では素人的な印象があるが、誰でもどこかで聴いたことのある曲、つまり今日取り上げる曲を残したことにおいても、歴史に残る作曲家としてよい。筆者がシャブリエを意識したのはラヴェルのピアノ曲による。「古風なメヌエット」がシャブリエ風であると解説を読んだためだ。それで、10数年前だったか、中古CDセールでピアノ曲のCDを見つけて買った。一方、モニック・アース演奏でエラート発売の2枚組CDでラヴェルのピアノ曲集を買った時、同じシリーズでシャブリエのものが並んでいた。その時買っておけばよかったが、いつでも入手出来るだろうと思っているうちに年月が経ち、それで前述の1枚もののCDを買った。それは、シャブリエというあまり有名でない作曲家であるので、有名な演奏家のものでなくてかまわないと思ったことにもよる。さきほどエラート盤をアマゾンで調べると、「Chabrier」と打ち込んで17ページ目195番に「L'Oeuvre Pour Piano」と題して商品が出ている。新品で3800円だ。こう少し安ければ買うが、気長に中古を待ちたい。その2枚はピエール・バルビゼの演奏が中心で、彼の演奏によるドビュッシーを聴いたことがある。同CDのジャケットに採用されるシャブリエの肖像写真はよい。偏屈そうで、また神経質なところも感じられる。シャブリエは53で死んだが、それは100年ほど前のことで、さほど若死の部類に入らないか。ちなみにラヴェルはシャブリエより34歳若く、62歳で死んだ。「古風なメヌエット」が手本にしたシャブリエの「華やかなメヌエット」を期待して聴いたところ、当初はどこが似ているのかよくわからなかった。クラシック音楽はだいたいそうで、10回は最低聴くべきだ。そして数十回聴くと、もう忘れられなくなる。シャブリエの同曲は彼のピアノ曲の代表作「10の絵画風商品」の9曲目に位置している。生前シャブリエは、このピアノ曲集から数曲選んで管弦楽曲にアレンジしたが、この曲はその対象にならなかった。ところがラヴェルがそれを行ない、シャブリエの管弦楽曲集のCDにはその編曲が収録されている。それほどにラヴェルはこの曲を好んだが、ラヴェルは自作の「古風なメヌエット」を管弦楽曲に改作していて、それと元のピアノ曲を比べると、筆者は文句なくピアノ曲を好む。そのため、「華やかなメヌエット」もピアノ曲の方がいいのではないだろうか。聴き比べると、さすがラヴェルの才能、管弦楽曲の方は多彩な絵画を見る趣がある。この曲は勇壮な主題で始まり、それがスペインをイメージさせる。中間のトリオの部分は打って変わって優雅で落ち着いたメロディとなり、その対比が意外と言おうか、1曲のピアノ曲としては盛りだくさんという気がする。そこがラヴェルが管弦楽曲に編曲したくなった理由だろう。トリオ部分は「10の絵画風商品」で言えば6曲目に近い牧歌的な雰囲気があって、最初の主題よりもシャブリエの持ち味がよく発揮されている。そこで思うのは、シャブリエがいかにも19世紀人であることに対し、ラヴェルは20世紀の作曲家であることだ。
 毎年2月になると、筆者はラヴェルのピアノ曲、その中でも「クープランの墓」あたりをここ数年欠かさず聴くが、今年は思い浮かべるだけにした。いや、正しくは先日一度だけ聴いた。それは想像どおりの音で、いいにはいいが、二度目を聴く気がしなかった。それは筆者の体調や気分による。ラヴェルのどこか陰鬱で物悲しい音色もいいのだが、シャブリエの田舎の温かい空気が、2月の陽気が感じられる日にはとても心地よい。おおらかと言おうか、文句なしに楽しい。それは20世紀に入ってからは失われた。そこには時代後れになったという都会人の思いも反映したが、機械文明が発達し、また戦争の影によって、そうした人生の謳歌という態度は肩を潜めるようになったのではないか。ラヴェルやドビュッシー、あるいはプーランクがシャブリエを敬愛したのは、父世代の才能ある作曲家ということはもちろん、そのよき時代性のように思える。また、シャブリエの独創的な音は、ラヴェルの時代になって、もっと複雑化して微妙な響きを内蔵するようになり、その分、壊れやすいガラス細工のような芸術になった。筆者はそうした精緻なものを好むが、若い頃のラヴェルがなぜシャブリエの曲をヒントに作曲したかを考えると、単に和声がどうのといった作曲上の問題ではなく、それを通して立ち現われる人間性に惚れたからではないか。また、シャブリエが陽気一辺倒の、あまり中身のない作曲家であるかと言えば、何度も聴くうちに、次第にその味わいに耳馴染み、たとえばラヴェルが「華やかなメヌエット」のどの部分をうまく改変しながら「古風なメヌエット」を書いたかも見えて来る。そして、そうなった時、「華やかなメヌエット」は「古風なメヌエット」とは全く違う才能の作品で、「古風なメヌエット」が追い着けない何かを持っていることを感じることが出来る。「古風なメヌエット」は可憐な女性のようであるのに対し、「華やかなメヌエット」は堂々たる熟女といったところで、今の筆者には後者がよい。また、生涯独身であったラヴェルは、小間使いと関係を持ったようだが、でしゃばらない小間使いは「古風なメヌエット」の味わいに近く、ラヴェルは「華やかなメヌエット」から想像されるような自己主張の強い熟女は苦手であったのではないかと思える。
 筆者はシャブリエの全曲を知らない。シャブリエは作品数が少ないので、CD数枚で全曲が収まると思うが、代表曲のみでいいのであれば、ピアノ曲集で1枚、管弦楽曲集で1枚あれば充分だろう。そうした管弦楽曲集のCDを買ったのはピアノ曲集より数年後だったと記憶する。一聴して驚いたのは、今日取り上げる狂詩曲「スペイン」だ。この曲はTVで盛んに使用されているので、誰でもどこかで聴いたことがある。そして、最初に聴いたのがいつなのかわからないほどに、昔に聴いた覚えがある。筆者はそうであった。幼少の頃にラジオから聴いたはずだが、誰のどういう曲名であるかは知らなかったし、また意識もしなかった。それがCDを聴きながらギョッとした。「この曲がシャブリエだったのか!」という思いで、シャブリエが一気に身近に感じられた。文句なしに楽しい曲で、笑顔がこぼれる。現代のポップスやロックに比べると、この曲と同程度のものは一発屋がよく書くと言ってしまえるようだが、シャブリエのこうした名曲が先にあったからこそ、現代のポピュラー音楽家の活躍の場も出来たと思えるほどに先駆的だ。またシャブリエがこの曲のみの一発屋ではなかったことは、後の世代の作曲家により敬愛が物語っている。CDの解説によれば、シャブリエは中部フランスの北東に生まれ、6歳の時にスペインから亡命して来たサポルタという人物にピアノを習い始めた。つまり、物心つく頃からスペインがあった。ラヴェルはシャブリエのそのスペイン性を好んだのだろう。これはフランス人全般に言えるかもしれない。また、シャブリエは友人の薦めによって41歳の時に妻を伴ってスペインを訪れ、その印象によって翌年この名曲を書いた。子どもの頃からスペインを意識していたはずだが、官吏生活を辞めて間もなくしてスペインを訪問する余裕が出来たのだろう。そしてスペインの思い出をこのように作曲に反映し、それがシャブリエの最も知られる曲になったところ、ひとりの人間の生涯における辻褄といったことを感じさせる。スペインを題材にした曲は他の作曲家にもあるが、シャブリエのこの曲はスペインの曲に似ると言うよりも、まるで遠足のようにスペインを旅している楽しさを伝え、難しいことを言おうとしていないのがよい。だが、それがシャブリエと言えば間違いで、この曲は例外的なところがある。それでもこの曲を書いたところに、シャブリエの本質があり、それを筆者は好む。音楽とは音を楽しむで、その代表は本来こうした曲にある。音を楽しむとは人生を楽しむと言い替えてもよい。シャブリエは官吏を40歳近くまで勤めながら、音の楽しみに浸り続け、ついにはそれに専念するようになった。そこには現代のサラリーマンのひとつの生き方の見本もあると言っていいかもしれない。定年後に経済的にも時間的にも余裕が出来た人は、シャブリエ的な生き方に転身出来る。だが、そこには人生を楽しむという根本を忘れず、また子どもの頃からの才能の練磨がいる。それがなくても悲しがる必要はなく、シャブリエの曲を楽しめばいい。
by uuuzen | 2011-02-27 23:59 | ●思い出の曲、重いでっ♪
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