2009年09月08日●第　１０７　話

　●頭（こうべ）歩っ記　５

ヴィーナス・ブリッジから見る１０００万ドルの夜景にムーンゴッタが輝いていれば、１億ドルの夜景でしょう。マニマンはそういう景色を実際に見ることは今後もあり得ないので、想像するだけですが、その景色は、不思議と実際に見た以上に鮮明で美しいはずです。そうした考えは、よほど想像力が豊かか、あるいは現実の素晴らしさを知らないことによります。それに、理想化は恋する者にとっては自然なことで、他人には１０円の美でも１億ドルと思い込みます。価値の基準は個人にあって、自分が興味を抱くものこそ価値が大きいのです。それはそうと、いつ頃からか、ヴィーナス・ブリッジでは、恋人同士が鍵を持参してロックして帰ることがはやり始めました。「愛の橋」ですから、恋人たちはそんな儀式を楽しむのです。後年、ロック用のカラフルな鉄管のオブジェが設置されました。マニマンはその内部に入り、こうべを上げて中央頂部を見ました。いくつか鍵がぶら下がっています。愛の鍵の群れは、ＵＫＩ書きよりよほどいいですが、まるで愛に合鍵があるかのように、みんな右へならえで面白くありません。