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●『アフリカの仮面と美術:生命と創造の大地』
西宮市大谷記念美術館で開催されていた展覧会で、11月23日の祝日に見に行った。この日は神戸市立博物館にも足を運び、オリエンタル・ホテルで蘇鉄が街路に向かって植えられていることや、ルミナリエの設置工事中の写真を以前掲げた。



●『アフリカの仮面と美術:生命と創造の大地』_d0053294_16221112.jpgアフリカの仮面展は過去に大規模なものが開催され、また茨木の国立民族学博物館には常設で展示されていることもあって、今さらという気がしないでもないが、スキュルチュール江坂でアフリカの彫刻を見た後なので、そのつながりで書いておこう。と言いながら、何を書くか全く心の準備をしていない。まず、どこの収蔵品を今回展示したかだが、協力はアフリカンアートミュージアムとなっている。これは山梨にある施設で、今ネットで調べると、北杜市に今年4月に開館したばかりだ。その半年後に西宮で展示というのは、少々早すぎる気がしないでもない。同ミュージアムの展示室の面積は240平方メートルというから、これは大谷記念美術館の入って左端の最初に見る展示室程度で、さほど大きくはない。北杜市がどこにあって、どんなところなのか知らないが、地価は東京や大阪並みではないはずで、この面積程度の展示室ならば、個人で所有することはさほど難しくはないだろう。収蔵品は、アフリカのマスクや立像、楽器、アクセサリーなどが約1200、アジア、オセアニアなどの工芸品約700点で、紀元前500年頃から1960年代頃までで、アフリカものだけではない。また、これらをすべて240平米の展示室に飾ることは不可能であるから、各地に作品を貸し出しても問題はないどころか、宣伝になってよい。あるいは、そのために必要だ。そこで思うのは、貸し出し料がどれほどするかだ。無料はないであろうから、作品を収集し、またそれを常時展示する施設を持つと、それだけでは生活出来ないにしろ、知り合いが増え、退屈せずに暮らせるだろう。収蔵品は、個人の経済状態と趣味によって質や数が決まるが、スキュルチュール江坂ではメインが近現代の有名な彫刻家のもの、サブがアフリカの彫刻であるのに対し、このアフリカンアートミュージアムでは安価な後者に的を絞り、数で勝負というところがなかなか計算も見える。またアフリカを謳いながら、アジアやオセアニアの作品も集めるのは、作品の貸し出しに幅があることとなって、宣伝の面からは好つごうだ。館長は資生堂で広告制作に携わっていた人という。となると、収集品の巡回展に関してはお手のものであろう。58歳は筆者より1歳下で、ま、志しがあればこの年齢では美術館を持つことは充分可能だ。だが、作品の収集に費用がかかり過ぎて、展示施設に手が回らないという場合が多いはずで、そこには作品の巡回も含めて収集品を見せることで経営を持続させようという商売への思いが必要だ。そして、このことがなかなか普通の人ではうまく行かない。個人の美術館が潰れ、せっかくの収集品が一代限りで散逸してしまう例はいくらでもある。魅力ある展示施設にするには、ほかでは見られないものを系統立てて揃えること、あるいは館長が、たとえば洲之内徹のような有名人で、死んだ後もその人柄をしのんでその収集品を見たいと思う人が後を絶えないことだ。
 さて、今さらアフリカの仮面や彫刻でもないと先に書いたが、よく知っていると思うものでも、適当な間隔を開けて見ることは、改めて何かを知ることもあって、無駄ではない。そう思って出かけたが、筆者は熱烈なアフリカ・ファンではないので、何を見たのか、特に印象深い作品というものがない。これは無名の人々が作ったものという、日本で言えば民芸に相当するという理由もあるかもしれないが、日本の民芸の方にはより馴染みがあるから、無名の作であっても味わいどころがわかるし、印象に留めやすい。アフリカのものもそれと同じ地平で鑑賞することはもちろん可能だが、それには日本の民芸と同じように、各地域ごとに細かく分けて、その作風を覚える必要がある。だが、広大なアフリカであり、こうした展覧会で展示される作品が、それらの地域をまんべんなく覆い、また代表的作品を網羅するかとなると、これは難しい問題だろう。収集家はなるべくそうした収集を心がけるが、作品に出会うのは運もあって、各地域の代表的作風のものを全部揃えるということにはならないだろう。また、どれを代表的とみなすかという、研究面での問題もある。それに加えて、100年にアフリカ美術がヨーロッパに衝撃を与えた時に、あらたか古いものは収集し尽され、それ以降はその古いものに倣った、一種の外国人相手の土産品的な動機による作が混じり、作品の古さを一定させて収集することは難しいのではないか。先に「紀元前500年頃から1960年代頃まで」と書いたことはそれを示唆するだろう。もっとも、古い作品は今では海外のオークションに注目すれば容易に入手出来るし、また現代のものとなれば誰でも買える程度に安価だ。そういうことがあるので、まとまった数のアフリカの仮面や彫刻を見ても、系統立った何かを把握すると言うより、個々の作品の衝撃度に逐一反応することになり、そしてそれが正しいと思える。
 アフリカの多くの部族は、お互いの造形をほとんど知らなかったであろうし、それらを全部集めて本を書くとことはヨーロッパ人が行なった。そのおこぼれを、たとえばアフリカンアートミュージアムが体現している。そこには、ダイレクトにアフリカに接したというよりも、20世紀初頭にヨーロッパの前衛画家や彫刻家がアフリカ美術に衝撃を受け、フォーヴや立体派、ドイツ表現主義など、さまざまな流派を生んだという、歴史的なことを認識したうえでの接し方がある。もちろん館長はアフリカの仮面や彫刻に魅せられたことが収集の一番大きな動機のはずだが、それは100年前のヨーロッパ人とはかなり違っているだろう。一旦知ってしまったものを裸の目で見ることはまず出来ない相談であるからだ。それはスキュルチュール江坂の展示も同じで、ヨーロッパの彫刻家に影響を与えたアフリカ彫刻という眼差しだ。それは定まった評価に寄りかかる分、どこかに欺瞞性に混じりやすい。たとえば日本の郷土玩具を展示する施設が各地にある。そうした郷土玩具はそれなりに作家の名前が伝わってはいるが、もっぱら無名の民芸品と同じ扱いだ。また柳宗悦や民芸作家とはつながらない点において、素朴さの点では純粋で、そのために筆者は愛する。そうした玩具が、芸術家の巨匠に影響を与えたということがない点において、また、大芸術家の作にはない持ち味がある点において、見ていてほっとする。だが、そうした郷土玩具をたくさん収集しても誰もほとんど振り向かず、巡回展どころか、常設展さえも困難だ。アフリカのものなら、たとえばピカソやモジリアニといった有名画家に影響を与えたという歴史的な評価があって、みなそれを喜ぶし、そういう目で作品に驚くことが芸術のわかる人であるという思いを抱く。ヨーロッパに紹介されて広く受け入れられたことは、それだけ芸術性が高かったことを示しはするが、一方でさっぱり芸術家に影響を与えなかった日本の郷土玩具が、芸術性がきわめて劣ると見ることは、何の根拠もない。大芸術家に影響を与えたかどうか、そんなことは問題とせず、まず作品に対峙することが肝心であるのに、幸か不幸か、アフリカ美術にはほとんどいつもヨーロッパでの評価が云々される。それはいつまで経ってもアフリカ美術が自立しないことをほのめかす。ピカソやモジリアニとは比較にならないほどの純粋性と貫禄と芸術性がある言わねばならないのであって、それを確認するには実物を見る必要がある。そして、今回は企画者がそうした機会として最適と考えたはずで、前知識なしに接して楽しめばよい。
 今回出品された中に、ベニンのものがある。アフリカ西部のナイジェリアのベニン王国は19世紀末にイギリスに滅ぼされるが、精緻な青銅製の彫刻は有名で、アフリカの仮面や彫刻を見慣れた目からも、その異質ぶりは即座にわかる。青銅製であるので、アフリカ彫刻には目立つ木製ものとは違って長らく保存され、古くは紀元前のものがある。なぜアフリカのベニンにそうした精緻な青銅作品が生まれたかだが、古代に交易があり、他地域の同類のものが運ばれ、それを参考に伝統が磨かれて行ったのだろう。20年ほど前にこのベニン王国の作品をまとめた展覧会があって見たが、ベニンでは同じようなものを多く作ったのか、アフリカの彫刻を集める施設では必ずひとつやふたつは混じる。当時のチラシから女性像の図版を引用しておくが、今回はそれと同じような、頭部のみの作が数点展示された。そのうちの2、3はきわめて写実的で、アフリカ美術と言えばピカソの絵のようにわけのわからない抽象ばかりと思う向きからは、完全に裏切られる。展示の説明書きにあったが、このベニンの写実は、ギリシアやローマの彫刻に劣らない。作品の製作年代は遡っても12世紀であろうが、ベニンの彫刻家がギリシアやローマの彫刻を参考に写実を好んだとは思えない。アフリカは土人の国で、ヨーロッパの文明国家の源であるギリシアに芸術で比肩出来るはずがないと信じる人は、このベニンの彫刻をどう見るだろう。人間はみな同じで、ヨーロッパであるから文明が進み、アフリカであるから野蛮な土人のままと思っていると、大きなものを見落とす。また、ベニンの写実表現を、他のアフリカ彫刻の度肝を抜くような抽象より上位に置くことにも問題がある。写実が先で後に抽象に向かうことがあり、写実と抽象はどちらが上かは決められない。また、ベニンの彫刻がどれも写実とは限らず、目や口、鼻が、エジプトやギリシアのアルカイック期のもののように、かなり様式化したものもある。そして、それを写実のものと並べると、写実の作が古く見えると考える人がきっとあるだろう。これらふたつの表現は、同じ時期にベニンに存在し、写実と抽象の行ったり来たりが見える。そして、これらベニンの二種の頭部の彫刻の力強さと洗練の具合は、20世紀のヨーロッパ美術を超えている。文明が進んだはずのヨーロッパが、芸術においてアフリカに学ぶものがあったとは面白い。
●『アフリカの仮面と美術:生命と創造の大地』_d0053294_1623234.jpg 筆者はアフリカのこうした仮面や彫刻の本をどれだけ持っているのか、すぐには思い出せないが、今3階に上がって引っ張り出して来たのは、原書がフランスのガリマールで、アンドレ・マルローが監修した「人類の美術」の新潮社版で「黒人アフリカの美術」の巻だ。その表紙の写真をベニン王国の女性像の下に掲げるが、その下は同シリーズの見本の表紙写真で、ローマ時代の肖像ブロンズが生々しく、これを最初に見た時、かなり驚いた。「黒人アフリカの美術」の扉には、1974年10月に買ったことが記してある。執筆はミッシェル・レーリスとジャクリーヌ・ドランジュ、全3部構成で、第3部に「諸部族とその芸術」が割り当てられ、各地域ごとの作風を知るにはよい。第1部の最初にベニンについての紹介があるが、それは、ルネサンス期にすでにベニンの彫刻がヨーロッパにもたらされていたことにもよる。20世紀になって一気にアフリカ・ブームがヨーロッパで生ずるより前に、そうした紹介が少しずつなされていた。そこに日本は無縁であったし、影響を受けた作品づくりの系譜はなく、ヨーロッパの新しい芸術の流派から間接的にアフリカの要素を嗅ぎ取っていたことになる。それが大きく変化したのは、1970年の万博以降からだろう。その後、みんぱくの果たした役割も大きい。そして、みんぱくからは遠い山梨であれば、アフリカの仮面や彫刻を集めた美術館がそれなりに歓迎されることはよく想像出来る。タンザニアのマコンデ族の彫刻を集めたマコンデ美術館が伊勢にあって、よくその割引券がチラシを置くコーナーで見かけたものだが、今ネットで調べると、館長は30年前(いつからかはわからない)に名古屋の民芸品店でマコンデの彫刻を見たことがきっかけとなってそのとりこになり、何度もアフリカに行って作品を集め、1991年に美術館を開いたとある。マコンデの彫刻のほかに、これは誰でも一度はどこかで見かけたことのあるティンガティンガの絵画なども含み、親しみやすい作品は観光客がついでに立ち寄りやすいものであるだろう。民芸として売られていたものを見かけ、それからのめり込むというのは、日本の郷土玩具愛好と同じと言ってよく、またアフリカの中からマコンデに的を絞ったところは、館長のこだわりがあって面白い。総花的な収集でないことは、個人美術館の限界でもあり、また意義でもあるが、マコンデ美術館の作品が他の美術館に巡回した話を聞かないところ、やはり郷土玩具と同じように見られているようで、また民芸品として見たことが美術館設立のきっかけとなっていることが安っぽいと思われるところかもしれない。「黒人アフリカの美術」をひもとくと、マコンデの彫刻については載っていないが、同じタンザニアにはコンデ族がいて、マコンデ美術館に見られるような透かし彫りでとは少し異なる彫刻の図版はいくつかある。アフリカは国家と部族が一致していないため、部族で作品を分類すべきだが、急速に近代化しているアフリカでは、輸出用に新たに生み出された彫刻もあるはずで、マコンデ美術館の作品はそうした現代ものが多いのではないか。そのあたりの事情はアボリジニの絵画と同じだが、新しいものが価値がないとは言えない。
by uuuzen | 2010-12-20 16:30 | ●新・嵐山だより
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