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●『リメンバー・ミー』
前回、このカテゴリーで書いたように、深夜TVの韓国映画特集を録画したうちの1本は観た後に別の韓国映画を録画するために消してしまった。3倍速録画では映画が3本しか入らないからだが、その消した映画がこの『リメンバー・ミー』だ。



●『リメンバー・ミー』_d0053294_14545242.jpg映画のタイトルもろくに覚えずに観終わったが、後でネットで調べると『同感』という別のタイトルもあるようで、これは封切り時とDVD販売の時とでの差だろう。原題は『同感』だと思うが、これでは男性的で少し固く、どういう映画かわかりにくい。主人公のキム・ハヌルのイメージを尊重するのであれば『リメンバー・ミー』がよい。だが、映画を観た後で考えるとこのタイトルも映画の内容をあまり表現しているとは言えない気がする。『同感』というのはハングルを日本語に置き換えたタイトルだと思うが、ひょっとすれば「チューニング(同調)」といった意味かもしれない。それならば映画における重要な小道具となった無線機にも使用される言葉であるので『同感』よりはいいが、さて本当のところはわからない。ネットで調べればすぐにわからないでもないが、こうしてワープロに向かってキーを叩いていると、階下に行ってパソコンのスイッチを入れるのも面倒なのでこのまま書く。今、急に思い出したので、この映画とは関係ないが、書いておきたいことがある。先日妹の家に行った時、『八月のクリスマス』のDVDがあったので、筆者が途中から観始めたところまでを見せてもらった。それは冒頭の10数分で、観た感想を言えば、あまり必要な場面とは思えなかった。その10数分の中で早くも駐禁取締り官の女性が登場しているが、それは全体として見ればストーリーの引き寄せ具合が利き過ぎ、つまりくど過ぎる。これではあまりにもその若い女性との出会いが運命的であることを強調し過ぎて、全体として淡々とした調子で描かれる映画にはふさわしくない。冒頭から10数分の間には別のエピソードもあるが、それらも重要なものには思えなかった。その大半をカットしても充分に映画の内容はわかるし、むしろその方がすっきりする。だが、これはすでに全部を観た後の考えであるので、本当は最初から順に最後まで観ていたならば考えがまた違うかもしれない。
 さて、キム・ハヌルの演技を初めて観たのは『ピアノ』だ。そこでは全体に悲しい表情が溢れていて、あまり美人とも思えなかった。次に観たのは『HAPPY TOGETHER』で、ここでのハヌルは実にさわやかでよかった。笑顔がとても美しく、初めてこの女優の魅力がよくわかった。その後にこの『リメンバー・ミー』を観たが、ネットで知ったところによると、これがデビュー作らしい。またこの映画の監督であるキム・ジョンコンもこれがデビュー作というから、俳優も監督もなかなかの実力を秘めた状態で世に出て来ることを実感させられる。最初この映画を観ていた時、夜や室内のシーンが多く、古臭さを感じて仕方なかったが、それは映画の時代設定がそうなっていることがやがてわかって納得させられた。あまり感興も湧かずにだらだら観ていたのが、途中で俄然面白くなって驚いた。こういう手の映画は昔からないことはないのであろうが、筆者としてはあまり記憶になく、観終わった後は名作と判断した。また、たった1回しか観ていないが、それでも充分に各場面が記憶にある。映画はだいたい1回観ればよく、このブログでも全部その1回限りの鑑賞によって感想を書いているが、細部の確認が後で困るというような書き方をここではしていないのでそれでも充分なのだ。したがって、もしもう一度観ると感想はまた変わり、ここで書く内容にも変化が生ずるのは当然だが、マニアックではないごく一般的な意見をモットーに、また自分にとって何が面白いのかという自覚の意義を優先して書いているつもりだ。
 この映画の面白さは時代設定にあると言えば反対意見が多いかもしれない。だが、筆者にはそれは特に重要なものに思えた。筆者は1981年の5月に韓国を訪れているが、この映画の時代設定はその2年前だ。これは日本ではあまり実感出来ないし、ごく一部の人しか興味のないことだが、1979年は韓国にとっては激動の連続で、こうして映画の背景事情として描かれることにはそれなりの韓国国民の共通した意識がある。この映画が韓国で大ヒットした事情のかなりの理由にそれが反映しているはずだ。1979年は10月に朴正熈大統領が射殺されるという重要な事件が起こっているが、その前年から学生たちが反政府デモを始め、80年に入っても民主化デモは全国に拡大する一方で、そんな中、光州ではついに軍隊と学生、市民が衝突して多くの人が死んだ。この事件は光州事件として日本でも大きく話題になったが、これは韓国という国がいくつかの道ごとにかなり風習や言葉の訛が違い、歴代の大統領が韓国東南部の慶尚道出身者で占められ、光州市のある全羅道は経済的に立ち遅れているといった地域格差の問題が背景に少なからずあることを当時知った。70年に韓国初の高速道路が釜山とソウル間に開通した時でも、結局それは見方によれば朴大統領の地元とソウルを結ぶもので、全羅道に入った途端、道路事情は信じられないくらいに悪化するということも聞いたことがある。もちろん今はそうではないだろうが、金大中が全羅道の出身で、彼が大統領になった時期にようやくそうした地域格差の種々の事情は解消に向かい始めたのではないだろうか。日本でも各県の郷土意識は根強くあるが、韓国のそれは日本とは比較にならないほどに強いもので、しかも地域ごとに同族意識があることで、選挙によって選出される議員にまつわりつく血族や地元住民との癒着がいつまでもなくならず、大統領が変わるたびに前の大統領の罪が暴かれるということが繰り返されている。これは日本より民主主義が根づいていないからかと言えば、そうでもなく、ひょっとすれば逆とも考えられる。とにかく問題は複雑で根が深く、近視眼的な見方ではただちに判断出来ない問題に思える。それはおいて、光州事件が終わった後、全斗煥大統領の時代が始まり、やがて戒厳令も解除されるのが81年の初頭で、その後は88年のオリンピックに向かって韓国は急速に経済進歩を遂げる。そうした流れをざっと頭の中に置くだけでもこの映画の見方が変わる。
 釜山を舞台にした『ピアノ』でも、学生たちがデモをして政府が催涙弾を町中に撒いたため、登場人物たちが鼻や口を覆って逃げるごく短いシーンがあった。物語の筋には直接には何も関係しないそうした場面でも、それを観ただけで韓国の人はすぐに時代がわかって共通の思いになれる事情があるということを認識しなければ、ドラマをよく楽しむことにはならない。それでは『リメンバー・ミー』がこうした韓国の激動の現代史を絶対的に必要としている映画であるかと言えば、表向きはあまりそうとは思えない。だが、そうでなければ韓国ではあまりヒットもしなかったであろう。正面切って現代史をテーマしした場合、興行的な失敗は目に見えている。だが、月並みなロマンス映画にはしたくないという監督の腐心がよく見えて、しかもそれが成功している。この映画は2000年に封切られたが、実は1979年の学生と2000年の同じ大学の学生が無線機を通じて交流するという物語で、2000年の学生の方はいいとしても、もう片方の、キム・ハヌルが登場する1979年という時代設定はその必然性はない。もっと昔でもよかった。だが、ここで考えなけれならないのは、無線機を重要な物語の素材にするには、79年が妥当であり、またその時代ならば激動期ということで物語の起伏も得られやすいことだ。無線機がなぜ79年なら妥当かと言えば、筆者が個人的に知る限りではちょうど70年代は韓国内の学生に無線のブームらしきものがあったようで、日本からもよくモールス信号の打信器が売れたりしたからだ。また、2000年の学生の無線機趣味は、すでにインターネットが盛んであったから、どちらかと言えばマニアックだろう。したがってこの映画におけるふたつの時代設定はうまく考えられ、無理なく見える。そしてまたこのふたつの年代差の青年が2000年の無線機趣味の学生という形で登場するという巧みな設定によって、映画はより強固な構造に作り上げられているが、そのまま見ていたならば単なる学園ドラマであるにもかかわらず、ごく簡単な無線機ひとつの媒介によって、映画が一気にSFものに変移していることのうまさと意外性がこの映画を通常のSFもの以上に印象深いものに仕立て上げることに成功している。お金をふんだんにかけたSFX画面の連続といったものばかりがSF映画だというのはもうあたりまえ過ぎてほとんどSFもののよさを表現しているとは思えないのだが、こうした日常をそのまま描いたような映画の中にするりとSF感覚が入り込むのは虚をつかれた感じがあって長く記憶に残る。SF映画は死んではおらず、まだまだどのようにでも作り得る見本と言ってよい。また、2000年の韓国が1979年というわずか20年前のことをどのように回顧するかという問題もこの映画からは汲み取れるが、近年の日本における韓国ブームを見れば、韓国がここ20数年のうちに辿って来た道はそれなりに満足の行く、つまり過去を余裕で回顧出来る成功をつかんだ国であるという自負に裏打ちされているのは間違いない。もし、今の韓国が相変わらず全土に戒厳令を敷くような緊迫した状態であれば、そもそもこういった映画が作られることはない。であるので、監督を初め、この映画を観る韓国国民は挫折感とは反対のプラス思考を確保したところに立脚出来ているはずだが、映画では主役のキム・ハヌルの恋が思わぬ形で破れるという運命が中心に描かれているから、そこに栄光一辺倒ではない、それなりの代償を支払って今があるのだという運命を見ることになる。そこがこの映画を陳腐な単なるラヴ・ストーリーには陥らせず、表向きはラヴ・ストーリーを装いながらも実際は韓国の激動の20年を振り返るという内容になっている。
 よく日本では韓国の学生がたまにデモで暴れるのを見て、「韓国はまだあんなことをやっていて遅れているな」といった意見が若い人から出る。今や完全に政府のやることに無関心になってしまったかのような日本の学生は、デモなどしても世の中が変わるはずがないと白け切っているが、何事も自分の狭い考えだけを基本にしてあまり物事を断定してかかるのはよくない。確かに学生運動が今でも時たま起こる韓国は遅れているのかもしれないが、だとすれば進歩とは何であるかだ。韓国が仮に今の日本以上に経済的に豊かになるようなことがあるとして、その時学生運動が消失している保証はどこにもない。むしろ増加していることもあり得る。それゆえ、経済力がついて文明国になればどの国でも全く似たような国民意識の状態になると考えるのは早計だ。時代の流れや国民性の違いという要素が絡んで、同じように豊かな社会が訪れても学生が画一化することはないだろう。ま、話がそれたが、なぜこんなことを書くかと言えば、この映画が日本でリメイクされていることをちらりと知ったからだ。それがはたして可能なのかかなり気になるところだ。というのは先の1979年の韓国における学生運動を日本ではどうなぞらえるのかという問題があるからだ。またなぞらえ得たとして、それは韓国の場合と同じ意義を持ち得るのかということだ。また、全くそうした時事問題を省いてこの映画をリメイクしてしまうと、前述したこの映画の複合的な独特の味わいがガタガタになってしまはないかという思いがある。したがって日本のリメイク版でも学生運動は描いていることと思うが、その熱度がどうなのか、またそれを現在にリメイクしてどれほどの若い世代に共感を与えるかという疑問が湧く。そう考えて来ると、この『リメンバー・ミー』を日本で楽しむ人は映画のどの側面に関心を抱くかという問題が出て来る。韓国で大いに話題になった映画を楽しむならば、それはどこにその理由があるのかということを確認しない限り、あまり意味はないと筆者は考える。このブログでこのカテゴリーを設けているのはほとんどその理由からだ。
 学生運動が盛んであるということは、学生たちが連体意識を持ち得ることだ。韓国ではおそらく日本以上にそうだろう。そういった連体意識の中でも恋は生まれるし、当然裏切りめいたことも起こる。あるいは連体があるからこそ、恋も裏切りもよけいに激しい。この映画でのキム・ハヌルはどちらかと言えば学生運動には興味のない普通の大学生として描かれている。そしてとても親しい女友達や、思いを寄せている先輩がいるのだが、結局意外にもその先輩を親しい友達に寝取られてしまうことになる。これは観ている者にとっても予想出来ない形で描かれるので、実に見事な筋立てだが、キム・ハヌルが衝撃を受ける演技はなかなか印象に深い。しかし、こうした一見ありそうもないことが現実にはごくあたりまえに起きて失恋するものであることを、映画を観る者はよく知っている。そしてそれが2000年の白けた時代ではなく、もっと時代が熱い79年であればなおさら筋立てとしては納得させられるものがある。2000年という今の時代に生きる学生が時空を越えて79年のキム・ハヌルと交信するという設定も面白いが、ここではもう詳しくは書かないでおこう。とにかく推理ドラマを見るような卓抜な脚本と言うべきだ。2000年にもキム・ハヌルはチョイ役で登場するが、これもよかった。半ば夢を見ているような気にさせられると言おうか、あるいは現実とは何か、過去とはどういうことか、記憶とは何かといったことを改めて考えさせてくれる。ラヴ・ロマンスを基調にしつつも、そこにいろんな要素を巧みに混ぜ、それでいてトーンがきわめてよく整っている。韓国映画のうまさの一面を見る。同調、同感。
by uuuzen | 2005-07-06 12:21 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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