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2007年12月06日●第 48 話
引越しを知ったマニマンはまた落胆しました。仕事の予定が狂いましたし、何年か世話になった人ともう会えないからです。その家の真向かいの家の玄関横には、大きな2種類の鉢植えの菊が3輪ずつ静かに咲いていました。何年か前、そこには月下美人という夜に開花する白い花をつけるサボテンがありました。ある日、引越しをしたその家の奥さんがマニマンに電話をかけて来て、月下美人が咲いているので写生すればよいと伝えてくれました。めったにないことなので、マニマンは早速自転車で走り、写生をしたことがあります。そんな何年も前のことがもう繰り替えされることはなく、その家の前にも立つことはないでしょう。最後の別れと思ってマニマンは菊の写真を1枚撮りました。人生には出会いがあれば別れがあります。そう言えば、その家には奥さんのほかに、高齢の優しいおばあさんがいて、マニマンは何度か話をしたことがありますが、引越しする1、2年前に亡くなりました。よく自転車で走った道を徒歩徒歩と歩いて帰る途中、マニマンはその家の人々の顔を思い出し、菊のように気持ちのよい人々であったことを思いました。
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