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●アルバム『ZAPPA\WAZOO』解説、その10
脈のその内部における各人の位置づけは、うすい濃い、軽い重いとさまざまあるものだが、雇用関係が仲立ちとしてあると、濃くまた重いものになりがちだ。



マザーズを始め、ザッパが雇用した人間、つまり何かをしてもらったことの代償としてお金を支払ったのは二百人前後にのぼったはずだが、ザッパの人脈はほとんどそうした金銭が絡むものであった。ザッパ自身が語っているように、ザッパには親友と呼べる、すなわち金銭で雇うこととは無縁な人間はいなかったが、ここには興味深い問題が横たわっている。ひとつだけ例を引く。ビーフハートはザッパの青少年時代における親友のひとりであったが、ザッパが70年代に入って大管弦楽団やワズー・オーケストラを雇って、以前にも増して忙しくしている間に落ちぶれてしまい、ほとんどホームレスのような状態になって、70年代半ばにザッパの前に現われた。それを見たザッパは手助けをする思いがあったのであろう、ビーフハートをマザーズに混ぜてツアーを企画し、ビーフハートらしい場所のテキサスで行なった録音を、ビーフハートの名前をザッパと同等に並べたアルバムとした。そこには濃く深い親友関係と同時に、一種の主従の雇用関係が見え透いて、ザッパの人脈がみな金銭絡みであることを証明する気にさせられる。これはよく言えば、みんなで楽しく仕事をして、しかも稼ごうという態度で、それだけ家族同然の仲間意識をザッパが持ちがちであったことを示し、やはりマフィアに代表されるように、イタリアのナポリ、シチリアの双方の血を引くザッパかなと思わせられる。だが、金銭が深く絡む流行音楽業界に住めば、隙あらば金儲けをと企む連中ばかりがうじゃうじゃ寄って来て、金銭を度外視した親友関係を築くことは難しく、その機会もなかったというのが現実だろう。ただ、そのことがザッパに対し、容易に人を信用してはならない、特に業界関係者はといった資質を付与し、そのことが作詞にも色濃く表現されるに至ったと言ってよく、そこがザッパの音楽が人を寄せつけにくい原因ともなっていることは完全には否めない。現在日本でよく流れるポップスを聴いても、とにかく人生には愛や希望があるのだと大声で主張するものばかりで、そのあまりに単純で、虚偽ぎりぎりと思われても仕方のない一様な傾向の歌詞に、うすら寒いものを感じてしまうが、つまりザッパの書く内容とは全く違う世界、反対方向と言ってよいものになっている。これは社会がそれだけより過酷なものになったため、騙されているとわかっていても、とにかく言葉だけでも癒されたいと人々が思っているからだろうか。ま、話が別方向に進んだ。
 人脈の話につなげると、ザッパは金銭絡み、つまり雇用したすべての人から尊敬されたかと言えば、それはないだろう。だが、少なくとも『ZAPPA\WAZOO』のブックレットにマルコム・マクナブが書く内容からは、ザッパがごく若い頃から並み外れた才能があって、演奏者を瞠目させていたことがわかる。マルコムが72年のワズーの録音に参加したのは、友人のケン・シュロイヤーから連絡があったからだが、マルコムはザッパが1963年にマウント・聖メアリー・カレッジで自作曲の演奏会をした時、その雇われた演奏者のひとりで、その時からザッパの音楽を知り、ファンにもなった。おそらくマルコムはザッパと同じほどの年齢だが、ザッパは作曲家として、マルコムは演奏者としてそれぞれ進んだ。そして、もう少し濃い関係に発展していれば、マルコムが初代のマザーズに参加したこともあり得るだろう。ともかく、63年にすでにザッパとマルコムは出会っており、その9年後には一緒にワズー・ツアーをすることになったのであるから、人脈としては濃く重い、そして長いものに属する。文章の中でマルコムはザッパが自作曲を正しく演奏してほしかったために、とにかく各演奏者は多大な練習を重ね、また楽団全体としてもそれを強いられたと書くが、そうしたことが演奏家としての実力を増加させたと続ける。ここには、ザッパが仕事に真剣で、それに同意出来る者とだけ雇用関係を結び、一緒によい音楽をやろうと考えていたことがよくほのめかされている。だが、ザッパの凄さは単にそういう複雑で演奏困難な音楽をメンバーに強いることだけにあっただけではない。そうした緊張を強いる演奏を完璧にこなすには、緊張を緩和する何かが必要であることがよくわかっていた。そしてそのことをまた自作曲の大きな要素として位置づけたから、徹頭徹尾やることが計画のうちにあった。緊張緩和は「コミック」と表現されもする音楽の部分で、それは即興演奏であったり、また「グレッガリー」の物語に代表されるような、笑いを伴う内容であったが、ザッパはすべてのステージにおいてそれらを用意して、音楽を自分の望む方向に引っ張って行った。つまり、「コミック」の要素を挟みながら、恐ろしく複雑な音楽を一方で演奏するというのが、ごく簡単に言えばザッパの音楽であった。だが、10人までのロック・バンド・スタイルではまだ容易なことが、20人のバンドとなればまた事情は異なる。『THE GRAND WAZOO』のジャケットは、弦楽器を携える右軍と、管楽器群の左軍とが対峙し、右軍が撃退されている様子を描く。これは見方によっては『200 MOTELS』で雇った管弦楽団では満足の行かなかったことを、今度はWAZOOオーケストラでやろうという意気込みに思えるが、つまりザッパにすれば気心がより知れたメンバーを集め、しかもその数は20人がちょうどよいと判断したのであろう。つまりは理想的な楽団がワズー楽団であった。これが『200 MOTELS』で雇った管弦楽団寄りになったのがアンサンブル・モデルンで、そこからザッパはまた新たな、そして豊穣な作曲時代に入るはずであったのに、53歳での死は本当に惜しかった。
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●2002年8月8日(木)夜 その8
●アルバム『ZAPPA\WAZOO』解説、その10_d0053294_12104529.jpg次は若冲の絵について。一昨日の6日、高槻の妻の実家で両親の法要があって出かけた。遠く奈良の寺からお坊さんがいつもやって来る。お盆の季節であるので大忙しだ。もう数日経つと、1日当たり寺の近所の100軒ほどの檀家を回る必要があるとのこと。1軒1分の読経で済ますという。それでも深夜から早朝までかかる。タフでないとできない相談だ。だからお坊さんは修行もするのか。会食も済ませ、身内の談話の時間が来て、それも一段落した時、2階に上がってインターネットを少しさせてもらった。いつもどおりヤフー・オークションでまず「伏見人形」とインプットする。すると土人形だけではなくて、伏見人形に関する他の品物も出て来る。その日は驚いた。若冲の最晩年の「伏見人形図」の掛け軸が出ている。後1日の締め切りだが、2万少々まで上がっている。それでも破格の安さだ。ただし本物であればの話。破格どころか喪格か。出品業者はどうも京都在住のように感じた。今までに出した書画は品のよいものばかりで、評価も「よくない」はゼロであった。何となく信用したくなる。いや業者は実際信用していいだろう。ただし絵の方は保証はない。スタート価格を参照に自分で贋作かどうか見極めてほしいといった注意書きがあった。そのスタート価格が1000円だ。これでは贋作ですよと警告しているのに等しい。ところが30数名の入札者がすでにある。例外的に激しい競り合いだ。嬉しいことに有名な「若冲居士」の丸印のどアップのカラー写真が掲載されていた。それを印刷してもらって帰宅してから確認することにした。結果的に本物とは違った。絵は布袋の伏見人形が7体縦に並んだもので、顔料もおそらく伏見人形と同じものを使用し、衣服の一部には金粉が見える。ぱっと見ると本物そのものだが、構図が固い。二列に配した人形をあの若冲がこうも陳腐に描くだろうか。まず考えられない。本来動きのない伏見人形がさらに硬直して見える。若冲ならそれを破ってもっと面白味を考慮したろう。だがしかし、ひょっとすれば出来のあまりよくない本物ということもある。ところが丸印の字体がよく似せてはいるが全く違った。本物と比べて見ると、差が歴然としている。あの丸印は若冲自身が彫ったのだろうか。そうではなく、当時のプロに頼んだのかも知れない。それほどに凛としたたたずまいがある。そのかっちりとしてそれでいておおらかな味わいが、その贋作に押された印では全く感じられない。それどころか、微妙に歪んでいるため、見ていて落ち着かない。贋作特有のいやらしさが出ているのだ。これが本物ならば40万くらいなら出す気がある。しかしとてもその程度の価格では晩年の若冲の「伏見人形図」など入手できまい。いずれにしろインターネット・オークションでこういうものまでもが取引されるようになって、誰でも書画骨董を気軽に買えるようになったのはいい。ただしオークションに煽られて贋作をつかむ確立も確実に増えた。用心用心。
 これは贋作ではないが、同じくネット・オークションで先日ザッパの『フリーク・アウト』の日本盤が出た。写真でさえも初めて見るものであった。見本盤の、つまりレーベル面が白地の2枚を正規盤に加えての出品で、筆者が見た段階では2、3万まで上昇していた。残り1日もないというところで大阪の友人に電話したところ、5万程度になっていた。6万は出せるかと思って入札してもらったが、最高価格にはならなかった。結局どの程度まで上がったのだろう。おそらく10万は越えたに違いない。どこかのレコード店が買った気もする。10万で買っても何年か寝かせておけば、充分利益が出る価格で売ることも可能だ。全く貴重盤狂いではないのだが、ザッパに関しては何となく責任もあるように感ずるので、資料としてそういったものも一度は目を通しておきたいと思う。ジャケット裏の曲目が日本語で印刷されていて、しかもジャケット見開き内部は8ページのカラー写真がある。どうせ聴かないし、それを一瞥するだけでは6万でも高い気がするが、92年に『ザ・イエロー・シャーク』公演に行った際に知り合ったドイツのマルティンが、北欧のファンから同じ『フリーク・アウト』日本盤を10万で譲ると言われていると、何年か前の手紙に書いていたから、やはり10万を軽く越えても当然だろう。金がものを言う世界を実感させられるのがこういったオークションだが、あまり深入りすることが精神衛生上、禁物でもあろう。先日読んだ本の中に、貧乏人は時々発作的に高い買い物をするといったことが書かれていた。実にうまいことを言う。全くそのとおりだ。この日記の随所にそれが証明されていることを読者は認識するだろう。さきほど書き忘れたが、苧麻を黒く染めて「おぼこ」に使用した残りは、もう1体の小さな「おぼこ」用に使い、さらなる残りの細切れは束ねて童子ものの人形数体に役立った。春の日記には間違ったことを書いてしまった。古い伏見人形の童子ものには、両こめかみ箇所に数ミリの穴が空いていて、それを焼成時の空気抜きのためと書いた。そうではなくて、その箇所に、どういう呼び名の髪なのだろうか、短い苧麻の束を植え込んむのであった。戦後の人形ではそれを塞いで墨描きで済ましている。よほど苧麻が入手し難く、また取りつけ作業が面倒なのだろう。

by uuuzen | 2008-01-17 12:11 | 〇嵐山だより+ザッパ新譜
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