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●『真実のために』
頃と比べると、韓国のTVドラマをあまり見なくなったが、飽きたからではない。時間がないからだ。忙しい状態を脱すればまた集中して見ようと思っている。



つい先日、あるいは昨日もネット・ニュースで、日本における韓国ドラマの人気が激減したとあった。そういう情報が伝わると、そのことが流行とばかりに同調して関心を失う人が増えるはずで、そのようにして加速度的に韓国ドラマのブームが終焉に向かう。というのはあくまでも机上の予想で、実際は飽きやすい便乗ファンが消えただけのことで、残っているのは根強いファンと見てよい。それは、韓国の俳優が日本で開くファン・ミーティングがいっこうに人気が衰えないことからもわかる。今はTVの視聴率だけで娯楽の人気度が把握出来る単純な時代ではないのだ。好きな人はそうした地上波TVのいわば無料情報には決して頼らず、愛好家同士のネット・ワークを形成して自分たちだけで共有する流行を作り出す。したがって、韓国ドラマの人気が日本で下火になったとニュースが流れても、何ら自分には関係のないこととして相変わらず見続ける人は多い。また、韓国ドラマは確かに日本や台湾では人気が下降したが、世界各地に売れている割合は増加中だそうで、よりマーケットが大きくなり、内容も複雑なものになっている。ビートルズが1年毎に目ざましい変化を音楽で遂げたのと同じように、韓国ドラマもまた確実に1年毎に変化している。そのため、あるドラマを見る時、それがいつ制作されたかは重要で、女優の化粧、街角の様子、携帯電話の形といったもので、たちどころに制作された年代が推察出来るのが面白い。そして、たとえば10年前のドラマであるから古くて面白くないというのでは決してない。古いものはそれなりに懐かしさも加味されて独特の味わいがある。そのため、筆者が妹その他からテープやDVDを借りて韓国ドラマを見る時、古い新しいにはこだわらない。とはいえ、ここ数か月は地上波のTVで放送されていた『チャングムの誓い(大長今)』を見る程度で、あまり熱が入らなかった。妹が非常によいと評価していた『12月の熱帯夜』は、10月に3、4日間集中して一気に見たが、どこがいいのかさっぱりわからず、どの登場人物の心理にも感情移入出来なかった。ちょうどそれを見終わってしばらくして、京都テレビでそれが放送され始めて今も続いているが、半分惰性でまた見ながら、前半に登場した人物が後半にぱたりと出なくなったりするなど、明らかに脚本の練りが足りない箇所が気になって、やはり初めに見た時以上の思いは伝わらない。家内はそうではなくて二度目は熱心に見ているから、これは女性が見て楽しいドラマなのだろう。嫁姑の問題が深く絡むからなおさらそうと言える。
 『真実を求めて』はたまたま見た。妹がある人に定期的に韓国ドラマを貸していて、ある日たまたま筆者のもとに返却があった。妹に返す際、適当にひとつ選んで借りたのがこのドラマで、見始めるとめっぽう面白いので、2週間ほどかけて全部見た。一気に見るのは何だかもったいない気がしたからだ。ちょうどその頃に東京では放送が始まったようで、現在は残すところ3本程度になっているのではないだろうか。このドラマは1998年の制作で、新作とは言えないが、ヒロインのイ・ヨンエ目当てで放送局が買いつけたのだろう。『チャングム』より前のイ・ヨンエの演技が見られるが、唇を濃い口紅で大きくくっきり描く化粧がはやっていたのか、どの女優も同じような顔に見える。また、『チャングム』の時に比べてさほど若い印象もなく、イ・ヨンエは90年代半ばから歳を取らなくなったかのようだ。それはさておき、イ・ヨンエのファンが期待するほどに彼女の出番は頻繁にはない。見慣れた顔の役者が目白押しで、それぞれに焦点がそこそこ当てられていて、各役者の名演技を見るためのドラマと言ってよい。イ・ヨンエ・ファンだけにおんぶしたような内容ではないところが、このドラマを大人の男が見ても充分面白いものに仕立てているが、日本ではそういうドラマがあるだろうか。視聴率を稼ぐには、ある有名な俳優ひとりふたりに出番を多くする方がよく、ドラマもわかりやすいものになる。その意味ではこのドラマはまさに正反対だ。下手をすれば何を主に言いたいのかわからなくなる恐れが大きいが、そこは脚本が実によく書かれているため、毎回山場があって次回への期待感を煽る。ちなみに調べたところ、脚本は『チャングム』を手がけることになるキム・ヨンヒョンだ。また、恋愛を主なるテーマにしたものではないので、日本の女性の韓国ドラマ好きからはさほどよい評価は得ないはずだが、男が見ても面白いものでない限り、筆者は見たくはないし、その点でこのドラマは周りに薦めたい。全16話は少し短い気がしたが、あえてそれでコンパクトにまとめているところに、テンポの早さと濃密さを生んでおり、韓国で50パーセントの視聴率を獲得したことがよくわかる。
 『真実のために』という邦題は全くセンスがない。原題は『advocate』、つまり『代理人』『弁護士』だ。いっそそのまま訳した方がよかった。法廷ドラマかと言えばそうなのだが、いつも法廷場面ばかりではなく、そこはヤクザが頻繁に登場し、カー・チェイスやスキー・チェイスまであって、活劇風味はちゃんと用意されてアクションには毎回事欠かない。セリフが多いので字幕を確認するのが少々大変なところもあるが、韓国の裁判事情がよくわかるし、それが日本とはかなり事情が違ってアメリカ的であるところも意外な発見、見所になっている。登場人物はかなり多い。これを整理して見るのがやや大変と言ってよいが、それが把握出来た頃から俄然面白くなる。また、ドラマ全体がいくつかのエピソードの同時進行で構成されていて、それらが終末に向かってどうつながって来るのかとハラハラさせられる点もよい。強引な筋立てとは言えるが、ドラマであるから、登場人物を強く絡ませる必要がある。そのため、別々に進んでいたストーリーが最後にうまく結合するのは当然でもあり、またそれで鑑賞者も満足を覚えてドラマを見終わる。俳優たちの演技の魅力もさることながら、世間からはみ出した者のセリフにも光るものががあって、ちょうど世の中が、たとえば社長、弁護士や検事といったエリートたちだけで構成されているのではなく、日本で言う「負け組」にもそれなりの立場と意見があることを改めて納得させる。そのことがこのドラマに奥行きを与えている。視聴者はごく普通の市民なのであるから、そうした人々が共感出来るような人物の登場は不可欠であるし、その一方で啓蒙的なことも描いて格調をているところに人気の秘密がある。この後者は、普段は知ることのない弁護士や検事の活動に焦点が当てられている点であり、前者はたとえば、ソン・チャンミンが演ずる主人公の若い弁護士ミンギュには、あまりうだつが上がらず、刑務所に厄介になる友人がいるが、それがけっこう活躍してミンギュを助け、時にはミンギュに意見して励ましたりする点にある。ここは重要な事実だ。勉強の優秀な人物が何から何までよくわかっていると思うのは全くの自惚れであって、世間では見捨てられたような人物、ごく普通の人々がかえって現実の正しい姿をよく見て知っていることは大いにあり得るどころか、むしろその方が多いくらいであるからだ。だが、ミンギュはそんな友人を持っていることがスキャンダラスな原因にもなって、検事にはなれず、しがない弁護士事務所に勤務することになる。一方、ミンギュのもうひとりの友人はスムーズに検事になって、ミンギュとは違う役割として働きながら、不正をする悪い連中を告発して行く。ミンギュが世話になる貧乏事務所で以前から事務員をしながら弁護士を目指して勉強中のウンシはイ・ヨンエ、若いやり手の女検事ヘミをソン・ユナという女優がそれぞれ演じているが、こういった若手に対して中年世代の男優が数人登場して脇をしっかりと固め、ドラマをあらゆる世代の人々が見て面白いものに仕立て上げている。貧乏弁護士事務所とは対立する企業お抱えの大きな事務所「神話」の統率者や、その一番の部下である弁護士、それにウンシの父親役を演ずるチュ・ヒョンの演技は特に見事だ。チュ・ヒョンは『愛の群像』に登場していたので馴染みだが、今回は深いわけありの人物を演じていて、その存在がドラマにサスペンス性を付与している。
 このドラマを見ながら、誰しも感ずるのは悪の存在の強さだ。まるで世間は悪ばかりで出来ているかのように感ずるほどだ。そうした悪はドラマにおいては正義によって徹底して裁かれる必要があるが、このドラマはそう簡単にそんな決着をつけてはいない。悪の根絶やしなど絶対に不可能であることは、資本主義の国に生きる誰しもが真実としてよく知っている。それは絶えずむくむく湧き起こって来て、法律によってまた絶えず裁きの場所に引きずり出される必要があるものだ。ドラマの前半で、ある大会社のドラ息子が若い娘を輪姦し、ミンギュが娘の弁護をすることになるが、結局二転三転してミンギュは敗訴する。その筋立てを見ながら、誰しも歯ぎしりするだろうが、ドラマの前半で正義が負ける状態を見せておいて、後半ではその息子の親がついに敗訴するという内容に進む。つまり悪と正義の戦いは五分五分であり、これは現実問題としては正しい描き方だ。そこには、ドラマでも登場人物がいみじくも言っていたように、本当は何が悪で正義かはわからないという難しい人間関係が反映してもいる。脚本家はそう単純に悪が裁判でみな排除されるという安手の内容にするつもりはなかった。また、このドラマが面白いのは、法律を操る弁護士でも、悪の道に染まりかねない者がいるという一種の警告を示す点だ。その際どい役を「神話」の敏腕弁護士ジュンソンが担当するが、この男優は確かソン・ガンホ主演の映画『反則王』に主人公の上司として登場していた。いかにも有能だが、一癖ありそうなサラリーマンを演じさせればうまい雰囲気を持っている。悪の話で思い出した。ミンギュは被告の医師に対する決定的な証拠をどうにか集めようとする下りがある。ミンギュを慕うウンシは、白昼堂々と変装して病院に忍び込み、パソコンに入っている情報をパスワードを何度も試してついに引き出すことに成功し、それを裁判中のミンギュのもとに急いで届ける。それは完全な住居侵入であるし、勝手に人の情報を盗み出したのであるから、罪になる行為だが、ウンシがそうして得た証拠によってミンギュは勝訴を勝ち取る。この場面を見て、ウンシの行為は悪、不正ではないのかと、納得の行かない人がいることだろう。もともと被告の医師が自分につごうの悪い証拠を隠して裁判に臨んでいるのであるから、それをどんな方法で奪ってもそれは正義といった見方をこのドラマはしていることになるが、そこには単にドラマが面白ければそれでいいという適当な考えがあってのことか、あるいはそういう悪には悪で対抗してよいと韓国人が思っているのか、理解に苦しむ場面ではあった。また、インターネットで情報を集める場面もあって、それは1998年を思えば妥当なことでありながら、ドラマの要素として活かしているところにネット先進国の韓国を思わざるを得ない。
 ソン・チャンミンの演技は、このドラマの2年前の制作になる『風の息子』で初めて見た。翌98年に『ドクターズ』に出演し、そしてこのドラマというように、順調にしかもさまざまな大役を演じて来ているのがよくわかる。今回はセリフが特に多く、また学生上がりの若い役を爽やかに演じていたが、『風の息子』で見せた悪役ぶりとは全然違って驚いた。だが、日本では女性が追いかけるような役者ではないから、このドラマの人気も圧倒的なものにはまずなり得ない。日本の韓国ドラマ人気は大半をおばさんが担っているようなものだが、ドラマの内容本位で楽しむような、見る方の成長ぶりがこれからは求められるし、いずれそうなって行くことだろう。韓国で50パーセントの視聴率を達成した事実を前に、なぜそうなのかを考えることで、このドラマの本当の見所と価値が理解出来るはずだが、それは簡単に言えば、どの国にも金まみれの社会があり、不正を追求する法の倫理があるという現実だ。だが、このカテゴリーでよく書くように、韓国の大企業やそれに飼われる弁護士たちと検事や警察の仕事との絡みを、面白くドラマ仕立てにすることで大衆の喝采を浴びようとするのは、実際の韓国にそうした不正とその追求が多いことの現われなのか、あるいは持たざる者たちが持つ者に対して絶望的なまでに無力である現実を、ドラマを鑑賞する一時にせよ忘れさせるために、こうしたドラマが国の主導者の考えに沿って巧みに作られているのか、いったいそのどちらであるのか筆者にはわからない。もし国家においてクリーンな勢力が優勢であれば、こういうドラマは不要であるし、視聴率が50パーセントも獲得しない。雑草のように次々と不正が出現するからこそ、国民はこういうドラマによってうさ晴らしをする必要があるのかもしれない。だが、それはそれでいいことだ。悪事は悪事、ずるいことはずるいと、誰しも大きな声で発言出来る社会はまだ健全だ。そういう声に乏しく、またそういう声を発する者がかえって揶揄されるような世の中こそ、不正を働く者たちにとっては思う壺であり、そこにはもはや権力風刺のどんな表現も大手を振ることはない。今の日本から見れば、このドラマはあまりに単純な内容と映るかもしれない。もしそうならば、それだけ不正に鈍感になっている証拠とも言えそうだが、法の倫理感をテーマにしたこうしたドラマが大きな視聴率を稼ぐ韓国というものを改めて考えてみた方がよい。秋から冬場にかけて撮影されたドラマだが、ジメジメとしていないので後味はとてもよい。そういう爽快、痛快なドラマを毎週1回ずつでも見続けるのは、人生のちょっとしたスパイスにもなって潤いが持てる。それは映画を見るのとはまた違った楽しみで、韓国の連続TVドラマはそれなりの存在価値がある。3日前に書いたように、ハリウッドの映画はどれも似た印象があって、見る前からある程度どんな筋運びで、どんな感動があるのかがわかってしまっている気がするが、少なくとも韓国ドラマはまだ何がどういう形が存在するのか、未知な部分が多い。それは前述したように、進化の途上にあるからだ。古典のあらゆる手法と要素を解体し、それを再構成しながら新作を生み続ける韓国ドラマと映画を、まだ当分は注目したい。
by uuuzen | 2006-12-31 00:42 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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