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●『模型で世界旅行』
副題は「いろんな国の<私の風景>」だ。1週間ほど前、茨木の国立民族学博物館で開催中であることをたまたま知った。先月上旬、この展覧会はTVで紹介されていた。



ところが画面を見ずに音だけ聞いていたので、開催場所を大阪の歴史博物館だと思い込んだ。それで同館で開催中の『日本のわざと美展』に出かけたことは以前に書いたが、そそっかしくも「大阪の国立民族学博物館」を「大阪の歴史博物館」と聞き間違えたことがわかり、狐につままれたような変な気持ちがようやく氷解した。春が近づいて雨の日が多く、足元が悪いのはいやなので、結局会期最終日の先月28日に訪れた。見終わって館を出た直後にぽつぽつと来たが、傘を持参していたし、自宅に戻るまで本降りにはならなかった。さて、「模型」という言葉で思い出した。手元に数日前に作ったペーパー・クラフトがある。九州国立博物館の模型だ。これは京都国立博物館で無料で入手したが、作るのが簡単で味気ない。だが、これは実物の建物が簡単な形をしているためで仕方がない。屋根が途中でくぼんでいて、植物の実を縦に半分に割って横たえたような形をしている。このガラス張りの博物館の中にはサッカー場がすっぽりと入るというから、縮尺は1000分の1ほどだろうか。このような大きな容器に包まれた内部はどのようになっているのだろう。あまりに広いと鑑賞するのに大いに疲れるから、休憩場所がふんだんにあればと思う。太宰府からはトンネルでつながって東南に位置し、去年10月中旬に開館した。半年も経っていないので何とも言えないが、今後どのような特徴的な展覧会を開催して行くのか注目される。道州制が導入することに関する記事が先日の新聞に載ったが、これを睨んでの日本で4番目のこの国立博物館建設であったかもしれず、将来的には各州に建設があるかもしれない。ところで、関西州、中国州、四国州と呼ぶのはいいとして、九州は九州州となるのだろうか。あるいは九州のままだと、四国州を四州と呼ぶのだろうか。つい、こんなアホなことを心配をしてしまうが、九州がもともと道州制に見合う呼び方であったのは先駆的ではないか。これからは地理的には辺境部の北海道や九州の時代だ。だが、他国との位置関係で言えば辺境はむしろ関西や関東であって、日本がさらに国際的に絆を深めるには北海道や九州がもっと独自に存在感を示すべきだ。そしてそんな気概を持つには国立博物館の存在は小さくはない。日本を今後どういう国にして行くのか、その「模型」的な思考が政治家や識者にどれだけあるのかないのか知らないが、九州国立博物館を見ている限り、間違いのない方向に進んでいる気がする。

●『模型で世界旅行』_d0053294_0443289.jpg 万博公園内にある民族学博物館は1977年の開館で、筆者はこれまで60回は訪れているが、開館当初の展示のままの部分と、時代に見合って少しずつ展示を変えている部分があって、定期的に訪れる価値がある。10年ほど前か、南アジアの展示棟が建て増しされた。南西角の空き地にも建て増しが予想され、それが完成すると、館全体がちょうど曼荼陀羅のような正方形になる。収蔵資料は全世界をカヴァーしているように見えながら、たとえばまだロシアに関しては展示がないし、ヨーロッパもごくわずかであるので、南西にもう1棟出来ると、そこにヨーロッパの展示が拡張的に移るかも知れない。だが、本館正面の壁面はタイル目地から白い染みが生じているなど老朽化も見えるから、増築と同時に修繕も考慮しなければならない状態にある。それに関して思うのは、この館の「ビデオテーク」というシステムだ。これはゆったりしたソファつきのブースに座って好みのドキュメンタリー・ビデオを鑑賞出来る設備だ。もちろん、内容は民族学に関してのもので長さは10数程度と短いが、ほかでは見られないものばかりだ。開館以来30年を経て、今はヴィデオ・テープからDVDという映像媒体の変化があって、この施設も改造を強いられ、目下「ビデオテーク」は改造中で4月に新オープンだ。大阪にこのような国立の施設があることは誇らしいが、特別展のない時は閑散としている。筆者が訪れた時もわずか4、5人しか見えず、係員の方が多かった。国立であるので赤字になってもかまわないのであろうが、これではあまりにもったいない。そのために人権費も節約したのか、展示室入口にあった円柱型のチケット売場は窓口が塞がれて閉鎖され、ただの用の成さない柱になっていた。北側出口付近にあった売店はその奥のスペースに移動したが、元の場所の片隅の暗い壁面には、まだ売れ残った商品がごくわずかに陳列されている。特に常設展のチケットに印刷されるパプアニューギニアのバイニング族の仮面と同じものが15万円ほどの値札がついたままずっと売れずにあるのは、まるで夢の中で見るようなさびしくも鮮烈な光景だ。高さは1メートル以上だろうか、いつもこの大きな布製の仮面を見るたびに、「これを飾れるほどの大きな家があれば買うのになあ」と思ってしまう。格安のはずなのに、なぜ売れないのだろう。百貨店の物産展にでも並べばすぐ売れるだろうが、こんな文化施設には15万円もぽんと出す粋な人は来ないと見える。
●『模型で世界旅行』_d0053294_043919.jpg 『模型で世界旅行』は最初の展示を見てすぐぴんと来た。10年近く前に数点を見たことがある。今回はそれがたくさん集まったことによる企画展だ。カラー印刷された8ページの無料パンフレットが、会期最終日だというのにまだ大量に残っていたが、それにある序文を少し引用する。『今回展示する模型は、みんぱく(国立民族学博物館)とJICA(ジャイカ:独立行政法人の国際協力機構)がおこなう博物館学研修の成果のひとつです。世界各地からやってきた研修員は、景観模型工房のスタッフの指導をうけながら、自らの国のある風景を模型で表現しました…』。研修員のすべては基本クラスを受講し、模型づくりは選択科目となっている。今までに23か国および地域の39人が、模型37点を作り上げた。同じものをふたつ作り、1個はみんぱくが、もうひとつは研修員が自国へ持ち帰っている。研修は1994年に始まった人材育成の国際協力で、11年間に48か国および地域の118人が育った。2005年からは博物館学集中コースとして再出発し、みんぱくがJICAから事業の全面的な委託を受け、滋賀県立琵琶湖博物館との共同で運営している。みんぱくの展示物には家屋模型が少なくない。それらは畳数枚分の面積があるような巨大かつ精巧なもので、制作費も数千万円はかかっている。それらを作った工房が景観模型工房かどうか知らないが、このいかにも日本らしい細かい作業を伴う景観模型づくりは、海外から来た研修員に何かを学んでもらうにはとてもいい手段だ。今はフィギア模型のブームだが、日本研修員たちが作る模型は設計図をもとに素材も全部自分で身近なあらゆるものから見出すもので、正確さと根気と独創性を要する。縮尺は300分の1、しかもA4サイズで区切られた大きさに統一されているので、たくさん並ぶと大きさが比較出来て楽しい。建物や自然だけを再現するのではなく、適当に人物も配置するため、よりリアルなものとなっている。接写で撮影すると実際の風景かと見紛がうほどだ。前述のパンフレットには37点の模型写真が全部載っているが、これが実際の風景写真でないところがよい。模型でも充分本物に見えるのでその必要がないのだ。
 縮尺300分の1では、3メートルが1センチだ。A4サイズは85×65メートルの範囲となるから、研修員は特別思い入れのある場所を選ぶ。そうなると、自国文化を代表する有名な土地となって、誰でも写真などでよく知る建物などになりそうだが、これは案外そうではなく、生まれ育った場所が選ばれることがほとんどだ。思い入れも強いし、その方が模型に再現しやすいからだろう。それに、模型を見る側からすれば、そうしたものの方が珍しいさがあってよい。研修員はヨーロッパや北米、オーストリア以外のアフリカや東南アジア、西アジアなど、まだ博物館をあまり持たないような辺境の国々から来ている。会場入口にはまず景観模型工房が作った小さな見本的なものが6点ほどあった。いずれも1999年以降の制作だ。「バーミヤン西大仏」はイスラム過激主義者によって爆破される前の大仏を復元したもので、色彩もよく、なかなか見応えがある。「大樹世界一(セコイアの森)」は、アメリカ合衆国のセコイア樹林の地面に人が立っていて、その背丈を比べるといかにセコイアが巨大であるかがよくわかる。これは手元に置きたい強くと思わせた。「長谷川等伯の松林図復元」は、等伯の有名な国宝の水墨画6曲1双屏風に描かれた松林を立体的に再現したものだ。アイデアはよいがあまり面白くなかった。祇園祭の鉾とそれを引く人々を再現したものはどこかの人形店で売っているような感じがした。ミニチュア模型づくりの伝統は江戸時代に急速に進歩したもので、そんな日本の伝統を海外の研修員に実地で学んでもらうのは日本文化の神髄のひとつを伝える意味合いがあって、なかなかよく考えたことだと思う。模型で自分のお気に入りの場所を再現することで、人は初めてその対象の全部を自分のものにした気になる。これは自ら作らずにただ見るだけでも味わえる気分で、映像もいいが、あらゆる角度から鑑賞出来る模型は映像よりさらに大きな威力を発揮する。立体は立体で再現するのが最も理想的で、「一目瞭然」の精神に限りなく近い方法だ。
 有名な場所を題材にしたものは、「万里の長城(中華人民共和国)」、「パルミラ遺跡(シリア・アラブ共和国)」、「カアバ神殿(サウジアラビア王国)」、「サーッタレ・ダルバール王宮(ネパール王国)」などがあるが、ポスターにある「客家円楼(懐遠楼)」の模型は特に目を引いた。これは600分の1で作ってある。中国福建省にある円楼で、1909年から11年にかけて建てられ、中心に祖堂兼学堂があって、周りの家屋に簡という姓の人が100人ほど住む。この珍しい建物をペーパークラフトで再現出来るようにと、パンフレットの表紙には作り方の説明と切り取り用の展開図が印刷されている。みんぱくの指導による研修員の模型づくりはごくささやかな国際交流の試みと言えるが、小さなものであるからこそ、そこに思いが集中して研修員の心に長く残るであろうし、そんな地道な交流も長年積み重ねれば大きなものになる。辺境国家が日本から何か確実なものを学んで帰り、自国の文化づくりや保存のためにもっと目覚めることが、結局は将来の日本のさらなる学習に役立つ。これが国際協力ということだ。日本を今後どういう国にして行くのか、その「模型」的な思考が政治家や識者にどれだけあるのかないのか知らないが、今回の企画展を見ている限り、間違いのない方向に進んでいる気がする。今後さらに模型は作り続けられ、100、200と増えた時にまた見たいものだ。1000に達した時、それはもう世界にも例のない、模倣不可能な財産になっているに違いない。保存場所もあまり取らず、軽くもあるから、移動もたやすいし、それでいてじっくと鑑賞に耐えるので、別の場所に積極的に貸し出して、さらに模型づくりへの関心を促すことが出来る。手仕事が失われている今では学校教育の場に取り入れてもいいかもしれない。自分の好きな場所を切り取って模型で再現するというのは、お金で買えるフィギアづくりよりもはるかに価値があって楽しいことではないだろうか。
by uuuzen | 2006-03-04 23:58 | ●展覧会SOON評SO ON
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