●日暮里から根津、そして上野へ
のような短い人生と言えばいいような気がする時もあれば、それなりにこれまでの年月は長い道のりであったと思うこともある。子どもの頃の友人は今ではもう町中で出会ってもお互い誰かはわからないはずで、長い歳月が子どもの頃とは著しく身体を変えることを今さらに思う。



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それでも心の奥には昔のままの自分がいるし、それは誰でも同じだろう。ただし、その子どもの頃のことを誰もが肯定的によく覚えていて、たまに思い出すかと言えば、これは自分のことしかわからない。前にも書いたことがあるが、筆者が小学5年生の時に東京から転校して来たTととても親しくなった。Tの家でよく遊んだことを思い出すが、Tは妹がひとりと弟がふたりいる長男であったにもかかわらず、体育が苦手で、絵が上手という点で筆者とそっくりであった。両親は自宅で家内工業をしていて、筆者はいつも歓迎された。Tは比較的豊かで、夏休みなどには東京のおばあさんの家に行き、赤い透明な東京タワーのプラスティック・モデルを土産にもらって来てはそれを筆者に自慢気に見せたことがある。Tは中学は筆者とは別のところに進んだので、つきあいがあったのは2年だが、その後もごくたまにTの母親はわが家に立ち寄ることがあって、Tの近況を教えてもらった。運動嫌いのTがバレー・ボールの選手になり、めっきり運動好きになったと聞いた。学校の授業ではとにかく鉄棒が全く駄目で、走りも遅かったのに、球技には向いていたようだ。Tの母親は家内工業から商売替えをして、わが家からさほど遠くないところで確か居酒屋を経営し、その店に向かう途中でわが家に来たのだ。だが、店の経営は長らく続かなかった。そして、Tからの手紙で一家が東京に戻ったことを知った。その手紙はもう手元にないが、上野の国立西洋美術館に行き、そこで買った絵はがきが2,3枚同封されていた。その1枚はクールベの「海」だ。それにロダンの「考える人」か「地獄の門」もあった。それを見て筆者は少しうらやましかった。その頃の筆者はもう西洋の絵画に強く魅せられていたからだ。
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 Tは日暮里の生まれ育ちで、またそこに戻ったが、筆者はこれまで山手線に何度も乗りながら、日暮里には降り立ったことがなかった。それで今回こそはと計画を立てた。そして5月17日は午前中に浅草をうろつき、その後地下鉄の銀座線に乗って神田まで戻り、山手線で日暮里に行った。ヤフーで印刷した地図があるだけで、どこをどう歩くかをあまり決めていなかったが、4月下旬のNHKのTV番組「鶴瓶の家族に乾杯」で、根津神社が映り、そこに行ってみたいと思ったので、日暮里から根津がどのくらい離れているのかを調べた。すると、散歩にちょうどよい。また根津から上野も近く、東京都立美術館での若冲展を見るにもつごうがよい。初めて歩く道で、間違う可能性が大きいが、迷ったときは人に訊ねればよい。日暮里駅に着いた時、Tのことを思い出した。北と南に改札があって、Tの家がどちらにあるかと思ったが、それはわからない。これも前に書いたが、TがFACEBOOKでもしているかと思って名前を検索すると、1件もヒットしない。Tは珍しい名前なので、同姓同名はおそらくいない。また、生きていたとしても、お互い昔の様子とはすっかり違ってしまって、話がかみ合うこともないかもしれない。そう思いつつ、またごくたまにネットでTの名前を検索してみる。またTが筆者のことを調べてすぐにわかるかと言えば、そうではない。筆者は名前の一字を染色作家になった時に変えたからだ。そのことを知るのは大人になってからの知り合いのみだ。それはともかく、日暮里はTVでは繊維の町としてよく紹介される。それがどの辺りなのかは知らないが、おそらく駅から北方ではないか。今回筆者は上野方面に歩くために南の改札から出た。そこは小さな改札口で、地元の地図をイラスト化したチラシが置いてあった。それを一部もらったが、それを見て歩くことはなかった。というのは、改札から出ると真っ直ぐに道が伸び、そこを行くしかなかったからだ。少し起伏のある広い道で、両側に店がぽつぽつと並んでいる。右手先方からきつい醤油の匂いが漂って来たと思うと、それは佃煮屋であった。これは珍しい。いかにも江戸という風情だ。京都や大阪にそのような店はもうないだろう。昭和を感じさせるその道は下り坂になっていて、突き当たりに商店街の山型の看板が見えた。それはTVで何度か見たもので、そこを降りれば両側に商店が連なっていることは知っていたので、気持ちがはやった。その急な坂を降りた狭い道の商店街は、大阪で言えば石切神社界隈に似て、近くに住みたいほどに好感が持てる。近年は観光ルートにもなっていることはよくわかる。先の鶴瓶の番組ではその坂とは違う別の坂沿いの町を紹介していたが、少し東の寺が多い地域で、大阪や京都にも似た場所はある。鶴瓶が歩いた同じ道を歩きたいと思いながら、結局違う道を進んでしまったが、雨でもあり、後戻りはせずにどんどん先に行った。すると、これも鶴瓶の番組が紹介していた指人形の写真がポスター代わりに貼ってある場所に来た予期しない遭遇で、少しは鶴瓶の番組が紹介した場所を通りすがることが出来た。ちょうど向こうから女性ふたり組がやって来て、彼女たちもその写真を見てはしゃいでいる。そのポスター代わりの写真と指人形を演じる小屋の写真が今日の1,2枚目だ。2枚目の右下の塀は1枚目の塀と同じで、道路から少し奥まった赤い板塀で囲んだところで人形使いが演じるのだろう。
d0053294_01165941.jpg この指人形の小屋のあるのは谷中3丁目で、地図を見ると岡倉天心記念公園や幸田露伴の旧宅があるなど、歴史的に面白い地域だ。東京の小説に詳しい人ならたくさんのエピソードを知っているだろうが、筆者は谷中の地名は昔から何度も目にしながら、具体的なイメージが湧かなかった。今回はわずかだが、それを把握した。次回はやはりNHKの鶴瓶の同番組が紹介していた道を歩きたい。そんなことを思いながら、ふとした拍子に目の前に古い菓子屋が姿を現わした。家内はせんべいやおかきだ大好物で、そこで買うことを薦めた。また、若冲展を見た後に新宿で会うことになっていたザッパ・ファンの大平さんと彼の兄さんへのお土産も買う。その店で家内が買っているのが3枚目の写真で、同じ場所から振り返ったのが4枚目だ。どこにでもあるような古い街並みだが、落ち着いた雰囲気がある。また写真の奥が上り坂になっているのがわかるが、日暮里駅からずっと下り坂で、東京は本当に坂が多く、自転車で走るには工夫がいる。4枚目の写真を撮ったのは、鶴瓶が紹介していた道を歩けなかったことに後ろ髪を引かれる思いからだ。せんべい屋は店がまえがどっしりとしていて、歴史を感じさせるが、こういう店があることは谷中のひとつの魅力だろう。今調べると、谷中ではなく、道路を隔てて千駄木だ。歩いていてもその地名はあちこちに記されていて、またこのせんべい屋の近くに地下鉄の駅もあった。
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 さて、目指すは根津神社で、そこで撮った多くの写真は「神社の造形」でいずれ載せる。この神社も4月下旬の鶴瓶の番組で、鶴瓶の相方を務めた若い男優が紹介していて、その様子を見て行こうと決めた。せんべい屋を過ぎた交差点で方向がわからなくなり、自転車に乗って信号待ちをしていた男性に「根津神社はこの先ですか」と訊ねた。筆者の思いは当たっていて、いつもように家内を後方20メートルくらいに引き連れて先を急いだ。不忍通りという大きな道で、その名前は筆者を安心させた。その道をたどって行くと不忍池が見える辺りに着くはずだ。だが、東京は道がほとんど斜めに走っていて、方向感覚が狂う。太陽が出ていればまだよいが、雨ではさっぱりわからない。やがて根津神社の方向に折れる道が見え、不忍通りから一旦離れてそこに入った。神社の北口に至るまでの100メートルほどの間に何軒かの店が並んでいて、そのうちに1軒が喫茶店のようで雰囲気がよさそうであった。確か緑色の木製の扉があった。ストリート・ヴューで調べるとそれがないが、インド・ネパール料理店であったかもしれない。根津神社は南から出てまた不忍通りに出たが、そこからひたすら上野駅を目指した。空腹を覚えたのでどこかで昼を食べようと決め、根津駅の近くにある赤い派手な看板の中華料理店に入った。満員に近かったが、安価で量が多く、東京では珍しいと思った。神戸三宮にもとても安くて量の多い店があるが中国人が経営している。その根津の店もそうだろう。腹ごしらえを済ませ、店を出ると雨はかなりましになっていた。上野を目指しながら初めての道を歩くが、筆者にしては珍しいほどに最短距離で不忍池を横断し、上野駅に着いた。雨天のため、不忍池の弁天堂にはほとんど人影がなく、早足の筆者はなおさら早足になった。上野駅の公園口の改札に着くと、待ち合わせの時間まで20分ほどあった。時間どおりに大平さんを見つけたが、車で来るかと思って駅前の道路を見続けていたのに、電車でやって来た。招待券を2枚もらって早速若冲展に向かった。それについては以前書いた。最後に、浅草と日暮里から上野に歩いた道筋を地図上に青で記しておく。雨で足元がずくずくになりながらの駆け足であったが、長年思い続けていた日暮里駅界隈を少しは歩き、なかなか楽しい散歩であった。
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by uuuzen | 2016-06-15 23:59 | ●新・嵐山だより


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