●『LITTLE DOTS』その1
手にこなせると自信のある人でも、10年や20年経って振り返ると、未熟であったことを自覚する。そうでない人に限って自惚れが強く、そんな人を筆者は何人も見て来たが、何が上手で下手なのかがわからない人はたぶん人間の9割以上は占めている。



d0053294_22095357.jpg
普段接することの少ないものに関しては誰でもそういうように見所がわからない。それで、ザッパの音楽にしても、音楽をあまり聴かない人には何がいいのかわからなくてあたりまえで、技術的に高度であることにも気づかない。だが、技術的に高度という言葉は曲者で、それは表現、作品に不要で、心があればよいとの考える人もある。だが、その心とは何か。死者以外は心を持っているから、心を尺度に芸術を計ることは出来ない。それに、どういう心がある心より上と言うのか。その問いに対して、感動を与えてくれるかどうかと先の人なら答えるだろうが、それは作品の作り手の問題ではなく、鑑賞者に属することだ。それに、その感動はいろいろで、大多数の人が感動する作品をある人が全く反応しないとして、その人の感覚が鈍いとは言い切れない。誰しも好きなものを鑑賞し、讃えればよく、その作品や作者が世間的にどれほどの評価を受けているかを考える必要はない。だが、たいていの人間は精神的に弱いので、世間で評判が高いものを自分も享受することに安心感を抱く。みんなが笑っているから自分も笑わねば世間から取り残されて行くと考えるが、時代に後れているように見える者がいつの間にか時代の先端とみなされることはよくある。時代に乗じている者が逆に格好悪く見えることも多々あり、時代の趨勢対自分という構図で自分を考えないことだ。時代の趨勢は自分より巨大な怪物に見えるが、それは小さな個人の集団であって、その個人は自分とほとんど変わらず、恐れることは何もない。筆者がザッパについて本を書き、またこうしてブログに書くことも同じで、一個人の意見に過ぎず、全然別のことをザッパについて思っている人は多いだろう。それは筆者が他人のザッパについての感想文に全く関心がないことからしても当然だ。解説をいくら尽くしてもそれはザッパの音楽とは無関係で、文章はその書き手の性質を表わすものに過ぎない。書き手の創作行為に対する思想が貧弱なものであれば、逆立ちしてもいい文章は書けず、そんな文章に心があるとか主張しても自惚れに過ぎない。何が言いたいかと言えば、作品は技術が基礎ということだ。『ジョーのガレージ』では、ジョーはセックス・マシーンのサイボーグを過激な性行為で壊してしまい、刑務所に入るが、そこでジョーはギター・ソロをイメージする。そして、出所後はギタリストにならずにマフィン焼き職人になるが、それはそれで技術は必要で、実際ジョーはこだわりの製法を持っている。これはザッパがどういう行為にも創作へのこだわりがあり得ると思っていたことの証だが、ギタリストとマフィン焼きを比べてどちらが社会的にいい職業なのかということは、音楽の聴き手に判断が委ねられている。イメージするだけでのギターなら誰でも出来るし、筆者も電車やバスの中でそんなことをしばしばするが、では目の前にギターがあって、思ったとおりの音がそれで奏でられるかといえば、これは別問題だ。そのため、ザッパはジョーを哀れな、つまり思うだけで行動の伴わない男と思っていたかもしれないが、何かしなければ金は得られないから、ジョーはマフィン焼き職人になる。そして、そこでこだわりを持つ。これはなかなかいいことだ。世の中がみなそのようなジョーの考えであればいいが、実際は言うだけ、あるいはイメージするだけで行動しない連中の方が多いだろう。ネットにおける放談はその典型だ。イメージしたことを具現化するのは多大な努力と時間を要する。その蓄積をザッパはこつこつとやり続けた。そうした音楽を聴くのは一瞬で済むし、実に手軽なことだ。だが、それを本当に演奏することは、ほとんど奇跡に近い行為だ。そういう行為に対して子どもでも書ける文字で感想を書くことは、不敬にもほどがあると言ってよいが、その自覚があれば、まだ少しはましな文章を書く可能性は残っている。ま、ジョーのマフィン作りのようにこだわりを持って、またザッパの新譜の感想文を書く。
d0053294_22103781.jpg
 本作の題名は2曲目から採られているが、「小さな点」は音符のことで、この「リトル・ドッツ」の主題の楽譜がジャケットの見開き内部右側に印刷されている。ザッパの音楽は楽譜に書かれた部分と即興演奏の部分から成る場合が多いが、楽譜に書かれた主題はだいたい1分未満の短さで、その後に続くソロがその主題の展開かと言えば、主題とソロとの関連はほとんど感じられない場合が多い。つまり、ソロを抜き出し、それのみを聴くと、主題が想像出来ない。そのため、ソロは主題とキーは同じでも別の曲と言ってよく、それゆえにザッパはギター・ソロのみ切り取ってギター・アルバムに別の題名で発表した。主題は楽譜に書かれているので動かし難い、つまり唯一無二の完成度があるが、ソロはその反対に溶解的で、二度と同じように演奏出来ない。それがソロの魅力で、ある程度はどのように変容し得る形を取っているところに聴き手が肩肘張らずに自由に楽しめる理由がある。そう考えると、楽譜に書かれた主題に続く即興演奏のソロというザッパの音楽の基本的な形は、すべて楽譜に書かれた曲を聴くこととは違って緊張と緩和を持っていることになるが、この緊張と緩和は笑いが発生する論理と言われ、ザッパがステージでよく観客を笑わせることの理由にもなっているかもしれない。ザッパは楽譜に書いた主題を厳密にメンバーに演奏させる一方、ソロでは自由に奏でることを任せたが、その自由をただ気楽に捉えると間違いで、ザッパは即興であるからには学習を拒否し、毎回違う内容を追求した。即興であるので毎回違うのはあたりまえのようだが、演奏の独自の節回しは、言葉使いと同じように、同じ言い回しを使いがちになる。同じフレーズをよく使うようになれば、それは楽譜に書かれた主題と同じようなものになる一方で、その緊張感は得られず、退屈なものになる。ただし、これはいくつものステージを見続けなければわからないもので、たまたま本作のようにアルバムとしてまとめられた演奏だけではわからない。ザッパはジャン・リュック・ポンティのソロを、いつも同じようだと評したが、それはポンティが即興演奏には向かない演奏家であることを意味しているだろう。書かれた主題が緊張で、その後のソロが弛緩というのは、一面的な捉え方で、ソロはソロで緊張の連続であり、聴き手は主題を聴くのとは別な耳でそのメロディを逐一追って酔う。そして、ザッパの場合、ギター・ソロを重ねる中から主題に使えるメロディを思いついたこともあったであろう。
d0053294_22113753.jpg
 「リトル・ドッツ」は1曲としての表示だが、11分と13分の2部に分かれていて、CDでも2曲目、3曲目と分かれている。パート1は主題の後、ベース・ソロ、そしてザッパにしては他のツアーではないスティール・ドラムが登場し、ベースと第2主題を演奏する。やがてその背後にザッパのギターが静かに入り込み、ザッパのソロへとバトン・タッチするが、この時のムードは『IMAGINARY DISEASES』の5曲目「D.C.ブギ」と同じで、同曲は「リトル・ドッツ」からのソロだろう。また本作の「リトル・ドッツ」のパート2は、スライド・ギターのソロから始まり、ザッパがそれに控えめに絡むが、やがてトロンボーン・ソロに移り、チューバのソロからザッパのギター・ソロとなるが、「D.C.ブギ」の後半の拡大かつ別ヴァージョンで、「D.C.ブギ」はザッパのソロを中心にかなり切り詰めたものかもしれない。また、「D.C.ブギ」はフェイドアウトで終わるが、本作ではソロが突如終わって主題がまた奏でられる。「D.C.ブギ」にその主題を収めたくなかったのは、「リトル・ドッツ」全体よりもギター・ソロだけは発表しておきたいと考えていたことになるが、「リトル・ドッツ」という曲があり、それを中心にアルバムとしてまとめる用意があったことを当時のインタヴューで語っていて、主題には自信があったようだ。もっとも、この主題は後に「アプロキシメイト」に変容し、70年代半ばから後半のザッパならではの個性的な主題となって多くのステージで演奏される。そう考えると、72年のザッパの入院生活での創作は大きな糧を導いた。それはともかく、「リトル・ドッツ」は『ザッパ・イン・ニューヨーク』の最後の曲「ザ・パープル・ラグーン」のプロトタイプと言ってよく、ロックにより傾斜して行くザッパの基本にジャズがあることを教えてくれる。
[PR]
by uuuzen | 2016-11-28 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編)


●『IMAGINARY DIS... >> << ●『LITTLE DOTS』その2
以前の記事/カテゴリー/リンク
記事ランキング
画像一覧
ブログジャンル
ブログパーツ
最新のコメント
> フランクザッパさん ..
by uuuzen at 17:50
コメント欄がわからなかっ..
by フランクザッパ at 13:51
ご指摘どうもありがとうご..
by uuuzen at 12:22
Frank zappa ..
by ザッパ at 08:30
何年も前に書いた文章に感..
by uuuzen at 16:20
はじめまして。興味を引く..
by 文学座支持会元会員 at 11:15
最近あまりに多忙で録画は..
by uuuzen at 15:31
唐突に失礼いたします。ど..
by タイタン at 14:59
暴力事件は訴えても警察が..
by uuuzen at 15:11
地下鉄の件事件になります..
by ネイル at 19:07
最新のトラックバック
http://venus..
from http://venusha..
ファン
         ブログトップ
  UUUZEN ― FLOGGING BLOGGING GO-GOING  © Copyright 2017 Kohjitsu Ohyama. All Rights Reserved.