●『CHICAGO ‘78』その4
イヴ録音のアルバムは本作のステージ丸ごと収録シリーズ以外に、ザッパが生きている頃に出た『オン・ステージ集』の6作、そして没後の『VENUE(会場)』シリーズがある。



後者は現在3アルバムが出ているが、これとステージ丸ごとシリーズのどこが違うかと言えば、厳密な区別はないように感じる。前者のシリーズ2は、6作のうちでは唯一ステージ丸ごと収録で、また『会場』シリーズに含めてもいいようなヘルシンキでのライヴ録音だが、ザッパ没後のステージ丸ごとシリーズと『会場』シリーズは、『オン・ステージ』の延長にあると言える。そして、『オン・ステージ』6作のうち他の5作はザッパがさまざまな会場での録音をつなぎ合わせたもので、それと同じことは基本的にはジョー・トラヴァースには許されないことで、演奏のミスなど、ザッパにとって納得出来なかったであろう箇所も含めたステージ丸ごとシリーズや『会場』シリーズを発表して行くしかない。それはジョーにとっては選曲したり、それをつないだりせずに済む分、気楽と言えるが、あるツアー・バンドを代表するライヴ・ステージがどれであったかを定める悩みはあるだろう。その一例が本作だが、この78年8月から翌年にかけてのバンドの数多いステージの中で、本作がベストかと言えば、ジョーはそう判断しての発売であったはずで、甲乙つけ難い別のステージは、『会場』シリーズとして今後発売があるかもしれない。となると、ステージ丸ごとシリーズに比べて『会場』シリーズは演奏の質が劣るということになりそうだが、その辺りのことはジョーはよく考えていて、双方のシリーズともに、これまで発表された曲群の隙間を埋めるような、つまり耳新しい曲を含むことを条件としている。これは新鮮味を第一に考えるからで、新作のどの曲も過去のアルバムに似た演奏があっては、ザッパの精神を汚すとの思いがあるのだろう。そして、本作にももちろん新鮮味は用意されている。DISC1の最初「シカゴ・ウォーク・オン」は、アルバム『シーク・ヤブーティ』に収録される会話曲を使い回ししているが、時系列で言えば、本作は『シーク』に先立つ録音であるので、たとえばこれからザッパのアルバムを録音順に聴いて行こうと考えている人は、本作の「シカゴ・ウォーク・オン」を先に聴いて、『シーク』に同じ録音が使われていることを知り、その点に関しては『シーク』に新鮮味を感じないことになる。だが、全く同じ録音ではなく、本作ではメンバーがステージに揃って演奏準備に入る音と重ねられていて、DVDの音だけ聴いている雰囲気がある。それで思うことは、その会話のオーヴァーダブはジョーの編集か、あるいはザッパがそのようにテープを完成させていたのかという疑問だ。
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 ザッパはステージで演奏を始める前、BGMを用意することが多かった。日本公演でもそうだ。そのため、「シカゴ・ウォーク・オン」に重ねられた会話曲は、会場でザッパがテープを用意して流したものであった可能性がある。ただし、本作を作るに当たって、ジョーはその会話曲のマスター・テープを使ったであろう。わずか1分少々の、また演奏とは言えないライヴの導入部なので、ジョーがそれらの会話の断片を重ねたとしても目くじらを立てる必要はないが、この会話曲の断片のコラージュによって、ザッパ・ファンは本作が録音された年度を認識しやすい。「シカゴ・ウォーク・オン」の会話の中に「レザー」という言葉が含まれるが、これらの会話曲はもともとはアルバム『レザー』用に録音された。『レザー』の中心は1977年の録音だが、発売を計画しながらワーナー・ブラザーズとの確執のために実現せず、その内容をばらばらにして4枚のアルバムが後に発売される。その中で最も重要なのは『ザッパ・イン・ニューヨーク』で、最初の発売予定から大幅に遅れて、本作のライヴから半年前になった。また、78年は『スタジオ・タン』も発売されたが、77年は発売が皆無、78年は不本意な形での発売で、本作当時のザッパは録音は溜まる一方であるのに、レコードの発売が思うように行かない不満を抱えていた。そのことが本作の演奏に現れているかと言えば、これは何とも言えない。話を戻して、「シカゴ・ウォーク・オン」の会話曲は、当時のザッパのお気に入りで、『シーク』にわずかにしようされたが、本当は『レザー』の発売が無理であれば、ほかのアルバムにも使いたかったのではないか。それが本作では少しは実現している。このいかにもザッパらしい会話曲は、これからステージが始まるという気分の盛り立てにはなかなかよく、次の「TWENTY-ONE」という、6分ほどの軽快なギター・ソロにつながる。ザッパにすればメンバー紹介の前にまずは腕鳴らしというところで、同じく78年の10月の演奏は全く演奏が違うギター・ソロ曲「古代の武器」としてザッパの生前のシングル盤「徴兵されたくない」のB面に収まり、またザッパ没後はドルイージルが編集したアルバム『ハロウィーン』に収録された。1か月の間にステージ冒頭のギター・ソロが大きく変貌を遂げた一例だが、それは本作のDISC2の最後の「ブラック・ナプキンズ」にも言える。本作ヴァージョンは76年ヴァージョンに近い雰囲気だが、『ハロウィーン』ヴァージョンでは「デスレス・ホーシー」と合体される。つまり、「ブラック・ナプキンズ」は1か月の間に解体された。話を戻して、「TWENTY-ONE」は『ギター』に収録されなかったが、面白いリズムの伴奏が終始かなでられる。それは『ジョーのガレージ』の「ウェット・Tシャツ」のギター・ソロが終わった直後に奏でられるフレーズの変形で、本作の他の曲と併せてザッパが同アルバムをまとめることの準備をしていたことがわかる。4曲目「イージー・ミート」はアルバム『ティンセルタウン』の軽快なヴァージョンとは違ってビートの置き方が違い、デニー・ウォーレイがリード・ヴォーカルを担当する。この初期ヴァージョンは昔から海賊盤では有名であったが、生前のザッパは発表することがなかった。そして初めて正式に発表されたのは、『ハロウィーン』であった。
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 『ハロウィーン』はDVDオーディオという変種の作品で、またステージ丸ごと収録でもなく、オムニバス感が強いが、本作とは曲のだぶりが極力少なくなるようにジョー・トラヴァースはステージを選んだのであろう。共通する曲は上記のほかは「マジック・フィンガー」と「黄色の雪な食べるな」のみだが、後者は『ハロウィーン』では2分半、本作では18分半と、長さが全く違い、別の曲としてもいいほどだ。本作の他の曲は過去のヴォーカル曲と新曲が入り混じり、必ず過去の曲を幾分かはレパートリーに取り入れる態度は健在だ。本作のリーフレットは、劇場が用意した当日のコンサート・プログラムの文章を転載するが、ザッパのことをあまり知らない人に向けた内容で、当時ファンの世代が交代しつつあったことをほのめかす。若いファンに向けてザッパは曲目やバンドの色合いを変える必要を思っていた。それがアルバム『シーク・ヤブーティ』を生んだと言って過言ではないが、本作は半年前のバンドの路線を引き継ぎつつ、ヴォーカル曲の間奏としてのギター・ソロを自由自在に操ろうという努力が垣間見える。さて、いつものようにステージ丸ごとシリーズの発表具合を下に記しておく。
1、 70年4、5月
2、 70年6月から71年2月
3、 71年5月から12月(『CARNEGIE HALL』)
4、 72年9月
5、 72年10月から12月(『ZAPPA\WAZOO』)
6、 73年1月から12月
7、 73年12月から74年7月
8、 74年9月から75年3月
9、 75年4、5月
10、75年9月から76年3月(『FZ:OZ』)
11、76年10月から77年3月(『PHILLY ‘76』)
12、 77年10月から78年4月(『HAMMAERSMITH ODEON』)
13、 78年8月から79年7月(『CHICAGO ‘78』)
14、 80年2月から7月
15、 80年10月12月(『BAFFALO』)
16、 81年4月から12月
17、 82年5月から7月
18、 84年7月から12月
19、 88年1月から5月
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by uuuzen | 2016-11-21 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編)


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