●謎の女
うべきと言うべきか、筆者には謎の行為だ。事情を知っている人もいないかもしれない。一昨日は夕方に家内と梅津のスーパーに行った。自転車に乗って行こうというのを、筆者は運動不足なので歩くと主張し、家内もそうした。



いつものことだ。秋の彼岸頃は日が暮れるのもめっきり早く、自転車は危険だ。ムーギョに着いたのは6時頃だ。それから斜め向かえのトモイチに立ち寄り、帰りは家内だけがいつも松尾橋バス停前のスーパーにも立ち寄る。筆者に先に帰れと言うが、これまでそうしたのは一、二度で、ほとんどはバス停の小屋の椅子に座って待つ。15分ほどすると、家内がバス停前を通り過ぎる。その後を数メートルほど離れて追うのだが、最近は筆者がその中で待っていることを知っているので、後ろからついて行って驚かせることは出来ない。それで1週間ほど前は別の場所を見つけ、そこで立って待つ。雨が降っても大丈夫だ。家内がやって来るのは50メートルほど先でわかるが、家内は筆者に気づかない。気づかれないところで待たないと意味がない。その新たな隠れ場所はまだ家内には言っていない。21日はそこで待つのは二度目であった。15分ほど待っていると家内の姿が暗がりの中で小さく見えた。そして、バス停の小屋の中を覗いたのも見えた。多少はがっかりしているのだろう。リュックサックと両手に荷物を持ち、傘まで差している。そして早足だ。筆者が待っていないことを知ると、一刻も早く家に帰ろうという気になるのだ。筆者は家内の後ろ姿が見えた途端、こっそり後をつける。10メートルは離れないが、5メートル以上ではあるか。あまり近づくと悟られるし、遠のくと後をつけている気にならない。完全なストーカーだが、家内が暗い夜道をひとりで帰るのを筆者は後方で見守りながらついて行く。すぐに松尾橋東詰めの信号があり、そこが青になってしばらく経っていた。筆者なら絶対に次の青を待つが、家内は絶対にそれをわたる。予想どおり、家内は走った。その後を筆者は追う。赤に変わってもわたり切れなかったが、家内は後ろを振り返らなかった。傘を差し、小雨も降っているので、筆者の足音が聞こえないのだろう。これが晴れた日なら気配でわかる。5メートル少々の距離を保ちながら橋をわたり、物集女街道を北上し、点滅信号を斜めに小川沿いの道に入っても家内は気づかない。そのうち、松尾橋で下車した通勤人が早足で筆者を追い越した。その際の騒がしい足音で筆者の気配は隠れ、相変わらず家内は気づかない。だが、誰も歩いていないさびしい道ではいくら足音を小さくしても、気配は発散する。前方の家内は後ろから誰かがやって来るのを感じたらしく、少し動きが固くなったようだ。そのように恐がらせるのはよくない。それで歩く速度を増し、家内の左手を黙って追い越した。家内はようやく気づき、歩く速度が急に落ちた。早く家に帰る必要がないことよりも、待っていないと思っていた筆者が急に現われたからだ。そしてふたり並んで残りの道を歩いたが、筆者が最初に話題にしたことは、謎の女についてだ。
 1か月ほど前、午後6時半にムーギョの前の信号を待っている時、家内に近づく女性があった。「あの、トモイチで買い物はされますか」「え? はい」「これ使ってください」。そのようにして家内は500円の商品券を1枚もらった。以前に何度か書いたことがあるが、筆者はその女性から二、三度同じように500円の商品券をもらったことがある。家内と一緒にいる時にも確か一度もらったことがあって、その時筆者はその女性に質問した。「以前もいただいたことがありますが、何か新興宗教の行為ですか?」。女性の表情はこわばった。「違います」。それ以上は訊かなかったが、受け取りを断ると、すぐにそばの別人に訊く。つまり、人を選んでいないようだ。だが、そうでもないかもしれない。梅津には金持ちそうな人は稀だが、それでも比較的貧しく見える人とそうでない人の差は誰にでもわかる。筆者らが何度もその女性から商品券を手わたされることは、おそらく貧しい部類に見えてのことだろう。時刻は午後6時半頃が多いが、何年か前は松尾橋南の土手で真昼間にもらったことがある。その時彼女は嬉々としながら土手をさらに南下し、筆者が見ていた場所より100メートルほど向こうで、また出会った別の男性に商品券を手わたしているのが見えた。誰かからもらった商品券があまっているので人に配っているのかと思ったが、どうもそうでもなさそうだ。これも以前に書いたが、松尾橋のバス停近くで、向こうから赤い自転車に乗ってやって来るその女性を見かけた。筆者は早足で追いかけた。すぐに見失ったが、ほとんど歩いたことのない道を早足で歩いていると、従姉の家から100メートルほど離れたところにそれらしき自転車を見つけた、玄関前に停めてあったのだ。その家の住民かどうかわからないが、その付近であるのは確かで、またその地域はどれも似た木造の小さな家ばかりで、金持ちが住むようなところではない。その女性が金持ちかどうかは服装や表情からわかる。顔はとても小さく、浅黒い肌で、物静かで知的な表情だ。インド人に見えるが、その血が混じっているかどうかはわからない。髪をきっちりとまとめて後ろで束ね、また白髪があるので、たぶん50歳くらいだろう。かなり痩せて足は棒のように細く、神経質そうだ。
 一昨日はトモイチで家内がレジに並んでいる間にその女性の姿を店内で見た。タバコ販売のコーナーで、そこでは商品券も売っている。筆者は彼女の前に回り、物陰から観察した。笑顔の彼女は横長の大きな財布から1万円札を出したようで、千円札のお釣りを5枚ほど受け取っている。店員は商品券をまず手わたし、次にそれを入れる包み紙を10枚ほど数えてわたした。彼女は終始笑顔で、慣れた手つきで、商品券とその包み紙を財布に入れた。ピチピチのジーンズズに上は黒っぽいシャツで、オレンジ色の短いコートを手に持っていた。ちょうど家内が商品を袋詰めし終わったので、筆者らは出入り口に向かおうとしたが、外に彼女が立っているのが見えたので、筆者は両手に買い物袋をぶら下げて、ひとりでそこに向かった。雨が降っていたが、彼女は傘を持って来ていない。それでしばらく雨宿りするような気配だ。すぐ隣りに60歳くらいの下着のシャツ姿の大きな男がいて、彼女が話しかけているのが店内から見えた。筆者は外に出て、そのふたりから5メートルというところに立った。男はたばこを吸いながら何か言ったようだ。すると、彼女は500円玉を1個その男に手わたした。おそらくこうだろう。「あの、トモイチで買い物をされますか。商品券をもらっていただけますか」「俺は現金の方がいいな」「では、これを」。彼女は小雨の中を、オレンジ色の薄い半コートを頭からかぶり、車がたくさん停まっている暗闇にゆっくりと歩き出し、すぐに姿が見えなくなった。たぶん、トモイチ前の信号近くで、また誰かを待ち、商品券を配るのだろう。時刻は6時半過ぎだ。いつもその時間帯のようで、彼女の日課になっているのではないか。10枚の商品券は1日で配り終えるだろう。となると、毎月どれほどの出費になるのか。彼女はなぜそんなことをするのか。少しでも人の助けになることが喜びなのか。そのように思う人は珍しくないが、買った商品券をその尻から人に手わたすのは、趣味としてもかなり高くつく。一種の信仰心がなくては出来ない行為だろう。筆者らはこれまで5,6回は彼女からもらっているから、同じように複数回もらっている人は少なくないと思う。そして、そういう人たちはどのように不思議がっているだろう。500円ではたいした物は買えないとしても、彼女にすれば何人にも手わたすので、これまでの出費で豪勢な海外旅行でも出来るくらいだろう。裕福には決して見えず、また陽気でもなさそうな彼女が、唯一人と話すのが、商品券を手わたす時であるとすれば、ほんの一瞬でも孤独から逃れることが目的となるが、彼女のような行為をする人は聞いたことがない。前に書いたことがある。今度彼女から商品券を手わたされそうになった時、彼女を喫茶店にでも誘って事情を訊くと。だが、筆者がそうしても、彼女は拒否するだろう。彼女は精神を病んでいるのか、あるいは全然そうではなく、純粋に他者の助けになりたいのか。
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by uuuzen | 2016-09-23 23:59 | ●新・嵐山だより


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