●『THE CRUX OF THE BISCUIT』その4
ぜアポストロフィという題名になったかの正しい理由はわからないが、その題名の曲がアルバムにもつけられたことは、その曲がアルバムでは最もお気に入りであったと考えていいかもしれない。



だがザッパは同曲をスタジオ録音ヴァージョンしか発表せず、ライヴでもほとんど演奏しなかった。代わりに『アポストロフィ』で最も名を馳せ、また後年もステージで演奏し続けられたのは、LPで言えばA面の黄色い雪の組曲だ。これはアメリカのDJがたまたま面白がってラジオで流したので、一気に人気が広がり、ザッパはすかさずシングル盤を発売し、やがてアルバムはゴールド・ディスクを獲得するが、その盤の写真が本作のブックレットには載っている。それに、まだブックレットを全部読んでいないが、ワーナー・ブラザーズの当時の社長のモー・オースティンがザッパに対して出した感謝と祝福の手紙の写真も掲載される。その日付を見ると、1976年4月9日で、これはアルバム発売から丸2年経っているが、手紙には「long overdue」とあって、ワーナーからすれば少しずつ売れてようやくゴールド・ディスクという気分なのだろう。この年にザッパはワーナーと仲違いするが、その前にマネージャーのハーブ・コーエンがザッパの利益をかすめ取っていたことにザッパは激怒し、まず75年にはハーブはジョージ・デュークのマネージャーとなってザッパと縁が切れる。一方、ワーナーはザッパが書いた歌詞に難色を示し、それを削ってアルバムを出すことを強い、結局そうなるが、その元になったライヴは76年末だ。つまり、初めてゴールド・ディスクを獲得したはいいが、その後のザッパは災難が続く。過去にもしもはないが、ワーナーとザッパがそのまま契約を続けていれば、ザッパの80年代以降の仕事はどうなったであろう。そんな想像を何度かしたことがある。もっと多彩になったか、あるいは逆に狭められたかだが、ワーナーにすればゴールド・ディスクを連発してくれる才能を歓迎するのは当然で、ザッパはそのストレスに晒され続けたに違いない。ザッパは『アポストロフィ』以降、ゴールド・ディスクを獲得することはなくなるが、そもそも『アポストロフィ』はDJが面白がってラジオでA面を流したことによるから、ザッパが獲得したいと意気込んで作ったものではない。確かに大ヒットすることは願いでもあるが、願って得られる大ヒットではない。そのため、ゴールド・ディスクの獲得についてザッパは諦めていたであろうが、その代わりに熱心なファンが増加していることは感じていたはずで、そうしたファンを大事にする方向に進んだ。ただし、迎合するのではなく、常に自分がやりたいことを優先し、またそういう姿勢がファンには眩しく映った。それはザッパが正直であったからだ。好きでもないことをすることに魂を売らなかったと言ってもよいが、そんなことをするとファンは逃げて行くことをよくわかっていたからだ。先日も書いたが、徳には必ず隣りがあり、ザッパは真剣かつ懸命にやれば、必ずそれを理解するファンがいることを信じていたはずだ。
 それはともかく、『アポストロフィ』は歌詞が多いアルバムだが、同名曲はギター曲で、そこが面白い。どう面白いかと言えば、ザッパのギターに対する重視性がわかるからだ。数年後にはギター・アルバムを出すことになるが、それに至るまでの三段跳びで言えば、最初の跳躍は同じくギター・ソロ曲をアルバム・タイトルにした『チュンガの復讐』としてよいだろう。その次が『アポストロフィ』ではないか。そして、三段目のジャンプは当然最初のギター・アルバムとなるが、その題名曲は元は「インカ・ロード」のソロであり、三段目のジャンプの直前の踏み切りは、『アポストロフィ』に続く74年の後半に実行された。そう考えると、ザッパの音楽は一方で歌詞つきの曲を盛んに書きながら、他方では黙ってギターの練習に勤しんでいたことになって、文字どおり休みなしの活動であった。『アポストロフィ』は歌詞つきの曲が多いので、それらからザッパの思考の跡をたどることが出来るし、またすべきだが、アルバム・タイトル曲がギター曲であるからには、ギター・ソロの展開という観点が同じくらい重要だろう。ザッパはクリームの活躍をどう思っていたかは、たぶんインタヴューにはあるだろう。それをアレックスが発掘してドキュメンタリーに使うかもしれないが、エリック・クラプトンとザッパはアメリカで67年に面識があり、ふたりで交代でソロを取る演奏も録音している。それは発表されなかったが、その演奏経験はクリームの活動とそのあまりに早い解散を横目で見ながら、ザッパは自分ならどのようにギター・ソロを演奏するかを考えることに役立ったであろう。ザッパはクリームのようにブルースのソロを繰り広げるのではなく、それを基調としながらも、もっとジャズに根差したものを考えたはずで、それにはクラプトンよりも、バッハなどのクラシックにも造詣のあるベーシストのジャック・ブルースとの共演の機会を願ったと思える。クリームが解散していたこともあって、その機会はニューヨークで72年11月に訪れたが、当時のザッパはジャズづいていたので、その流れの中でのジャックとの共演は時機にかなったものであった。ジャックの強烈な個性は「アポストロフィ」には如実に表われていて、この曲の印象深いところはジャックののた打ち回るベースの音形で、そういう仕上がりはザッパの望むところであったろう。ザッパはゲストに招く大物ミュージシャンと共演する場合、必ずその相手を引き立てた。そのことは「アポストロフィ」にもよく表われている。これはせっかく自分と一緒に演奏してくれるからにはといったへりくだりの思いと言ってよいが、相手の才能が充分に発揮出来ることを喜び、またそこに自分の演奏を加える一種の光栄の思いだろう。またザッパはそういう謙虚さをひけらかすのではなく、自然にそう行動したことは、録音から伝わる。だが、そういう扱いを受けるミュージシャンは、ザッパに金で雇われたのではないから、自己主張が強くなるのは当然として、そういう関係はやはり一回限りのものだ。またそうであるからこそ、お互い火花を散らし合う。その意味で、「アポストロフィ」はよくぞこういう演奏が出来たという印象深いものになっているが、その裏にどういう経緯があったかが、本作によってようやく判明した。
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 まず、当初は「エナジー・フロンティア」(活力の新分野)と題されたが、ややこしいことに、本作に収録される同曲のテイク4は、「ダウン・イン・ザ・デュー」(夜露に倒れて)だ。この曲の題名は昨日書いたように、「アンクル・リーマス」の最後の歌詞で、本作でも「アンクル・リーマス」の次に収録されている。また本作の最初の4曲は『アポストロフィ』の最初の編集盤のA面に相当し、「アンクル・リーマス」の後はギター曲がつながっていた。これはザッパの脳裏にオペラ的な思いがあったのだろうが、その思いは発売された『アポストロフィ』A面の「黄色の雪」組曲で果たされる。それはともかく、「ダウン・イン・ザ・デュー」はかなり重要な曲ということになるが、これは長らく未発表で、正式に発売されたのは、87年のカセット『ザ・ギター・ワールド・アコーディング・トゥ・フランク・ザッパ』で、その後『レザー』でもお目見えするが、いずれにしてもかなり短いヴァージョンだ。本作では「ダウン・イン・ザ・デュー」の次に「アポストロフィ」が位置し、これら2曲がジャック・ブルースらと一緒にスタジオで演奏した曲となっているが、ザッパはどちらか片方しか『アポストロフィ』に収めることが出来ないことを知り、そして後者を活かし、前者をお蔵入りさせた。それは正しい選択であったと思う。ギター曲の分量が多ければ、アルバムの売れ行きに響いたであろう。本作では「アポストロフィ」は2曲入っていて、最初のヴァージョンは『アポストロフィ』に収録されることになるロング・ヴァージョンで、もう1曲は「エナジー・フロンティア」と題され、当初は「ダウン・イン・ザ・デュー」と一連になっていたか、一連にしようという思いがあったと考えられる。ただし、「ブリッジ」と副題らしきものがついていて、おそらく「ダウン・イン・ザ・デュー」から「アポストロフィ」にバトン・タッチし、それからさらに他の曲につなぐ思いがあったかもしれない。それはともかく、ジャック・ブルースを招いての演奏として、当初は「エナジー・フロンティア」と題して2曲を用意していた。その前者が「ダウン・イン・ザ・デュー」、後者が「アポストロフィ」と正式の名前がつけられたが、前者は「アンクル・リーマス」との歌詞のつながりもあって、早々と題名が決まったが、後者は『アポストロフィ』発売までの1年半ほどの間に決めたもので、ザッパはとにかくこねくり返すことが大好きであったことがわかる。『アポストロフィ』はジャケット裏面に録音に参加したメンバーの名前がとてもたくさん列挙されるが、それほどにこねくり返した、つまり練りに練った音で、それは言いかえればエッセンスのみを抽出した、つまりアポストロフィの概念で作ったものだ。それゆえゴールド・ディスクを得たと言えば、そうとばかりは言えない。本作によってザッパがいかに『アポストロフィ』を作ったかの一端がわかるが、実際一端であって、本当はもっと複雑な過程を経ている。それがあまりにも込み入り過ぎて、ザッパ自身もわからないほどだろう。ザッパの音楽世界は広大であると同時に、密林状態で、迷い込めば抜け出せない。
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by uuuzen | 2016-07-24 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編)


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