●『THE CRUX OF THE BISCUIT』その1
本があるのかないのか、神様はそれを持っているが、人間にはわからないだけだろうか。あるいは神も人間の生涯がどうなるかの台本など面倒くさくて持っていないのかどうかだが、そんなことを考えても人間にはわかりようがない。



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人間と犬が別々の世界を生きているのと同じだ。それはともかく、人間はいつどのように死ぬかわからないので、なるべく先を見通すために自分の台本を作る。たいていはそのとおりには行かないが、それも部分的に台本どおりに事が運ぶと、自分が運命を司る神になったかのような気分を味わうことが出来る。たぶん、ザッパはそういうタイプであった。だが、癌になって50少々で死ぬことは想定外であったろう。だが、若い頃は夢を持ち、仕事の優先順位を決め、つまり行動の台本を書いてひとつずつこなして行ったと思える。その軌跡がアルバムや世界各地を回るツアーとなったが、後者は前者のためにあって、アルバムのための素材作りの側面がかなり大きかった。そのため、ザッパの作品を知るにはアルバムを聴くのが一番で、そのほかは参考書みたいなものだ。また、アルバムはたとえば年に2作とすると、それは間隔をもって並ぶ杭のような存在で、杭と杭の間は隙間となっている。その隙間にもザッパは生きていたし、また録音もしていたが、正式なアルバムだけからはその隙間の様子はわからない。杭を全部知れば、その杭がどういう土壌に突き刺さっているのか、また杭と杭の間にザッパが悔いとして発表し損ねた音がないかなど、いろいろと気になって来る。つまり、ザッパのアルバム群は、省略の産物で、省かれた仕事があることは誰でも知っているし、またファンであればその省かれたものを可能な限り知りたいと思っている。その渇望を埋めるように、ザッパは最晩年から発表しなかった録音テープを発掘し、アルバム化を進めた。それはザッパの死で途絶えたが、遺族は意志を継ぐ形で、またファンの望みをかなえる形で、一方では家族の収入を確保するために、ザッパの生前と同じようにアルバム作りが行なわれ続けて来ている。それが、妻のゲイルが亡くなる少し前、家族はユニヴァーサル・ミュージックと契約し、ザッパ生前のアルバムの発売権を売った。またそれに伴って、これまで家族が通販して来た没後のアルバムもぽつぽつとユニヴァーサルが発売し始め、今後の見通しとしては、没後の家族によるアルバムもすべてユニヴァーサルが常時入手出来るようにするかもしれない。一方、ユニヴァーサルの日本社は当初はザッパのアルバムの紙ジャケット・シリーズを出す予定にあったのが、ゲイルとの交渉がうまく行かず、話は没になった。そして、紙ジャケどころか、アメリカで発売されるものに対訳と日本語の解説をつけた日本盤も出さないままとなった。だが、今はネットに情報が溢れ、詳しく知りたければいくらでもそれが可能となり、もはや日本盤の解説は不要になったと同然だ。ただし、筆者のように40数年ザッパを聴き続けて来た者とは違って、いつの時代でも新たな世代のファンが生まれて来るから、古いファンが当然のこととして知っていることでも知らない場合がある。そのため、本当の初心者向けの解説をつけた日本盤があってよいという意見があろうが、それが商売になるかどうかは別問題で、たぶん無理だろう。それに、本当の初心者という表現もおかしなもので、ザッパを聴く以前にどういう音楽をどれほど聴いて来たかで、初心者の質は大きな違いがある。そのことを別にしても、まずは繰り返し音楽に謙虚に耳を傾けることが大切で、その態度からは初心者の状態をかなり脱することが出来るはずだ。解説書というのはその後に必要となるもので、充分聴き込んだことをある程度は前提にしている。にもかかわらず、解説が難解であり、また的外れと言う輩がいるようだが、自分で謙虚に繰り返し聴く態度のない連中にザッパの音楽は初めかから理解出来るはずがない。
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 さて、予定より早くザッパの新譜が2枚昨日届いた。また、当初の価格より200円ほど安くなったが、2枚組CDと思えば妥当な価格だろう。だが、これまではザッパ家から通販で1か月程度遅れて買うしかなかったのに、アマゾンで送料無料で買えるようになったのはユニヴァーサルと契約したからで、大手レコード会社の配給システムはやはり物を言う。アマゾン・ルートに乗ったことで、今後もアメリカの発売日とさして変わらない日に日本でも手に入るようになった。この点はゲイルが計画したことで、ファンにとっては歓迎すべきことだが、そのことでザッパ家の儲けがどうなるかはわからない。通販で売るより利益が少ないかもしれないが、たくさん枚数が売れるであろうから、結局は利益は増大するのではないか。ドゥイージルはやや否定的で、ザッパ・ファミリーは会社としてとんでもない状態になっていることを語っているが、ま、そんなことはファンにはとりあえずはどうでもよく、無事に新譜が定期的に発売され続けることを期待するのみだ。今日から3日ほどにわたって取り上げるアルバムは、40周年記念のオーディオ・ドキュメンタリーのシリーズで、3年ほど前に発売が計画されていた。元の『アポストロフィ』の発売が1973年であるので、それから40周年となれば2013年で、つまりは3年前だ。だが、なぜか同年は発売されなかった。2012年以降のアルバムは、目立って重要なものは少なく、間に合わせで出した感が強いものが混じる。たとえば『ベイビー・スネイクス』のサウンドトラックの完全盤だ。これはディスク化されず、ダウンロード・オンリーとなったが、そういうものまでアルバム番号を振るのは反則という気がする。そこで、その完全盤の代わりに本作を出せなかったものかと思う。どういう理由で3年も遅れたかだが、選曲に手間取ったということはないだろう。アルバムとして音源を揃えてマスタリングを終えたのは2014年で、いずれにしてもゲイルの生前に出せたはずが今頃になった。こうなると、ゲイルが生きている間にアルバムとして音源をまとめた作品はまだまだありそうだ。それはさておき、オーディオ・ドキュメンタリーのシリーズは本作で4枚目で、また初めてのCD1枚だ。また、このシリーズはアルバム順かと思っていたが、そうではないのだろう。あるいは、間が空いた年度のアルバムは、ほかの名前ですでにアルバムを作って来たので、このシリーズとして発売する音の素材に乏しいのだろう。たとえば1971年のフロ・アンド・エディの在籍時だが、同年のライヴ音源はこれまでいくつもアルバムが作られて来たので、わざわざオーディオ・ドキュメンタリーと称してのアルバム化は必要ないだろう。また、このシリーズは、名前がいみじくも示すように、ドキュメンタリーであって、あまりアルバムとしての完成度を期待するものではない。正式なアルバムに至るまでの試行錯誤の跡を網羅した内容で、「ああ、こういうことだったのか」と、一度納得するとそれで役目をほとんど果たす内容と思った方がよい。そのため、ドキュメンタリーという呼称はファンに対してきわめて正直で、また今回のように安く買えることにも納得が行く。だが、こう書けば、わざわざ買う必要はないかと思われそうで、ザッパ家のやることを妨害している気にもなるが、当然本作でしか聴くことの出来ない、また秀逸な、待ちに待ったと言えばいいか、あるいはこんな録音があったとはきわめて意外という曲が含まれ、いつものことながら筆者はこの年齢まで生きて来てよかったと思う。1973年に聴いて43年ぶりにようやくわかったことがあるというのは、それだけでも人生はスリルに満ちているではないか。ただし、そういう感動は若いザッパ・ファンにはわからない。長年ファンである者への褒美と言うべきで、本作全体を筆者は星印が5つとは評価しないが、5つ星の曲を含むので、その曲だけのために本作を死ぬまで手放さない。さて、本作には長文を収めるブックレットがついていて、その文章はロンドンのサイモンさんのものだ。筆者は目下激烈に多忙なので、それをじっくり読む時間がない。1ページ目を斜め読みしたが、1993年にサイモンさんと話した時そのままの書き出しだ。つまり、モンキーズのマイク・ネスミスがザッパに変装したことをサイモンさんは話題にしたのだが、そのマイク・ネスミスのことが冒頭に書かれている。サイモンさんはゲイルと親しく、『レザー』の解説も担当したが、本作についても依頼されたのだろう。サイモンさんの文章の題名は昔の有名なTVドラマ「ミッション・インポシブル」に引っかけて「オミッション・インポシブル」としているが、これは「不可能な省略」で、アルバムの題名の『アポストロフィ』が省略形の(‘)を意味することに引っかけ、ザッパの音楽世界は省略が不可能であることを言っているのであろう。それは一方で何を意味するかと言えば、ザッパの音楽世界は驚くほど広大で深く、また難解で変態ということだ。そのため、解説もそれに応じるのは当然で、サイモンさんの本作の解説も長文になっている。繰り返すが、それをザッパの音楽をいつまで経っても難解で変態と思わせる行為だとのたまう輩は、もともとザッパを著しく誤解、あるいは最初から理解出来ないのであって、ま、無理してザッパを聴こうとしなくてもよい。世の中にはいくらでも聴き手の知能に応じた音楽があるではないか。
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by uuuzen | 2016-07-21 22:59 | ●新・嵐山だより(特別編)


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