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●『風の息子』
全20回のドラマで、京都TV(KBS京都)で7月15日から11月25日まで毎週金曜日に見た。



じっくり腰を据えてではなく、片目はTV、片目はパソコンをにらんでホームページ作りをしながらであったので、途中でわけがわからなくなる部分もあった。だが、それはドラマの込み入った筋書きにも多少理由はある。主題曲が、かつての『日曜洋画劇場』で、それが終わった後に流れていたような雄大でドラマティックなものであるため、いかにも大作風な印象を与えるが、実際このドラマは複雑に絡む人間を描く大河ドラマと言ってよい。しかし、恋愛を中心にしたものではない。美人女優が登場して男が取り合うという設定にはなっているが、それがドラマの見所にはなっておらず、むしろ添え物だ。そのため、『冬のソナタ』のようなドラマが好きと思う人にはあまり歓迎されない。暴力シーンが初回からいきなり出て来るし、主演のイ・ビョンホンが何度も暴力団と格闘する場面がある。男の権力欲を中心にしているため、面白く見るのは男性のみと思える。だが、日本の男性が今ひとつ入り込みにくい点がある。それは韓国の現代史にあまり関心がないと、ドラマの作られた意義が把握しにくいからだ。前に韓国映画『リメンバー・ミー(同感)』のブログでも書いたが、特に1970年代半ば以降からの韓国の事情を知る必要がある。このドラマは1995年の制作だが、描かれる時代は主に1976から1980年10月までだ。朴正熈大統領政権下から80年5月の光州事件を経て、81年初めに戒厳令が解除されるあたりまでに相当する。1980年10月には第5共和国憲法が国民投票で成立したが、ちょうどその時にこのドラマの最後のクライマックスを持って来て、今まで悪いことをして来た人物が死に、あるいは獄中に入り、代わって恨みを晴らした人物が政界に進むであろうというところでドラマは終わる。1980年春は朴正熈から全斗煥の政権に移ったが、このドラマが作られた時にはその全斗煥も裁かれて過去の人であったから、韓国の現代史はめまぐるしい。そうした韓国の政治と強く絡めながら、人間の愛憎を描いていると思えばよい。ただし、これは韓国でもミニ・ドラマとして位置づけられていて、全20話では消化不良となって、わかりにくい面も多々ある。話の内容が多過ぎて、描き切れていないのだ。そこは想像で補えばよいが、見ていて謎が生じ、それが解明されないまま話がどんどん勝手に進み、結局全部見終わっても謎はそのままという状態だ。今こうして書いていて、「あれは一体どういうことだったのだろう」と納得の行かない点かある。
 そのひとつはタイトルの『風の息子』だ。これはドラマの中ではついに一度も言及されなかった。何の象徴で、しかも誰を指すかがわからない。ただし、日本の放送は韓国ヴァージョンとは違うかもしれず、カットされた中に出ているかもしれない。それはそれとして、勝手にこのタイトルの意味を考えるとこうだ。まずドラマの主人公は3人の兄弟だ。3人は孤児院で育ったが、真ん中のサンは幼い頃に養父に引き取られて行く。兄ハスは成長して船乗りになるが、一番下の弟ホンピョの面倒を見られないので、群山の田舎で、ある夫婦に預けて育ててもらう。兄は自分の出生や父のことを大きくなってから独自で調べたらしく、それらの確認のためにあちこち出向くが、その過程で何者かにトラックで轢き殺される。そのためハスの出番は最初の方だけだ。このハスを演ずる役者はなかなか味がある。このドラマに登場する役者は粒揃いで、端役、脇役もとにかく全員が抜群にうまい。他の韓国ドラマでもこれは同じだが、今回は特にこの点を感じた。いかがわしい人物やチンピラ、ヤクザなど、それに刑事たちも含めて、みな役に成り切っており、リアル感は今まで筆者が見た韓国ドラマの中では最高であった。またこれは70年代後半の、まだ発展し切っていない韓国を表現するためにはぜひ必要であったはずの田舎の風景のために、群山でロケが行なわれたのであろうが、これもドラマの絵を特徴づけるのにとても効果があった。群山は『八月のクリスマス』でも登場した町だが、ソウルにはない独特の雰囲気があるようだ。『八月のクリスマス』のブログでも書いたが、一度訪れたいと思わせる雰囲気に満ちる。もちろん、このドラマを撮影するに当たっては、特に70年代の雰囲気を残す場所が入念に選ばれたはずで、それはカメラが人物をかなり下から撮影し、町並みがあまり広く入らないようにしていたところからもわかる。つまり、撮影に苦労しているのが何となくわかった。小道具で時代を感じさせようとするのは映画やドラマの常套手段だが、このドラマでもそれはふんだんにあった。たとえばポニーのタクシーが登場したり、ソファや電話器が古かったりと、画面から独特の懐かしさがよく浮かび上がっていた。これもトレンディ・ドラマとは違う見所のひとつと言ってよい。ついでに書くと、ドラマは1976年から始まるが、その時は当然まだ朴大統領政権であり、政治家の事務所の後ろの壁に額縁入りで掲げられる大統領の写真も当然朴正熈であった。それは背景のひとつとして小さく映るだけだが、とても重要な小道具だ。朴正熈政権下にはこういう連中が多くいたと思わせるような、つまり陰で悪いことを平然とする政治家や刑事、秘密警察、政治家とつながるヤクザといった連中が、ドラマ全体をぐいぐいと引っ張って行くが、最後の3回目あたりからは時代は1980年10月になり、政治家の選挙事務所の大統領写真もちゃんと全斗煥に変わっていた。あまり熱心にこのドラマを見なかった割りにはこうした細部はよく確認したつもりで、重要なポイントは押さえて見たと言える。全斗煥政権になった途端、今まで暗躍していた連中の雲行きが怪しくなり、ドラマは一気に悪が滅びて正義が勝つというように進展するが、もちろんそんな甘い現実はないから、たとえばヤクザの親分はまだ安泰のまま地元を支配するはずで、秘密警察の男も「もう時代が変わった」と言いながらも、そのまま仕事はなくならないことを匂わせていた。
 さて、話を戻すと、孤児院にいた三兄弟こそが「風の息子」と考えるしかないが、3人の末路はそれぞれ波瀾に富み、そのまま韓国事情のある面の象徴と思える。すなわち、「風の息子」とは韓国そのものなのだ。長男ハスは無残にも権力を目指す者によって殺され、次男サンはその権力を目指す者の父親に孤児院から引き取られて育ち、やがて権力を目指すその父の息子で義兄であるユスンと対決することになる。そこに三男のホンピョが絡むが、この部分はある程度は独立した別のドラマとして進み、湿っぽい進行の中で明るく楽しめる部分となっている。一方でサンとユスンの戦い、もう一方に、それとはさほど関係なく、無一文の状態から人生を必死に泳ごうとするホンピョの物語があるわけだ。サンとホンピョをやがて結ぶのはヤクザの存在で、ユスンが悪事をする時に使うヤクザがホンピョが仕事をする町の元締という設定によって、次第に話がつながって行く。このあたりは強引な印象を受けもするが、ドラマとしては仕方のない話だ。特に違和感があるというほどのことでもない。ヒロインはヨンファという女性で、彼女は群山では名士の娘という設定だが、妾の娘という訳ありだ。たまたま父の選挙活動中に、政敵の息子であるサンと知り合って恋に落ちる。だが、義兄ユスンはかつて大学時代にヨンファに恋心を寄せていたことがあり、その思いが再燃し、サンから彼女を奪うことに成功し、ドラマの終盤においてふたりは結婚する。その間、サンは兄ハスは事故死ではなく、誰かに殺されたことに勘づき、ひとりで時間をかけて調べ上げて行く。そして、すべてはユスンの仕業であったことを知る。ヨンファとの結婚を涙ながらに断念しながらも、ユスンに復讐を誓うサンだ。一方、サンは兄が殺された理由の奥に、自分の出生の秘密があることも知り、ついに自分を孤児院から引き取った義父は、かつて自分の父と無二の親友であったにもかかわらず、それを裏切って死刑台にのぼる運命に導いたことも悟る。義父はその後有力政治家となった時に、かつての親友に対する仕打ちへの懺悔の気持ちから、親友の3人の息子のうちのひとりを養子にしたのであった。だが、実の息子のユスンは若い頃の父親に似て、人を殺してでも政治的野心を遂げようとしている。それを見た父は失望し、一時政治から身を引くが、結局最後に、時効とはいえ、自分のすべての悪事をサンが知ったことを恥入り、自殺する。そしてユスンもサン殺しを指示したことがばれて獄中につながれる。ヨンファは身籠もっているので、ユスンはサンにその生まれて来る子どもの面倒を見てほしいと獄中から訴え、その言葉を受け取ったサンはヨンファのところへ行くが、ヨンファはサンを無視して自分の夫のいる刑務所に脇目もふらずに歩いて行くシーンでドラマは終わる。これは誰しも思うが、『第三の男』の有名な最後の場面の引用だ。ヨンファはなぜサンを拒否したかだが、サンもまた政治にやがてどっぷりまみれて悪事を働くかもしれないと思っているからかもしれない。きっとそうだろう。ヨンファの父も政治に参加することを夢見て、結局文なしになってしまった。どういう理由であれ、恋よりも政治権力を目指したサンに、ヨンファはノーをつきつけたということだ。ここには政治は汚いと見る脚本家の思いがある。
 配役のことを書いておくと、サンはシン・ヒョンジュンが演じている。このドラマの主役と言ってよい。ホンピョはイ・ビョンホンで、無学な、そして腕っぷしの強い若者をよく演じている。ビョンホンの最も似合う役どころだ。ヨンファはキム・ヒソンで、これは時代を考えてのことだろうが、口紅が濃く、ほとんど笑わないので、とても10代であったとは思えない。堂々と演じていて、すでに女優としての貫祿は充分だ。ヨンファのほかにホンピョが相手にするふたりの若い女が登場する。ひとりは売春宿にいた女で、いろいろあったあげく、最後はまたヤクザの親分に棄てられて自殺する。もうひとりは少し精神薄弱のところのある役として登場する。ホンピョは彼女を妊娠させてしまい、仕方なく結婚、最後は兄ハスが言っていたように、アルゼンチンに妻と幼い子どもと一緒に移住する。後者の女性は『ラストダンスは私と一緒に』にも登場したが、この『風の息子』ではまだ若かったせいか、なかなか顔立ちもスタイルもよく、印象に強い。また、前者も売春婦という役柄のせいもあるが、かなり色っぽくて、ドラマに華やかな彩りを強く添えていた。ヨンファの母親は『愛の群像』に、サンの義母は『真実』に登場した女優で、どちらも好演であった。脇役として重要であったのは、ホンピョの友だちや、ヤクザの親分のボディ・ガード役のイ部長だ。こういう俳優がいることによって韓国ドラマが支えられている。ホンピョの友だちはとても頼りない、いい加減なところのある人物という設定だが、格好いい役よりもむしろそういう役をもっともらしく演ずる方がはるかに難しい。それを言えば、ヤクザの親分もそうだ。とてもいやしくて憎らし気な表情を絶やさなかったが、そんな悪役の演技があってこそ、主役たちの正義も引き立つ。そのついでに言えば、ドラマの最初の方にのみ登場する、群山の名士もそうだ。選挙に勝ちたいと思っているヨンファの父に近寄って、財産やヨンファをものにしようと画策するのだが、結局裏切ってヨンファの父を大損させる。このようなとんでもない人物がドラマの最初にいきなり登場するから、女性にはどぎつ過ぎるであろう。だが、逆に見れば、日本で人気のある他の韓国ドラマとは違って、そこが見所でもある。
 話があっちこっちしているが、前述したように、ホンピョも「風の息子」のひとりとして見た場合、これは何を意味するか。アルゼンチン移住する韓国人が多く、それを反映しての筋書きなのであろうが、これはある意味では棄国行為でもあり、軍政権で民主化がなかなか完全にはならないことに失望した韓国国民が別天地で一旗あげることに、民族の将来を託していると見ることも出来る。つまり、風のように漂って外国に行って住んだとしても、それは民族としては正しい行為ということだ。かなり穿った見方かもしれないが、そのように考えないと、ドラマのタイトルの意味がわからない。兄弟3人の人生はそれぞれ韓国がそれまで払った歴史の象徴と見たい。だが、このドラマのややこしい、あるいは奥行きのあるところは、その兄弟の父親の物語が背後にあって、それが兄弟の人生を決定づけている点だ。ここに、韓国人が今の自分たちを考えるうえで過去の歴史を無視出来ないという思いが濃厚に表われているし、どちらかと言えば、そういうことの苦手な日本からすれば、拒否反応を示したくなる筋立てかもしれない。それで、最初に書いたように、どうもわかりにくいのは、この父親たちの若い頃の話が詳しく説明されず、かなりの部分を推察するしかないためだ。それは、ヨンファの母がサンと出会った時、はっと驚くのだが、サンの実父のことをヨンファの母が知っていて、ヨンファの母はサンの実父、義父、そして自分を妾としている夫という3人の男の中で、若い頃に何らかの恋の渦中にいた事実を、見る者に悟らせるといったことだ。このあたりのことは解明されないままドラマは終わるが、話を少々ややこしく関連づけ過ぎのように思えた。親世代の恋愛が子どもの人生に大きく関わるという設定は、『冬のソナタ』に影響を与えているだろうが、血のつながりゆえの因縁話は韓国人の好みと言ってよい。全20話では描き切れていない面があって、もう4回ほど増やして、父親たちが若かった頃の事情を丁寧に説明してもよかった。サンは実父のことを知る30年も服役中の人物に会うシーンがある。彼はサンの実父が共産主義者ではなかったが、死刑になったのは時代のせいで、政敵がいたからと明かす。その後、サンは実父が獄中で血で書いた日記を別の人物から入手する。その人物は「わたしが会った時はアカだったが、その後は知らない…」と言うが、こういうセリフは案外重要だ。韓国にとって共産主義者は認めることの出来ないもので、死刑になったのはそのためかどうかという点をドラマを見る者にどう説明するかを考えた時、それはこのドラマの終盤でただ1回のみ登場するこうしたふたりの人物に語らせることで、ややぼかして伝えざるを得ないだろう。そこに今なお朝鮮半島が分断されたままという現実が改めて浮き彫りになり、このドラマで描かれていることがなお途上にあることがわかる。今も韓国は風のように動いている。
by uuuzen | 2005-12-02 23:58 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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