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●山田洋次ミュージアム
学生は楽しくない施設と思うが、児童と生徒は入館料が大人500円に対して300円する。子どもは無料でもいいと思うが、そうでなくても赤字経営ではないかと心配させられるほどの客の入りで、こういう施設は運営が難しいのではないかと思う。



●山田洋次ミュージアム_d0053294_1265992.jpg

似た施設とは言わないが、江戸時代の家並みをビル内に再現している大阪の天六の『大阪くらしの今昔館』はここ2,3年は中国人などの外国人観光客に人気だ。館内で女性はキモノを着用出来るサービスがあったり、また繁華な商店街の中にあったりするので、訪れやすい。柴又はその点、浅草からも遠く、都内の端っこであるので、ついでに行きにくい。そう考えるのが間違いかもしれない。寅さん記念館の最後近い展示は、国鉄の小さな駅舎や鈍行車両の内部を再現していたが、「ゆっくり」というのが寅さんや山田洋次監督の考えだ。せっかちな人は展示をざっと眺めて帰ることになるが、時間がたっぷりある人は映像モニターがたくさんあるので、それらを順に全部見れば丸1日かかるだろう。せっかく電車に乗って柴又まで行くからには、1日を費やすつもりになった方がいいが、そういうことの出来る人は定年を迎えてあまりすることがないのが普通だろう。小中学生となるとなおさらで、大人が見るよりもっと早く、館内を走り回って10分程度で出て行くかもしれない。昭和の建物や雰囲気が懐かしくてよいと思う人ばかりとは限らず、ただ古臭くて地味で汚らしいと考える人も多いだろう。筆者が小学生低学年の頃は、まだ大阪市内では糞尿を汲み取るトラックが走っていたが、トラックの荷台の後方に地面から斜めに架けた板の上を、ほとんど下着姿の長身のおじさんが各家庭の便所から汲み取った糞尿を、天秤棒の両端の木桶にたっぷりと入れた状態でゆさゆさと上り、トラックの荷台にドバッとぶち撒けていた光景をよく覚えている。それが昭和30年代の日本の光景で、ウォシュレットが普及した現在からはとても想像しにくい。トラックいっぱいの糞尿は近郊の畑に持って行かれ、それで肥料になっていたはずだが、その頃の野菜が今とは比べものにならないほどおいしかったと聞いても、今の若い人は食べたくないだろう。日本はきわめて衛生的に国になって、汚物を目にする機会が激減したが、それで人間の内面まで清潔になったかと言えば、表がきれいになった分、内部が悪化したとも言えるかもしれない。心の汚れを洗い流すウォシュレットを発明すべきだが、そういう発想もない。山田洋次ミュージアムの展示のテーマ3は「高度成長期、発展の陰で失われてしまったモノ。過去を舞台に、日本人が大切にすべきモノとは。」というえらく道徳臭のする題名がリーフレットに印刷されているが、これは小中学生がぜひとも訪れて考えてみるべきことと言える。あるいはその子の親たちがだ。
●山田洋次ミュージアム_d0053294_1271357.jpg 寅さん記念館は1階で、山田洋次ミュージアムは2階だが、同じ建物ではなく、道を隔てて南北に隣り合っている。山田洋次ミュージアムの出入り口から北を眺めると、右手つまり東側に江戸川の堤からつながっている歩道橋のような専用の道が見え、堤上から寅さん記念館まで行くことが出来るようだ。また、双方の建物は2階部分でつながっていて、山田洋次ミュージアムからは道の上のタイル敷きの通路が見えていた。そこに踏み込むことが出来るのかどうかわからず、階段を利用したが、道を挟んで南北にふたつの建物があるのは寅さんとその映画を作った監督ということでちょうどいい。また山田洋次ミュージアムの面積は寅さん記念館の半分もないと思うが、今日の写真からわかるように、大きな部屋がひとつあるだけで、展示はせせこましい。それでも現役の監督の業績を紹介するこうした施設は世界でも珍しいのではないか。日本の映画監督と言えば、山田洋次の先輩格に錚々たる人々がいるが、彼らに対してこういう施設を作ろうという動きがかつてあったであろうか。また映画監督は映画が何らかの形で繰り返し人々に見てもらえることが本望で、作品だけが残ればよいと考えているだろう。山田洋次もそうであるはずだが、この館は監督の指示があってのものと思うし、展示内容は監督の思いが反映していると考えてよい。そしてリーフレットを見ると、なかなかよく展示がまとめられている。テーマ2「家族とは」、テーマ4「教育とは」、テーマ5「渥美清へのオマージュ」、テーマ10「人々の苦難により添って」(「身につまされる映画」作りを信条とする山田監督。阪神淡路大震災、東日本大震災、2つの大惨事を日本人はどう向き合うべきか)。テーマ8「名作に挑む」(現代を舞台に姉と弟の新たな物語を紡ぎ出した山田洋次版「おとうと」。そして最新作『東京家族』で小津安二郎の『東京物語』に挑んだ)とざっと引用しておくが、社会派的な側面を持っていることがよくわかる。だが、それを強調し過ぎると一部の人しか見ないので、娯楽性をどれほど強調するかで、山田監督はその点はなかなかうまい。また、その娯楽性が前面に出過ぎると社会性がかえって一種のポーズに受け取られるので、映画は難しい。ドキュメンタリーではなく、あくまでも作り話を撮って、それによって思いを伝えるという方法で、そこを生ぬるいと思う人もいるだろう。「山田洋次」という字面や読みは温和で、それが作品の本質を示しているようにも思う。
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 テーマ2と3の間に「シンボルオブジェ フィルムとさらば」と記されていて、これは大きな展示室の中央部の展示であろう。フィルムではなく、今はデジタル・カメラでデータとして記録するが、レコードからCDへの移行と同じだ。先輩格の監督とは違って新しい時代の、新旧の橋渡し的な位置にいる監督と評価されるだろうが、フィルムを使わなくなったことによる利点と欠点を山田監督がどう思っているかの説明が展示にほしい。誰しも思うように、フィルムは録り直しすれば高くつくし、また撮ったその場ではどのように写っているかわからない。それがデジタルになれば安いし早いし、いいことづくめだが、フィルム時代の緊張感は減退しているだろう。筆者はデジカメをフィルム・カメラと同じようにファインダーを覗いて撮り、しかもほとんどはシャッターを1回切るだけで、液晶画面に表示させて確認しない。そのため、たまに写っていなかったり、自分の指が写り込むこともあるが、フィルム・カメラと同じ感覚でいられるところがよいと思っている。デジタルのそのように古い時代の機器の感覚で使えるので、山田監督がフィルム時代のように撮影に緊張感を減少させたとは思わないが、時代が確実に変わっていることは実感しているはずで、その変わることの中で変わってはならないことをどう映画で表現して行くかという考えをよりいっそう鮮明にすることが出来るようになっているだろう。目的が年々はっきりして来ていると思う。それは高齢になっているからでもあるが、ミュージアムを建ててもらったという責任感がいいように働いているだろう。恥ずかしくないことをしなければならないと改めて思うほどの人ではないだろうが、こういう施設で紹介されるからには、自分がどうあるべきかの思いを強くしているはずで、そのことが展示内容から伝わる。それは「渥美清へのオマージュ」の展示からも想像出来る。渥美清が『男はつらいよ』の撮影時の合間にどのような雰囲気であったかはTVで何度か紹介されたことがあるが、寅さんの印象とはかなり違って寡黙であった。だが、そこに真実味を感じたものだ。それは、寅さんの明るさが虚像と言うのではない。渥美清は寅さんと共通する何かを持っていた。それは山田監督が持っているものでもある。そしてそれは時代の良識と言えばいいか、まともな人なら誰でも持っているもので、わざわざ口に出さずともお互い通じ合えるものだ。そういう信頼関係がなければ長いシリーズ映画など作れない。その信頼は、先日書いたように、社会のはみ出し者という自覚と、はみ出し者が出来ることという確信、そしてはみ出しているからこそ、まとも考え、行動するという覚悟に裏打ちされている。はみ出し者をいい言葉で言えば芸術家だ。優秀な職人でもいい。一生懸命やりましたという自負を持っている人たちだ。そういうことを小学生はわかりにくいかもしれないが、感じることは出来るし、また大人たちは感じさせねばならない。それが教育だ。葛飾区が寅さん記念館やこのミュージアムを作ったのはそういう思いがあるだろう。さて、今日の最初の写真は山田監督の大きな写真が映画のフィルムで合成されたものだが、よく見ると同じフィルムの駒を繰り返し使っている。あるいは筆者の勘違いで、同じに見えて前後の駒かもしれない。4枚目の青い線は柴又を歩いたルートで、赤い線はその後に昼を食べるために駅横の道に入り、また駅の北西の神社に行ったことを示す。
●山田洋次ミュージアム_d0053294_1275318.jpg

by uuuzen | 2016-01-21 23:59 | ●展覧会SOON評SO ON
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