●BRUCE BICKFORD‘S『CAS‘L’』その5
牛や馬、ライオンやキリン、野鳥や魚といった動物をブルース・ビックフォードは関心がないのか、彼のアニメで見かけない。多少は登場させているのかもしれないが、記憶にない。



ひたすら人間のみを描き、また自動車もよく出て来る。最初のアニメは自動車を登場させたもので、ザッパのもとでの作品にもよく現われる。そこがいかにもアメリカという気がするが、同世代の日本の造形家では車はそんなに重要な位置を占めていないだろう。どこに行くにも車がなければ動けないアメリカと違い、日本では車社会になったのは高度成長期以降だ。それ以前の60年代、よく聞いた話に、アメリカ人の子どもと文通した日本の男子が、車を集めるのが趣味と手紙に書くと、相手の親から本物の車が贈られて来たというのがあった。もちろん日本の子は玩具のミニチュア・カーを集めていたのだが、そのことを書くのを忘れたのだ。それはさておき、ブルースのアニメで特徴的なのは、殺戮場面だ。人間が人間を食べてモンスターになるのだが、その凄惨な場面は、やはり肉食文化の作家を思わせる。だが、人を刀で斬ったり刺したり、また殴ったりする場面は、そのまま人間世界では昔から行なわれて来たし、今は少なくなったとはいえ、戦争している地域では殺し合いは日常だ。また平和な国であっても、牛や豚を殺して食べているし、人間は他の命を殺して生きて行く存在だ。それは人間に限らない。どんな小動物でもそうで、草食動物でも生きている草を食べる。そう考えると、ブルースのアニメの凄惨な場面は生物界の大きな仕組みで、それに目を背ける方が呑気とも言える。食うか食われるかという表現があるが、まさにそれは昔も今もどの生物でも逃れられない仕組みで、それが嫌なならば死ぬしかない。だが、ブルースはそこまで考えて作品を作っているだろうか。それもあるかもしれないが、ただ人間には暴力的な面があることを忘れることが出来ないだけかもしれない。その暴力は日本では小さな子どもの世界でもある。小学校でいじめに遭って自殺する子どものニュースが頻繫にあるので、もうみんな慣れっこになっているところがある。それほど生きて行くことは恐怖に満ちていて、昨日も書いたように、ブルースはそれを表現したいのもかもしれない。だが、食うか食われるかの世界だけをえんえんと表現するだけでは救いがなく、作品は娯楽にはなり難い。ブルースはユーモアを持ち合わせていて、作品を楽しんでもらいたいと思っている。それで、やはり何かそれなりに鑑賞者を満ち足りた気分にさせるものが必要だ。
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 『モンスター・ロード』ではブルースが子どもの頃に決定的な影響を受けたアニメとして、アルカ・セルツァーの薬のキャラクターが登場する。これは日本でも50年代末期から60年代初め頃に販売された記憶がかすかにある。大きな白い錠剤で、それをコップの水の中に入れると泡立つ。そうして薬を溶かして服用するが、日本ではバイエルン製薬が販売した。風邪薬だったのか、解熱剤であったのか、ともかく家庭に常備しておくような薬だ。だが日本では薬の伝統は富山の薬売りがあったし、また日本の製薬会社は独自の商品を開発し、アルカ・セルツァーは販路をさほど広げられなかったのだろう。この薬はアメリカではバスター・キートンを起用し、薬のキャラクターと対話するTVコマーシャルがシリーズで作られた。それとは別に、『モンスター・ロード』で紹介されるのは、そのキャラクターのみが小さな舞台に登場してヴィブラフォンでテーマ曲を奏でる場面だ。音楽に合わせて叩く鍵盤はそれなりに正しく、またもちろん粘土か何かを使ったストップ・モーション・アニメだが、それを子どもの頃に見たブルースがどのようにして映像を作っているのかを興味深げに思ったであろうことは想像に難くない。つまりブルースの先駆として、50年代に手作りの立体アニメがTVで盛んに放送されていた。ということは、ブルースはそういう伝統的なアニメの最後の人物と言うことも出来るかもしれない。今ではアニメはもっと手軽な、もっと多くの手段がある。それはともかく、アルカ・セルツァーのキャラクターを粘土でいくつも作り上げたブルースの姿が『モンスター・ロード』に映り、そのキャラクターは本作のジャケットにも登場している。今日の写真にそれが見えるが、胴体と帽子がこの薬の錠剤になっている。だが、本作ではこのキャラクターは登場しない。
 その代わり、それになぞらえられた小さな青年が登場する。ブルースによれば彼は自殺した一番下の弟で、彼を本作ではヒーローにしている。どういう活躍かと言えば、巨人の軍人が支配する「城」に突如登場し、彼らが向ける剣をことごとく避けると同時に彼らを相討ちにさせるなど、滅亡させる。だが、物語はそれでハッピー・エンドになるかと言えば、そんな単純なストーリーをブルースは徹底して拒否する。さらに物語は続き、エジプト時代に移行したかと思えば、ヨーロッパの古都のような街の場面にもなる。文字情報がほぼないので、ストーリーを追うことは難しいが、最後近くに「CRUML BRAND」、「CRIMINAL CIGARETTE」と書かれた看板のある黒縁眼鏡の男の大きな顔が出て来る。この顔はモアイ像のように地面に立ったまま綿で作った煙を吐き、またその前で戦いを繰り広げる人間を丸飲みする。ブルースはタバコ嫌いなのだろう。「CRUML」は「CRUMBLE」で、ボロボロに崩れるとの意味だが、それほどにタバコは罪深いものとの考えだ。これはタバコ好きのザッパに対する一種の批判も混じるかと思うが、ブルースは規則正しい制作の日々で、『モンスター・ロード』の最後辺りで確か270歳ほども生きられる気がすると語っていた。また、剣を持っての戦いの場面に顕著なように、ブルースは刃物に関心が強いが、これは小さな時に見た映画『ピーターパン』の影響らしいが、その映画にどのような形で刃物が印象深く使われるのか知らない。また、ブルースはザッパと同じようにやはり映画好きで、特に西部劇が好きであったようだが、この点は筆者もよくわかる。日本でも60年代は映画でもTVでもアメリカの西部劇がとても人気があった。ただし、日本ではチャンバラ映画もあったので、西部劇人気はアメリカの同世代の子どもほどではなかったと思う。本作の文字情報として、ほとんど最後に「FEATS OF CLAY」(粘土の技)の文字が画面いっぱいに現われる。これはブルースの自画自賛だが、誰もがその言葉に納得するだろう。さて、本作には1時間を超えるボーナス映像がある。そのひとつにザッパのバンドに在籍したアイク・ウリィスのバンド「プロジェクト・オブジェクト」のライヴ・ステージにブルースが登場し、ゆったりとしたブルースの演奏に載せて『モンスター・ロード』について語るものがある。10数分だろうか、また音楽にうまく合わせていて、ブルースの音楽好きが伝わる。そう言えば何年か前のドイツで毎年開かれるザッパナーレにも登場し、かつてのザッパのメンバーなどと談笑している映像も見たことがある。本作は今年発売されたが、「INTERNET UPLOAD NOT ALLOWED」と裏ジャケットの一番下に赤で印刷される。だが、どうせどこかのアホが全部アップするかもしれない。食うか食われるかの競争はまだいい。そんなルールを無視して創作者の収入を平気で減じるようなことをする罪深いモンスターがいる。
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by uuuzen | 2015-12-11 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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