●『200 MOTELS THE SUITES』その4
ード・ロックならぬハード・オーケストラ曲と言っていいのが、ディスク1の9曲目「The Pleated Gazelle」(襞のあるガゼル)で、21分の長さは本作では最長で、しかも最も重要な作だ。



この曲は1分程度の短い曲を連ねて組曲の形で1971年の『200モーテルズ』のアルバムで紹介された。そのCDのディスク2の7、9、10、11、12、13、14で、今回はその全貌が初めて紹介された。21分の長さでは71年当時の映画やアルバムでは収録は不可能であったろう。だが、『200モーテルズ』のオーケストラ曲ではディスク2の後半が最も聴きもので、ザッパとしても作曲家としての才能を誇示したい部分であったに違いない。「Pleated」はプリーツ・スカートの襞を思えばいいが、ガゼルというライオンやハイエナの天敵となる牛の仲間で鹿のような体躯をした動物が襞をつけられているとは、具体的にどういう状態を思えばいいのか、とにかくシュルレアリスムの美術や詩などの芸術を思えばよい。ザッパにはこのように超現実主義的な歌詞を持った曲がたまにあるが、その初期の代表は『フリーク・アウト』の「誰が頭脳警察か」だ。そしてこの「プリーティド・ガゼル」には物語がついているが、それも各部分はきわめて現実的でありながら、現実にはあり得ない、たとえばバキューム・クリーナーが登場するなど、やはり超現実のイメージを涌き立てる。また、この曲は最初にナレーションがあり、ブックレットにその内容は記載されないが、筆者の拙い聞き取りによれば、ザッパの言い訳じみた宣言と言ってよい、また実際はかなり真実を吐露して、一種の含羞さも見せている。どういうことかと言えば、この奇妙な曲は演奏される機会はないかもしれないが、自分の脳裏に浮かんだ想念をそのまま楽譜に書いたものだと語る前置きで、つまりは注文された仕事ではなく、自発的に自分の愉しみのための行為で、芸術全般の在り方を示しているとも言える。特に若手の場合はそうで、まずは手と頭を動かして作品行為をしろということだ。それが世間に知られ、認められるかどうかは運も左右するが、どんな逆境にあっても作品は生まれることをこの曲は証明している。ナレーションの最初で、ツアー中の演奏の後、疲れて何もする気がなくなってホテルの部屋に戻り、そこでこの曲を書き始めたと語られることがそのことを端的に示すが、このナレーターすなわちザッパの言葉は、体が疲れていて理性がおかしくなって幻覚を見たということに受け取ることが出来る。これは『200モーテルズ』のテーマである「ツアーは人を狂気にさせる」の別の表現でもあって、長期のツアー生活をしていなければ本曲も生まれなかったと言うことも出来る。ナレーションでは本曲の題名は「わたしはプリーティド・ガゼルを見た」とあって、それを縮めて「プリーティド・ガゼル」と称しているが、71年の『200モーテルズ』ではその題名は映画にもアルバムにも使われなかった。というのは、この長い組曲の最初のその部分は発表されなかったからだ。だが、当時の楽譜では「プリーティド・ガゼル」と題されて、おそらく映画の収録時にもリハーサル演奏されたのではないか。
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 ナレーターはまた、物語があった方がわかりやすいので、それを書いたとも言うが、これは曲が先に出来てナレーションや歌詞は後から書いたことを意味する。「プリーティド・ガゼル」の物語には若い男女が登場する。女は緑色のウールのコートをいつも着ていて、肩にはプラスティックの魚とウィンナソーセージのペンダントがつけてある。彼女のボーイ・フレンドは手荒で、ついにふたりは喧嘩をして彼女は男をプラスティックの魚のペンダントで殴って家から放り出し、部屋の隅でウィンナソーセージを食べる。喧嘩の場面はソプラノがかなり激しく歌い、殴る場面ではそれらしいパーカッションが響きわたる。この男女が不和な物語は後の「サッド・ジェーン」と「ボブ・イン・ダクロン」という対になった2曲の雰囲気に近い。殺伐とした、そして暴力的な物語は70年の頃には描かれていたわけで、ザッパのオーケストラ曲につけられた物語の本質は生涯ほとんど変わらなかったと言える。「プリーティド・ガゼル」は冒頭から7分ほどで、ナレーターはその最後でボーイ・フレンドを振った女が次に見つける農場の若い男との出会いを告げる。そこから始まるのが『200モーテルズ』のディスク2の10曲目「捕まえたイモリのしずく」で、アメリカ南部の農場の夜のイメージだ。これもなかなかシュールで、しかも自然主義的なところも感じさせるが、農場の男はバキューム・クリーナーを愛しているとの設定で、『ジョーのガレージ』の主人公のジョーがセックス処理のサイボーグと絡むとこのプロト・タイプが描かれる。歌詞は犬のスープなど、アメリカ人にとってはシュールで残酷な言葉が並ぶが、犬が中国や韓国の一部では食べられることをザッパは知っていたのだろう。ともかく、ソプラノが中心となって歌う歌詞は直訳しても意味不明の超現実主義的なもので、それはそういうものとして味わうしかなく、またそうすることで不条理の映画『200モーテルズ』の本質が把握出来る。ともかく、この「プリーティド・ガゼル」はロック曲とは無関係に独立した組曲で、ザッパ初期の代表的なオーケストラ曲として今後ますます評価が高まるのではないか。明日も書く。
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by uuuzen | 2015-12-04 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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