●『DANCE ME THIS』その2
落の底を見つめ回すような雰囲気に満ちたザッパの『文明、第3期』だが、ザッパは癌だとわかる前からその制作に取りかかっていた。



そして癌が発見されてからはなおさらその作品に暗鬱さが込められたと思うが、一方でユーモア、光を忘れなかった。それに清透さも増した。それは諦念が混じってのこととも多少言えるかもしれないが、作品づくり、特にザッパの場合はアルバム制作だが、それを長年続けて来た者は、どんな状況にあっても、いや逆境にあればあるほど、新しい作品を目指す。そのことに意識を投入することで、死への恐怖も忘れると言ってよい。残された時間がごく少ないとして、芸術家がその時に最も望むことは、これまでの作品以上によく出来たと思える作品をものにすることだ。アメリカの死刑囚は最後に望みの食事を何でも与えられるというが、死の間際にあっておいしい食べ物を思い出す人がどれほどいるのだろう。筆者はこのブログでもよく書くが、おいしい食べ物は贅を尽くしたものとは限らず、富士正晴が歯がほとんど抜けた時に、たくわんとお茶漬けを食べたいと思ったことに同意する。もちろん死刑囚の中に最後の食事としてそれを望む者もいるだろうが、食べること以外に考えることがないのかと言いたい。話を戻して、ザッパの音楽体験は楽器を奏でることより先にレコードがあった。ヴァレーズを尊敬するに至ったこともそのレコードを通してのことで、ザッパはレコードの売り上げで家族を支え、音楽活動を続けた。このことはあたりまえのようでも、ベートーヴェンやモーツァルトの時代は違った。だが、レコードを買うのはもっぱら子どもだ。ザッパは自分自身がそうであったから、そのことはよく自覚していた。子ども相手に音楽をやるのは本当は辛い。それでザッパはステージで仮に間違ったり、下手に演奏したりしても、どうせ子どもはそれに気づかないとも思った。そこにはレコードの売り上げで飯を食う立場を自嘲する思いが混じる。だが、その一方で適当に演奏すればそれは自分の音楽への愛を汚すことになることもよく知っていたから、観客がわかろうかわかるまいが、まずは自分が納得の行く音楽作りをする。そしてそれはアルバムを完璧な仕上がりにするということでもある。ザッパはツアーを毎年のようにしたが、それは収入の確保とアルバムの素材を得るためでもあって、やはりザッパにとって最も大事なことはアルバムで、それが自己が存在した証になると思っていた。アルバムすなわちレコードは記録で、それは録音であるから、ザッパがその機器や楽器にこだわったのは当然で、ザッパの音楽は録音行為と分かちがたい。これもベートーヴェンやモーツァルトの時代とは全く違うことで、ではザッパは幸福な時代に生きたかと言えば、そこは意見が分かれるだろう。音楽は録音とは限らないからだ。
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 それでもたとえば日本に住んでいてアメリカ人のザッパの音楽を知るには、レコードに頼るしかなく、レコードの恩恵は計り知れないところがある。今の若者は複製に芸術性がどれだけあるかという哲学的命題を考えることはなく、音楽と言えばレコードと思う。その是非は別に論じるべきことで、レコードが楽しければそれでいいではないかと言うのが、通念になっている。さてそこで、ザッパが最後に仕上げたアルバムが『ダンス・ミー・ジス』で、これは『文明、第3期』のような豪華なパッケージではないが、ブックレットに使用する用紙など、同アルバムと同時期の作品であることが明白だ。つまり、本当は1994年か5年に発売されてよかったものだ。それが20年も延期されたのは、ゲイルがそれほど大事に取っておきたかったからだろう。では商品として20年前に仕上がっていたかと言えば、それはない。今年になって製造されたはずだ。だが、音源やジャケット、ブックレットの大半は20年前に出来ていたであろう。では今頃発売して時代遅れの音ではないのかと訝る人があるだろう。ゲイルがその点をどう思っていたかだが、ザッパは固定ファンに長年支え続けられ、時代に即す音作り、つまり流行に後乗りするような音楽をせず、自ら流行を作る意識が強かった。したがて、流行の音楽に馴染む者がザッパの曲を聴くと、どう判断していいかわからない。そこがザッパの音楽の面白さで、じっくりと対峙しないことにはその味がわからない。そしてそういうことが出来る人たちにザッパは支えられて来たし、今後もそうだろう。今日の写真はジャケット裏面で、最晩年の病床にあったザッパの笑顔だ。こういう顔を見せたのは初めてで、その脳裏にどういう音が鳴り響いていたのかと思う。その一端は『ダンス・ミー・ジス』に込められているが、おそらくもっと別の音へと思いは飛んでいたであろう。芸術家は成し遂げた作品に関心がない。絶えず次を追う。
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by uuuzen | 2015-11-22 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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