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●『黒の旋律』
か者ばかりが登場するドラマと言えばいいかもしれない。韓国での視聴率は2桁にはならなかったようだが、惰性で見るのは1時間ものが54話も続くのでかなりしんどい。



中だるみ、それに意外に思える結末を迎えるが、よく考えてみると、結末は悪くない。正義が最後は勝つという子ども騙しではなく、きわめて現実的と言える。その分、後味がよくないが、善悪は立場によって違って来るので、一概に決められないと思えばよい。そして最初に書いたように、誰もが愚か者、つまり愚かな部分を持っていることに気づく。このドラマが終わったのはいつか知らない。ハード・ディスクに勝手に録画されるものを古い作品から順に見て行こうと思っているが、たぶん400時間分ほど録画されていて、1年ほど前に放送されたものと思う。あまり面白くないので、途中で1,2か月見ないことが何度かありながら、残りが半分を切ると見ないで録画を消してしまうのはもったいないので昨日ようやく最後の2話を見た。それで忘れないうちに感想を書いておく。本作は変な作品で、途中で主人公が曖昧になる。主人公を取り巻く連中が大いに動き回り、姉妹を演じた二役の女性は影が薄くなる。なぜそのような脚本にしたのだろう。最初から結末がわかって書き進めたものだろうか。最終回を見ると、たぶんそうであることがわかる。主人公の姉妹は、姉はおっとり型で男に騙されやすいタイプ、妹はキ活発なャリア・ウーマンで仕事に生きている。このふたりをハ・ヒラというあまり美人でもない女性が演じるが、姉妹が対話する場面は二重撮りをしたのだろうが、性質の違いをうまく演じ分けていて、ハ・ヒラでなければならないと監督が思ったことは伝わる。そして、この姉妹がドラマの最後まで登場するかと言えば、案外あっさりと片方が死んでしまう。それでハ・ヒラは難しい演じ分けをせずに済み、その後は最終回まで比較的気楽であったろう。そのためか、ハ・ヒラの演技に注目が当たらず、周囲の達者な俳優が自己主張を限界までするようになる。さて、姉妹の姉はミン・ジスというピアノ教師で、小さな娘がひとりいる。その子の夫はチャ・ウソンという男で、昔ジスと恋愛関係にあった。ジスは妊娠してしまうが、ウソンはジスのもとから去る。ジスは子連れで結婚するが、その相手ギチョルはどうしようもない遊び人で、家庭を顧みず、別の女との間に娘をひとりもうけている。こう書くだけで、ジスは男の価値がわからない愚か者と誰しも思うが、世の中にはそういう女性は少なくないだろう。言い寄られるとつい男の素性を知らないのに信じてしまう。男に対して免疫がないというか、さびしがり屋で、どのような男でもいいのだろう。でなければウソンやギチョルと出会うはずがない。そういう姉のことを妹ジウォンは大いに心配し、男に頼らない生き方をしているが、ある日、たまたま街中でウソンがジスの姿を認め、その後復縁を迫る。だが、ウソンにすれば浮気と言ってよく、結婚するつもりはない。それどころか、ウソンは財閥の娘と結婚している。ジウォンはウソンを怪しいと睨んで、追跡するなどして妻帯者であることを知る。それは、ジウォンがジスに成り代わってウソンに会いに行くと言う危険な行為によってだが、何か事があることを警戒し、ジウォンはウソンとの対話をジスに同時に聴かせるために懐に録音機器を忍ばせる。そのことを知らない、またてっきり昔の恋人ジスであると思っているウソンは、復縁を迫る間にジスを崖の縁に追い込み、ジウォンは崖から落ちて死んでしまう。死体は画面に映らないので、後の回で突如また姿を現わすかと思っていると、本当に死んだことになってハ・ヒラは二役を演じなくて済むようになる。
 ウソンは双子の姉が死んだと思っているし、周囲もそうだが、妹が姉になり変わって死んだのであるから、その成り変わりを世間に隠し通すのであれば、姉はその後も妹役を演じ続けなければならない。そして姉はそのようにする。ただひとり、妹の親友だけは事実を知っていて、彼女の手ほどきもあって、姉は妹に成り切った生活を送る。だが、妹の仕事内容は全く知らない姉で、そのことが現実的に可能かと言えば、まあ無理だ。もともと姉はおっとり型で、それが一夜にして活発を演じるとなると無理に決まっている。そのため、ジウォンは実際は死んでおらず、後の回にウソンに復讐するためにまた出て来るのではないかと思ったが、そうはならず、いかにもあっさりと死んでしまう。そしてハ・ヒラは、活発な妹役だけ演じればよいことになる。ただし、それは元はおっとり型がそう演じるというところを視聴者に見せる必要があるから、姉とも妹とも違う曖昧な役となって、それはそれでさらに難しい。妹はTV局でディレクターをしていたが、同僚は今までのジウォンとはどこか違うので不思議に思う。当然だ。そして次第に隠し通しにくくなって、本性がばれる。その最大の原因は、妹を好きになっていた男性ソンナムがおかしいと感づき始めるからだ。ついにジスは自分がジウォンでないことをソンナムに悟られるが、その時、激高した彼でもあるにもかかわらず、ジスのひたむきさに打たれたのか、あるいは顔が同じなのでいいかとソンナムが思ったのか、ともかくソンナムはジスを受け入れる。そこはジスは男の気を惹くのがうまい女性と思えば納得も行くが、大半の女性はジスの調子よさに呆れるだろう。本作では若い男、つまりジスとどうにか釣り合う男はウソン、ギチョル、ソンナムの3人が登場するが、3人ともジスと深い関係になるから、これではやっかみを買ってもあたりまえだ。それに、ジスは男を見る目がないので、やくざ者のギチョルと結婚したが、そういう女性が財閥の御曹司で非の打ちどころのない男性から愛されるだろうか。ソンナムは活発なジウォンが好きであったのに、ある日それが正反対の性質のジスに成り代わった時、ジウォンの時と同じ気持ちになれるだろうか。ま、そのように突っ込みたいが、それは一面のみを見ているからだ。御曹司のソンナムがなぜTV局で勤務しているかだが、彼は金儲けに関心がない。そういうことはままあるだろう。親や大人のいやらしい部分を見て育てばそうなりやすい。つまり、ソンナムは繊細な神経の持ち主で、恋人であったジウォンがなぜ死んだかをジスから聞き知ると、同情や憤怒の思いが湧き、ジスに味方したくなる。その延長上に愛が芽生えても不思議ではない。またそのことを補強する筋立てとして、ソンナムの母は言葉を発しない病が治癒しないままに病院暮らしで、そういう彼女を楽しませるためにただひとりジスが面会にやって来ることをソンナムは気づくことがある。ソンナムとジスが知らない間に、病人のソンナムの母はふたりの間を取り持つ愛のキューピッドになっていた。彼女は最終回までほとんどしゃべらないが、次第に言葉を取り戻し、ソンナムが危険に晒されることを避けようとする。とはいえ、病院にいたままの状態で、出来ることは知れている。なぜ彼女がそのような病人になったかだが、父に問題がある。父デグァンは実業家で金儲けはうまいが、会社を大きくする間に悪事も働いて来た。そして女好きで、30年前に若い女インギョンと浮気し、娘ソンミまで作ってしまう。籍には入れていないが、インギョンは典型的な悪女で、デグァンの正妻すなわちソンナムの母を屋敷の中の階段から突き落とし、大けがをさせる。そのことが原因で言葉を失ったまま病院暮らしとなった。デグァンがそんな父であるから、ソンナムはなおさら父の会社に関心がない。だが、ソンナムは母の父から知らない間に莫大な遺産を受け継いでいて、それがあるはずと睨む父は、事あるごとにそれを手に入れようとする。デグァンは養子として結婚したのであって、義父はデグァンのことを信頼し切っていなかったのだ。それも愚かと言えるが、財閥とはそのようなもので、養子は他人で、孫は血を引くので財産を譲るということだ。デグァンは好き勝手して30年を愛人と暮らし、その間に愛人親子も自分たちの財産を築くなど、とにかく金にしか関心のないインギョンで、彼女はドラマ後半の本当の主役になると言ってよい。
 デグァンはそんなインギョンを昔はかわいいと思ったのだろうが、政界へ進出を願うようになって来た時に、インギョンの悪事がジスから突きつけられる。そのことを話すと長くなるが、本作の後半はデグァンの家族を巡る確執が中心となり、インギョンとソンナム、つまり異母兄妹の戦いが描かれる。ジスはソンナムと結婚するかという間柄だが、デグァンは何の財産もないジスが気に食わず、猛反対をする。結局デグァンはジスと内密の約束を取り交わすが、それはインギョンの悪事が世間にばれては自分の政界入りが不可能になるからだ。インギョンの悪事を知ったデグァンは一気に30年の歳月を忘れ、インギョンと手を切ることにする。そこにデグァンの打算や非情さがよく出ている。とはいえ、これと決めればどのようなことでもやり遂げるという意志の強さで財閥になって来たのであるから、それが長年連れ添った内縁の妻であっても、自分の益にならないとなればすぐに掌を返す。さて、インギョンの悪事だが、それはかつてソンナムの母、つまり先妻を階段から突き落として大けがをさせたことをやるような人物としては全く納得出来る。人間は数十年経っても変わらない。同じようなことをし続ける。その典型的な例がインギョンだ。彼女が信じるものは金のみで、デグァンに本妻として入籍してもらうことが夢で、そうなればデグァンの全財産を自分と娘のものにするつもりだ。インギョンが謀ったことは、デグァンがソンナムの結婚相手にふさわしいと考えてアメリカから呼び寄せた資産家の娘ハ・エリだ。彼女はソンナムを見て結婚したくなる。そして障害となるジスを排斥するが、ソンナムの心は動かない。一方、インギョンはソンナムが生きている限りはデグァンの財産を全部得ることは無理なので、ソンナムを交通事故に見せかけて殺そうとする。その現場でハ・エリはソンナムを助け、自分が大けがをするが、それでもソンナムはジスだけを見つめる。策略を凝らすハ・エリだが、自分の怪我がインギョンのせいだとは知らないまま、ついにソンナムを断念して帰国する。インギョンはまさか自分が犯人だとばれるはずがないと高をくくっていたが、ジスの地道な調べによって、インギョンが運転していたことを知る。その証拠写真を手にしてデグァンに突きつけるが、彼はインギョンがそのような大それたことをしなければ縁を切ることはしなかったが、政界進出の足かせになるのは間違いがない。それでついに邸宅から追い出すことにするが、その際にそれまで貯め込んだ資産をすべて手放させる。
 かつてジスの恋人でしかも女の子まで産ませたウソンは孤児院育ちで、デグァンの援助を受けて育ち、デグァンの会社に入る。そして頭角を現すが、インギョンの娘のソンミと結婚するまでになる。だが、デグァンはウソンを信じ切っていない。どこか影があり、裏で何をしているかわからないと睨んでいる。ウソンはソンミと暮らしながら、ソンミが妊娠しないことにデグァンから軽んじられてもいるが、そんな時にジスの姿を見つけ、言い寄った挙句、妹のジウォンをジスと思ったまま死なせてしまった。それは事故だが、ジスはウソンに復讐しようとする。夫婦仲が冷め切っているソンミとウソンだが、ソンミにすればウソンを利用していずれ父の全財産を得ようと考えていて、離婚は念頭にはない。そして、妊娠しないと思っていたのに、ついにそれがかなう。その場面は最初の方で、腹がみるみるうちに大きくなるかと思っていると、そうなる場面は最終回まで待たねばならない。そしてその間、彼女の妊娠については後半の半ば以降になるまで触れられない。ウソンは野心家だが、彼は偽名を使ってデグァンのもとで働いていたことがこれも最後近くになってわかる。ウソンは養護施設が火事になった時、自分と同じ年齢の友だちが焼死するが、その後彼の名前を名乗る。それは、自分の正体を隠すためで、そうしてまでデグァンに復讐し、その財産を自分のものにしたかった。それは、デグァンがかつて会社を大きくする時、ウソンの父が経営する会社を乗っ取ったからで、ウソンにすれば全生涯を費やしてでもデグァンを失墜させたかった。だが、ウソンの父が死んだことはデグァンひとりの行為のためとは言えないところがある。会社が大きくなって行く時にはそのような不幸はつきものだ。ウソンの父が死んだ後、デグァンはあらゆる業種に手を出したが、ウソンの父が携わっていた建設業だけは無視した。ウソンの父が無念で死んだことを心の傷として抱えていたのだ。それでウソンの正体を知らないまま、ソンミと結婚させ、会社の重要な地位に就けたが、それは因縁と言うものだろう。だらだらと書いているが、最終回では当然悪役のインギョンと、そして会社を乗っ取ろうとしたウソンは逮捕され、刑務所に入る。インギョンは2年の実刑で、服役する際にデグァンは彼女に詫びる。一方、娘のソンミは臨月になっていて、笑顔でウソンと面会する。ウソンの刑期は不明だが、2年に満たないだろう。すぐにインギョンとウソンは出て来るし、またインギョンはデグァンの本妻として入籍してもらったので、会社の財産は彼らのものになる。デグァンの最初の本妻は病が快復し、父の遺産をソンナムに手わたすが、それは100億ウォンという巨額だ。そしてソンナムとジスが結婚すればハッピーエンドだが、ソンナムは癌を発症し、死んでしまう。つまり、ジスはまたひとり身となった。インギョンとウソン、それにソンミがジスと和解することはあり得ない。では、ソンナムが得た100億ウォンの財産はジスのものになるかどうかだが、ふたりは結婚していないので、そうはならない。ということは、このドラマが言わんとしている教訓は、女は言い寄られる男に毎回したがっていると、いつかは不幸のどん底に落ちるということか。ソンナムを死なせなくてもよかったと思うが、それではいつまで経っても憎しみ合いが続く。それに若くして死ぬことは現実であり、また非の打ちどころのない人物に限ってそういうもので、世の中は悪がはびこる。とはいえ、その悪の側に立てば、彼らはごくまともに行動していて、謗られることはないと思っている。
by uuuzen | 2015-07-14 23:59 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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