●緑の絨毯とタペストリー、その27
書を解読することが数年前からちょっとした楽しみになっている。九畳篆書はまだとてもよくは読めないが、漢字の面白さ、便利さに感心する。韓国は漢字を教えなくなって3、40年経つのだろうか。



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韓国ドラマを見ていると、たまに漢字を書いた紙が出て来るが、大半はひどいもので、学校で漢字を教えず、筆で書かせないことがよくわかる。最近見たドラマでは実印を捺す場面が二度映った。画面いっぱいのクローズアップで、ハングルを彫ったものであることがわかったが、天地逆さまやひどく傾いて捺していて、その雑さ加減に呆れた。ちょっとしたところに国民性が出るかもしれない。だが、その雑さは悪いことばかりではない。見方を変えれば、おおらかと言えるし、それはそれで必要とされる場面がある。物事をなるべくそのように思うことは大切だ。去年自治会の住民の大志万さんと住吉に行った際の電車の中での話を思い出す。彼女が言うには、引きこもりは必ずしも悪くなく、「それ行けー」と行動的な人物が戦争に駆り出されて死んでしまった後、引きこもっていた人物たちが生き残る可能性が大きいいとのことだ。それはかなり大きな仮定だが、言わんとしていることはわかる。陽気な人も陰気な人も価値があるとの見方で、否定されがちな存在に積極的な意義を見つけようということだ。それには我慢強い忍耐が必要なようだが、思いひとつでそれはどうにでもなるものだ。先日、大阪の釜ヶ崎に住む60代の身寄りのない男性が、たまたま区役所で教えてもらった「釜ヶ崎芸術大学」に通うようになって、人生が変わったことを書いた。NHKのTV番組で、後半のみ見て書いたが、その後再放送で最初から見た。前半は「釜ヶ崎芸術大学」を運営する女性の紹介であった。それより見物はやはり後半で、前述の男性が最後にこう言ったことがまた印象的であった。「見慣れている景色が思いひとつで全然違って見える」。誰でもそのような経験はあると思うが、これはさして面白くない日々から脱出して、眼前の世界がとても楽しく見え始める時に感じることだ。そのような経験は年に何度もない。一生に数回かもしれない。数十時間も考え続けてようやく解読出来た篆書もその部類に入りそうだが、喜びの持続はごく短い。では最も長く持続する喜びは何か。こう書いてはたと指が止まる。話題を変える。今日は午後6時前に家内と歩いてムーギョとトモイチに行った。往復1時間25分ほどで、帰宅してもまだ嵐山の向こうはうっすらと赤かった。トモイチには無料で茶が飲めるコーナーがあって、たいていそこで紙コップに2杯は飲む。今日もそうしたが、冷たい煎茶のボタンを押したのに、水が出て来た。それはいいとして、筆者が操作していると、30歳くらいの女性が筆者の左に近寄って来て、次の番を待った。笑顔から知恵遅れかと思ったが、すぐ近くのテーブルで店内で買った弁当を食べている。それが彼女の夕食で、スーパーで買ってその場で食べるのは、合理的との考えもあるが、さびしい部屋なのかもしれない。働いているようには見えなかったが、それではどう暮らしているのだろう。そう思った瞬間、今度は右手に長身の30歳ほどの男性が近寄って来た。冬場の服装で、髪はくしゃくしゃ、生気がなく、心を病んでいるのがわかった。もちろん働いていないはずで、生活保護にかかっているのだろう。何をするでもなく、店内をぶらついている。ただし、買い物スペースではなく、無料休憩所付近のみ、幽霊のように何度も回っている。次に目を留めたのは、先の女性の近くに陣取った80歳ほどの女性だ。たくさんの買い物をしたようで、テーブルの上にそれが乗っている。そして100円台で売っている炭酸入りのリキュールを飲み始めた。そこは酒を飲むことは禁じられているが、老婆であれば誰も注意しないだろう。飲みっぷりがよく、皺くちゃの顔をさらに皺だらけにしていた。もうひとり書こう。休憩所に接する形でベンチが2台置いてあって、そのひとつに片目が白濁した70代後半らしき男性が座って筆者をじっと見つめていた。赤ら顔で小柄、派手なジャージの上下を着て、若い頃から肉体労働をして来たことが一目瞭然だ。筆者をどう値踏みしているのか、筆者が目を逸らせてもまだ見ているふうであった。誰かを待つでもなく、家に帰ってもひとり暮らしか、スーパーの喧噪に紛れて人物観察しているとさびしさも紛れるのだろう。
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 そういう人はいつの世も湧いて来る。以前書いたことがあるが、その無料休憩所は居心地がよく、ビールを飲んでもよかった頃は、何度かそうしたことがある。筆者がひとり暮らしになったとして、たまにそこに行って座ることがあるだろうか。あるだろう。世間から置き去りにされたような人々の気分になってみることはまだ心に余裕がある。本当にひとりぽっちになればどこでどう時間を過ごして、「見慣れている景色が思いひとつで全然違って見える」瞬間を待ち続けるだろう。では、先に書いた30歳くらいの女性や男性、それに80歳近い男女は、「見慣れている景色が思いひとつで全然違って見える」瞬間を待ち望んでいるだろうか。高齢ではもう遅いが、30歳ではこれからだ。にもかかわらず、もはや人生が終わったかのようなふたりを見て、胸が痛んだ。とはいえ、筆者は影のようになって彼らを見つめるだけで、彼らは筆者に気づかない。彼らなりに喜びがあるはずで、それは筆者のそれと比べようがない。さまざまな人がいるということを話題にしながら、今日は家内と梅津を往復した。今朝は家内がつけたTVの音で目覚めたが、やっていた番組は発達障害についてだ。半分眠っていたが、その言葉が気になり、午後少し調べた。それがよかった。実は最近筆者はある人にひどく悩まされている。そのことで眠れないほどで、体調を崩しそうなほどだ。だが、発達障害の症例を見ると、そのある人がその気配が濃厚であることがわかった。それがわかった途端、「見慣れている景色が思いひとつで全然違って見える」瞬間が訪れた。ここ数日の悩みは大きく消え去った。このことは何を意味するか。理不尽な事態に遭遇した時の戸惑いは、その理不尽の内実がよくわからないからだ。そうであるから理不尽なのだが、それでもどうにか自分が納得出来る理由をこじつけでもいいので、見つけねばならない。そのことがわかればもう半分は悩みから解放されているが、発達障害という病気の存在を知るに及んで、筆者に舞い降りた理不尽の正体がわかった気がした。その途端、悩みをもたらしているそのある人が、塩をかけられたナメクジのように小さくなって行くように思えた。そして次に想像したことは、その人は筆者を悩ませていることを全く自覚せず、また家の中できっといつも孤独を味わっている姿だ。そのことでその人を憐れむことが出来るようになったのではないが、少なくても正体不明の嫌な奴ではなくなった。そして、表向きは全く違うが、今日トモイチの無料休憩所で見かけた男女4人と大同小異であるとも思える。ここでまた指が止まる。わが家からムーギョまでの道のりに、蔦が繁茂している場所がいくつかある。それらは写真に撮って以前の「緑の絨毯とタペストリー」に使った。5月になると、すっかり蔦は生き生きして壁を緑にする。蔦の繁茂は野球場やサッカー場、コンサート会場の群集のようで、そのにぎやかさがいい。だが、1枚ずつの葉は孤独ゆえに密集するのだろう。人間と同じだ。植物はどれもそう言える。2軒のスーパーで買い物を済ませ、松尾橋に向かって四条通りの北側の歩道を歩いていると、突如後ろにいるはずの家内がいないことに気づいた。それは松尾橋のバス停前で、筆者の足元に白スミレの葉が群生している。花は終わって今は種子をつけ、それを巻き散らしているところか。先日から気になっていたが、その群生のところどころに雑草がスミレの数倍の背丈で生えている。それを抜き取ろうとすると、から必ず家内は止める。手が土で汚れることと、犬の小便がひっかけられているかもしれないというのがその理由だ。今日は幸い家内の姿が見えない。それで両手の提げていた買い物袋を左手にまとめて持ち直し、雑草を引き抜き始めた。それが5分ほどだ。根こそぎ出来ないほどに強く、無理してむしって指をコンクリートに擦りつけて血が出て来た。それを家内に見せると、止めておくように言ったことをやっぱりしたと文句を言うに決まっている。雑草を可能な限り抜いた後、家内が入ったであろう筆者はめったに入らないもうひとつのスーパーの方を向いた。そうして5分ほど待つと、50メートル先の出入り口から家内らしき小さな影が出て来た。7時前であるから、派手な色の衣服でも薄暗く見える。筆者は家内が筆者の背後50メートルでスーパーに向かったことを知らずに松尾橋バス停まで歩いた。家内は背後で声をかけたかもしれないが、最近耳が多少鈍くなったのか、筆者には聞こえなかった。スミレの葉の群れに目を落としている間、家内は筆者を追い越して先に帰ったのかと二、三度思ったほどに、家内の姿を見失ったことが狐につままれたように感じた。家内は3軒目のスーパーで買い物が出来、筆者は気がかりであったスミレを襲う雑草を全部短くし、「見慣れている景色が思いひとつで全然違って見える」ようになったので、ふたりともごく一瞬だが、喜びに浸った。今日の3枚の蔦の写真は本文とは関係がない。最初の2枚は2年前に阪急電車の車窓から撮った。中津の工場だ。3枚目は先日奈良の不退寺を訪れた際、山際の道で見かけた。
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by uuuzen | 2015-05-25 23:59 | ●新・嵐山だより | Comments(0)


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