●『ROXY BY PROXY』その3
いるザッパの姿を想像しにくいのが2曲目「INCA ROADS」で、今日はまたこの曲から触れる。昨日の書き方は誤解を与えると言うより間違いで、本作ヴァージョンはギター・ソロつきのその後の正式発表されるヴァージョンと基本的には同じ形をしている。



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違うのは、最初はスローテンポでジョージ・デュークが歌い、その間はメンバーの演奏はベース以外はほとんどないと言ってよい。そうして一通り正式ヴァージョンの歌詞を歌い上げる、もう一度それをより賑やかに繰り返し、三度は正式ヴァージョンのギター・ソロ後の歌と演奏につながる。そしてこれは正式ヴァージョンにはないことだが、キーボードそしてトロンボーンのソロが途中で順に入る。本当はそこにザッパのギター・ソロがあってもよい。そこで最初に書いたことを思う。この曲ではギターはごくわずかの箇所しか鳴らない。ザッパは何をしていたのだろう。ギターを肩にかけながらメンバーの方を向き、指揮をしていたのではないか。それは映像があれば一目瞭然だが、『ROXY』のDVDにこの曲が収められているかどうかはわからない。『ROXY AND ELSEWHERE』と本作との裏ジャケットを見比べると、後者はザッパがギターを奏でる姿の写真で、前者にはそれがない。このことは両方の作の特徴をよく表わしている。ロキシーでの演奏は概してザッパのギター・ソロが少なく、それをやや不満に思ったザッパはロキシーでのライヴのみでアルバムを出さずに、後の別の会場での演奏も含めることにしたのではないか。このことはある想像をさせる。ロキシーでの演奏は楽譜に書かれたパートを正しく演奏する曲が主体で、それをザッパの指揮ないし合図のもと、メンバーたちがまともにこなすのに手いっぱいで、ギター・ソロをふんだんに含める余裕がまだなかったと思いたい。本作の裏ジャケットは3つの写真が縦に並ぶ。最上段はザッパで、これは当然として、2枚目はザッパとルースが並んで打楽器を奏でる。同様の別角度の写真は『ROXY AND …』にもあった。3枚目はルースの両手で、ここでも打楽器が示される。本作はルースが詳細に曲目を解説するので、それに合わせてこの裏ジャケットの2枚のルースの写真と思いたくなるが、話は反対で、そもそもロキシーでの演奏は打楽器を大活躍させるもので、2枚のルースの写真は当然だ。それで解説も彼女に依頼された。そう考えるのが妥当だ。そしてザッパもルースと一緒に打楽器を演奏していることに着目せねばならない。「INCA ROADS」の演奏でザッパは何をしていたのかという想像のほかに、このルースとザッパが並んで演奏する曲は何かということも大いに興味をそそる。ザッパがギターを下ろして撥を手に打楽器を叩くことは他のステージでは見られない。もともとザッパはギターを手にする以前に打楽器を演奏していたから、ロキシーでのルースと仲よく叩く姿は予想外のことではない。むしろマザーズのデビュー10周年を迎え、初心に戻って打楽器が大活躍する演奏をしてみたかったのだろう。つまり、本作はギター・ソロが少ない分、ザッパは指揮と打楽器の演奏をしたと考えればよい。
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 それでロキシーでの演奏はギターの活躍が少なく、それをどのように改善すればよいかと考えた結果、「INCA ROADS」の最初をアップ・テンポにし、ルースの打楽器の活躍の場を設けると同時に、自分のギター・ソロも含めることにした。だが、そのような新ヴァージョンは『ROXY AND …』には収められなかった。まだそのヴァージョンを演奏していなかったからだろう。それでギター・ソロは別の曲から補うことにしたが、それは新曲ではなく、「OH! NO!」や「TROUBLE EVERY DAY」というかなり古い曲となった。ただし、新バンドと新時代用にアレンジを施したのは言うまでもない。さて、ザッパのギター・ソロについてルースは書いている。彼女はキーボード奏者のイアン・アンダーウッドの奥さんだが、1971年の映画『200 MOTELS』の時点ではルース・コマノフという名前であった。彼女が最初にザッパのステージに接したのはニューヨークのガリック劇場での公演というから、1967年の春で、当然その場にイアンがいて、ゲイルとも知り合ったに違いない。イアンとは同じ音大の学生であったのだろう。イアンはマザーズに在籍するし、それにルースも加わり、そしてイアンが抜ける。本作はイアンが抜けた状態のマザーズだ。ザッパが多彩な打楽器を持ち込む曲を書いたのはルースとツアーをしたかったからかもしれない。才能と人柄に惚れたのだろう。ルースはそれに応えた。その証が本作だ。だが、ルースは自分の演奏のミスやまたあまり聞こえないことに不満で、それもあって本作を発売したいというゲイルの思いに最初は反対した。ルースは本作の演奏中は自分が担当する楽器の音色を一番よく聴いていた。それは自分が主役というのではないが、自分のパートがザッパの曲には重視されているという嬉しさを感じさせたはずで、それが本作を聴いていささか自惚れであると修正の気分が働いたのではないか。録音は生演奏以上にはなり得ない。たとえばルースは5曲目「DOG BREATH VARIATIONS/UNCLE MEAT」を聴いて自分のパートが色褪せていることに不満なようだが、ジョー・トラヴァースによれば彼女の打楽器は1トラックにまとめられているとのことだ。それではいかに多くの打楽器を担当していても、ミキシングでそれらを際立たせることは出来ない。ルースにすれば実際はもっとカラフルな色合いをした演奏のはずが、当時の録音技術の限界も手伝ってデジタル時代になっても復元出来ない。ちなみにブックレットには16トラックで毎秒30インチの速度で録音したとある。メンバーは8人で、ひとり1トラックとすれば8トラックで間に合う計算だが、ふたり編成のドラムスだけでも6トラックは必要ではないだろうか。ともかく、ルース用に1トラックであったのは惜しい。デジタル録音に馴れた耳からすれば、本作は音の厚みはあるが不鮮明と感じるところが多々ある。別の言葉で言えばクリアでないということだが、ルースが担当するヴィブラフォンやマリンバはそのクリアな響きが持ち味の楽器で、それが減じているのであればルースが好まないのはわかる。ただし、ルースはバンド全体の演奏の迫力の点で自分の思いを覆すに至り、ファンとしてもそこを汲むべきだろう。今日は波動スピーカーでガンガン本作を鳴らしていると、家内が懐かしい音と言った。それは昔京都に来た頃の筆者が『ROXY AND …』を盛んに聴いていたからだが、それとは別に音がどことなく古めかしいと感じたのだろう。
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 40年前の演奏はやはり古い。時代を超越したザッパであるとファンは思いたいが、40年前を刻印していることは確かだ。ただし、ルースも書いているように、当時誰が本作のように数多くの打楽器を持ち込んだ楽器編成でライヴ演奏を行なったであろう。その点はザッパは時代の流行を意識せず、自分の好みが基準であった。時流に流されないとする態度は時代を超越した作を生むであろうし、その点で本作や『ROXY AND …』は当時を刻印しながらいつの時代でも新しさを感じさせる。さて、ザッパのソロは3「PENGUIN IN BONDAGE」に続いて6「RDNZL」でも披露される。この曲はアルバム『STUDIO TAN』のヴァージョンより格段に熱がこもり、またテンポも速い。最後辺りでナポレオン・マーフィ・ブロックの即興の掛け声が入るが、マイクから遠いのか、スイッチがオフになっていたのか、ほとんど聞こえない。他の曲でも同様のことがあり、この点は興を削ぐ。8「ECHIDNA‘S ARF(OF YOU)」と9「DON’T YOU EVER WASH THAT THING」のメドレーは『ROXY AND …』とほとんど変わらない。楽譜を猛烈に練習しなければ演奏出来ない曲の代表格だろう。それでいて全体に飛び抜けて明るく、楽しい。7「VILLAGE OF THE SUN」とともにロキシーでのライヴを代表する曲となっている。10「CHEEPNIS-PERCUSSION」は3年後のニューヨークでのライヴで演奏されるテリー・ボージオの「BLACK PAGE #1」の先駆的なものとしてよい。打楽器のみで次曲の「CHEEPNIS」を演奏しており、いわばザッパの曲のリズムの骨組を見せようとする。これは楽譜が整っていることを示している。ドラムスやルースが担当する打楽器はすべて楽譜の小節にしたがって奏でられる。そのため、カラオケとして使える。案外この曲でザッパはルースとともに打楽器を奏でているかもしれない。12「DUPREE‘S PARADISE」は15分12秒で本作では最長、各メンバーのソロを披露するための曲だ。最初の数分はジョージのアヴァンギャルドな演奏と歌で、その後主題が入り、ナポレオンのフルートのソロが始まる。ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンのように声を交えた吹き方で、これはザッパのアルバムでは他に例がない。次にベースのソロに移り、その最後はルースのマリンバが加わってユニゾンで「MONTANA」の中間部のメロディを奏でる。それが終わってザッパのギター・ソロ、そして主題が回帰して終了する。最後は「キング・コング」と「チャンガの復讐」「ミスター・グリーン・ジーンズ」のメドレーで、どれも猛烈に演奏が速い。「キング・コング」ではトロンボーン、キーボードのソロが順にあり、「チャンガの復讐」ではザッパがソロを担当する。「ミスター・グリーン・ジーンズ」はルースのパーカッションが目立ち、元来明るい曲がさらに輝きを増している。最後にクラシックの名曲「ツァラツストラはかく語りき」の冒頭部の引用が顔を覗かせるのは、アンデスの地上絵(CARVED IN THE ROCK)にUFOが離着陸する様子を歌う「INCA ROADS」や怪獣映画の気ぐるみの安っぽい仕立てに言及する「CHEEPNIS」との関連を考えてのことだろう。それはさておき、ロキシーで「ミスター・グリーン・ジーンズ」が演奏されたとは知らなかった。筆者はこの曲が大好きなので、独立させてもっと長く演奏してほしかった。本作を聴くと、この40年があまりに短かったような気がするが、ともかく長生きしてもっとザッパの埋もれた演奏を聴きたいものだ。ゲイルはその点どう考えているのだろう。
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by uuuzen | 2014-03-28 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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