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●『福寿草』
役が決まって悪役のチェ・ユラ役ことユン・アジョンが囚人服姿で刑務所の雑居房に看守から突き押されて転がり入る場面が最終回にあった。その場面を見るまでが長かった。



全144話だ。1回につき30分の放送であるため、毎回あっと言う間に終わるのがよかったが、週5回の放送で、最終回まで半年以上かかった。このドラマが終わってまたすぐに別の韓国ドラマが自動で録画されている。それを見始めるのはいつのことやらで、長編の時代劇を2本並行して見るのが精いっぱいだ。それはともかく、見終わったものから順にこうして感想を書いておかねばすぐに忘れてしまう。この『福寿草』の「福寿」は韓国語の発音で「復讐」と同じだそうで、正月のまだ寒い頃に咲くこの小さな黄色い花を希望に見立てて主役のソル・ヨナ役のイ・ユリがチェ・ユラに復讐を誓う。最初このドラマが始まった時、タイトル・バックの映像やイ・ユリのあまりにも目の周りが黒い化粧に見る気がしなかった。「暗黒ドラマ」という感じがしたからだ。復讐劇であるので一言すればそんな名称がふさわしいかもしれないが、他の韓国ドラマ以上に突っ込みどころが満載で、気分が滅入らずに済むどころか、滑稽な場面もたくさんある。笑ってはいけないのだが、監督や出演者はそういう余裕でドラマを見てほしいと考えたのではないか。しょせん娯楽のTVドラマだ。役者が頑張っている姿を見て感心し、また悪が必ず滅んで行く筋立てに安心感を得る。いつも書くように、韓国ドラマは庶民の鬱憤のはけ口であり、庶民がまともな考えや行動を自覚するためにうまく機能しているはずだ。もちろん、ドラマは作り話で、庶民は悪が勝ち誇る場面に満ちる現実であることを知っているから、ドラマごときでうさを晴らし、溜まった不満ガスを抜くことはとても無理だが、かといってほかに安価な方法があるかと言えば、ないのが実情だろう。それでTVドラマがささやかな楽しみとなっている人が多い状態は、韓国の現実社会の厳しさと庶民がまともに生きて行こうとする方向指示のふたつを示している。この場合の庶民とは「持たざる者たち」のことで、権力者や金持ちと対峙する存在だ。そういう人たちが圧倒的に多いのはどの国でも同じで、韓国ドラマが日本や中国でそれなりに歓迎されている理由はそこにある。筆者は日本の大金持ちや社会的地位の高い人たちが韓国ドラマを楽しみに見る姿を想像することが出来ない。彼らはもっと金を使った遊びをするか、いわゆる高尚な趣味を楽しむ。前述の言葉で言えば「突っ込みどころ満載」の安っぽいTVドラマなどはなから軽蔑している。なぜそんなことをわざわざ書くかと言えば、韓国ドラマは、貧しい、あるいは平均的な収入の庶民と、現実では全く出会うことなどあり得ない雲の上の存在を登場させ、後者を悪役として描き、最後は前者がそれに打ち勝つという筋立てが多いからだ。本作はその典型で、その意味で代表的な韓国ドラマだ。
 本作で権力者かつ悪の存在は、刑事と何と裁判官で後に国会議員に当選する人物で、本作を見る庶民はこうした権力者批判の筋立てを大いに歓迎するのではないか。もっとも、刑事や裁判官のすべてがどの国においても本当は悪人であると本作が訴えたいのではない。そういう連中も法律の番人に混じっているという「現実」を示したいだけだ。こう書くと「まさか」と思う人があるだろう。だが、日本でもたまに事件を起こす裁判官や刑事はいるし、教育者が教え子を犯すことはもう珍しい記事にはなっていない。それはともかく、刑事と裁判官の家族が『結託し、本当の犯人である裁判官の娘チェ・ユラの罪を隠し、何とそれを裁判官の再婚相手の連れ子であるソル・ヨナになすりつけ、有罪と宣告して刑務所送りにするのであるから、本作は始まった途端、どう考えてもヨナが万事休すであり、とてもユラに復讐することなど不可能と思ってしまうが、144話もあるからには、ヨナが知恵を絞り、それを次々と打ち破って身の安全を確保し続けるユラとの「女の戦い」がえんえんと続くことは誰にでも想像出来る。またそれがわかってしまうと144話も見る気がしないということになりかねないし、実際途中でいささかだれる場面もあるが、後半に入って新たに重要人物を登場させ、物語をユラのヨナに対する復讐劇とだけにはせず、込み入った展開を繰り広げる。それは一言すれば、ユラとヨナを取り巻く人物たちの出番が多くなることで、誰が主役かわからないような状態になって行く。最後はどうなるか誰しも予想がつくが、最終回まで見る者を惹きつける力が本作にはある。とても拙い作り方がなされている部分がかなり目立ちはしても、それはそれでひとつの見る側の気持ちの余裕として、つまり「見る楽しみ」として働く。本作はあまりの悪女ぶりのチェ・ユラに対して誰もが憎たらしい女優の代表格として見るはずで、家内もそうであった。だが、筆者は演じたユン・アジョンははるかにイ・ユリより美人で、また韓国では珍しい個性的な顔に思えるから、彼女見たさに最後まで楽しんだと言ってよい。それで彼女のことをネットで調べてもほとんど情報がない。悪女役専門は人気がないのだろう。イ・ユリは悪女も演じられるそうで、その意味ではユン・アジョンより俳優としては格が上だが、男から見た女っぽさから言えばユン・アジョンの方が数倍上だ。猫のようなと言えばよいか、よい意味でも悪い意味でも色っぽい。また、本作での彼女の演じどころは、完全な悪者というより、たまたま事故を起こしてしまって後戻り出来なくなったという面が大きい。つまり、裁判の際は情状酌量がなされる罪だ。ところが最終回では終身刑を宣告される。これが多少意外であったが、数々の悪行と照らせばそのような刑を宣告せねば本作を見る人たちが承知しない。
 本作はちょうど輪を描くように最後はユラが監獄入りするが、その描き方で面白かったのは、数人の先輩格の服役者と同じ部屋で、彼女たちから何度も暴行を受けることだ。同じことをドラマの最初の方ではヨナが味わう。そこでヨナが取った態度は先輩格から少しずつ理解を得て、やがて全員を味方につけることだ。しかも先に出所した女性はヨナが仮釈放された時の身元引受人となり、その後ずっとヨナの味方をしてユラへの復讐を助けることだ。それと同じようなことがユラにも出来るかと言えば、まずそんなことはあり得ないだろう。何しろ彼女は最高裁判所の裁判官のひとり娘だ。人のものであっても、ほしいとなれば何でも手に入れる欲張りとして育った。それは彼女の責任であるが、本作では裁判官である父は同居している母すなわちユラの祖母が家では圧倒的な力を持ち、わが子と孫をさんざん甘やかして育てたことが描かれる。この設定は韓国ドラマではごく普通にあって、長老者が若者に対して威張ることは儒教社会の当然の習慣で、そしてそういう古い習慣の弊害を描く。長老格のよいところもあるが、韓国ドラマを見ていると、悪く描かれる場面の方が多いように感じる。そこには韓国社会の揺れる価値感が見え透く。儒教のいい面もあるが、悪い面もあるという見方で、それは年長者と若者の価値観の対立であり、それをどのドラマでも大なり小なり盛らないことには、老若男女がドラマを見てくれないとの思いもあってのことのはずだ。ともかく、ユラは金持ちの娘として育ったはいいが、いじわるで強欲となったのは祖母の育て方が悪かったという設定で、最終回では祖母が土下座をする場面がある。わが子も孫も刑務所送りになったのであるから、そのように覚醒しなければ救いようがない。そうそう、このドラマはほかにも悪役が登場するが、刑事以外は全員が心を入れ替える。これは後味のよさを残すには必要な設定だ。先に書いたように、ドラマが始まった当初はヨナの周囲は悪役か、誤解する者ばかりで、ヨナの無実を信じる者がいないことに気分が重くなるが、福寿草が雪と氷の中から花を咲かせるのと同じように、次第に協力者、理解者が増えて行く。つまり、徐々にドラマが明るい方に進む。とはいえ、ユラも周到で、うまく立ち回って尻尾をつかませない。そのユラやその家族の弱みにつけ込むのが刑事で、上には上の悪がある。ところがその刑事はギャンブル好きで、自滅して行き、最後近くには刑事を辞めて国会議員になったユラの父の秘書になり、悪が一丸となる。
 もうひとつの復讐劇は最初ヨナの恋人であったハ・ユンジェがユラの言い寄りにころりと参ってしまい、ヨナを裏切ってユラと結婚してから始まる。誰が誰に復讐するかと言えば、ユンジェは継母と豪邸で暮らしているが、ふたりは折り合いが悪い。継母には連れ子でユンジェと同じほどの年齢のチェ・ガンウクがいる。継母は会社をユンジェではなく、実の子のガンウクに譲りたいと考えている。また、ユンジェには妹がひとりいて、彼女はヨナの会社の上司で、ヨナとは折り合いがよくない。同じ会社にユラも勤務していて、ある日ユラは誤ってユンジェの妹を車で轢き殺してしまい、その罪をまんまとヨナになすりつけることに成功する。誰ひとりとして味方のいなくなったヨナは服役するが、刑務所にいる間にゾルバと名乗る男から励ましの手紙が届くようになる。ゾルバはガンウクだが、正体を明かさない。ガンウクはユンジェの妹を轢き殺したのはユラであることを知るのに、ヨナのために何もせず、ヨナは無実の罪ながら服役することになった。ガンウクはドライな性格で、ヨナが服役することに何ら関心はなさそうなのに、ある日ヨナのためにゾルバとなって励ますようになる。これは理解に苦しむ行為で、ガンウクの人格をうまく説明していないように思える。筆者は最初そのように思った。だが、ガンウク役はチョン・チャンが演じ、彼はどのドラマでもフランス映画にありがちな複雑な人格を担う。最初はヨナのことを何とも思わなかったのに、ある日急に彼女のことが気になり始めたということは、現実にはあり得るだろう。良心の呵責があったと考えてもよい。ともかく、本作ではヨナの強い味方となってガンウクはその後も動く。ところがヨナはゾルバには憧れがあるものの、ガンウクが裁判で真実を言わなかったことに幻滅している。そこにヨナとガンウクの思いの違いがあるが、それは最終回までそのまま続き、ガンウクは結局はヨナを助けるために犠牲となって死んでしまう。ガンウクが男の登場人物では一番人間らしかったということだ。ガンウクがそのように犠牲になるのは、母すなわちユンジェの継母が大きな罪を犯したことを知ることからして、ドラマ仕立てとしては当然と言える。継母はユンジェとその妹の母を殺し(たと思っている)、それで夫を寝取って再婚したという筋立てで、てっきり死んだと思っていたユンジェの実の母は大金持ちとなって外国から帰国し、継母に復讐するようになって行く。「なって行く」というのは、最初ユンジェが自分の息子とはわからないからだ。継母を演じる女優は何という名前か知らないが、彼女の顔はフェイス・リフトを数回施したような整形顔で、まるで仮面のように表情が固定していて正視するのが気持ち悪い。いかにも悪役にぴったりだ。だが、ガンウクを失い、財産もなくしてからはノーメイクで登場し、それがまるで別人であることに驚かされる。そして化粧しない方がはるかによく、また整形したように見えない。ということは、悪女を演じるために濃い化粧で通していたのだろうか。
 この継母もわが子だけには絶対的な愛情を注ぐ。その姿はユラの祖母と同じだ。そして本作ではもうひとつの母性愛が描かれる。それはヨナが服役する前にユンジェの子を妊娠し、刑務所内で生まれる男子テヤンだ。テヤンは太陽を意味する。これは福寿草が黄色で、新春の太陽をイメージさせることにつながっている。刑務所内で生まれた子は2歳になれば養子に出される。ユラはユンジェと結婚したはいいが、妊娠しない。ヨナへの嫉妬もあって、ユラはテヤンを勝手に養子縁組させ、イギリスで生活させる。思い切って殺してしまわないのは、愛するユンジェの子であるからだろう。だが、ユンジェはヨナが妊娠、出産したことを知らない。このドラマではユンジェは全くの鈍感で頼りない男として描かれる。ヨナは彼と結婚したかったが、ユラと暮らすようになってからは熱が一気に冷めたという形だ。さて、テヤンは次第に成長し、言葉を話すようになる。また、育ての母親とは別に、たまにユラはテヤンと面会するから、テヤンはユラをおばさんと呼んでなつく。なつかれるユラの揺れる心が面白い。本当ならば自分がユンジェの子として産みたかったのに、もはや妊娠しない体のようだ。そうこうしている間にテヤンはユンジェにも会い、やはりなつく。ユンジェは実の子であることも知らずにテヤンをかわいがる。一方、ヨナはテヤンは死んだものとばかり思っていたところ、生きていたことを知る。そうなればヨナはテヤンを取り戻すのは当然だが、そこで誰しも憐れに思うのはテヤンの心だ。ヨナが実の母親を名乗っても、テヤンは全く知らない女性だ。そんなことでヨナとテヤンが親子として何事もなかったかのように生きて行くことが出来るか。そんな心配をする。だが、どんなことがあっても実の親と子は一緒に暮らすべきだ。本作ではテヤンは気後れせずにヨナを母親と呼ぶようになる。それは少し出来すぎの感がしないでもないが、ハッピーエンドにするにはそれしか方法がないうえ、子どもの心中まで察することは本作の目指すところではない。復讐の犠牲者のテヤンではあるが、その名のとおりに明るくヨナと一緒に暮らして行くと想像するしかない。ユラは悪者であること確かだが、先に書いたように祖母の育て方の犠牲者であり、また故意に悪いことをしたのではなく、たまたまそうなってしまったという運の悪さのせいだ。そして、ひとつ自分につごうの悪いことが起こると、それを隠すために別の悪事を考える。その負の連鎖が高じてついに父は逮捕され、人生を棒に振った。父は娘の悪事を正直に裁けばよかったのに、わが子かわいさのあまりヨナを犯人に仕立て上げる。どのような親でもわが子のこととなると盲目ということか。韓国では日本以上にそれが強いようだ。自分の子や親が悪いことをしたとして、それを隠すのが儒教の正義なのか、それとも役所に訴え出て裁いてもらうのがそうなのか。これは儒教社会では古来問われ続けていて、そのことを主題にしたドラマということが出来る。
by uuuzen | 2014-03-13 22:50 | ●鑑賞した韓国ドラマ、映画
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