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●飾り馬を求めて、その13
落した絵具の跡を見ると、どうにかして元どおりの姿に戻してやりたいと思う。だが、その手間と時間を考えると実行に移す気にはなれない。



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一昨日、何年か前にネットで買った伏見人形で高さ20数センチのものを手に取った。汚れが大きく、かなり安く買った。新品ならば今では丹嘉は2万円以上するだろう。汚れを水で濡らした綿棒で丹念に除去すると、彩色された当初の姿を取り戻したかと言えばそうではなかった。全体に直径2,3ミリの染みがあって、たぶん雨に濡れたことがあるか、水気の多い場所に飾られていた。その染みを取ると、その部分の絵具が剥げた。衣服の部分はあまり目立たないが、真っ白な童子の肌は憐れに見える。その部分に胡粉か白の絵具を塗り込もうかと思いながら、そのまま放置していた。経年変化で肌の白はくすんでいる。そこに真新しい白点を埋め込んでも元の姿には見えない。そうなることがわかっていたのに、一作日は背面を試した。やはり駄目で、また放置することになるが、以前よりかえって見苦しくなった。そこで修復といった考えを捨て、全体を水に漬けておいて絵具をすっかり洗い流し、素焼きの状態に戻してから一から彩色するしかないと腹をくくった。そうしたいのは別の理由がある。童子なので、御所人形のように肌を真っ白に塗ったものだが、どうもその人形の題材からはそれはふさわしくない。筆者なら金太郎とまでは言わないが、逞しい肌を表わすために日焼けした肌に見えるような色を塗りたい。伏見人形にはそういうものもある。そして白をたとえば肌色にすれば、他の部分の配色も変えねばならない。そう考えると、すぐにでも実行したくなるが、ま、じっくり考えてからやろう。というのは、水に漬けるのは勇気がいるし、絵具が全部きれいに流れてくれるかどうかわからない。ともかく、もしそのようにして自分の好みの配色で塗り直せるのであれば、とても安価で売られている汚れや絵具の剥落がとても多い伏見人形を蘇らせることが出来る。それは罪なことだろうか。筆者はそう思わない。丹嘉の彩色が唯一の正解とは限らないことは古い人形を見ればわかる。それはさておき、今日は「飾り馬を求めて」の彩色の続きを紹介する。このシリーズは年内にもう一回書くつもりでいるが、今日がほとんど最終回でもある。
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 前回は友禅の彩色を伏見人形の彩色に適用出来る考えを書いた。簡単に言えばそれは白や黄色から始まって順に濃い色を塗ることだ。もうひとつ考えねばならないことは、キモノの場合とは違って伏見人形は彩色したままの状態が仕上がりであるから、塗った色が別の色の箇所を汚さないように、どこをどう持ちながら作業を進めるかだ。ポスターカラーは水で薄め過ぎると少し擦れただけで色が落ちる。これは顔料の接着剤の役目を果たしているアラビア・ゴムの濃度が低いからで、なるべくならチューブから絞り出したままの濃いものを使う方がよい。パレットにそうして絵具を絞り出し、そのまま1日放置するとそれが固まることを誰でも知っている。それと同じ原理を人形上に作り出せばよい。だが、あまりに濃いと、絵具がひび割れすることもまた誰でも知っている。伏見に限らず、土人形にはそのような無残な姿を晒しているものをよく見かける。絵具が剥落した箇所を見ると、厚さが0.3ミリほどはあるようで、色を合わせるのもさることながら、その絵具の層と同じ厚さの濃度を作り出すことの困難さを思い、それで修復には二の足を踏み、それならばいっそ全体の絵具を落としてしまう方がいいように思える。さて、筆者の「飾り馬」は最初に全体に白を塗った。やや厚めに塗ったつもりであったが、水で薄く溶いた方が仕事は早いから、そのようにしたものもある。するとそれがどうなったか。濡れた手ではないのに、触っただけで手が白くなる。こういうことを防止するために樹脂性の絵具を使う場合もある。丹嘉はどうか知らないが、樹脂顔料のみで郷土玩具を作る人がいる。油絵具の代わりに樹脂絵具を使うことが目立ち始めたのは70年代後半からと思うが、今ではその傾向はもっと強まっている。なので、郷土玩具がそうした絵具を使うことも責められない。そうそう、丹嘉が明らかに樹脂系の顔料を使っている。俵牛の俵に彩色に用いられる緑の線がそうであった。一部がなくなっているのを見かけ、まだ残っている端をそっとつまむと、人形にくっついているべきその線がビニールが伸びるように剥がれた。その色だけならばいいが、ひょっとすれば俵の黄色やその他の色も樹脂系を使っているかもしれない。そうなると、水に漬けても容易に素焼きの状態には戻らない。素焼きの肌の奥にまで絵具が浸透し、像の全体を薄く削る必要があるかもしれない。話を戻して、白の次に塗った山吹色はかなり濃かった。これはわかってもらいにくいと思うが、今日の5枚目の写真を見てほしい。馬の腹、すなわち馬をひっくり返さねば見えない裏側に1ミリほどはみ出る形で山吹色を塗ったところ、次の彩色の段階でその箇所が左手で擦れて白い箇所を薄く黄色にしてしまった。硬い刷毛で擦るとそれは落ちる程度だが、真っ白な部分なのでどうしても少しは黄色が滲んだように見える。これは濃い色でも擦れば色が落ちることを示しているが、それはどの色でもとは限らない。黄色が特にひどい。そして、塗り終えた箇所はなるべく触らないように心がけたが、それでは仕事にならないから、とにかくほかの場所に色が移らないように注意した。
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 一番厄介なのは黒だ。これは墨でもいいかもしれないが、ポスターカラーの方が真っ黒に仕上がる。丹嘉の「飾り馬」ではその黒は少し光沢がある。また、細かい砂子を振っているが、光沢はその金粉を接着するための溶剤すなわち樹脂のそれであることは確実だ。砂子を振ると豪華になるし、また樹脂系の接着剤のために濃い黒が薄い皮膜で覆われる形になって、買った人がその黒の部分を持っても指に色がつかない。そのため、黒は濃度が高くてもかまわない。今日の最初の写真は鞍と鐙を黒で塗り終えた状態だ。黒がとても違和感があると家内は言ったが、「金粉で半分近くは隠れるのでかえって真っ黒がよい」と返した。丹嘉製では鞍と鐙の色は別々になっている。だが、豪華な「飾り」であるためには、これは対であるべきで、またどちらにも金粉を施すべきだ。2枚目の写真は鞍のみ金粉を振っている。丹嘉は非常に細かい砂子で、筆者もそういう振り筒を持っているが、豪華に見せるために粗い目のものを使用した。金粉を振る前に樹脂系の接着剤を黒の部分全体に塗る。すぐには乾燥しないが、なるべく早いうちに砂子を振る。そうして乾燥させ、もう一度全体に薄めの接着剤を塗布した。ところがこれは乾くとやや白みを帯びる。そのため、せっかくの真っ黒な部分が霞がかかったように濁った。そこで綿棒でまた全体を濡らしながら接着剤の効果を弱めた。時間が経過するほどに膠着するので、数時間以内のうちがよい。そうしてまた乾燥させ、硬いブラシでごしごし擦って接着不全の金箔を落としてしまう。その後はそうとう強い力で擦っても金粉は剥がれない。丹嘉製もよく金粉を使っているが、接着が弱く、買った途端にぽろぽろと剥がれ落ちる場合が多い。これは不親切で、絵具以上に剥がれないようにすることは可能だ。3枚目の写真からわかるように、最後に塗ったのは下半身の赤だ。この色はかなり悩んだ。丹嘉製は洋紅をそのまま使っている。筆者はそうはしたくなかった。朱も鮮やか過ぎる。そこでほとんど茶色に見える煉瓦色といった感じにした。この下半身の色で全体の印象が決まるほどに重要で、最初は上半分を白にするつもりでもあった。だがそれではその白の部分に何か模様を施さねばならない気がして、それが面倒なのでやめた。また、この赤の部分には二段の帯状に砂子を振ったが、これは下絵なしで、ぶっつけ本番に筆で接着剤を塗り、すぐに筒を振った。
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 こうしてすべて塗り終えたが、下半身の赤は濃度の高くし、接着性をなるべく強めた。そして、塗り終わったその赤で気づいたが、触っている間に色落ちせず、照りが生した。それが一種磁器めいて見えるので、全体を硬い刷毛でごしごしと擦って光沢を出した。山吹色や抹茶色の部分も同じようにすぐに光った。丹嘉製はそのようなことはしていないが、触って絵具が指につくことが嫌いな筆者は、刷毛で擦ることで、落ちるべき絵具は落とすと同時に照りを出させた。また、濃い色に白が落ちて移っては困るので、背面の白はもう一度樹脂性の接着剤を少し混ぜた白の絵具を塗った。そのことですっかり白も定着した。また房紐の朱や群青色もそのままでは落ちる可能性があるので、樹脂性接着剤を薄く塗布しておいた。最後に仕上げで、馬の目は早い段階で入れたが、馬はまつ毛が目立つので、それを意識して上まぶたを太い黒線で引いた。丹嘉製はそのようなことはしていない。鐙が当たる部分の山吹色はそのままでもよかったが、豪華にするために唐草文様を抹茶色で描いた。これは16個すべて即興で引いたので、同じ形のものがない。尻の上の水色の広い箇所は、古いものでは丸に十字文を描いたものがよくあるが、ここ2,30年の丹嘉製は無地のままにしている。それはどこか間が抜けた印象がする。そこで何かを描くことは最初から決めていたが、適当なものと言えば、宝珠しか思い浮かばない。そこで銀と金で1個描くことに決めた。最初に手がけたものは馬の縦中心線で左右対称になる形であった。だが、それでは飾った時に向こう側半分が見えない。そこで非対称に置いて描くことにした。それは3枚目の写真を見てのとおりで、馬の顔が向かって右に向いている時に、手前側すなわち鑑賞者に宝珠の胴体全体が見えるように配した。そうそう、重さのことについて書かねばならない。1個ずつ計量して重さを記した紙がある。それを次回までに見つけておこう。
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by uuuzen | 2013-12-16 22:52 | ●新・嵐山だより
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