●『ROAD TAPES #2』その3
母は発酵の母。酵母はザッパの妻ゲイルで、発酵は発行とみなしてよい。『ROAD TAPES #2』は40年前の録音で、それを今頃になってアルバムにするのであるから、ザッパ・ファンは長生きせねばならない。



先頃はビートルズのBBCでのライヴの第2集が発売され。それはもっと古い録音だが、ビートルズというだけで売れる。筆者のようにビートルズの新作が出ればすぐに聴いた第一世代は特にそうだろう。だが、そういう世代は還暦を過ぎているから、ぽつぽつと死んで行く者も多く、レコード会社にすれば買ってほしい世代はもっと若いはずで、新世代にビートルズを聴いてもらうためのあの手この手の手法が使われ続けて来ている。今月来日したポール・マッカートニーはウィングス時代とは違って、ビートルズ曲を演奏することに積極的で、それがまたビートルズの人気を持続させる。忘れられないように絶えず宣伝し続ける必要がある。その点はゲイルも考えている。それでせっせと録音を聴き直し、アルバムとしてふさわしいものを選ぶ。だが、ビートルズのファンのように若い世代が熱心にザッパの曲を聴く例がどれほど多いのか少ないのか、見当がつかない。とはいえ、1000ドルで売り出した『ROXY BY PROXY』がおそらくゲイルの予想に反して、早々には1000人の予約がなかった。それで予約期間を延長し続け、ようやく予約を締め切ったが、その人数を公表しないところを見ると、散々な結果ではなかったか。そのことだけでザッパの音楽を聴く人がごく限られるとは言えないだろう。CDを買わずにYOUもTUBEで音楽を楽しむ人は多いはずで、一昨日書いたように筆者も最近はそうしている。CDをいちいち取り代える手間が不要で、しかもCDになっていない音源もふんだんにある。それに何より無料だ。そんな時代に1000ドルを支払って『ROXY BY PROXY』を買い、それを複製して販売しようという若者はまずいないのではないか。CDが売れないという声を聞いて久しいが、YOUTUBEはそれに拍車をかけている。『ROAD TAPES #2』もひょっとすればすでにアップされているかもしれない。ゲイルにすればザッパの遺したテープをアルバム化することで食いつなごうと思っていても、それが芳しくないことになって来ている。それに何より、ゲイルもファンも高齢化している。現在の発売の調子では今後10年や20年で何枚のアルバムが発売されるのか計算出来るし、しかもそれは70代、80代まで長生きしての話で、そう思えば年に2,3回手元に届くザッパの新譜はいとおしい。そういう感慨は若いファンはないかもしれない。だが筆者は若いファンをうらやましいとは思わない。73年という時代を生き、当時のザッパの録音をリアル・タイムで聴いた経験は若いファンは想像するしかないし、本作を聴く時も73年頃の筆者の生活を思い出して懐かしいというのでは全くなく、当時が古びずに今と直結していることの不思議さの方こそを思う。筆者にとってそういう感覚を与えてくれるものはザッパの新譜が一番大きい。とはいえ、それは個人的なことで、人それぞれにザッパの音楽に対する思いがある。
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 酵母のことを最初に書いた。人間も発酵するのか、老いるとそれなりに深い味が出る。「不快」味の場合もあるが、ま、それも「深い」と言ってよい。YOUTUBEが面白いのは、たとえばポール・マッカートニーの演奏する姿がウィングス時代のものと今年のものが並列されることだ。誰が見ても若い頃の姿と71歳の現在の様子が違うことはわかるし、老いた状態から逆に若い頃に時代が進むとは思わないが、若い頃も老いてからもそれなりの持ち味があって、どちらがいいとか悪いとは一概に言えない。とはいえ、「深い」味と思うか、「不快」味とみなすかは人によりけりで、特に若い人は老人を老醜と思って歓迎しないだろう。それは自然なことだ。また、老いの「深い味」は老いに至るかその境地が間近に迫らねば本当にはわからないだろう。今日筆者は自分の両手を見ていささか驚いた。皺が目立つからだ。数年前はそんなことはなかった。それが還暦を過ぎるとやはり正直なもので、あちこち老いの兆候が現われる。その皺を「深い味」と思ってやりたいが、さて自分が何か成し遂げたかと思うと愕然とするので、「不快味」の方が頭をもたげる。それはともかく、数十年の演奏の経歴を持つミュージシャンが、YOUTUBEでたちどころに新旧の演奏の様子が比較される時代になったことと、本作のようにザッパの40年前の演奏が公式発売されることは、いかにも同時代的と思えるが、YOUTUBEがない時代にすでにザッパは古い録音をアルバム化していたから、本作は回顧的というより、先駆的な印象が強い。だからこそ前述したように、本作を古いものとしてではなく、きわめて現在的な音楽に思える。だが、現在的を言えばYOUTUBEで並列表示される数十年前の演奏もそうで、本作を聴いていると、やはりYOUTUBEを連想する。「酵母」から始まっておかしなことを書いてしまった。干し柿のような「発酵」した食べ物を「深い味」と思うか「不快味」と思うかが人によりけりであるのと同様、本作もそうであるはずで、ビートルズほどではないが、ザッパの音楽を熱心に聴く若い世代もいるだろう。そういう人たちに何か言いたいことがあるかとなれば、ないのが実際のところで、ただひたすら楽しめばよい。そして、その要素が本作には多い。
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 昨日はディスク1についてざっと書いた。その前半について少し書いておくと、1曲目「INTROCIOUS」はザッパによるメンバー紹介で、これが5分もあり、その最後で演奏曲目を述べる。メドレーで演奏するので、8曲の題名を立て続けに言うところが面白い。これは当時の熱心なザッパ・ファンでも覚えられないし、本作を聴いていてもどこから曲が変わったかすべて言い当てることは難しい。こういうことはビートルズやポール・マッカートニーの舞台ではあり得ない。来日公演では新曲も披露したようだが、それはすぐにわかる。本作の場合、新曲は3「KUNG FU」、4「PENGUIN IN BONDAGE」、5「EXERCISE #4」、9「RDNZL」で、これらの曲がどこから始まってどこで終わったかは当時の観客にはわからなかったか、わかっても一度や二度聴いたけでは覚えられなかったに違いない。その混沌としたところがザッパの音楽の魅力でもあるが、混沌と言われることをザッパは嫌ったであろう。楽譜に書いて作曲し、それを正確に演奏することをメンバーたちに求めた。即興演奏にしてもどこでそれをするかは予め決めていたし、何事もザッパの管理下に置かれた。その管理のもとでの混沌はあった。その混沌というにふさわしい曲はディスク2に用意されている。5「FARTHER O‘BLIVION」で、この曲のみショー2と3から合成されている。どこでどうつないでいるかはわからないが、筆者の想像ではショー2も3もほとんど同じ演奏で、よりいい部分を選択してつないだのだろう。本作最長の23分の演奏で、特にポンティが活躍する。この曲は、最初は「グレッガリー・ペッカリー」の主題が、途中で「ビバップ・タンゴ」の主題が現われる。どちらも複雑な主題で、それを聴いていると、その方向にその後ザッパがもっと進んでいると、ザッパの現代音楽における評価はもっと違ったものとなり、アンサンブル・モデルンのような楽団を70年代に使っていたのではないかと思わせられる。つまり、せっかくの70年代半ばであったのに、その後ファンクやロック路線に傾き、アルバムはよく売れて人気は拡大したが、奇妙な味わいの作品世界からは後退した。それはともかく、最初の主題の後、ポンティがソロを繰り広げ、第2主題の後はウォルト・ファウラーのトロンボーン・ソロ、そしてイアン・アンダーウッドのクラリネット・ソロが少し続き、その後はザッパの指揮のもと、混沌とした即興の場となるが、その奇妙な味わいをザッパは演奏中に「サイケデリック・ミュージック」と形容している。「サイケデリック」は60年代を思わせる言葉だが、ザッパに言わせると、メンバーが一体となって奏でる音色は他のバンドでは聴くことの出来ないカラフルさで、しかも幻惑的なものということだ。この曲を聴いて面白いと思わねばザッパの音楽を聴かない方がよい。実際、前述したように、本作の編成メンバーは本作のみで聴かれるもので、ヴァイオリンと金管、木管楽器が入っているので、より現代音楽的な色合いがある。そうした音色がザッパに戻って来るのはシンクラヴィアを導入してからで、本格的にはアンサンブル・モデルンと出会ってからであったが、もうその時には余命は少なかった。
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by uuuzen | 2013-11-29 23:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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