●『ROAD TAPES #2』その2
がどのように作用するのか、渋柿の皮を剥いて吊るしておくと甘い干し柿になる。筆者は干し柿が好きで毎年中国製の安いものをスーパーで何度も買う。いずれ改めて書くが、今年は初めてその干し柿作りに挑戦した。



吊るして1週間しか経っていないので、もう2週間は待たねばならない。干さない柿も好きだが、干したものはまた格別で、そのままでは食べられない渋い柿が手間をかければおいしくなることは暗示的だ。だが、手間をかけるとはいえ、空中に漂う菌の発酵作用があってのことだ。ところで、生前のザッパは膨大なライヴ録音テープを前にして、アルバム化し損ねていた音源を選び、それを『オン・ステージ』の全6集として編集した。それでいちおう同シリーズが終わったのは、ザッパに時間が残されていないと思った理由が大きいのではないか。その辺りのことについてインタヴューでどう語っているのかは知らない。同シリーズだけではあまりにも未使用の録音素材が多過ぎて、ザッパの遺族は人を雇ってそれらを少しずつアルバム化することにした。その最新のシリーズが『ROAD TAPES』で、『オン・ステージ』と同様、2枚組CDが続くのだろう。同シリーズの続編として発売してもいいように思うが、死んだザッパの編集ではないので、そこは遠慮があったのだろう。だが、ジャケットに記される『ROAD TAPES』のロゴはザッパの手になるものではないだろうか。もしそうであれば、アルバム・タイトルもまたザッパの発案と見てよい。この新シリーズは何集まで予定されているのだろう。年代を追って発売するのかと最初は思ったが、今回はいきなり73年に飛んだ。これで録音年代順の発売ではないことが明らかになった。ま、その方が次に何が出て来るかの楽しみがある。話を菌に戻すと、磁気テープは保存が悪いと黴が生える。湿気で雑音が入ることも多く、キャプテン・ビーフハートの4枚組であったか、昔発売されたボックス・セットはそのようなひどいノイズ入りの音源をそのまま使っていて、海賊盤でもためらうほどのその無茶ぶりに筆者は二回ほどしか聴いていない。ザッパはその点、自宅の地下室をテープ保管収蔵庫にし、おそらく空調設備も整えて万全の管理をしていたのだろう。それでも現在の質のよい録音からすれば、聴くに耐えない素朴な音も多いはずで、それらをCD化するにはかなり困難な事情もあったと想像出来る。生前のザッパはそういう音質改善の機器を入手し、それで『オン・ステージ』を作ったが、その後20年近く経ってそういった技術はさらに発展したはずで、それゆえに『ROAD TAPES』の発売も可能となったところがあるだろう。そういったことはごく簡単だが、今回のジャケット内部に記されている。ツアーには録音エンジニアのケリー・マクナブが同行して収録に当たったが、周囲は騒々しいし、録音操作盤は操作が厄介、おまけにテープの収録速度がまちまちで、録音はしたが、後でアルバム化するには骨が折れたのだろう。デジタル時代では想像出来ない労苦が伴ったが、CD世代にはそういうことはわからない。そしてそういう世代に音質のよさを提供せねばならないから、編集に当たるジョー・トラヴァースはザッパが編集に費やしたであろうよりもまだ多くの時間をかけてこのシリーズを世に出すことに携わっていることだろう。価格は送料込みで31.7ドルで、これを高いと思うかどうかだが、ザッパが録音したものの打ち捨てておいたテープを取り上げ、2枚のCDにひとつの自然なショーとして曲を選び、並び替える作業を考えれば、決して高くないのではないか。海賊盤や海賊テープで同じ録音が昔からファンの間で流通しているとしても、ケリーが苦労して収録した音源であるからには、比較するのが土台無理だ。ジャケットがいかにも海賊盤じみているとはいえ、それは『オン・ステージ』でも同様であったから、その素っ気ないデザインがかえって演奏に没頭する気分を惹き起こすし、なるべくザッパ以外の者が手をかける、あるいは参加するということを否定している態度は好感が持てる。ともかく、テープが長年干されていて発酵したためか、干し柿のように味が出た。録音当時すぐに、つまり生で提供するには腐るほど蓄えがあったので、干しておくしかなかったが、それがかえって隠されたよい味となった。
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 さて、ケースを開くと、左側のジャン・リュック・ポンティとルース・アンダーウッドの顔が目に飛び込む。これは本作の製作に携わったゲイルやジョーが意図したわけではない。ジャケットは三つ折りで、うち2面に本アルバムの演奏メンバー7人が勢揃いした写真が使われている。それは昔から知られているもので、同じフォト・セッションの際に撮られた別の写真、とはいえほとんど大差ないが、それが『オーヴァーナイト・センセイション』のジャケット右上に小さく描かれていた。73年のザッパが自信を持って紹介したかったバンドといった体で、実際ザッパの活動全時期において、最も強力なバンドであったのがこの73年ではなかったろうか。それは何と言っても、先頃亡くなったジョージ・デュークとジャン・リュック・ポンティを迎えたからで、ザッパにとって理想のジャズ・ロックを演奏出来る態勢が整った。デュークとポンティを迎えての録音はすでにポンティの70年発売のアルバム『キング・コング』で実行済みで、ザッパはその頃からふたりを迎えてツアーに出たい考えを持っていたに違いない。もともとデュークとポンティが仲がよく、ふたりでアルバムを作っていたが、そのふたりをそっくり引き抜いたのは、楽譜通りに演奏出来る技術を見込んでのことで、ザッパにとっては他のどんなミュージシャンでも演奏出来ない複雑な曲を試す機会が訪れた。その意味で、本作はデュークとポンティが目立っているのは言うまでもないが、ポンティが奏でるフレーズを即座にデュークが拾って真似るなど、ふたりの息はとてもよく合っている。それだけでも本作が今までにないザッパのアルバムと言うことが出来る。実際、ポンティの即興演奏をこれほどに含むアルバムは今までになかった。74年になると、イアン・アンダーウッドがドン・プレストンにバトンタッチし、またポンティが抜けて代わりにヴォーカルも担当出来るナポレオン・マーフィ・ブロックが登場、さらにドラムスはもうひとり増える。そのことからわかるように、本作はドラムスがやや引っ込んでいる印象があるし、またほとんど歌がない。いくつもの鍵盤楽器を担当しているデュークひとりで何曲も歌うのは大変で、歌専門のミュージシャンの起用は必然であった。それはアルバムを売るためには当然で、本作はその意味で当時アルバム化していたとしても、売れ行きは芳しくなかったと思える。1年後の収録になる『オン・ステージ第2集』と本作を比べると、前者は演奏速度が猛烈に速く、また歌が目立っている。それこそがザッパの理想的なバンド編成であったのだろう。となると、本作は同作を生むための助走であったことになるが、同作より劣るというのではなく、ムードが違っているだけと言ってよい。それは同作にはない曲や演奏フレーズなど、仔細に見ればザッパの試行錯誤の跡がわかり、いわゆる「ミッシング・リンク」を埋めることに一役買っている。
 『ロキシー・アンド・エルスウェア』は曲の合間に観衆に向けての小話がたくさん挟まれている。それが『ROXY BY PROXY』ではおそらく皆無に編集されているのだろう。本作は全体に語りが目立つ。他に『ロキシー・アンド…』と似た部分はたとえば怪獣映画に言及していることだ。ただしそうした映画について歌う「CHEEPNIS」は収録されていない。その代わりと言ってよいか、ディスク1の11曲目に「POJAMA PEOPLE」の歌詞が登場している。この曲が正式にアルバムに収録されるのは75年のことで、本作のヴァージョンとはかなり違う。本作ではほとんど語りに近く、それは80年代になってアルバム『ユートピアから来た男』に収録されるような、語り調の即興曲につながって行く。この11曲目は「YOUR TEETH AND YOUR SHOULDERS AND SOMETIMES YOU FOOT GOES LIKE THIS…/POJAMA PRELUDE」という長い題名になっているが、最初にザッパが語るように、次に演奏される「DUPREE‘S PARADISE」の冒頭部分だ。演奏時間は10分強、大半はジョージ・デュークのソロで、73,4年バンドは必ず彼にそのような場が設けられたほどに、ザッパは才能を高く買っていた。11曲目が終わるとすぐに「DUPREE‘S PARADISE」の主題が始まり、16分ほど続く。最初はポンティのソロで、途中で「キング・コング」の主題を変奏する。その辺りを聴いていると、彼のアルバム『キング・コング』を思い出す。ヴァイオリンの次はウォルト・ファウラーのトロンボーンのソロ、そしてザッパのギター・ソロが続き、デュークは相変わらず主役のソロのメロディを時になぞりながら演奏の手を休めない。ザッパのこの曲での演奏はディスク2で演奏される「BIG SWIFTY」の主題をほんの少し奏でたり、また「DUPREE‘S…」の主題音階とは本来明らかにそぐわない旋法を奏でるなど、かなり実験的だ。ディスク1の最後は13曲目の「ALL SKATE/DUN-DUN-DUN(THE FINISH HIT SINGLE)」で、ザッパ・ファンが知らない題名だ。これは14分もある。最初の数分はおそらくザッパがメンバーに手と腕で指揮した即興で、その様子が見えそうだが、ミステリアスでサスペンス映画にふさわしい雰囲気に満ちる。そうした音楽が長く続くと観衆が退屈するのをよく知っているザッパは、ベースにブギを奏でさせ、そこからブルースの演奏に変わる。これならザッパの曲を聴き慣れない人でも踊りたくなる。メンバーにすればブルースはお手の物で、息抜きにもなっているが、デュークとザッパが順にソロを担当し、ザッパのギターは最後にポンティのヴァイオリンが絡んですぐに「DUN-DUN-DUN」と題すべき部分が始まる。これはザッパが観客に向かって語っていることによれば、怪獣映画で怪獣が登場する時に常套句のようにチェロが奏でる低音の3つの連打音で、ザッパは客にその音を口真似させたりする。16小節のブルース演奏からその3音につなげるのは予めザッパが考えていたことであろう。観衆を参加させることは珍しくないが、ブルースで多少気がほぐれたフィンランドの人たちは気軽にザッパの誘いに乗ったようで、その様子は録音からよく伝わる。これが日本ではなかなか難しいだろう。
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by uuuzen | 2013-11-28 22:59 | ●新・嵐山だより(特別編) | Comments(0)


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